キノコバエに消化されてしまったと思われていた存在感の薄い八田八郎は、
その頃、城山小学校に残されたコンクリート製の校舎に逃げ込み、生き延びていた。
「キノコバエたちが球形に集まりだした時、
おそらくその熱で中心部で核融合反応が起こると思って、
あわてて城山小学校に逃げ込んだんだ。
あそこの校舎は戦争の原爆にも耐えたらしいからね」
キノコバエたちが核融合反応した後には巨大なキノコ雲がわきあがり
そこから灰色をした雨が降り注いだ
目撃者の証言によると黒というより泥のような灰色だったという
核融合では放射性物質は出ないと言われているが
その強力な中性子線が周囲のものを放射化してしまうのだ
「そこで僕は見つけてしまったんだ。
城山小学校の被ばくクスノキに二郎おじいちゃんの歯型が残っていたんだよ。
カッパの歯型だったからすぐにわかった。
二郎おじいちゃんは原爆を口で受け止めたんじゃなくて
クスノキにかじりついて生き残ったんだよ」
こうして70年前の記憶は徐々に風化していき、
この先も神や仏はこの世に現れることなく、
架空の神の代理で人間たちが争いを繰り返すのだ。
あと100発くらいの原子爆弾が破裂した後、
地球に本当の平和がやってくるに違いない。
「早く、八田二郎おじいちゃんが、
カカオ豆教団の神として、世界に君臨してくれるといいのに」
八田八郎は西方浄土を向いて深くこうべを垂れた。