投票所は車で10分程度の距離にある東区の支所でした。生憎、出発したと同時に雨が降り出し着いた頃には本降りになっていました。車は障害者用スペースに駐めることができました。また、おジィさんを抱えて行かなければならないと覚悟を決めたのですが、おバァちゃんが支所の入口に車椅子があることを教えてくれました。ボクは雨に濡れながら車椅子を後部座席に押して行きました。車椅子に乗せ替えるのも結構な技量が必要でした。おバァちゃんは後ろに立って傘を広げていました。そして、そのオシャレな蛇の目風の傘はグランドゴルフのときに重宝するとかなんとか喋っていました。
おバァちゃんの傘の下になって支所のエントランスを通過しました。ボクとおジィさんは通過したのですが、振り向くとおバァちゃんが傘を広げたままで狭いエントランスを塞いでいるのでした。ボクはおバァちゃんのところに戻り傘を閉じるのを手伝うのですが、二人とも焦ってしまいその小洒落た傘をなかなか閉じることができず、入口付近はちょっとした人集りになって周囲に迷惑をかけてしまいました。一方、そのときのジィさんときたら一人惚けた表情で明後日の方向を眺めているのでした。
期日前投票の手順を我々はよく理解していませんでした。
先ず、「申請書」なるもに住所氏名を書いた後に受付を済ませて投票用紙を手渡してもらうのですが、おバァちゃんは気の焦りで受付をせずに記入台へ行ってしまったのでした。そして、おジィさんはその間違いに気がついて手足をバタつかせておバァちゃんを呼び戻そうとするのでした。
いよいよ投票用紙に記入する時間となりました。
おジィさんは車椅子専用の低くなった記入台での記入となりました。
懸念していたことが勃発しました。
「これは何て書くといいとかなっ!」
おジィさんは比例代表用の用紙をヒラつかせて、しかも選挙管理の立会人さんに尋ねたものだから大変です。
「これは何かなっ!」
波状攻撃です。
おバァちゃんがやってきておジィさんに言いました。
「さっき、車の中で言ったでしょうがっ!自民党たい!」
おジィさんは納得の様子で記入したようでしたが、また、問題が発生しました。今度は最高裁判所裁判官の国民審査の投票用紙でした。やはりおジィさんは、それをヒラつかせて立会の人に尋ねるのでした。
「これは何かなっ」
立会人の方は丁寧に説明してくれました。これについては、我々も車中で予習をしていまんでした。一瞬の間がありましたが、おジィさんはやっぱり「これは何かなっ」と尋ねるのでした。
ボクは耐えきれず言ってしまいました。
「おジィさん、私はなぁ~んも書かんかったです」
理解頂けたか甚だ怪しい状況でしたが、ようやく投票の運びとなったのでした。
しかし、また問題が発生しました。
小選挙区と比例代表の投票用紙は二つ折にして投入しなければならないのですが、国民審査のそれは二つ折にしなくてよいということに、おジィさんが疑問を持ち始める一方、投票箱の細い穴に投入しようとするのですが、体を起こすことができないために一生懸命伸ばした手がプルプルと震えてしまってうまく入らないのでした。見兼ねたボクも車椅子を押して接近を後押ししたつもりですが、前の車輪で投票箱を動かしてしまいギリギリのところで投入できなくなってしまうというハプニングもあったりでした。
一行はようやく帰路につくことができました。おジィさんは少し興奮気味でその支所周辺の交通便の悪さついて話し、自分の改善案を披露したのでした。
おバァちゃんは驚きの様子でその話を聞いていました。おジィさんが話し終わるとおバァちゃんが言いました。
「ジィさんは、ボケとるとばっかり思っとったばってん、まだ、シャンとしとんなはるっ」
確かに、最初に会ったときに比べおジィさんの顔つきが変わったようでした。それまで何度も自己紹介していたのですが、ようやく、ボクが事務所のスタッフではなく木原候補の同級生であると認識されたようでした。
ボクは、ご夫妻のご家族について尋ねてみました。
子供には恵まれなかったそうで、ずっと二人で暮らしてきたとのことでした。高齢となり、後は二人で死を待つのみだが、木原候補に未来を託したいとそのようなことを話してくれました。そのとき、二人にとって木原候補は息子か孫のような存在であることを知りました。
ハンドルを握りながら溢れる涙を抑えることができませんでした。
続く、、、
おバァちゃんの傘の下になって支所のエントランスを通過しました。ボクとおジィさんは通過したのですが、振り向くとおバァちゃんが傘を広げたままで狭いエントランスを塞いでいるのでした。ボクはおバァちゃんのところに戻り傘を閉じるのを手伝うのですが、二人とも焦ってしまいその小洒落た傘をなかなか閉じることができず、入口付近はちょっとした人集りになって周囲に迷惑をかけてしまいました。一方、そのときのジィさんときたら一人惚けた表情で明後日の方向を眺めているのでした。
期日前投票の手順を我々はよく理解していませんでした。
先ず、「申請書」なるもに住所氏名を書いた後に受付を済ませて投票用紙を手渡してもらうのですが、おバァちゃんは気の焦りで受付をせずに記入台へ行ってしまったのでした。そして、おジィさんはその間違いに気がついて手足をバタつかせておバァちゃんを呼び戻そうとするのでした。
いよいよ投票用紙に記入する時間となりました。
おジィさんは車椅子専用の低くなった記入台での記入となりました。
懸念していたことが勃発しました。
「これは何て書くといいとかなっ!」
おジィさんは比例代表用の用紙をヒラつかせて、しかも選挙管理の立会人さんに尋ねたものだから大変です。
「これは何かなっ!」
波状攻撃です。
おバァちゃんがやってきておジィさんに言いました。
「さっき、車の中で言ったでしょうがっ!自民党たい!」
おジィさんは納得の様子で記入したようでしたが、また、問題が発生しました。今度は最高裁判所裁判官の国民審査の投票用紙でした。やはりおジィさんは、それをヒラつかせて立会の人に尋ねるのでした。
「これは何かなっ」
立会人の方は丁寧に説明してくれました。これについては、我々も車中で予習をしていまんでした。一瞬の間がありましたが、おジィさんはやっぱり「これは何かなっ」と尋ねるのでした。
ボクは耐えきれず言ってしまいました。
「おジィさん、私はなぁ~んも書かんかったです」
理解頂けたか甚だ怪しい状況でしたが、ようやく投票の運びとなったのでした。
しかし、また問題が発生しました。
小選挙区と比例代表の投票用紙は二つ折にして投入しなければならないのですが、国民審査のそれは二つ折にしなくてよいということに、おジィさんが疑問を持ち始める一方、投票箱の細い穴に投入しようとするのですが、体を起こすことができないために一生懸命伸ばした手がプルプルと震えてしまってうまく入らないのでした。見兼ねたボクも車椅子を押して接近を後押ししたつもりですが、前の車輪で投票箱を動かしてしまいギリギリのところで投入できなくなってしまうというハプニングもあったりでした。
一行はようやく帰路につくことができました。おジィさんは少し興奮気味でその支所周辺の交通便の悪さついて話し、自分の改善案を披露したのでした。
おバァちゃんは驚きの様子でその話を聞いていました。おジィさんが話し終わるとおバァちゃんが言いました。
「ジィさんは、ボケとるとばっかり思っとったばってん、まだ、シャンとしとんなはるっ」
確かに、最初に会ったときに比べおジィさんの顔つきが変わったようでした。それまで何度も自己紹介していたのですが、ようやく、ボクが事務所のスタッフではなく木原候補の同級生であると認識されたようでした。
ボクは、ご夫妻のご家族について尋ねてみました。
子供には恵まれなかったそうで、ずっと二人で暮らしてきたとのことでした。高齢となり、後は二人で死を待つのみだが、木原候補に未来を託したいとそのようなことを話してくれました。そのとき、二人にとって木原候補は息子か孫のような存在であることを知りました。
ハンドルを握りながら溢れる涙を抑えることができませんでした。
続く、、、