それは一年前の今頃だった。
当時PTA会長だったUさんとボクは,ある企てを実行しようとしていた。
Uさんは諸般の事情で3月に転居せざるを得なくなり,昨年の1月中旬頃から,来期のPTA会長を引き継ぐ人物を探す必要に迫られていた。
当時,PTAでの男性副会長はサラリーマン技術屋のボクと教育委員会に勤めるA先輩と公務員のBさんだった。
U会長さんとB副会長はあまりソリが合わなかった。だからBさんは×だった。となると,年齢的な順番からすれば,来期の会長はA先輩ということになる。
ちなみにボクは,Uさんが会長を務めることになったとき,Uさんの強い要望で副会長になったのだった。なぜならボクはUさんのちの隣に住んでいて,Uさんとは以前から親しくしていたからだ。
そんなわけで,ボクはUさんと隣人という関係で,来期はA先輩を会長にすべく,怪しげな酒宴を計画したのだった。
怪しげな酒宴と言っても,ヤラシイ店にいったというわけではない。
近所の居酒屋に開店と同時に入店してガッツリ飲む。A先輩をさんざん酔わせたうえで説得に臨む。ただ,それだけのことだった。
2時間が経過して,酔いも随分まわってきたころでUさんが切り出した。
「A君,来年,会長はどうかね~。」
「A先輩,頼みますよ。もうA先輩しかおらんとですよ。マジで。」
しかし,A先輩はすぐに答えた。
「できんバイ,オレ,来年は昇進するかもしれんし,忙しくなるとたいね~,おまけに仕事柄,おれはPTA会長とか難しか立場バイ,教育委員会って学校ば指導する立場バイ,そぎゃん思わんヤ」
一理あるような気がしたが,まぁ,最初は誰だって断るもんだと思っていて,ボクはこれから始まるUさんの執拗な説得攻撃に期待したのだった(昨年はこの攻撃でボクは撃沈していた)。今日のボクの役目は,Uさんの援護射撃で楽勝のハズだった。
ところが,Uさんは「そうか・・・」と呟いただけで,肝心の説得攻撃を始めない。そうこうしているうち,攻撃対象を変えたようだった。
Uさんは「○○君,会長やってみらんね,勉強になるよ~」と白々しく言いだした。おまけに,A先輩がUさんの援護射撃を始める始末。
その後,我々3人は果てしなく飲み続けた。
カウンターには,熊本ではちょっと有名人の,テレビやラジオでパーソナリティをやっている黒木ヨシヒロとその家族が陣取っていたりして,しばらくそれが気になっていた時間もあったけど,気が付いたらいつの間にか帰っていた。
ま,それはさておき,客が全て引いてしまった午前1:30,我々はまだ飲み続けていて,球磨焼酎の「白岳しろ」の5合ビンを4本も消費していた。そして,店員から追い出されるようにしてその店を後にしたのだった。
ボクは最後まで「YES」とは言わなかった。
翌朝,二日酔いのまま庭先に出ると,生垣のむこうからUさんの声が・・
「○○君,おはよう,それにしても昨日はよく飲んだね~,あのね~,一応,もう,他の役員に連絡したけんね~,あとは頑張るしかないたいね~,じゃぁね~。」
Uさんはそう言うとスタコラと家の中に消えていった。
「ちょ,まっ・・・Uさんっ!」
なんのことはない,ハメられたのはボク自身だったのだった!。
ちなみに,球磨焼酎とは,熊本県の球磨(クマ)地方で作られている米を原料とした焼酎で,ロックで呑むとウマイ。ボクは「鳥飼」とか「大石」とかが好みだな。
球磨焼酎についてもっと知りたい方はこちら(お酒は二十歳を過ぎてから・・)
http://www.hitoyoshi-hikari.com/html_sake.html