今年のノーベル化学賞の対象となった「量子ドット」について書くことにした。量子ドットは、理論的には電子などの量子を立方体や球のような三次元空間内に閉じ込めたものである。学生のころに学んだ量子力学の教科書の最初の方に量子井戸として出てくるものであり、その当時は、初歩的な演習問題と考えていた。
量子ドットは、光源から放射されるブルー光などの励起光を受けて、あるエネルギー準位まで量子ドットを励起することによって光エネルギーを吸収し、量子ドットの大きさによって決まるエネルギーギャップ分だけ下位のエネルギー準位に遷移することによって、赤・緑・青など、より波長の長い可視光を放出する。たとえば、波長の短い青色の光はエネルギーが大きく、大きな粒の量子ドットを通過するとエネルギーを失って赤色の光に変換される。
直径dの球の中に一つの量子を閉じ込めたとき、量子がとり得るエネルギーEは、次の式で表される値に限られる。
E=cn^2/d^2
cはプランク定数と量子の質量を含む定数である。nは正整数であり、量子数を表す。ここでいう量子数とは、量子力学でいう主量子数のことであり、量子の数量ではない。分母にd^2が含まれることは、球径の減少とともに量子のエネルギーが増加することを示している。Eが最小になるのはn=1の場合であり、このように量子ドットのエネルギーが最低になる状態を基底状態とよぶ。よりエネルギーが高い状態を励起状態とよぶ。
量子ドットは、数nmサイズの半導体の中に励起子(電子)を閉じ込めたものである。半導体は一般に、高エネルギー側にあり、電子が存在できる伝導帯とよばれるエネルギーバンドと、電子にとって低エネルギー側にあり、正孔が存在できる価電子帯とよばれるエネルギーバンドとより成り、両バンド間のギャップがバンドギャップとよばれる。量子ドットでは、電子の状態密度が離散化されるため、伝導帯の下位エネルギー層に離散化されたエネルギー準位の層が形成され、バルク半導体と比べてバンドギャップが増加することになる。つまり、量子ドットは、バルク半導体と原子の中間的な電子特性をもつ。ただし、先の球モデルではエネルギー準位が一つ上がるごとにエネルギーギャップが増大していくが、量子ドットでは高エネルギーになるほど電子の状態密度は、バルク半導体の伝導帯中の電子の状態密度に近くなる。電子のエネルギー準位はボルツマン分布にしたがって占められるが、基底状態が最も出現しやすい。
励起光が量子ドットに当たると、そのエネルギーが量子ドットの二つのエネルギー準位の差、すなわちエネルギーギャップに等しい時にのみ吸収される。ここでは、レーザーのポンピング技術を利用できる。
励起光の光子が量子ドットに吸収されてしまえば、自動的に目的とする最初のエネルギー準位に到達し、そこから所定のエネルギーギャップ分だけ最終エネルギー準位に遷移することによって、その量子ドットに特有な可視光を放出することができる。励起光の光子がもっていたエネルギーのうち、所定のエネルギーギャップ分のエネルギーが発生光として放出され、残りのエネルギー分は赤外線などの形で放出される。
量子ドットの応用例として、薄型テレビなどの画面や太陽光発電などが挙げられている。薄型テレビの画面に必要なのは赤・緑・青の三色だけなので、テレビは3種の量子ドットを備えている。また、量子ドットを用いる太陽電池では、従来の電池では発電に使えなかった赤外線などの光も利用可能である。
参考文献
現代化学 2023年12月号(東京化学同人)
量子ドットは、光源から放射されるブルー光などの励起光を受けて、あるエネルギー準位まで量子ドットを励起することによって光エネルギーを吸収し、量子ドットの大きさによって決まるエネルギーギャップ分だけ下位のエネルギー準位に遷移することによって、赤・緑・青など、より波長の長い可視光を放出する。たとえば、波長の短い青色の光はエネルギーが大きく、大きな粒の量子ドットを通過するとエネルギーを失って赤色の光に変換される。
直径dの球の中に一つの量子を閉じ込めたとき、量子がとり得るエネルギーEは、次の式で表される値に限られる。
E=cn^2/d^2
cはプランク定数と量子の質量を含む定数である。nは正整数であり、量子数を表す。ここでいう量子数とは、量子力学でいう主量子数のことであり、量子の数量ではない。分母にd^2が含まれることは、球径の減少とともに量子のエネルギーが増加することを示している。Eが最小になるのはn=1の場合であり、このように量子ドットのエネルギーが最低になる状態を基底状態とよぶ。よりエネルギーが高い状態を励起状態とよぶ。
量子ドットは、数nmサイズの半導体の中に励起子(電子)を閉じ込めたものである。半導体は一般に、高エネルギー側にあり、電子が存在できる伝導帯とよばれるエネルギーバンドと、電子にとって低エネルギー側にあり、正孔が存在できる価電子帯とよばれるエネルギーバンドとより成り、両バンド間のギャップがバンドギャップとよばれる。量子ドットでは、電子の状態密度が離散化されるため、伝導帯の下位エネルギー層に離散化されたエネルギー準位の層が形成され、バルク半導体と比べてバンドギャップが増加することになる。つまり、量子ドットは、バルク半導体と原子の中間的な電子特性をもつ。ただし、先の球モデルではエネルギー準位が一つ上がるごとにエネルギーギャップが増大していくが、量子ドットでは高エネルギーになるほど電子の状態密度は、バルク半導体の伝導帯中の電子の状態密度に近くなる。電子のエネルギー準位はボルツマン分布にしたがって占められるが、基底状態が最も出現しやすい。
励起光が量子ドットに当たると、そのエネルギーが量子ドットの二つのエネルギー準位の差、すなわちエネルギーギャップに等しい時にのみ吸収される。ここでは、レーザーのポンピング技術を利用できる。
励起光の光子が量子ドットに吸収されてしまえば、自動的に目的とする最初のエネルギー準位に到達し、そこから所定のエネルギーギャップ分だけ最終エネルギー準位に遷移することによって、その量子ドットに特有な可視光を放出することができる。励起光の光子がもっていたエネルギーのうち、所定のエネルギーギャップ分のエネルギーが発生光として放出され、残りのエネルギー分は赤外線などの形で放出される。
量子ドットの応用例として、薄型テレビなどの画面や太陽光発電などが挙げられている。薄型テレビの画面に必要なのは赤・緑・青の三色だけなので、テレビは3種の量子ドットを備えている。また、量子ドットを用いる太陽電池では、従来の電池では発電に使えなかった赤外線などの光も利用可能である。
参考文献
現代化学 2023年12月号(東京化学同人)