広小路歯科 院長の雑記帳  (豊橋の歯科医院)

休診日:木、日、祝日
診療時間:9時~12時 2時~7時
*土曜は5時まで

この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その7】

2023-05-22 09:14:00 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
「のど元過ぎれば熱さを忘れる」、このシリーズの”その1”でも書いたが、3年も経過すると当時の苦労を忘れてしまう。
新型ウイルス感染症、まだどの様に感染が拡大して、そして感染者の予後も良く解らない。
もちろんワクチンも治療薬もまだ無い。
感染したら肺が潰れて呼吸困難になって死んでいく。
これが当初の世の中の感覚だった。

例えば、たった1名の感染者が出たデパートは全館臨時休業、専門の消毒業者を入れて館内の売り場もバックヤードも全て噴霧器で除染(消毒)していた。系列の別店舗まで同時に臨時休業する念の入れようだった。
(当時のデパートニュース ウェブ「札幌三越の社員が新型コロナ感染 15日2店舗を全館休業」公開日: 2020/03/16)

3年経った今となっては過剰に見えるが、これが当初のコロナ感染に対するリアクションであった。

歯科医院においても厚労省から「歯科医師の判断により、応急処置に留めることや、緊急性がないと考えられる治療については延期することなども考慮すること。」と連絡が伝わった。
(「歯科医療機関における新型コロナウイルスの感染拡大防止のための院内感染対策について」令和2年4月6日 厚労省PDF)
また、先ほどの連絡文書に「参考にすること。」とされている「日本歯科医学会連合 新型コロナウイルス感染症について 歯科医師のみなさまへ」では歯科医院の窓口では「対象者に説明を尽くした上で、新型コロナウイルス感染者または疑いのある患者さんの受診を制限することです。」とされていた。

前置きが長くなったが、当時の空気感と公式の見解を示しておかないと、ここから書く本題は”受診拒否”とか”たらいまわし”と誤解されかねないからである。

【受け入れ歯科医院を探せ】
私の記憶だと、最初の夏の頃で、少しは行動制限が緩んだ頃だったと思う。
休診日の木曜日、所用が在って市外に車に乗って出かけていた。
すると滅多に鳴らない携帯電話が鳴った。
滅多に鳴らない携帯電話、これが木曜日に鳴るってことは、だいたい良くない知らせが多い。
車を安全な所に停めて掛かってきた番号に掛け直す。
案の定、保健所の衛生士さんのデスクの電話だった。
「先生、お休みの日にすみません。感染者が歯痛で歯科受診希望なんですけど・・・」

話を要約するとこうだ・・・
当該の患者さんは数日前に市の検査でコロナ感染症に罹患しているいわゆる感染者である。
引っ越してきたばかりで市内にかかりつけの歯科医院が居ない。
昨夜から歯痛で困っている。
木曜日でほとんどの歯科医院が休診日で、自分で歯科医院を探せない。

感染者さんが「発熱者センター」だかに電話したが、保健所では受け入れ態勢を決めていないので、その話が保健所の歯科衛生士さんに持ち込まれた。
そして困った保健所の衛生士さんが歯科医師会専務(当時)の所へ電話をしてきた。

衛生士さんと電話で話し合った。
市の休日夜間診療所で治療する案も出たが、市の施設の目的外使用になりそうである。
場合によっては、大掛かりな消毒をしないとその日の晩の当直に使えなくなってしまう。
保健所から市内の歯科医院に頼むよりも歯科医師会の方で頼んでもらえないかという先方の希望だった。
確かに役所が特定の歯科医院を挙げて患者に紹介するのは”斡旋”と類似するからマズい。
そもそも想定していない。

他に名案は無さそうなので歯科医師会でなんとかすることにした。
とりあえす、事の次第を会長に連絡して私の裁量で話を進める了解を取った。

次に歯科医師会事務局に電話して、事務長さんに状況を説明して、木曜日に診療をしている理事で、患者さんの住所に近い順にリストアップする様にお願いした。

数分後、事務局から折り返しの電話が在ってリストアップした歯科医院の連絡先を教えてもらった。

ここから順にお願いしていくしかない・・・

「さすがに確定してる感染者を医院に入れるのはチョット・・・」と言われるかもしれない。
これは冒頭にも書いたが、この当時、歯科医院の継続運営を考えると言ってもいい台詞だ。

1件目は理事のK先生。
「診療中すみません。専務の大賀ですが、先ほど保健所から・・・・」
と、一通りの経緯の説明と、感染防護のガウンが希望なら保健所から配布可能であることを告げた。

ほんの少しの間が在ってK先生が「僕のところでなんとかします」と言ってくれた。
私はK先生に患者さんの連絡先を告げた。
他の来院患者と感染者の患者が接触したらまずいので工夫が必要になる。
以降の段取りはK先生にお任せした。

歯科医師の心意気というか使命感を信じてはいたが、1件目で受け入れが決まって正直ほっとした。
これをまた、保健所と会長と事務長に連絡してK先生で受け入れてくれることを報告した。

後日、K先生に聞くと。
患者さんに連絡して、午前の一番終わりに来てもらって午前中の他の患者さんが居なくなってから対応したとの事だった。
むろん応急処置に留め、エアロゾルが院内に飛び散らない範囲での事だった。

こんな事が当時は起こっていたのだ。
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この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その6】

2023-05-20 09:50:52 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
お金にまつわる事を書くと”いやらしい”感じがしますが、周知の事実ですし、非常時に政府はどんな動きをしたかという記録にもなると思いますので文字に残すことにします。
もちろん私の個人的な見解や想像も含まれますので、それを含んでお読み下さい。

【慰労金は1度きり】
2020年の7月終盤、「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金(医療分)交付事業」が公表された。
2020年の7月の終わりと言えば、2020年4月ごろから市内の感染が確認され、第4波が一段落し、市内の感染者累計が2500例を超えた頃である。

2020年4月頃、海外ニュースではニューヨークで死体の処理が追い付かずに冷凍コンテナに死体袋が押し込まれていると伝えていた。
数か月後に日本にも、ニューヨークの阿鼻叫喚がやって来るんじゃないかとの風潮であった。
日本もやがて医療崩壊が訪れるのではないかと言われていた。

公表された内容を見ると、歯科医院の様な診療所勤務者は各自に5万円。
有資格者以外の受付業務などに従事していても、感染者と接するリスクがあるので対象である。
(新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金(医療分)交付事業 愛知県HP)
ここまでは良いのだが・・・
問題なのは、対象期間である。

対象期間は1月26日から6月30日。
その内、時間は関係なく10日出勤した者である。

これは実際に私の医院であったケースなのだが、2月末で辞めたスタッフは慰労金支給対象になり、2021年になって採用したスタッフは対象外なのだ。

前者のスタッフは、市内でまだ1例目も確認されていない言わば無風状態なのに5万円の支給。
後者のスタッフは、その後2年間、第5波~第8波を乗り越えるために自制して外食もせずに旅行にも行かずも支給なし。
(豊橋市内における新型コロナウイルス感染症の状況 令和 3 年 7 月 26 日 豊橋市保健所 PDF)

今考えると、これは政府が「コロナ感染症から医療従事者が離職しないように」との考えかと疑ってしまう。
本当に慰労の意味合いなら、うちの医院で言うところの後者のスタッフだって支給対象にしなければ通理が通らない。
無風状態の5か月間で5万円支給なのに、荒波を超えた支給対象期間外の人たちには0円なのだ。

敵前逃亡を防ぐ意味合いなのか、本当に慰労の意味を込めての支給なのか。
慰労の意味なら5類に降格されるまでの約40か月、40万円頂けるはずだ。
35万円程、未払いである。

「医療従事者が敵前逃亡しないようにとりあえず5万円配れ」と政府が考えたなら医療従事者達に大変失礼な話だ。
「コロナ禍で大変なところ、ありがとう」と政府が考えたなら、その後に勤め始めた医療従事者に大変失礼な話だ。

こんな事を言う医療従事者は私の周囲にも居ないし、私自身はどうでも良いが、道理が通っておらず未だ腑に落ちないのである。
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この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その5】

2023-05-15 08:47:35 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
2020年4月、緊急事態宣言が発出され不要な外出も自粛となった国内。
医療現場では不織布マスク、消毒用アルコール、医療用グローブ、医療用ガウン、体温計、パルスオキシメータ、フェイスシールドなど、あらゆる感染防御資材や機器の供給が滞っていた。

そんな絶望的な状況の中、一人の歯科医師が動いた ←(NHKプロフェッショナル仕事の流儀 ナレーション風)

【自作フェイスシールド】
今回のコロナ感染症の主な感染ルートは飛沫感染である。
極めて簡単に言うと、罹患者の唾液が飛んできて他の人の粘膜に到達すると感染する。
予防するためには、そこを遮断すると良い。
だからこそマスクが有効であるし、眼球からの感染も防ぐならゴーグルやフェイスシールドが有効である。

いくら旧来から歯科医療現場では標準予防策(スタンダードプリコーション)が執られているとは言えエアロゾルは避けられない。
そして、あの元気だった志村けん(親しみ込めてのあえての呼び捨て)が亡くなったばかりである。
未知の新型感染症、寝たきりの高齢者や基礎疾患のある人だけが命にかかわる訳ではないという緊迫感マックスの世間の風潮である。

不織布マスクだけではなくフェイスシールドの必要性を医療現場・介護現場では強く感じていた。

ところが、すでに普通には手に入らないのである。

歯科医師会理事のLINEグループで防災担当の先生が透明な下敷きと、荷物をまとめるマジックテープ付きのバンドでフェイスシールドを造る動画を紹介してくれた。
用をなすが少し使いづらそうである。

そこで私は100円ショップに出向き、可動式のサンバイザーと透明下敷きを買って、新しい方式のフェイスシールドの試作をした。
日曜日に制作の様子をそのLINEグループに紹介したところ、会長から「すばらしいアイディアなので私が製作マニュアルを作る。そして各方面に拡散したい」との返事を頂いた。

そして、作成法マニュアルが作られた。
(大賀式簡易型フェイスシールド作成法 PDF)

また、この作成法の情報は拡散されていった。(今でもネット上で確認できるもの)
(医療コンサルティング MMPさん HP)
(奈良市在宅医療・介護連携支援センター ニュースレター オールなら! PDF)
その他、近隣の歯科医師会へも情報提供された。

この時期において、フェイスシールドを供給できたことは、多くの医療従事者・介護従事者に安心を与えることができたとと自負している。
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この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その4】

2023-05-13 08:41:35 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
【9月入学派が顔を出す】
2020年の2月終わりに全国の学校が一斉に臨時休校することになった。
4月の新年度でも状況は変わらず休校が続き学習の遅れなどが話題になった。

すると何故か”9月入学派”が沸いて出てきた。
9月入学にすれば学習の遅れも解決し、国際化にもつながると言うのだ。
「国際化」とか「欧米では」などと言うもっともらしい事を言って日本の歴史や伝統を壊しにかかる人たちには注意が必要だ。
(と、言っても学校制度で4月入学は近代100年程度の話で、約2700年の日本の歴史としては最近の事である)

(9月入学議論 賛成で一致 東京都知事と大阪府知事 NHK政治マガジンへのリンク)

3年も経つと忘れている人も多いが、まるでコロナの打開策の様な口ぶりで主張していた人たちがいた。
私から言わすと思考停止に陥った知事たちが半年間のモラトリアム(猶予期間)を得ようとした詭弁に聞こえてならない。

当初から私は2~3年の覚悟が要るなと思っていたが、半年先送りにすれば何とかなると考える勢力がいた。

今回の話を書こうと検索していたら、この件に関する総括した文章に出会ったので紹介しておく。
(9月入学導入の見送り ― 新型コロナウイルス感染症拡大を契機とした議論を振り返る ―  竹内 健太(文教科学委員会調査室)PDF)

このような総括はとても大事で、良く纏まった資料である。
一時は文教族や知事たちに乗せられて9月入学に前向きだった当時の安倍総理の慎重さが良く窺える。

やはり春夏秋冬と季節は巡る。
秋冬春夏ではないのである。


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この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その3】

2023-05-10 08:44:33 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
【コロナ感染リスクの高い職種にされた】
全国の経営者や意識の高い上級管理職がメインターゲットの雑誌「プレジデント」、そのWeb版たる「PRESIDENT Online」において、何度読んでも根拠が良く解らない米国の分析を引用して歯科業界を危険視する記事が掲載された。

コロナ感染リスクの高い職種「第1位 歯科衛生士」「第3位 歯科助手」「第4位 歯科医師」と書いてあるのだ。
(コロナ感染リスクが高い職種トップ30と発熱率が高い職種 PRESIDENT Online へのリンク)

この記事を読んだ社長が従業員に「歯医者は危険だから行かない方が良い。感染者が出たら工場が止まってしまう。」などと言うことが起こる事は容易に想像できる。
歯科医療関係者はエイズや劇症肝炎が問題となった30年以上も前から、他の外来科よりも格段に高度な感染対策を執っている。
常に患者さんの誰かがエイズ患者だったり肝炎患者だったりその他の感染症罹患者であると想定して対策を日常的にしているのだ。
普段から血液や唾液と接触する医療環境なので当然の対策を執り続けていた。
これを標準感染予防策(スタンダードプリコーション)などと言って、何十年前から実施している。

実際、このコロナ禍においても、せいぜいフェイスシールドを追加するぐらいで、それ以前の日常と変わらない感染対策で済んでいた。
我々から言わせれば外来科の中でも歯科は安全対策済みなのである。

その記事に真っ先に反応したのは神奈川県歯科医師会だった。
出版社宛に抗議状を送ったのだ。

(PRESIDENT Onlineにおいて掲載されている「コロナ感染リスクが高い職種トップ30と発熱率が高い職種」への抗議 神奈川県歯科医師会HPへのリンク)

こうして風評被害と戦う歯科医療従事者の姿があった。
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この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その2】

2023-05-09 08:39:33 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
【アルコールが足りない】
コロナ禍前は消毒用アルコールを500ml入りのボトルを10本セットで購入し、残り数本になると10本セットを発注するという流れでやっていた。
手指消毒用は保湿剤なども含まて、手指用に調整された既製品の詰め替え用の大容量ボトルを購入し、スプレーボトルの中身が減ると補充して使用していた。

ウイルスにも色々あって、ノロウイルスなどはアルコール消毒では無害化できないが、今回のコロナウイルスには消毒用アルコールが大変有効ある。
それもあって、消毒用アルコールでの消毒が政府をはじめマスコミによっても推奨された。
今までスプレーボトルなどに入った消毒用アルコールなどを購入したことない、あらゆる商業施設やご家庭まで調達を開始した。
そうなると当然、市場の消毒用アルコールが消失し、肝心の医療機関にさえ入ってこなくなる。

出入りの歯科材料屋さんに入荷が在ったら教えてくれるように頼んでおいた。
さすがに500mlのボトルは入荷できなかったが、4Lのポリタン入りが調達できた。
次にどれだけの量が確保できるか全く判らない。
こちらにしてみればスーパーマーケットの入り口にスプレーボトルを置く意義が解らない。
家に帰って石鹸でしっかり洗っておけば良い話なのにと恨めしくも思った。

医学的な知識に乏しい一般の市民が消毒用アルコールの効果的な使いどころが解からないのは、無理からぬことである。
もっと後の時期になるが、学校が再開するので準備をしているというテレビニュースで、2か月も3か月も使っていない教室の机や椅子の脚の先まで消毒用アルコールを吹き付け拭き上げている映像が流れていた。
一定以上の学力や知識を持った集団である教職員ですら、この有り様である。
製薬会社がいくら頑張っても消毒用アルコールの生産は追い付かず、医療機関にさえ入ってこないのも頷ける。

そうこうしていると政府は酒造会社が造った70度のアルコールを消毒用アルコールとして使っても良いと通達を出した。
(新型コロナウイルス感染症の発生に伴う高濃度エタノール製品の使用について PDF)
医事・薬事に関してはお堅い官僚たちも非常時には柔軟な対応ができるものだと、普段からお堅い事を言われている身としては大いに感心した。
知り合いの同業者が酒造会社の造った70度のアルコールを1本、良かったら使ってみてと、送ってくれた。
歯科医師会の専務にサンプルを廻してくれた訳で、枯渇状態が続くなら歯科医師会で確保してみてはどうかという趣旨であった。

やがて県から1医院につき100%に近い高濃度アルコールの一斗缶を各医院1缶を支給するので必要数を知らせてくれと連絡が入った。 (1斗=18L)
まるで弾薬尽きる最前線に支援物資の大量投下のような話である。
一斗缶の希望を確認するFAXを流したり、配布方法を計画した。
(医療機関等における手指消毒用エタノールの代替品としての特定アルコール(高濃度エタノール)の無償配布について PDF)
入荷日もあやふや、百数十本もの一斗缶をどう搬入して、どうやって会員に届けるのかも算段しなくてはならない。
また、100%に近い高濃度アルコール(エタノール)をもらったところで、そのままでは消毒用には使えない。
濃度が薄いと効かないし、濃すぎるとすぐに揮発して作用時間が無くなり効かないものなのだ。
だいたい70~80%で用いるのが良いとされている。
会員思いの会長は、一斗缶から移し替えるための石油ポンプと精製水もセットにして配ろうと計画した。
歯科医師会に普段から色々な資材を納入してくれている市内の商社のようなところにお願いして、シーズンオフではあるものの石油ポンプと精製水を百数十本確保してもらった。

一斗缶が入って来る情報の確度が少しずつ高まって来た。
各医院への発送ではなく、百数十缶一括でトラックにより輸送されて降ろされる。
歯科医師会館に山積みにできる訳もなく、豊橋市保健所・保健センターの建物内に仮置きできることになった。
木曜日に代理者でも良いので必ず受け取りに来るように会員にFAXを流した。

配布当日、受け渡し場所に行くと保健所の会議室一杯に一斗缶が並んでおり、事務長が一斗缶を数缶づつ台車に積んで建物表の配布場所にピストン輸送していたので手伝った。
取りに来た会員には一斗缶、精製水、石油ポンプそして希釈方法の説明書きのプリントを駐車場まで運ぶための台車に載せて渡した。
集積所である会議室から運び出す台車と会員が駐車場まで使う台車が、保健所や歯科医師会館から総動員されていた。

配布された医院は一斗缶から1Lの器に830mlのアルコールを石油ポンプで移し、そこへ精製水を全体量が1Lになるように希釈して消毒用のアルコールを調整するのである。
(特定アルコール仕様の手引き PDF)
2020年4月の異常事態である。
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この3年は何だったのか 【臨床歯科医の見たコロナ禍 その1】

2023-05-08 08:44:40 | 臨床歯科医の見たコロナ禍シリーズ
2020年2月、三河地区の歯科医師会で会長・専務が泊りで交流会をしていた宿のテレビニュースでクルーズ船内で感染者が発生したと報じていた。これが今回のコロナ禍の国内での始まりだと記憶している。

人間とかく過ぎたことは忘れやすい。
嫌な思い出も忘れるからこそ、心の均衡が保たれる、言わば人間の安全装置なのだ。
だが、歴史に学んだり、過去を省みて次代に活かすこともこれまた大切なプロセスである。

【マスクが足りない】
週末の会長・専務の泊りから帰り、月曜日の診療所には、医療資材通販各社から「マスク取り扱い休止中」のFAXがジャンジャン流れてきた。
動きの早い先生は、日曜の内に大量の注文を入れたのであろう。
瞬時にどこの歯科材料屋の在庫も尽きた。

しばらくすると、市から委託を受けて歯科医師会で運営している休日夜間診療所のマスク在庫不足が浮上した。
専務だった私は「マスクは1患者ごとの交換で無く、1従事につき1枚で」との内容の張り紙をするように事務長にお願いした。
休診日に保健所に出向いて健康政策課の主査(当時)に掛け合って「市の施設なので備蓄マスクを廻して欲しい」と直談判した。
幸い担当者とは仕事上の付き合いも長く、仕事のできる方なので備蓄マスクを確保してもらえた。
後に彼は新たに出来た”感染対策室”の室長に抜擢された。

そう言えば、2月頭に豊橋市長は先の考えも無く中国に防災備蓄マスクを1万枚送ってしまった。
数週間後には、前述の有様だった。
パンデミックが対岸火事だとでも思っていたのだろうか。
後にこの市長は、いろいろな問題で落選し豊橋を出て行った。
できる感染対策室長の昇進と、市長の失脚が対照的で感慨深い。

歯科医師会の会長が不織布マスクの再製実験を開始した。
1日使用し飛沫を受け止めたマスクを滅菌し、無害化して再利用できないかというものである。
滅菌パックに不織布マスクを入れて高圧蒸気滅菌機に掛けるのだ。
結果はノーズピース(鼻にあたる部分)に針金が入っているのだが、それがビニールコーティングされてたり、針金代わりに樹脂が使われていると、変形してしまって満足に使用出来ないという結果だった。
程なく県からマスク2箱が医療機関に届いたので、その実験がその後、臨床現場では実用されることは無かった。

医療従事者以外の一般市民までマスクを買うので、市中のドラッグストアにも不織布マスクは見つからない。
そのうち一般市民は布マスクを作って、アベノマスクが到着するのを待ち望み使っていたようだ。
医療機関には五月雨的に支援のマスクが1箱、2箱入って来る。
昔からの馴染みの患者さんから私を含めスタッフ全員分の手作り布マスクを頂戴した。
不織布マスクはなんとか間に合っていたが、有難く頂戴し、今でも大事に保管してある。
非常時にこそ本当の人間性が現れる。



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