■死はすぐそばに 241104
アンソニー・ホロヴィッツの 『 死はすぐそばに 』 を、読みました。
ホロヴィッツは、何時も面白い。ですが、今回は「 アンソニーのもやもや=読者のぼくのもやもや でした。」
「自分が何をしているのか、あなたはわかっていないようだ」
「自分のしていることくらい、ちゃんとわかっていますよ。ミスター・モートン、どうしてわたしに、この本を書くのをやめさせたいんですか?
いったい、誰を守ろうとしているんです?」
「先ほどもお話ししたでしょう……」
「ホーソーンを守るため? あなたはさっき、この結末はホーソーンにとって芳しい話ではない、と言いましたね。いったい何があったんです?
ホーソーンが何かしたんですか?」
「必要なことは、すでにお伝えしました」モートンの目が、すっと細くなる。その瞬間、見た目とは裏腹の本性が見えた気がして、この男だけは敵に回したくないと、わたしは思わずにいられなかった。「よくよく考えてみることをお勧めしますよ。この物語は、あなたが思っているようには終わらない。ホーソーンについて、知りたくなかったと思うことも発見してしまうでしょう。だが、知ってしまったら、もう戻れない。ホーソーンとの友情も終わりますよ。
あの男は頭がいい。われわれにとっても、ごく役に立つ男です。しかし、あの男が心に闇を抱えていることは、あなたもまたご存じのはずでしょう。ホーソーンがなぜ、どんな経緯で警察を追われたのかを忘れてはいませんよね。悪いことは言わない、わたしの言葉に耳を貸すべきですよ、アンソニー。あなたが綴るべき物語は、ほかにもたくさんある。これには手を出さないほうがいい」
これで、話しあいは終わりだった。アラステア・モートンが立ちあがる。
「お目にかかれてよかった」と、モートン。
わたしも立ちあがった。お互いに、握手はしない。
ダドリーはコーヒーのカップを置いた。「ちょうど《厩舎》を出ようとしたとき、おれは見ちまったんだ。カーン警視とグッドウィン巡査は先に出た。次に、ホーソーンが。だが、最後におれが玄関のドアに近づいたとき、脇の壁に立てかけてあった金縁の鏡に、あの夫婦の姿が映っててね。シュトラウスと女房はお互いの手を握ってたが、その顔といったら……あれは、まさにとんでもない眺めだったよ。勝ちほこってたんだ! 凱歌をあげてるような衣情だった。
ついに逃げおおせた、ってね。その瞬間の表情で、あいつらは化けものだと、おれは確信した。
悪の化身だ。もしもシュトラウスをバルコニーから突き落としたのがホーソーンなら、おれはどうこう言えないね」
ダドリーは腕時計に目をやった。
「いろいろあったが、あんたに会えてよかったよ。アンソニー。グランドケイマン 島でも、あんたの本は売れてるかな?」
「うーん、どうだろう……」
「まあ、探してみるよ」
ダドリーは立ちあがった。そろそろ帰ってほしいということだろう。
「送ってくれなくてだいじょぶだ」と、わたし。「出口はわかるよ」
今回にかぎっては、わたしは自力で最後の真相にたどりつき、それが正しいことをはっきりと悟っていた。
勝ちほこってたんだ! 凱歌をあげてるような衣情だった。ついに逃げおおせた、ってね。
『 死はすぐそばに/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭訳/創元推理文庫 』
アンソニー・ホロヴィッツの 『 死はすぐそばに 』 を、読みました。
ホロヴィッツは、何時も面白い。ですが、今回は「 アンソニーのもやもや=読者のぼくのもやもや でした。」
「自分が何をしているのか、あなたはわかっていないようだ」
「自分のしていることくらい、ちゃんとわかっていますよ。ミスター・モートン、どうしてわたしに、この本を書くのをやめさせたいんですか?
いったい、誰を守ろうとしているんです?」
「先ほどもお話ししたでしょう……」
「ホーソーンを守るため? あなたはさっき、この結末はホーソーンにとって芳しい話ではない、と言いましたね。いったい何があったんです?
ホーソーンが何かしたんですか?」
「必要なことは、すでにお伝えしました」モートンの目が、すっと細くなる。その瞬間、見た目とは裏腹の本性が見えた気がして、この男だけは敵に回したくないと、わたしは思わずにいられなかった。「よくよく考えてみることをお勧めしますよ。この物語は、あなたが思っているようには終わらない。ホーソーンについて、知りたくなかったと思うことも発見してしまうでしょう。だが、知ってしまったら、もう戻れない。ホーソーンとの友情も終わりますよ。
あの男は頭がいい。われわれにとっても、ごく役に立つ男です。しかし、あの男が心に闇を抱えていることは、あなたもまたご存じのはずでしょう。ホーソーンがなぜ、どんな経緯で警察を追われたのかを忘れてはいませんよね。悪いことは言わない、わたしの言葉に耳を貸すべきですよ、アンソニー。あなたが綴るべき物語は、ほかにもたくさんある。これには手を出さないほうがいい」
これで、話しあいは終わりだった。アラステア・モートンが立ちあがる。
「お目にかかれてよかった」と、モートン。
わたしも立ちあがった。お互いに、握手はしない。
ダドリーはコーヒーのカップを置いた。「ちょうど《厩舎》を出ようとしたとき、おれは見ちまったんだ。カーン警視とグッドウィン巡査は先に出た。次に、ホーソーンが。だが、最後におれが玄関のドアに近づいたとき、脇の壁に立てかけてあった金縁の鏡に、あの夫婦の姿が映っててね。シュトラウスと女房はお互いの手を握ってたが、その顔といったら……あれは、まさにとんでもない眺めだったよ。勝ちほこってたんだ! 凱歌をあげてるような衣情だった。
ついに逃げおおせた、ってね。その瞬間の表情で、あいつらは化けものだと、おれは確信した。
悪の化身だ。もしもシュトラウスをバルコニーから突き落としたのがホーソーンなら、おれはどうこう言えないね」
ダドリーは腕時計に目をやった。
「いろいろあったが、あんたに会えてよかったよ。アンソニー。グランドケイマン 島でも、あんたの本は売れてるかな?」
「うーん、どうだろう……」
「まあ、探してみるよ」
ダドリーは立ちあがった。そろそろ帰ってほしいということだろう。
「送ってくれなくてだいじょぶだ」と、わたし。「出口はわかるよ」
今回にかぎっては、わたしは自力で最後の真相にたどりつき、それが正しいことをはっきりと悟っていた。
勝ちほこってたんだ! 凱歌をあげてるような衣情だった。ついに逃げおおせた、ってね。
『 死はすぐそばに/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭訳/創元推理文庫 』