広小路歯科 院長の雑記帳  (豊橋の歯科医院)

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ゲレンデの想ひ出

2023-01-09 12:03:57 | Weblog
僕の学生時代はスキーブームで、車を持っている友人のセダンに4人で乗り込んで屋根のスキーキャリアに板を積んで、夜中の国道を数時間走って、岐阜県内のゲレンデを目指してワイワイ言いながら走るのが定番でした。

ゲレンデの駐車場で仮眠をして、寒い寒いと騒ぎながら車の脇でスキーウエアに着替えて1日リフト券を買って、日が傾くまで滑り倒すのでした。

時には「〇〇部の先輩がスキーツアーを組んで、まだ5人ぐらいなら申し込めるけど、どうだい?」なんて誘いがあり、〇〇部の先輩が組んだツアーに友人数名と便乗させてもらったこともありました。
観光バスが仕立ててあり、ペンションも貸し切りだった記憶が有ります。
主催の先輩方のスキー板がその後ニューモデルになったとか・・・うまい商売を思いついたものです。

そんなブームの中、友人Y君がトヨタのハイラックス・サーフを購入しました。
最新型の4輪駆動車です。
週末の晩、Y君とT君と、T君の彼女のOさんと僕の4人で深夜ドライブをする事になりました。
Y君の新車の試乗会みたいなものです。

代わりばんこに運転させてもらって、市街地から山間部と色々な道の乗り心地を試します。
夜も更けたころ山道沿いにゲレンデを見つけました。
シーズン直前だったのか夜の駐車場にもゲレンデにも人っ子一人いません。
新車の雪原での走破性を確かめたくなった僕たちはゲレンデの駐車場に入り込み、さらにゲレンデ内に侵入しました。
ゲレンデふもとの斜度の少ない雪原をハイラックス・サーフで走り回ります。

新型の4輪駆動車の走破性は中々のものです。
数十センチ降り積もった雪もお構いなしに進んでいきます。
さんざん悪乗りしてゲレンデをひとしきり楽しんで帰ろうかと思ったその時、車は左に大きく傾き止まってしまいました。

4人が飛び降りて車の状態を見てみると左側のタイヤが雪に隠れていた側溝に嵌まり込んでいるようです。
雪が積もっているので側溝の詳しい状態は目視できません。

「さあ、困った!自力脱出しないと警察沙汰だ!!」

4駆のローレンジにして、3人で押しても脱出できません。
ゲレンデの管理棟に立て掛けてあるスコップを拝借して周囲の雪を掘ってみましたが駄目です。
管理棟の縁の下に廃材が転がっているので、これもまた拝借してタイヤに嚙ましましたが駄目です。

燃料の少なくなった車内で一夜を明かすか、さっきの廃材を燃やして暖を取るか色々思案します。
こうなったら恥を忍んで助けを呼ぼうという結論に達しました。

4人で雪原を歩いて駐車場を抜けて峠道まで降りてきました。
夜も更けた峠道、通りがかる車はありません。
しばらくするとヘッドライトが峠の下の方から近づいてくるのが判ります。
途中で脇道に行くことなくどんどんその光は近づいてきます。

「これを逃すと、今度はいつになるか判らんぞ!」

4人は車道に飛び出し頭の上へ両手を延ばし、その近づいてくる光に向かって必死に振りました。

車は止まりウインドウが開きます。

「ゲレンデで車が立ち往生したので、電話の有る所へ乗せてもらえませんか?」

30代半ばと思われるドライバーの女性は事情をよく理解してくれて
「ゲレンデ関係者に知り合いがいるので呼んで来てあげます」と言い残し車を走らせて行きました。

20分ぐらい経ったのでしょうか、その女性の車ともう一台の車が連なって僕らの待つゲレンデに帰ってきました。
もう一台の車からは50代から60代に見える小ぢんまりとはしているが、体格の良い強面で雪焼けで浅黒い男が降りてきました。

その男は僕らの嵌った車を確認して、管理棟の電気をつけて厚手のジャンパーと長靴姿で出てくるや大きな重機(ホイールローダー)に乗り込んでワイヤーを掛けて嵌った車を引っ張り出してくれました。

救出作業を終えて重機を駐めて、その男は僕ら4人に歩み寄って来ました。

「これは大目玉を食らうぞ・・・」と4人は皆心の中で思って覚悟をしたはずです。

するとその男は「寒いでしょ。ストーブ点けておいたから当たりな!」と言いました。
てっきり、その浅黒い強面の男から大目玉を食らうと思い込んでいた4人は顔を見合わせ、そしてその男に付いて管理棟に入りストーブに当たらせてもらいました。

そして、その男はストーブのヤカンからカップに湯を注ぎインスタントコーヒーを勧めてくれました。
恐縮する僕ら4人。

にこやかなその男、そしてその光景を見つめる連絡役を引き受けてくれた女性。
夜中のゲレンデ管理棟では不思議な和やかな6人の時間が流れていました。

完。


著者あとがき
「これは、平成のはじめごろの携帯電話もインターネットもない時代の本当のお話です。不寛容な現代なら警察沙汰になったり、賠償請求されたり、ネット炎上して晒される出来事なのかもしれません。若気の至りとか学生のお遊びに寛容な時代に学生生活を送ることができて良かったなぁ・・・と、冬になると思い出す青春エピーソードのひとつです。」






























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