《2016年11月18日》
原発事故を想定した防災(避難)訓練が相次いで行われている。11月11日には東北電力女川原発の重大事故を想定した原子力防災訓練が県庁や近隣7市町で実施された。14日に中国電力島根原発では重周辺30キロ圏の3市などで県の原子力防災訓練が、8月に再稼働した四国電力伊方原子力発電所では事故で孤立する恐れがある佐田岬半島の住民を中心とした訓練が11日に、新潟県見附市では3日に東京電力柏崎刈羽原発の重大事故を想定した訓練がそれぞれ行われている。
さらに、東北電力東通原発(東通村)の重大事故に備えた防災訓練では海上自衛隊の艦船も参加した訓練、東京電力福島第2原発では福島県と楢葉、広野両町が広域の住民避難訓練を実施しているし、関西電力大飯原発でも県と高島市が放射性物質の付着を調べるスクリーニング検査などを含む訓練を行っている。
国が行う2016年度の原子力総合防災訓練は13、14日の2日間、北海道電力泊発電所3号機の炉心損傷事故を想定して政府、自治体、北海道電力など約400の関係機関が参加して、実際の避難行動や観光客の退避訓練なども行われた。
この国が北海道で行う原子力総合防災訓練を前に、北海道反原発連合(@HCANjp)がツィッターに投稿した1枚の写真がネットで静かな話題になっている。どこかの集会(たぶん北海道庁北門前の抗議行動)で細いロープに吊るされたらしいシャツ型のピンクの折り紙に短い一文が書かれている写真である。
原発の避難計画とは
故郷を捨てる練習である
これが、原発事故を想定する避難訓練の悲しい現実である。東電福島第一原発の事故ではじっさいに「故郷を捨てる」しかなかった人々が10万人の単位で発生した。
原発を廃炉とすれば「故郷を捨てる練習」など必要がないのは誰にでもわかることだ。だが、そこに現に原発があれば、休止中でもそこに核燃料があれば、私たちは避難訓練をせざるを得ない。故郷を捨てても生き延びなければならないからだ。
いったいいつまでこんな悲しい避難訓練を続けなければならないのだ。原発立地自治体は、原発交付金と故郷喪失を天秤にかける政治をいつまで続けるつもりなのか。それが、じっさいに故郷を失ってしまうまでというのではあまりにも愚かではないか。
《2017年1月8日》
暮れも押し詰まった12月27日に8000Bq/kg以下の放射能汚染廃棄物を一般ゴミとして焼却する問題を議論した宮城県市町村長会では全首長の合意が得られず、半年ほど結論が先延ばしにされた、という報告があった。脱原発仙台市民会議では、半年後の全県合意を目指す宮城県の動きに対応するため、1月15日には県内諸団体との活動経験学習交流会、1月27日の松森焼却場見学会などを計画している。
放射性ゴミの一般焼却は一旦延期されたものの、焼却に反対した栗原市などは放射能汚染ゴミの堆肥化、農地へのすき込みを計画しているという別の問題も明らかになった。集会でも、放射能ゴミを農地にすき込むことで私たちが毎日口にする野菜類が危険になることはないのかと心配する声もあがった。
これは汚染されたもの、これは汚染されていないものと区別されている限り、私たちは自分で注意して自分たちの身の安全を守ることができる。それが、焼却で大気中に広くばらまかれたり、堆肥として農地に薄くすき込まれたり、建設用土として全国で使用されてしまえば、私たちには放射能から身を守る方法がなくなる。空気も土地も、私たちの生きる環境はべったりと放射性物質で汚染されてしまうことになる。
低線量被ばくの影響に関する医学的知識はまだまだ十分ではない。十分ではないうえに、原発で金儲けしたいと考える政府と大企業とマスコミによって次第に明らかになる健康被害の情報は封じ込められている。将来、新たな低線量長期被爆の影響が隠しおおせなくなるほどはっきりと問題になった時、広く薄く拡散された放射性物質を回収することは不可能になってしまうのである。
そのため、従来の放射施物質管理の原則は、汚染を広げないこと、できるだけ集めて管理することであったが、この原則は福島事故以降政府や行政、御用科学者によって捻じ曲げられてしまったのである。
二つほど目に留まるニュースがあった。一つは、暮れのどん詰まりの28日、東芝株がストップ安で市場が始まったというニュースである。前日、東芝は、この12月に原発建設等を行うCB&I社の子会社CB&Iストーン・アンド・ウエブスター社(S&W社)を買収したばかりだが、その資産価値は当初の予想よりはるかに低く、損失が数千億円(たぶん5000億円程度)に上ることを発表している。子会社のウェスチングハウスの損失分を含めると東芝は一兆円以上の損失を抱えることになる。
もう一つのニュースは、さらにもうひとつの日本の原子力企業・三菱のものである。三菱は、経営危機に陥ったフランスの原子力大手、アレバに500億円の融資を行うことを決定した。問題は、この融資がフランス政府の要請で、けっしてアレバの将来を見込んだ経営的判断だったとは言えないことである。これは アメリカでは資産価値がないとみなされている原発関連企業を東芝が次々買収して膨大な不良資産を抱え込んだ道を、三菱もまた歩み始めたのではないかと思わせるニュースである。
世界的レベルで言えば、原発産業はすでに斜陽である。原発大国のフランスの最大手、アレバですら例外ではなかった。原発先進国アメリカでも原発関連企業は売却される運命にあるほど原発産業は不況である。とうの昔に世界は脱原発に踏み出しているのである。そして今、世界の原発企業をめぐる負債は、東アジアの後進国の愚かな企業に押し付けられている構図になっている。周回遅れの先進国(つまりは後進国)では、国も企業も原発があれば経済が回るという妄想を脱却できないでいる。そして、この国の政官民一体となってもっと周回遅れの国々へ原発を強引に売り込んで生き延びようとあがいている。
エコノミストの中には日本の原発企業の抜本的見直しを期待する向きもあるが、企業ばかりでなく後押ししてきた政府も自分たちにとって好ましくない政治的判断を強いられる「抜本的な」見直しなんてできるのか、私は疑っている。
いずれにせよ、国民を道連れにしないでほしい。かれらと心中なんてごめんこうむりたい!