無花果の裂けて地表を滴らす ひよどり 一平
(いちじくのさけてちひょうをしたたらす)
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子供のころ、隣家の庭に無花果の大木があった。
当然、枝は我が家にまで張り出していて、しかもよく実を付けた。
「好きなだけ食べていいよ。ウチじゃ食べないンだから」
隣家の家人にはそのように言われていたのだが、だからと言って無断で手を出せるものではなかった。
ある日、程よく熟れた無花果を眺めていたら、突然、隣家の主の声がして、幾つかの無花果を手渡された。
旨かったなァ。終戦前後の頃だったから、甘味に飢えていたのだ。
さすがに今は、無花果を食べたいとは思わない。
引っ越しなどもあったので、隣家の人たちのその後を聞いていない。
なにしろ七十余年も以前の話なのだ。
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今日は防災の日。
いのちを守ることについて、しっかりと考えたい。