BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

鬼嫁物語 第6話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 腐向け二次創作小説「鬼嫁物語」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

土方さんが両性具有設定です、苦手な方は閲覧なさらないでください。

「まぁ、お美しいこと。」
「ありがとう、ばあや。」
「朔、どうか幸せになるのですよ。」
「はい、母上。」
髪を文金高島田に結い、真紅の打ち掛け姿の朔は、まるで天から舞い降りて来た天女のようだった。
「朔、本当にいいのか?」
「兄様。」
朔が振り向くと、そこには薬の行商から帰宅した歳三の姿があった。
「お前は、俺の所為で・・」
「何も言わないで、兄様。兄様は勇さんと夢を叶えて。」
「わかった。」
これが、兄弟として歳三と朔が交わした最後の会話となった。
「風間、良いのですか?」
「何がだ?」
「貴方が望んだのは土方歳三の筈。それなのに、何故弟君の方を・・・」
「身代わりだ。」
「身代わり、というと?」
「あいつは、兄の身代わりに過ぎん。向こうもそれを承知の上でこちらに嫁ぐのだ。」
「へぇ~、そんな理由でお前に嫁ぐ女の気が知れないねぇ。」
そう言ったのは、風間家と懇意にしている不知火家の次男坊・匡だった。
「・・貴様、何しに来た?」
「何って、お前の嫁になる女の顔を見に来たんだよ。」
「嫁には違いないが、相手は半分男だ。」
「は?そりゃ一体どういう意味だ?」
「土方家の双子は、両性の鬼だ。」
「マジかよ・・」
「兄の方を妻として迎えたかったが、まぁいい。」

千景はそう言った後、開いていた扇子をパチンと閉じた。

「千景様、そろそろお時間です。」
「わかった。」

千景と朔の祝言は、華やかに行われた。

「ほんに、めでたき事。」
「花嫁の美しい事といったら・・」
「美男美女で似合いの二人じゃのう。」

(ったく、爺達は呑気で良いよな。)

不知火はそう思いながらちびちびと酒を飲んでいると、彼は花嫁と目が合った。
白粉を塗らずとも白く抜ける程の美しい肌に、血のように紅い唇。
そして、美しい菫色の瞳―その瞳に見つめられた不知火は、慌てて目を伏せた。

それ以上あの瞳を見つめると、おかしくなってしまいそうだったからだ。

同じ頃、歳三は試衛館道場に居た。

「土方さん、弟さんの祝言には行かないんですか?」
「あぁ。挨拶はしたからいい。」
「一応花嫁の兄なんだから、顔を出す位したらいいのに。」
「俺ぁ、堅苦しいのは大嫌ぇなんだよ。」

そう言った歳三は、前髪を鬱陶しそうに搔き上げた。

「そういや、近藤さんも近々結婚するって聞いたなぁ。」
「平助、この馬鹿っ!」

左之助はそう叫ぶと、平助の頭上に拳を振り下ろした。

「痛てぇ、何するんだよ左之さん!」
「近藤さんが結婚って、それ本当なの、平助!」
「あぁ、何でも相手は何処かの藩士の娘らしいぜ。」
「へぇ、どんな女なのか一度見てみたいな。」

総司がそう言って歳三の方を見ると、彼は少し寂しそうな顔をしていた。

「土方さん?」
「すまねぇ、少しボーっとしてた。」
「風邪でもひいたんじゃないんですか?」
「いけません土方さん、石田散薬を・・」
「これ位の風邪、どうって事ねぇよ。」
そう言いながらも、歳三は鼻を啜っていた。
「トシ、どうした?」
「何でもねぇよ。」
「土方さん、風邪ひいたみたいです。」
「風邪だと!?それは大変だ!」

勇はそう言うと、歳三をひょいと横抱きにした。

「な、下せって!」
「総司、後頼む!」
「わかりました。」
「やめろ、離せって!」

歳三はそう叫びながら抵抗したが、なすすべなく、彼は勇によって勇の部屋へと運ばれてしまった。

「大丈夫だから、下せって!」
「熱があるじゃないか、トシ!待ってろ、今布団を・・」
「大丈夫だって言ってんだろ!」
歳三がそう叫んで勇の手を払い除けると、勇は少し驚いたような顔をした。
「済まねぇ、もう帰る。」
歳三は勇に背を向けると、そのまま一度も振り返る事なく試衛館を後にした。
「どうしたんでしょうねぇ、土方さん?」
「あちゃ~、これ俺の所為かなぁ。」

(勝っちゃんが結婚かぁ・・そんな事考えたくなかったな・・)

歳三はそんな事を思いながら歩いていると、彼は突然背後から忍び寄って来た男に口を塞がれ、近くの叢へと引き摺り込まれた。

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鬼嫁物語 第5話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 腐向け二次創作小説「鬼嫁物語」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「風間様・・」
「だが勘違いするな、お前との結婚は形だけのものだ、子を作るのも、義務だ。」
「はい・・」
朔はそう言うと、俯いた。
「俺は己を安売りするような奴には興味はない。お前名は何という?」
「朔と申します。」
「朔、か・・雲すら浮かばぬ月・・お前に似合っている。」
「僕は、今まで兄の陰に隠れるようにして生きて来ました。でも、僕は風間様の為ならば何でも出来ます。」
「気に入った。」
千景はそう言って笑いながら、朔を畳の上に押し倒した。
「このまま俺に抱かれれば、お前はもう後戻りが出来なくなる・・それでも良いのか?」
「はい、元よりその覚悟で、こちらに参りました。」
「そうか・・」

いつまで経っても朔が戻って来ないので心配した桜馬(おうま)は、朔と千景の部屋へと向かった。

「あ、あなたは・・」
「朔様は、こちらにおられるのでしょう?」
「はい。ですが今は、お入りにならない方がよろしいかと・・」

そう言った少年は、頬を赤らめていた。

その理由は、すぐにわかった。

襖越しに聞こえてくるのは、紛れもなく朔のものだった。

中で何が行われているのかは、桜馬にもわかった。

「朔様は今宵、こちらにお泊りになられるそうです。」
「そうですか・・」

朔は一晩中、千景に激しく抱かれた。

「初めてだというのに、乱暴に抱いてしまったな。」
「いいえ。風間様に抱かれて嬉しかったです・・」

朔はそう言うと、千景の少し癖のある銀髪を撫で、美しい金色の瞳を見つめた。

「お帰りなさいませ、朔様。」

駕籠から降りた朔を出迎えた桜馬は、主の歩き方が少しぎこちない事に気づいた。

「大丈夫か?」
「うん、大丈夫・・」

そう言った朔の瞳が、熱で潤んでいるように見えた。

少し朔がよろめいた身体を桜馬が彼を支えた時、彼の長い黒髪の隙間から覗いた白い首筋に残る薔薇色の刻印に気づいた。

「ありがとう、桜馬。」
「いえ・・」
「桜馬、僕は兄様の代わりに風間家に嫁ぐよ。大丈夫、向こうに嫁いでも、僕達はずっと一緒だから。」
「はい・・」

抱き締めた主の身体から、仄かに主のものとは違う香の匂いがして、桜馬は唇を噛み締めた。

数日後、風間家と土方家との間で、正式に結納が交わされた。

「朔様、おめでとうございます。」
「ありがとう。」

その日の夜、歳三に呼ばれた桜馬は彼の部屋がある母屋へと向かった。

「歳三様、桜馬です。」
「入れ。」
「失礼致します。」

桜馬がそう言って襖を開けて部屋に入ると、部屋の主は、何故か眉間に皺を寄せながら鏡を見ていた。

「どうなさったのですか、そのような顔をして?」
「いいや、朔の事で少し気になる事があってな。」
「気になる事、でございますか?」
「あぁ。こんな事は余り聞きたくねぇんだが、朔にはその・・アレは来ているのか?」
「いいえ。まだ来ておりません。歳三様の方は・・」
「あんなのが来るなんて、思ってもみなかったさ。世の女達は、いつもあんな下腹の痛みに耐えていやがるのか・・」
「男には一生わからぬ痛みです。ですが、その痛みや辛さに寄り添う事は出来ます。」
「そうか。朔に伝えておいてくれ、俺の勝手な我儘(わがまま)の所為で、苦しめてしまって済まないと。」
「わかりました。」
「なぁ桜馬、お前はいつから俺が勝っちゃんの事を好きだったんだって気づいたんだ?」
「歳三様が近藤様の事を初めて話していらっしゃった時ですかね。」
「そうか・・済まねぇな、こんな夜遅くに部屋に呼び出して。部屋に戻って休め。」
「はい、では失礼致します。」

桜馬はそう言って、歳三の部屋から辞した。

自室に戻り、布団に入って眠ろうとしたが、中々眠れずにいた。

暫くすると、襖が音もなく開き、誰かが入って来る気配がした。

やがて、その“誰か”が、自分の上に跨り、夜着を剥ぎ取る感覚がして、桜馬が行灯の火を灯すと、朔の白い顔が仄かに浮かび上がった。

「朔様・・」

朔は人指し指を口の前に押し当てた後、桜馬の肌にゆっくりと舌を這わせた。

「朔様、もうこれ以上は・・」

サラリとした朔の黒髪の感触を下肢に感じ、桜馬は慌てて彼を自分から引き離そうとしたが、朔は彼のものを躊躇いなく口に含んだ。

「あぁっ!」

はじめは緩慢なものだった愛撫が、次第に激しくなり、桜馬は朔の口の中で達してしまった。

「お願い、この疼きを止めて・・」
「朔様・・」

桜馬は堪らず、自分の上に跨った朔の身体を反転させ、朔の身体を掻き抱いた。

「朔様、愛しています!」
「その言葉を、聞きたかった・・」

朔はそう言って笑うと、桜馬の背に爪を立てた。

「このような事をなさって、大丈夫なのですか?」
「風間様は僕の事を愛していない。あの方は、兄様の代わりを探しているだけ・・」

その夜から、朔と桜馬は互いの身体を貪り合った。

そして、朔が風間家に輿入れする日が来た。

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鬼嫁物語 第4話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 腐向け二次創作小説「鬼嫁物語」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

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「てめぇ、何しやがる!」

初対面の相手に対して口吸いをしてきた青年の頬を歳三は平手で打った。

「命の恩人に対して、随分な礼の仕方だな?」
「うるせぇ!」
歳三はそのまま、青年に背を向けて去った。
「・・気が強いな。だが、それがいい。」
青年―風間千景はそう言うと、口端に滲んだ血を乱暴に拭った。
「千景様、こちらにいらっしゃったのですね!」
背後から甲高い少年の声が聞こえたので千景様が振り向くと、そこには自分の小姓となった少年・雪が立っていた。
「一体何があったのです?」
「なに、暴れ馬から娘を救ってやっただけだ。行くぞ。」
「待ってくださいよ~!」
練兵館から帰宅した歳三は、何やら離れの方が賑やかな事に気づいた。
「あぁ、まるで夢みたい。こんなに素敵な打ち掛けを頂くなんて。」
そう言いながら、朔は美しい真紅の打ち掛けをうっとりとした表情を浮かべながら眺めた。
「朔、どうしたんだ、これ?」
「これは、先程風間家から贈られたものです。歳三様が、赤がお好きだと聞いたようでして・・」
「そうか。」
「兄様は幸せ者ですね。」
「その打ち掛け、お前ぇにやる。」
「え?」
「俺は嫁には行かねぇ、京へ行く。」
「それは、本気なのですか!?」
「あぁ、本気だ。」
「・・狡い人ね、兄様は。健康な身体に産まれて、仲間にも恵まれて・・これ以上、何を望むというの!?」
朔はそう叫ぶと、歳三に掴みかかった。
「京へ行くなんて、許さない!あなたはきっと、勇さんを・・」
「朔様!」
桜馬は激しく咳込んだ朔の背を慌てて擦った。

「朔、お前、まさか・・」
「朔様は、心の臓がお悪いのです。歳三様、どうか朔様を興奮させないで下さいませ!」
「兄様、勇さんは知っているの?僕達が、普通の身体じゃない事を?」
「朔、お前何を・・」
「僕達は、男と女、両方の性を持って生まれてきた。兄様が京に行くのなら、僕は風間様の子を産んで、幸せになってみせる・・」
そう言った朔の、自分と同じ色をした紫の瞳が、妖しく煌めいた。
「朔様・・」
「桜馬、ずっと僕の傍に居て・・どんな事があっても。」
「はい。」

その日の夜、歳三は寝返りを打っていると、下帯が濡れる感覚がして目を覚ました。

(何だ?)

歳三が布団を捲ると、敷布が真紅で染まっていた。

「トシ、どうした?顔色が悪いぞ?」
「あぁ、ちょっとな・・」
「あれ、土方さん袴に血がついていますよ?」

試衛館で稽古をしていると、歳三は下腹の鈍痛に襲われ、思わず顔を顰(しか)めて蹲(うずくま)った。

「トシ、向こうで暫く休むか?」
「あぁ、済まねぇ。」

初潮を迎えてから、歳三は酷い貧血と眩暈に襲われるようになった。

「トシは、大丈夫かな?」
「病気じゃないんですから、そんなに大袈裟に考えなくても・・」
「そうか?出来る事なら、代わってやりたいな。」
「近藤さん、土方さんは本当に嫁には行かないつもりなのかなぁ?」
「それはどういう意味だ、総司?」
「月のものが来たって事は、もう土方さんは子供を産める身体になった事でしょう?風間家との縁談がなくなったとしても、他家から縁談が来るかもしれないじゃないですか?まぁ性格はともかく、顔は良いから・・」
「総司、テメェ俺が聞いてねぇとでも思っているのか・・ちゃんと聞いてんだよ!」
「へぇ、何だ聞いてたんですかぁ、つまんないの。」
「この野郎!」
「止めなさい、二人共!」
「源さんは黙っててくれ!」
「近藤さん、助けて~!」
一方、風間家では千景と歳三に成り代わった朔が初めて顔を合わせる事になった。
「朔様、どうかお気をつけて。」
「うん・・」
「漸く、あの土方歳三とやらに会えるのだな。」
「千景様、くれぐれも失礼のないように。」
「あぁ、わかっている。」
「千景様、土方家の駕籠が到着しました。」
「そうか。」
駕籠から降りた朔は、真紅の打ち掛けの裾を摘まむと、桜馬と共に風間邸へと向かった。
「千景様、土方様がいらっしゃいました。」
「通せ。」
「はじめまして、風間千景様。」
「お前、何者だ?」
「わたしは、土方歳三と・・」
「お前は、あの暴れ馬から庇った俺の頬を平手打ちした奴と同じ者か?」
「あ、暴れ馬ですか・・」
「・・お前、土方家の次男坊だな?」
千景の真紅の瞳が、ひたと朔の顔を見つめた。
「・・どうか、わたしを抱いて下さいませ。」
「自ら色を仕掛ける奴は好かぬ、失せろ。」
「この身体を、ご覧になってもですか?」
朔はそう言うと、千景の前で生まれたままの姿となった。
「・・いいだろう、お前を俺が兄の代わりに抱いてやろう。」
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鬼嫁物語 第3話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 腐向け二次創作小説「鬼嫁物語」
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「どうして、あいつだけ・・」
「朔様・・」
「いつも、あいつは僕から大切なものを奪っていく。どうして、どうして!」
「朔様、落ち着いて下さい。わたしは、いつでもあなた様のお傍におります。」
「お願い桜馬、ずっと僕の傍に居て。」
「はい、朔様。」
桜馬は泣きじゃくる朔の黒髪を優しく梳いた。
「父上、俺はまだ結婚など考えておりません。どうか先方に断りの返事を・・」
「歳三、一度だけ会ってみるだけでもいいでしょう?」
「わかった・・」

一方、風間家では次期当主の千景が、天霧から縁談の事を聞いて、少し不機嫌そうな顔をした。

「縁談だと?そのような話、父上からは一度も聞いてはおらぬか?」
「千景様、これはもう決まった事です。」
「そうか。父上が決めたのなら仕方ない。一度相手に会ってみるとするか・・」

千景はそう言うと、口端を歪めて笑った。

「トシ、義父上から聞いたぞ、お前の縁談話。」
「そうか。でも安心しろよ、勝っちゃん。俺はまだ嫁には行かねぇから!」
「そうか、それを聞いて安心したよ。」

勇はそう言った後、屈託のない笑みを浮かべた。

「土方さんは、大人しく武家の奥様が務まる訳がありませんもんね。」
「おい宗次郎、そりゃ一体どういう意味だ?」
「え、僕何も言ってませんけど?」
「てめぇ・・」
「あ、僕女将さんに用事を言いつけられているんでもう行きますね。」
「テメェ、待ちやがれ!」

歳三は慌てて総司を追い掛けたが、彼は何処かへ行ってしまった後だった。

「畜生、宗次郎の奴、帰ってきたらタダじゃおかねぇ!」
「まぁそんなに怒るな、トシ。宗次郎はあいつなりにお前の事を心配しているんだよ。」
「そうか?」
「あいつは素直じゃないからなぁ。」

試衛館で稽古を終えた歳三は、久しぶりに練武館へと向かった。

「トシさん、久しぶり!」
「八郎、元気そうだな。」

歳三は自分に子犬のようにじゃれついて来る伊庭八郎にそう言った後、優しく微笑んだ。
そんな二人を、一人の青年がうらやましそうに見ていた。

「弥助、どうした?」
「いいえ、何でもありません。」

「土方様、わたしと付き合ってください、お願いします!」
「・・悪ぃがそれは出来ねぇな。」

八郎と稽古した後、歳三は練武館の中庭で門下生の一人に呼び出され、そこで彼から突然告白された。
今まで歳三は女から数え切れない程告白されたが、男から告白されたのは初めてだった。
歳三の返事を聞いた門下生―弥助は、不服そうに唇を尖らせた。

「何故です?」
「何でって、俺ぁ男と付き合う趣味はねぇからだよ。」
「・・若先生を手玉に取って弄んでいる癖に。」
「は?」

歳三がそう言って弥助の方を見ると、彼の姿は既にそこにはなかった。

(何だったんだ、ありゃぁ・・)

「トシさん、どうしたの?」
「なぁ、俺弥助に何かしたのか?」
道場に戻った歳三は、中庭での事を八郎に話すと、彼は腹を抱えて笑った。
「弥助は僕の事を尊敬しているから、彼からしてみればトシさんは僕を惑わして弄んでいる魔性の女にしか見えないんじゃないかなぁ?」
「魔性の女って・・俺ぁ、男だぞ!?」
「まぁ、あんまり彼の言う事は気にしない方がいいよ。」

そう言いながらも八郎はまだ笑っていた。

(魔性の女ってなんだ・・弥助の目には俺がどう映っているんだ?)

練武館から多摩へ帰る道すがら、歳三がモヤモヤしながら江戸の街を歩いていると、突然向こうから馬のいななきと人々の悲鳴が聞こえて来た。

「暴れ馬だ!」
「逃げろ!」

歳三が我に返ると、目の前に暴れ馬が迫っていた。

「危ない!」

歳三の背後で男の声が聞こえて来たかと思うと、急に彼の身体が軽くなった。

(な、何だ?)

歳三が閉じていた目を開けると、そこには眩いばかりの金髪を揺らしながら、真紅の瞳で自分を見つめている青年の姿があった。
彼は目敏く歳三の擦り剝けた右手の甲の血を舐めると、こう言った。

「お前の血は、甘いな。」

そして間髪入れずに青年は歳三の唇を塞いだ。

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鬼嫁物語 第2話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 腐向け二次創作小説「鬼嫁物語」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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土方家の女中・しずは、互いに再会と無事を喜び合う歳三達を見ながら、ある部屋へと向かった。

そこは、土方家の母屋から少し離れた所にあった。

「朔様、しずです。」
「入って。」
「失礼致します。」

しずが部屋に入ると、部屋の主は箏を弾いていた。

「例の件は、上手くいったの?」
「いえ、それが・・」
「ふぅん・・」

しずの言葉を聞いた“少女”は、箏を弾くのを止めて、ゆっくりとしずの方を振り向いた。

その顔は、歳三と同じ顔をしていた。

「本当に、お前は使えないね。」
「も、申し訳ございません・・」
「お前の顔はもう見たくない。」
「はい・・」

しずが慌てて部屋から出て行った後、彼女と入れ違いに一人の青年が部屋に入って来た。

「随分とご機嫌斜めですね?」
「お前か、桜馬(おうま)。いつも僕が不機嫌な時、お前はこうして来てくれるね。」
「あなた様にお仕えして何年経っていると思っていらっしゃるのです?」

土方家の使用人・桜馬は、そう言うと主の黒髪を優しく梳いた。

 彼は、双子の弟・朔である。

頑健な歳三とは対照的に、朔は生まれつき病弱で、実母による恵津の元から離れ、乳母であるたまの手によって育てられた。

同じ顔をしていながらも、歳三と朔の性格は全く正反対だった。

勝ち気で負けず嫌いな性格の歳三とは違い、朔は争い事を嫌う物静かな性格である。

朔はいつしか、自分と違って多くの友人に恵まれている歳三を羨み、憎むようになった。

(あいつなんて、居なくなってしまえばいいのに。)

朔はしずに金子を渡し、歳三を女郎屋へと売り飛ばすよう命じたが、彼女は失敗した。

「朔様、これを買って参りましたよ、一緒に食べましょう。」
「柏餅だね、そんな季節か。」

朔はそう言うと、桜馬の手から柏餅をひとつ手に取ると、それを頬張った。

「あぁ、美味しい。」
「朔様は、本当に甘い物がお好きなのですね。」
「甘味はどれも好きだけど、僕は柏餅が一等好きな菓子なんだ。」

「トシ、誕生日おめでとう。」
「どうしたんだ、勝っちゃん?」

歳三がいつものように神社の境内で遊んでいると、勇はそう言って、彼に赤い櫛を手渡した。

「これは?」
「近くの小間物屋で売っていたから、つい・・それに、お前が赤が好きだと思い出してな・・」
「そうか、ありがとう・・」

歳三は、そう言うと頬を赤く染めながら、勇から櫛を受け取った。

「どれ、俺が髪に挿してやろう。」
「いいよ、そんな・・」
「恥ずかしがるなよ・・」

勇はそう言うと、歳三の髪に櫛を挿した。

「やっぱり、この櫛はトシの黒髪に映えるな。」
「そ、そうか?」

そんな二人の姿を、朔は遠巻きに見ていた。

(兄さん、あなたは狡い・・どうして、あなたばかり欲しい物を手に入れて・・)

「朔様、こんな所にいらっしゃったのですか?」
「桜馬、お前はいつも僕を見つけてくれるね。」
「さぁ、もう帰りましょうか。」
「うん。」

時は経ち、歳三と朔はそれぞれ元服の年を迎えた。

「二人共、もうそんな年になったのね・・」
「あぁ、そうだな・・」

隼人はそう言うと、中庭に植えられた遅咲きの梅を見つめた。
その梅は、歳三と朔が生まれた年に植えられたものだった。

「二人共、仲良くなってくれればいいですね・・」
「あぁ。」
「旦那様、失礼致します。風間様がお見えになられました。」
「・・そうか、今行く。」

歳三はその日の夜、朔と共に母屋へと向かった。

「父上、母上、参りました。」
「歳三、朔、元服おめでとう。今日ここにお前達を呼んだのは、大切な話があるからだ。」
「大切な話、ですか?」
「あぁ・・実は、風間家から縁談が来た。」
「風間家から、ですか?」
「先方は、歳三と朔のどちらかを嫁がせろと言って来たが・・風間家の千景様は、歳三を我妻にと望んでいる。」
「それは本当ですか、父上?」
「あぁ。」
「そうですか・・」

父の言葉を聞いた朔は、そのまま離れへと戻った。

「朔様!」

桜馬が慌てて主の後を追うと、彼は静かに涙を流していた。

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鬼嫁物語 第1話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 腐向け二次創作小説「鬼嫁物語」

「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「土方さん、何処ですか~?」
「どうした総司、またトシを探しているのか?」
「はい。土方さんは、いつも隠れるのが得意なんだから、参っちゃうなぁ。」
いつものように神社の境内で勇と総司、歳三が隠れ鬼をやっていると、二人はいつの間にか歳三が居なくなったことに気づいた。
「ねぇ近藤さん、どうします?もしかして、土方さん、人攫(さら)いに・・」
「トシに限って、そんな事はない。とりあえず、トシが行きそうな場所へ行ってみよう。」
「はい!」
二人が歳三を捜し回っている頃、当の本人は女郎屋の中にある部屋に監禁されていた。

(どこだ、ここ・・)

勇達と神社で遊んでいた時、歳三は突然背後から忍び寄って来た謎の男に気絶させられ、目が覚めるとこの部屋に監禁されたのだ。
物音も人の話す声も全く聞こえない中、歳三が部屋の窓から逃げ出そうとした時、一人の女が部屋に入って来た。
女は煙管を咥えながら歳三を見ると、開口一番こう言った。

「あたしゃ今までここに売られてきた子を見て来たが、こんなに綺麗な子は見た事がないねぇ。さ、良く顔を見せておくれ。」
「俺に触るな!」
「ふん、強情な子だね。あんたはここに売られて来たんだ、もっとしおらしくしな。」
「おい婆、ここから出せ!」
「それは出来ないね。あんたはここで死ぬまで働くんだ、いいね?」
「うるせぇ、婆!」

歳三はそう叫ぶと、女に強烈な頭突きを喰らわせ、女が怯んだ隙に女郎屋から飛び出していった。

「誰か、その子を捕まえとくれ!」
背後から女の叫び声が聞こえたが、歳三は只管家まで走った。
一方、日野では村人総出で歳三を捜していた。
「トシ、どこだ~!」
「居るんだったら返事しろ~!」
すっかり日も暮れ、村人達は松明を掲げながら歳三の姿を捜していた。
「トシ、トシ~!」
「近藤さん、今日は諦めましょうよ。もう日が暮れましたし、このままだと僕達も人攫いにかどかわされちゃいますよ。」
「あぁ、そうだな・・」
勇がそう言って歳三の捜索を打ち切ろうとした時、遠くから歳三の声が聞こえて来たような気がした。
「どうしたんですか、近藤さん?」
「今、トシの声が・・」
「気の所為なんじゃないんですか?」
「いや、さっき・・」
勇が、声が聞こえた方へと松明を向けると、闇の中から歳三の姿が浮かび上がった。
「勝っちゃん!」
「トシ、一体何処へ行っていたんだ!?」
「わからねぇ・・気が付いたら女郎屋に居た。そこから何とか逃げて、吉原からここまで走って来た。」
「そうか。トシ、お前が無事に帰って来てくれて良かった。」
「心配かけて済まなかったな、勝っちゃん。」
歳三と勇が抱き合っていると、そこへ歳三の父・隼人がやって来た。
「歳三、無事で良かった。さぁ、家へ帰ろう。」
「はい、父上。」
歳三が父と手を繋ぎながら土方家へと戻ると、そこには歳三の帰りを待っていた兄姉達の姿があった。
「トシ、何処に行っていたのよ、心配したんだから!」
「迷惑かけて、ごめんなさい。」

そんな歳三達の様子を、一人の女中が恨めしそうな表情を浮かべながら見ていた。

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龍の護り人 第1話:運命の出会い

2024年10月09日 | FLESH&BLOOD 和風転生シンデレラパラレル二次創作小説「龍の護り人」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。


最期に憶えていたのは、紅蓮の炎に包まれた故郷だった。

―父様、母様!

燃え盛る炎の中で必死に家族を捜している中、何者かに殴られ、気絶した。

そこで、記憶は途切れた。

「海斗、早くしなさい!」
「はい・・」
「全く、クズなんだから!」
両親を事故で亡くし、東郷海斗は眠い目を擦りながら、“部屋”から出て行った。
夏の陽射しが容赦なく彼女の肌を灼いたが、海斗は母屋の中へと入っていった。
「遅かったわね、何をしていたの?」
「申し訳ありません。」
「もういいわ、仕事なさい。」
そう言ったのは、海斗の伯母で料亭『五十鈴』の女将・恵子だった。
「はい・・」
「辛気臭い顔ね。あなたを見ていると苛々するわ!」
恵子は海斗にそんな言葉を投げつけると、そのまま自室へと去っていった。
海斗が厨房に入ると、板長の理太郎が彼女に菓子の包みを手渡してきた。
「今日は忙しいから、これ食べて元気出せ。」
「ありがとうございます。」
「海斗ちゃん、おはよう。」
「おはようございます。」
「今日も暑いね。」
「ええ・・」
厨房は風通しが悪く、夏の間は地獄のように暑かった。
「海斗、柳の間に定食運んで!」
「はい!」
夜になると、『五十鈴』の厨房は猫の手も借りたい程忙しくなった。
その日は暑くて、夜になっても蒸し暑かった。
海斗は溜息を吐き、井戸の水で少し手を洗った。
「その髪は、染めているのか?」
「え?」
突然背後から声がしたので海斗が振り向くと、そこには黒いスーツ姿の男が立っていた。
「いいえ、地毛です。」
「眉と睫毛だけは黒いな。それにその瞳・・黒真珠のような美しさがある。」
「あの・・」
男の美しい蒼い瞳に見つめられ、海斗は急に気を失いそうになった。
「大丈夫か?」
「すいません・・」
「後で、時間あるか?」
「はい・・」
「そうか。じゃぁ、ここで待っている。」
男はそう言うと、海斗の手に名刺を手渡した。
そこには、男が泊まっている宿の名前があった。
仕事が終わり、海斗は男の名刺に書かれてあった宿へと向かうと、そこは新しく出来たレンガ造りの美しいホテルだった。
「あの、こちらにジェフリー=ロックフォードさんという方は・・」
「来てくれたのか。」
海斗がホテルのフロントで男の名刺を従業員に見せていた時、丁度彼がホテルのロビーを通りかかった。
「部屋へ行こう。」
「はい・・」
男に部屋へと連れて行かれ、海斗は彼にベッドの上に押し倒された。
「あの・・」
「力を抜け。」
男に唇を塞がれ、海斗は身体の奥が熱くなるのを感じた。
“カイト・・”
(誰?この人、知っているような気がする・・)
海斗は、男の腕の中で蕩けた。
―カイト、約束だ。必ずお前を・・
懐かしい夢を見たような気がした。
「ん・・」
小鳥の囀りを聞いた海斗が目を開けると、隣にはあの金髪碧眼の男が眠っていた。
彼を起こさぬよう部屋から出てホテルを後にした海斗は、料亭に戻った時、両親の形見を部屋に忘れてしまった事に気づいた。
(どうしよう・・)
そんな事を思いながら、海斗が仕事をしていると、座敷の方から賑やかな笑い声が聞こえて来た。
「随分とお昼から賑やかですね。」
「何でも、貴族院議員の先生が来ているんだとよ。」
「へぇ・・」
海斗が、貴族院議員が居る華の間へ酒を運ぶと、そこには彼女の幼馴染で、元婚約者の森崎和哉が居た。
「失礼致します。」
海斗は和哉に気づかれないように座敷から出ると、和哉が彼女に気づき、彼女を追い掛けて来た。
「海斗!」
「久し振りだね、和哉。」
「ここで、働いているの?」
「まぁね。」
「仕事が終わったら、話せる時間はあるかな?」
「少しは・・」
「そう。じゃぁ、ここで待ってる。」
和哉は別れ際、海斗に行きつけの喫茶店の住所が書かれたメモを手渡し、座敷へと帰って行った。
「お疲れ~」
「お疲れ様~」
仕事を終え、昼休憩に入った海斗は、和哉に渡されたメモの住所を頼りに、喫茶店「シルビィ」へとやって来た。
「いらっしゃい。」
海斗を出迎えたのは、長身で強面のマスターだった。
「海斗、こっちだよ。」
「和哉、久し振り。今まで、手紙を一通も書かなくてごめんね。」
「いいんだよ。あんな事があった後だし・・それにしても、海斗はまた箏を続けているの?」
「お客さんの前で演奏することがあるから、続けているよ。和哉は、ヴァイオリンは続けているの?」
「まぁね。お昼だから、何か食べない?このお店は、ビーフシチューが美味しいよ。」
「じゃぁ、それを食べようかな。」
昼休憩を終えて海斗が料亭に戻ると、何やら店の前に人だかりが出来ていた。
「どうしたんですか?」
「海斗、あんたに会いたいって人が・・」
「え?」
女将と海斗がそんな事を話していた時、店の前に停まっていた車から、金髪碧眼の美男子―ジェフリー=ロックフォードが降りて来た。
「やっと見つけたぞ、カイト。俺の、運命の花嫁。」

海斗の前に跪いたジェフリーは、そう言うと彼女の手の甲に接吻した。

(え、えぇ~!)

これが、海斗とジェフリーの、運命の出会いだった。
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龍の妃 第一章

2024年10月09日 | FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説「龍の妃」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


シャラシャラと、宝石をつけた美しい鞍が動く度に揺れた。

「花嫁さんだ!」
「綺麗な方ね。」
「本当に。」

白馬に乗せられているのは、白無垢姿の花嫁だった。
彼女は今、峠の向こうにある龍の元へと嫁ぐのだ。
龍―その昔、この国に豊饒な土地と莫大な富を与えた守護神。
龍は気まぐれで、一年に一度、生贄を差し出さなければ干ばつや水害などを起こし、村に災いをもたらした。
いつしか、龍に生贄を差し出す際、豪華な花嫁行列を支度して生贄を送り出すようになった。
馬上の花嫁、もとい生贄となる少女は、角隠しの下で必死に涙を堪えていた。
(父様、母様・・)
故郷の村で盛大に送り出されたが、少女は自分がどのような運命を辿るのかを知っていた。
「着きましたよ。」
「はい・・」
少女は白馬から降りると、静かに龍が住むという社に向かって歩き出した。
―お前が、俺の“花嫁”か?
「はい・・」
社の奥から“龍”の声が聞こえ、少女が震える声でそう答えると、社と外を繋ぐ扉が音を立てて開いた。
(さようなら、父様、母様・・)
社の中に入った少女は、この世と別れを告げた。
「何だこれは、俺を殺す気か!?」
「申し訳ございません、旦那様・・」
「まったく、お前は味噌汁も満足に作れないのか!」
頭から冷水を浴びせられ、罵倒された赤毛の娘は、只管耐えていた。
―またなの?
―可哀想に・・
―でも、“あれ”じゃぁねぇ・・
厨房の床に散らばった朝食の残骸を片づけながら、赤毛の娘―海斗は唇を噛んでいた。
海斗は、この家の養女であったが、ある理由で使用人同然の扱いを受けていた。
あかぎれだらけの手を擦りながら、海斗は一人屋敷の中庭で大量の洗濯物を洗っていた。
凍えるような寒さの中で、海斗は薄い絽の着物しか着ていなかった。
「これで終わり・・」
「あら、こんな所に居たのね。」
そう言って海斗を睨みつけたのは、この家の一人娘である愛梨だった。
「相変わらず辛気臭い顔をしているのね。」
「すいません・・」
「まぁいいわ、これ以上お前に構っている時間は無いの。」
美しく着飾った愛梨は、そう言うと海斗に背を向けて去っていった。
悴む手を擦って海斗が母屋で洗濯物を畳んでいると、そこへ愛梨の母であるかの子がやって来た。
「海斗、洗濯物を畳むのを終わったら、夕飯を作って頂戴。」
「はい・・」
「わたくし達は外で済ませておきますから、“あの子”の分だけ作って。」
かの子はそう言った後、愛梨と何処かへ出掛けてしまった。
厨で“あの子”の夕飯を作ると、海斗はそれを蔵へと持って行った。
「失礼致します、お夕飯をお持ちしました。」
「わかった。」
蔵の扉が静かに開き、中から一人の青年が出て来た。
彼の名はナイジェル。
この家の当主が外の女との間に作った私生児だった。
「いつも済まないな、カイト。」
「いいえ・・」
背中まである長さの髪を櫛で梳きながら、海斗はそう言ってナイジェルを見た。
「どうした?」
「綺麗な髪だなぁって思って。俺の髪はどうして、皆と違うんだろう。」
「俺は、お前の炎のような髪が好きだ。」
「え・・」
「カイト、これを。」
そう言ってナイジェルが海斗に手渡したのは、銀細工の美しい簪だった。
「母の形見だ、受け取ってくれ。」
「そんな大切なもの、受け取れないよ。」
「お前はもっと着飾ってもいい。あいつらがお前をどう思おうと、俺はお前が好きだ。」」
「ナイジェル・・」
「何処で油を売っていたのかと思ったら、こんな所で乳繰り合っていたのね。」
我に返ったナイジェルと海斗が背後を振り向くと、そには鬼のような形相を浮かべたかの子が立っていた。
「奥様・・」
「海斗、お前に良い縁談があるわ。母屋へわたくしといらっしゃい。」
「はい・・」
海斗がかの子と共に母屋へ向かうと、そこには何やら深刻そうな表情を浮かべて話している村人達の姿があった。
「奥様、その子が・・」
「ええ、この子が、“花嫁”よ。」
「おぉ・・」
「今年も、村は安泰ですな。」
「喜びなさい海斗、あなたはとても高貴な御方の元へ嫁ぐ事になったのよ。」
「はい・・」
訳がわからぬまま、海斗は名も知らぬ相手に嫁ぐ為の準備に追われた。
「まぁ、見事な白無垢です事!」
「これで海斗様も安心して嫁ぐ事が出来ましょう。」
「あの子だけずるいわ!」
「愛梨、我慢なさい。」
「でも・・」
「あの子がこの家から居なくなれば、楽しくお母様と“二人”で暮らせるわ。」
「そうね、お母様!」
嫁入りを前日に控えた夜、海斗は不安と恐怖で眠れなかった。
「カイト、起きているか?」
「ナイジェル、どうしてここに?」
「一緒に逃げよう、カイト。」
ナイジェルに手をひかれるがままに、海斗は暗闇の中で必死に走っていた。
「花嫁が逃げたぞ!」
「追え!」
「逃がすな、生け捕りにしろ!」
背後から追手の声が聞こえ、海斗は恐怖で顔を強張らせた。
「俺が必ず、お前を守る。」
「ナイジェル・・」
「居たぞ!」
海斗は、追手に斬りつけられそうになったが、ナイジェルがその刃を受けた。
「ナイジェル、しっかりして!」
「娘を連れて行け!」
「ナイジェル、ナイジェル~!」
ナイジェルの右目に最後に映ったものは、海斗の泣き顔だった。
「全く、恩を仇で返すなんて、この裏切り者!」
「奥様・・」
「さっさと遊郭に売り飛ばしてしまえ。うちの家名に泥を塗るような娘の顔など、もう見たくない。」
ナイジェルがあの後どうなったのかわからぬまま、海斗は遊郭へと売られる事になった。
「お母様、あの子は売られるの?」
「今夜売られるそうよ。厄介払いが出来て良かったわ。」
かの子はそう言うと、美味そうに紅茶を一口飲んだ。
海斗は、白無垢姿で白馬に乗せられ、遊郭へと連れて行かれた。
―何だい、ありゃ?
―今年の“花嫁”だよ。
―可哀想にねぇ。
「後少しで着くぞ。」
「はい・・」
海斗が馬から降りようとした時、突風が彼女を襲った。
―待ちくたびれたぞ、我が花嫁。
海斗が目を開けると、自分の前には金髪碧眼の美男子が立っていた。
「あなたは、誰?」
「俺について来い。」
海斗は、無意識に自分の前に差し出された男の手を取り、男と共に歩き出した。
「あの、ここは?」
「ここは、これからお前が俺と共に住む家だ。」
「え・・」
「今日からよろしくな、カイト。」
金髪碧眼の美男子に連れられ、海斗がやって来たのは、四方を山に囲まれた寝殿造りの屋敷だった。
「ここは?」
「今日から俺達が住む家だ。よろしくな、カイト。」
「あの・・俺は・・」
「カイト、お前は俺の事が嫌いか?」
「いいえ・・」
海斗は、彼と共に居ると心が安らぐのを感じた。
「あなたはどうして、俺の名前を知っているの?」
「お前の事は、昔から知っている。」
ジェフリーはそう言うと、海斗と初めて会った日の事を思い出した。
それは、まだジェフリーが霊力を持たない、子供の時だった。
彼は好奇心に駆られて下界へと降りたものの、金髪碧眼の龍の子を見て金儲けをしようとした人間達に攫われ、命からがら逃げだしたものの、力尽きて何処かのお屋敷の中庭で気を失って倒れてしまったのだった。
「見て、あそこに人が倒れているわ。」
「お嬢様、大丈夫ですか?旦那様にもしこの事が知られたら・・」
「大丈夫よ!」
ジェフリーは、赤毛の少女―海斗の看病によって回復した。
「また会える?」
「あぁ。その時は、君を俺のお嫁さんにしてやるよ。」
「本当!?」
「本当さ。」
そう言って、ジェフリーは海斗に翡翠の首飾りを贈った。
あれから十数年の時が経ち、成長したジェフリーは海斗の事を捜したが、彼女は両親を亡くし、遠縁の親戚の家で使用人同然の扱いを受けていた。
彼女が遊郭へ売り飛ばされる前に、間に合って良かったと、ジェフリーは思った。
「ん・・」
海斗は、見知らぬ部屋の中で目を覚ました。
「目が覚めたか?食事にしよう。」
「はい・・」
海斗がジェフリーと共に広間に入ると、そこには色とりどりの豪華な料理が並んでいた。
「あの、これは全部、俺の為に?」
「あぁ。」
あの家ではいつも冷えた残飯ばかり食べていたので、湯気が立っているご飯や味噌汁を食べるのは、何年振りだろうと海斗は思った。
(こんな立派な家に嫁ぐのに、俺は・・)
「どうした、気に入らなかったのか?」
「あの、こんな俺でもいいのですか?俺は、家柄も良くないし、こんなみすぼらしい着物しか持っていないし・・」
「何だ、そんな事を気にしているのか?着物は俺が買ってやる。」
ジェフリーの言葉を聞いて、海斗は驚いた。
(俺はこの人の生贄で・・いつか喰う生贄の為に、そんな・・)
「どうした?」
「俺は、生贄としてあなたの元に嫁ぎました。だから・・」
「生贄?あんな古いしきたり、もう廃れた。いいかカイト、俺は心の底からお前を妻として迎えたいと思っているんだ。」
「龍神様・・」
「ジェフリーと呼んでくれ。」
「ジェフリー・・」
「カイト、今日は美味い飯を食って、寝ろ。」
「わかりました。」
ジェフリーと夕食を済ませた後、海斗は湯殿へと向かった。
そこは、神聖な雰囲気がある、広い浴場だった。
今まで垢が浮く残り湯で風呂を済ませて来たので、海斗は広い浴槽を堪能した。
「海斗、着替えを持って来た・・」
「きゃぁっ!」
ジェフリーが脱衣所に入ろうとした時、運悪く彼は海斗の裸を見てしまった。
海斗は、男女両方の性を持っていた。
 その身体よりも、ジェフリーの目をひきつけたのは、海斗の全身に残る痣や火傷痕だった。
「誰にやられた?」
「俺が、悪いんです。」
海斗はそう言ってしゃくり上げると、その場に座り込んだ。
「薬湯だ。これを飲むと気分が落ち着く。」
「ありがとうございます。」
夜着に着替えた海斗は、ジェフリーの手から薬湯を受け取り、それを一口飲んだ。
「父さんと母さんが亡くなって、俺は今の家に使用人として引き取られました。いつも殴られていました。殴られるだけなら、まだいいんです。」
「辛い事は言わなくてもいい。」
ジェフリーは、海斗の手が小刻みに震えている事に気づき、そっと彼女を抱き締めた。
「俺はお前の味方だ、カイト。」
「ジェフリー・・」
海斗が“生贄”に選ばれた日の夜、村は大雪に見舞われた。
ナイジェルは右目から血を流しながら、遊郭を彷徨っていた。
「カイト・・カイト・・」
ナイジェルは覚束ない足取りで数歩歩いた後、意識を失った。
夢の中で、海斗は見知らぬ男と並んで歩いていた。
ナイジェルがどんなに海斗を呼んでも、彼女は振り向こうとしない。
(カイト、俺はここに居るぞ!)
海斗に向かってナイジェルが手を伸ばそうとした時、彼は悪夢から醒めた。
「お目覚めですか、若様。」
襖が開き部屋に入って来たのは、狐の面を被った少年だった。
「これは・・」
「さぁ、お召し替えを。」
状況がわからないまま、ナイジェルは白無垢に着替えさせられ、少年によって広間のような部屋に通された。
「待っていたぞ、俺の花嫁。」
そう言って鳶色の瞳を持った妖狐は、自分を睨んでいるナイジェルを見た。
「俺は、貴様の花嫁になったつもりはない。」
「面白い。俺は、一筋縄ではいかない花嫁が好きでね。」
妖狐―キットは、舌なめずりをした。
「何故俺を助けた?」
「お前の事が気に入ったからさ。」
「ただそれだけで、お前を信用しろと?胡散臭いな。」
「では、俺がお前の幼馴染が今何処に居るのかを知っている、と言ったら?」
「カイトを、カイトを知っているのか?」
ナイジェルはそう言ってキットに詰め寄ったが、ナイジェルは苦痛に顔を歪めると、その場に蹲った。
「怪我が治るまで、ここに居ろ。なぁに、心配するな。お前の幼馴染とは、すぐに会えるさ。」
キットはナイジェルを寝室まで運ぶと、屋敷を出て町へと向かった。
「いらっしゃいませ。」
「親爺、きつねうどんひとつ。油揚げが大きい奴を頼む。」
「あいよ!」
キットが焼酎を飲んでいると、店に黒髪の鬼が入って来た。
―あの方は・・
―ほら、あの・・
(目を合わせないようにしないとな。)
キットがそんな事を思いながら油揚げを頬張っていると、黒髪の鬼が何処か険しい表情を浮かべた後、突然店から飛び出していった。
(一体どうしたんだ?)
キットが店の中から外の様子を見ていると、黒髪の鬼が赤毛の娘と何かを言い合っていた。
「・・めて、あなたには・・」
「彼と別れろ、カイト!」
「痛い!」
「親爺、代金はここに置いておくぜ。」
「ありがとうございました~!」
キットは店から出ると、言い争っている黒髪の鬼と赤毛の娘との間に割って入った。
「おやおや、可愛い娘に絡むなんて、穏やかじゃないなぁ。」
「狐は黙っていろ!」
「そうはいかないね。俺は困った者を助けるのが仕事なんでね。お嬢さん、お名前は?」
「東郷海斗と申します。あの、あなたは・・」
「俺はクリストファー=マーロウ、キットと呼んでくれ。カイト、この人とは一体何があったんだ?」
「実は・・」
海斗は、数分前に起きた事をキットに話し始めた。
「カイト!」
数分前、海斗がジェフリーと買い物をした後、一人で町を歩いていると、元許婚であった鬼のビセンテと会った。
彼は、愛梨と腕を組んで歩いていた。
「あらぁ~、その着物は何?地味な色ね。」
海斗が二人に背を向けて歩き出すと、ビセンテがすぐに追いかけて来た。
「カイト、わたしは・・」
「俺はもうあなたとは何の関係もないから、その手を離して下さい。」
「わたしは、納得出来ない。」
「俺はもう、別の人と一緒になったの、だから・・」
ビセンテは怒りに燃える緑の瞳で海斗を睨むと、彼女を掴む手に力を込めた。
「どんな奴だ?」
「やめて、あなたには関係ない!」
「まだわたしは、お前の事を諦めていない!だから、彼と別れろ、カイト!」
キットはそこまで海斗の話を聞いた後、黒髪の鬼―ビセンテを見た。
「未練がましい男は嫌われるぜ?」
「黙れ、狐!」
ビセンテがそう怒鳴ってキットを睨みつけた時、凄まじい霊気と共に金髪をなびかせたジェフリーがやって来た。
「誰かと思ったら、根暗な鬼じゃないか?俺の妻に手を出さないでくれるかな?」
そう言ったジェフリーの目は、笑っていなかった。
「また会おう、カイト。」
「大丈夫か、カイト?怪我は無いか?」
「うん・・」
海斗はキットに軽く会釈すると、ジェフリーと共にその場から去って行った。
(あれが龍神かぁ・・)
キットがジェフリー達に会って数日後、彼は二人と町で再会した。
「カイト、元気そうだな?」
「キットさん、この前は助けて下さりありがとうございました。」
「今日は二人で何処に行くんだ?」
「ちょっとした集まりに出るんだ。」
「へぇ、そうかい。」
キットはそう言って出掛けて行く二人を見送った。
「ねぇ、俺の格好変じゃないかな?」
「いいや、とても綺麗だ。」
ジェフリーはそう言うと、美しい桜色の着物を着た海斗を見た。
―ねぇ、あれ・・
―どうして・・
(どうして、あの子ばかり注目されるの!)
愛梨は、美しく着飾っている海斗を見て嫉妬の炎をその胸に燃え上がらせた。
「カイト、あいつがお前を虐めていた娘か?」
「うん。ジェフリー、何をする気なの?」
「挨拶をしに行くだけさ。」
ジェフリーはそう言うと、海斗から離れた。
キットが二人に町で再会する数日前の事―

「これは?」
「あぁ、招待状だ。毎年桜の季節になると、人と様々な種類の妖が集まる宴があるんだ。」
「宴って事は・・」
海斗の脳裏に、ビセンテと腕を組んで歩いていた愛梨の姿が浮かんだ。
「俺、行けないよ。だって・・」
「着物なら、買ってやるさ。」
「いいの?」
「いいに決まっているだろ。」
こうして海斗は、ジェフリーと共に町で一番大きな呉服屋へと向かった。
「いらっしゃいませ。まぁ、これはこれは・・」
店主はジェフリーの顔を見て満面の笑みを浮かべた後、海斗とジェフリーを店の奥へと案内した。
そこには、美しい色とりどりの着物が並べられていた。
「妻に似合う着物を何着か見繕ってくれないか?」
「わかりました。」
「そうだ、妻の赤毛に似合う簪を頼む。」
「はい!」
「こんな高そうなの、貰えないよ・・」
「何を言う、俺がお前に贈りたいんだ。だから遠慮せずに、好きな物を選べ。」
「・・はい。」
海斗は初めて、自分が好きな物を選んだ。
「どうした?」
「え・・」
「ただ買い物に来ただけなのに、何も泣く事はないだろう?」
そこで初めて、海斗は自分が泣いている事に気づいた。
あの家では、いつも感情を押し殺していたので、素直に感情を表す事が出来なかった。
だから、嬉しさの余り、涙を流してしまったのだ。
「ごめんなさい・・」
「謝らなくていい。」
二人が屋敷へと戻ると、そこには一人の女が彼らの帰りを待っていた。
「あらぁ、この子が新しい生贄?」
「鵺がここに何の用だ?」
「別にぃ。」
女は淡褐色の瞳でじっと海斗を見た後、去っていった。
「あの人は?」
「あいつは鵺だ。」
「鵺?」
「人や妖を騙し、それを生き甲斐にしている妖だ。あいつには近づかない方が良い。」
「わかった。」
“桜の集い”当日、愛梨は一番上等な振袖を着て行った。
「あらぁ、愛梨様じゃありません事?」
「素敵なお召し物です事。」
「まぁ、ありがとう。」
愛梨は周囲から着物を褒められ、すっかり有頂天になっていた。
しかし、それは一瞬で終わった。
―ねぇ、見て・・
―あれが、“生贄”・・
周囲が突然ざわつき出したので、愛梨が周囲を見渡すと、会場に一組の男女が入って来た。
金髪碧眼の美男子は、妖の世界を統べる龍神・ジェフリーだった。
その隣に居るのは、美しく着飾った“生贄”の海斗だった。
「ジェフリー、俺、おかしくないかな?」
「いいや、とても綺麗だ。」
(どうしてあの子が、わたしより注目されているの?そんなの、許されないわ!)
そんな事を愛梨が思っていると、龍神がふと自分の方へと近づいて来ている事に、愛梨は気づいた。
「妻が、世話になったな。」
静かな怒りを孕んだ蒼い瞳に睨まれ、愛梨は悲鳴を上げその場から逃げ出した。
―ねぇ、愛梨様が・・
―お気の毒にねぇ・・
―まぁ、龍神様の逆鱗に触れてしまったのだもの、当然の報いよね。
「ジェフリー、お嬢様に何をしたの?」
「挨拶をしに行っただけだ。それよりもカイト、何をしているんだ?」
「繕い物です。」
「そんな事、しなくて良い。」
ジェフリーはそう言うと、あかぎれだらけの海斗の手を握った。
「お~いジェフリー、居るかぁ!?」
「キット、どうした?」
「いやぁ、妙な噂を人里で聞いてなぁ。何でもお前さん、あの家の一人娘を脅したんだって?」
「挨拶をしただけだ。」
「まぁ、その娘は精神を病んだみたいだ。」
キットはそう言うと、ジェフリーに団子を手渡した。
「そういや、鵺が最近お前さんの事を探っているみたいだぜ?」
「へぇ・・」
ジェフリーは眉を微かに吊り上げた。
「キットさん、こんにちは。」
「カイト、元気そうだな。」
キットは、数日前にあった時とは違い、海斗の表情が明るい事に気づいた。
「どうやら、お前さん達は上手くやってそうだな。」
「ここへは無駄話をしに来たのか、キット?」
「いや、実はお前さん達に会わせたい奴が居てな。」
「俺達に会わせたい奴?」
「カイト!」
「ナイジェル!」
キットに連れて来られたナイジェルを見て、海斗は思わず彼と抱き合った。
ジェフリーが嫉妬で険しい表情を浮かべているとも知らずに。
「カイト、こいつは誰だ?」
「前に居た家でお世話をしていたナイジェルだよ。ナイジェル、こちらは・・」
「はじめまして、カイトの夫の、ジェフリーだ。」
「夫だと?」
ナイジェルは、そう言いながら灰青色の瞳を眇めた。
「俺は、頭にカビが生えた爺共とは違って、生贄制度を廃止にしているんでね。それに、俺はカイトを心の底から愛している。」
「ほぅ・・」
ナイジェルは、ジェフリーの言葉に苛立ち、まるで獣のような唸り声を上げた。
(何?)
ビリビリとした空気と共に、海斗はナイジェルの周囲で蒼い焔が燃えている事に気づいた。
「ナイジェル、落ち着け!」
「うるさい!」
慌ててナイジェルの怒りを鎮めようとしたキットだったが、彼に殴られ池に落ちてしまった。
「狗神か・・初めて見たな。」
「ナイジェル、やめて!」
「カイト・・」
我に返ったナイジェルは、池に落ちたキットを救出した。
「酷い目に遭ったぜ。」
「済まない、キット。」
「いや、力が暴走するのは良くある事だ。」
キットはそう言うと、ジェフリーから渡された手拭いで濡れた髪を拭いた。
「それで?お前とカイトとはどんな関係なんだ?」
「だから、ただの幼馴染だって!」
「そうか。」
「そんなに嫉妬するなよ、ジェフリー。」
キットは団子を頬張りながらそう言うと笑った。
「俺はあの家の蔵でずっと暮らしていた。今は、キットと暮らしている。」
「いやぁ~、長い間独り身だったから、こいつには助けられたぜ!流石、俺の妻・・グェッ!」
「俺は貴様の妻ではない!」
「つれないなぁ・・」
ナイジェルはキットを無視して、海斗の方を向いた。
「カイト、今まで心配をかけて済まなかった。今日ここへ俺が着たのは、これをお前に渡しにきたんだ。」
ナイジェルは、海斗の実母の形見であるロザリオを手渡した。
「ありがとう、ナイジェル。あの人達に、とっくに捨てられたのかと思ってた・・」
「俺が、蔵にお前の両親の形見を隠していたんだ。お前と逃げようとした時に蔵から全て持ち出そうとしたが、結局これしか持ち出せなかった。」
「これだけ持ち出してくれただけでも、嬉しいよ。」
ナイジェルからロザリオを受け取った海斗は、それを大切そうに握り締めた。
「カイト、誤解して済まなかった。」
「いいえ。あ、俺お茶淹れて来ますね。」
「カイト・・」
「まぁまぁジェフリー、やらせてやれ。」
ジェフリーは海斗の後を追おうとしたが、キットに止められた。
「カイトは、今まであの家で辛い目に遭って来た。だから、まだこの生活に慣れていないんだ。」
「この生活・・?」
「カイトは両親を亡くしてから、あの家で使用人として扱われて来た。だが今はとても恵まれた生活を送っている。あいつは、環境の変化に慣れていないから、黙って見守っていてくれ。」
「そうか。キット、鵺の件はどうなっている?」
「音沙汰無しだ。嵐の前の静けさ、ってやつなのか、どうしても胸騒ぎがしてならないんだ。」
「胸騒ぎ、か・・」
ジェフリーは、団子を食べながらそう呟くと、海斗の様子を見に厨へと行った。
「あれ、ここかな・・」
海斗が厨の戸棚を開けて茶碗を探していると、背後からジェフリーが抱きついて来た。
「あの、どうしたのですか?」
「お前が、欲しくなった。」
海斗はジェフリーに着物の上から膣を撫でられ、甘く喘いだ。
「んっ、こんな所で・・」
「嫌か?」
ジェフリーの問いに、海斗は静かに首を横に振った。
「二人共、遅いなぁ・・」
「様子を見に行こう。」
「やめておけ、お前が行っても気まずくなるだけだ。それよりも、俺と・・」
「帰る。」
「おぉ~い、待ってくれ!」
ナイジェルに殴られてもなお、キットはナイジェルの事を愛していた。
「カイト、無理をさせて済まなかったな。」
「ジェフリー・・」
「俺は不安なんだ、いつかお前が居なくなってしまうんじゃないかって・・」
「ジェフリー、どうしたの?」
「少し、昔の事を思い出してな。」
「良かったら、話してくれないかな?夫婦になったから、あなたの事をもっと知りたい。」
「わかった。」
ジェフリーは深呼吸した後、自分の両親の事を初めて話した。
「俺の母は、人間だった。だが、父は外に女を作った。嫉妬に怒り狂った母は、父を呪い殺した。だがその所為で寝たきりになってしまった。母は俺が寝ている間、吐いた物を喉に詰まらせて窒息死した。母が死んだ後、俺は時々人里へ下りるようになった。そうしないと、飢え死にしちまうからな。」
「ジェフリー・・」
「俺の周りに居る者は、俺の前から急に消えてしまう。」
「大丈夫、俺はずっと傍に居るよ。」
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ダイソーで衝動買いしたノート。

2024年10月09日 | 日記


ダイソーで、衝動買いした可愛いノートです。
中は3㎜方眼になっていて、書きやすそうだったので買いましたが、ホッチキスで綴じている中綴じだったのでそれだけが残念でした。
糸綴じだったら長期間使えるのですが・・まあ、大切に使います。
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碧き竜の子守唄 第一話

2024年10月08日 | FLESH&BLOOD 和風ファンタジーパラレル二次創作小説「碧き竜の子守唄」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

一部性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。

「んっ、やぁ・・」
炎のような美しい髪を振り乱しながら、海斗は夫からの愛撫に耐えていた。
「もっと良い声で啼け、俺の花嫁。」
海斗に覆い被さっているのは、数時間前に彼女と祝言を挙げたジェフリー=ロックフォードだった。
人と妖が共に生きる世界で、海斗は鬼族の娘として産まれた。
「海斗様、あなた様に縁談が来ましたよ。」
「縁談?」
「ええ、お相手はジェフリー=ロックフォード様です。」
女中からその名を聞いた海斗は、幼い日に彼と交わした約束を思い出した。
海斗がジェフリーと初めて会ったのは、年に一回、龍神の里で開かれる桜の宴だった。
「海斗、余り遠くに行っては駄目よ。」
「わかっているよ!」
真紅の振袖姿の海斗は、里の子供達と遊ぼうとしたが、彼らは海斗に石を投げた。
「鬼だ!」
「頭から喰われるぞ!」
「お前達、そこで何をしている?」
海斗が泣いていると、そこへ一人の少年がやって来た。
輝くような金髪をなびかせ、濃紺の着物と白い袴姿の少年は、泣いている海斗を蒼い瞳で見つめると、少年は海斗の手を掴んで走り出した。
「もう、泣くな。俺が、お前を守ってやる。」
「本当?」
「あぁ、約束だ。」

それから、長い年月が経ち、海斗はあの少年の事など忘れかけていた。

そんな中、疫病が人の世界に広まった。

高熱を出し、死に間際の顔が恐ろしいという事から、その疫病は、『鬼面病』と呼ばれるようになった。
人々は、疫病に効くという薬を売っては荒稼ぎをしたり、疫病に罹った者とその家族を迫害したりした。
ある意味、人は妖よりも恐ろしいのかもしれない。
海斗の元に、ジェフリーとの縁談が来たのは、そんな頃だった。
「まぁ、お似合いですわ。」
白無垢姿の海斗を見た東郷家の女中達は、そう言って感嘆の声を上げた。
「海斗、これを持って行きなさい。」
友恵がそう言って海斗に手渡したのは、美しい花嫁のれんだった。
鬼の一族には、嫁入りの際美しいのれんを作り、それを婚家の仏間に飾る風習がある。
「ありがとう、母さん。」
こうして、海斗はジェフリーの元へと嫁いでいったのだった。
龍と鬼の婚礼―それは政略結婚だったが、久し振りの慶事に妖の世界は喜びに沸いた。
祝言を終え、海斗は湯浴みをした後、ジェフリーの寝所へと向かった。
「若様がいらっしゃいました。」
海斗は、寝所に入って来たジェフリーが無言で自分を見つめている事に気づいて思わず俯いてしまった。
「あの・・」
「顔を上げろ。」
海斗がゆっくりと顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべたジェフリーの姿があった。
「やっと、約束を果たせたな。」
「あなたは、あの時の・・」
ジェフリーはおもむろに海斗の顎を掴むと、その唇を塞いだ。
「ん・・」
ただ口吸いをしただけなのに、下腹の奥が熱く疼くのを海斗は感じた。
「なんだ、感じているのか?」
「いいえ、そんな・・」
「これは、どうだ?」
ジェフリーはそう言った後、海斗の下腹をまさぐり始めた。
「ああっ!」
軽く触れられただけなのに、海斗は激しい快楽の波に浚われた。
「良い声で啼くな、もっと聞かせろ。」
ジェフリーに愛撫され、海斗は達した。
(こんなの、俺じゃない・・)
「そろそろ頃合いか。」
ジェフリーはそう呟くと、海斗の中に己の分身を埋めた。
海斗は弓なりになって達した。
「こらこら、まだ夜は長いぞ。」
海斗の奥を穿ちながら、ジェフリーは器用に海斗の感じやすい場所に刺激を与えた。
ジェフリーに揺さぶられ、海斗は甘い声を上げた。
「愛しているぞ、カイト・・」
海斗は、ジェフリーに耳元でそう囁かれた後、意識を手放した。
「海斗様、おはようございます。」
「おはようございます。」
海斗が目を覚ますと、寝所にジェフリーの姿はなく、身体は既に清められていた。
「お務めは、果たされたようですわね。」
新婚夫婦の寝所に入って来たロックフォード家の女中達は、真新しい敷布が赤く染まっている事を確めると、そう言って海斗を見た。
「あの、ジェフリーは・・」
「若様は、つい先程外出なさいました。お帰りは夕方になります。」
「あの、俺が出来る事は、ありますか?」
「若奥様の務めは、一刻も早く若様の子をお産みになる事、それだけです。」
「はい・・」

海斗は、女中達のよそよそしい態度を見て、自分がこの家に歓迎されていないのではと思うようになった。

「はぁ・・」
針を只管動かしながら、海斗は何度目かの溜息を吐いた。
ジェフリーと結婚して、もう一月になろうとしているが、彼は毎日朝早く外出し、深夜まで戻って来ない。
(避けられているのかな・・)
所詮、彼とは政略結婚で結ばれたのだから、ジェフリーが自分を避けても仕方が無いと思っている。
「若奥様、失礼致します。」
襖が開き、一人の女中が部屋に入って来た。
彼女は、海斗が持っているジェフリーの羽織に目を留めた。
「それは?」
「繕い物を・・」
「まぁ。若奥様、若旦那様の事を誤解されているようですわね。若旦那様は、若奥様を避けてなどいませんよ。」
「え?」
「では、わたくしはこれで。」
同じ頃、ジェフリーは行きつけの居酒屋で焼酎を飲んでいた。
「おいおい、新妻を放っておいて、こんな所で独り酒か?」
そう言いながらジェフリーの肩を叩いたのは妖狐のキットだった。
「キット・・」
「最近、お前の新妻をつけ狙っている奴が居るぞ。」
「どんな奴だ?」
「黒髪に緑の瞳をした美丈夫らしい。早く家に帰って、新妻を抱いてやれ。」
「あぁ。」
 ジェフリーが屋敷に戻り、海斗の部屋の前を通ると、中からくぐもった声が聞こえた。
ジェフリーが部屋の中を覗くと、自分の羽織の匂いを嗅ぎながら、海斗が自慰をしていた。
「どうした、そんなに俺が恋しかったのか?」
「あ・・」
海斗は、ジェフリーが部屋に入って来た事に気づくと、恥ずかしそうに目を伏せた。
「申し訳ございません・・」
「謝るな。この羽織、袖の所が破れていたから捨てようと思っていたんだが、綺麗に繕われている。それに、この刺繍が見事だ。」
「不死鳥が、お好きだと聞いたので・・」
「そうか。カイト、いつもお前に寂しい思いをさせてしまって済まない。毎日俺の帰りが遅いのは、疫病の事があるからなんだ。」
「疫病?」
「あぁ。あの疫病は一時期猛威を振るっていたが、今はもう治まりかけている。だが、その所為で人と妖の世界でおかしな事が起きている。」
「おかしな事?」
「最近、妖の世界に人が迷い込んで、厄介事を起こすようになってな。注連縄で一応結界を張っているんだが、それをわざわざ破ってくるんだ。」
「へぇ・・」
「カイト、もし人間がここに入って来たら、迷わず逃げるんだ、いいな?」
「わかった。」
ジェフリーとそんな話をしてから数日後、龍神の結界を人間が破ったという事件が起きた。
「カイト様、こちらへ・・」
女中達と共に、海斗は離れへと避難した。
「良いですかカイト様、人間達が去るまで決してここから出てはなりませんよ。」
「うん・・」
暫くすると、人間達が龍神達の結界から出て行く気配がした。
「一体、何があったの?」
「人間達は、ここを運気が高まる場所だと思っているようです。」
「何処から、そんな噂が?」
「さぁ、わかりませんわね。」
「カイト、無事か!?」
「ジェフリー!」
海斗は夫の顔を見て思わず安堵の笑みを浮かべた。
「良かった。」
海斗とジェフリーは、その日の夜は何度も愛を交わした。
「人間達は、これからも妖の世界に入って来るのでしょうか?」
「それはわからない。だが、結界を強めないといけないな。」
ジェフリーはそう言うと、海斗を褥の上に押し倒した。
「もう、これ以上は・・」
「朝まで、寝かせないぞ。」
翌朝、海斗の部屋に女中が入ろうとすると、中から男女の睦み合う声が聞こえた。
「二人はどうした?」
「お取込中でした。」
「そうか。」
ジェフリーの父・エドワードは、そう言うと扇を閉じた。
「この調子だと、孫を抱く日は遠くないかもしれませんね。」
「そうだな。」
「楽しそうに、何のお話をされているのです?」
そう言いながら部屋に入って来たのは、エドワードの妻・エセルだった。
「ジェフリーは、カイトさんと上手くやっているようだ。」
「そう。カイトさんには、男の子を産んで貰わなくてはね。わざわざ陰の一族から嫁を貰ったのですから、それ位の事はしてくれないと・・」
二人の会話を、海斗は廊下で聞いてしまった。
彼女はその場を後にすると、龍泉へと向かった。
そこは、龍神がその神力を高める為に入る場所だった。
海斗は、そっとその中に肩まで浸かった。
(あの人は、俺の事を認めていないんだ。確かに、俺はこんな身体だし・・)
彼女は、男女両方の性を持って生まれて来た。
そんな自分が、子を授かれるのだろうか。
そんな事を海斗が悶々と考えていると、突然彼女は何者かに背後から抱きつかれた。
「やっと捕まえた。」
「あなたは、誰?」
黒髪に美しい緑の瞳をした男は、海斗の唇を塞いだ。
「もう、あなたを離しはしない。」
男はそう言った後、海斗の鳩尾を殴って気絶させた。
「カイトが居ない?どういう事だ!?」
「はい。龍泉へ向かわれた御姿を見たのですが、カイト様は・・」
女中はそう言った後、気まずそうに顔を伏せた。
「どうした?何か知っている事があれば話せ。」
「カイト様は、黒髪の方に攫われたのではないかと・・」
(もしかして、キットが言っていた奴か?)
ジェフリーは、広間に部下達を全員集めた。
「カイトを何としても捜し出せ!」
(カイト、無事でいてくれ!)
ジェフリー達が海斗を捜している頃、海斗は見知らぬ部屋の中に居た。
(ここは、何処?)
「あの~、誰か居ませんか?」
海斗はそう叫んで辺りを見渡したが、誰も居なかった。
出口を探そうとしたが、そこは鍵がかかっていた。
(俺は、龍泉の所に居た筈・・でも、あの人がやって来て・・)
海斗の脳裏に、自分を見つめる緑の瞳を持った男の顔が浮かんだ。
「気が付いたか、カイト?」
部屋の扉が開き、海斗を攫った男が部屋に入って来た。
「手荒な真似をして済まなかった。どうしても、あなたをここへ連れて行きたかったから。」
「どうして、俺の名前を知っているの?」
「わたしは、ビセンテ=デ=サンティリャーナ。陰陽師をしている。」
「陰陽師・・」
男の言葉を聞いた海斗は、恐怖で震えた。
―海斗、陰陽師には気をつけなさい。あいつらに捕まったら殺されるわよ。
陰陽師は、妖の天敵。
「俺を、どうするつもりなの?」
「わたしは、君を妻として迎えたいんだ。」
「俺には、ジェフリーが居るんだ!お願い、ここから出して!」
海斗がそう言って男―ビセンテを見ると、彼は悲しそうな顔をした。
「そうか。」
ビセンテは、海斗を部屋に閉じ込めた。
「ビセンテ様!」
「レオ、どうした?」
「ビセンテ様に会わせろという男が先程やって来ました。」
「ほぉ、それはどんな男だ?」
「金髪碧眼で、不死鳥の羽織を着た男です。」
「そうか。」
ビセンテは羽織の裾を翻すと、屋敷の客間へと向かった。
「ここへ何をしに来た、龍神?」
「カイトを、何処へやった!」
ジェフリーはそう叫んでビセンテを睨みつけると、彼はジェフリーに向かってこう言った。
「一体、何の話だ?」
「とぼけるな、お前がカイトを連れ去った姿を見た者が居るんだ!」
「知らんと言ったら、知らん。レオ、客人にお帰り頂くように。」
(ジェフリー、俺はここに居るよ。)
海斗は叫ぼうとしたが、何故か声が出なかった。
「カイト、何処に居るんだ!」
「どうぞ、お帰り下さい!」
ジェフリーが屋敷の周辺を見渡すと、奥の方から微かに海斗の気配がした。
「カイト、何処に居るんだ!」
(ジェフリー、ジェフリー!)
ジェフリーは、海斗の部屋へと入ろうとしたが、強い結界が張られていては入れなかった。
「カイト、必ず助けてやる、だから、待ってろ。」
(待っているよ、ジェフリー。)
海斗が涙を流していると、部屋に金髪碧眼の少年・レオが入って来た。
「ビセンテ様がお呼びだ、来い!」
海斗がレオに連れられ、屋敷の大広間に入ると、そこにはビセンテの姿があった。
「お願い、俺をジェフリーの元へ帰らせて!」
「それは出来ない。」
「どうして?」
「あなたは、わたしの妻になるのだから。」
「嫌だ、あなたの妻にはならない!」
「そうか。ならば、わたしにも考えがある。」
ビセンテはそう言うと、海斗を横抱きにして大広間から出て行った。
「離せ、俺を何処へ連れて行くつもりだよ!?」
「わたしの部屋だ。」
ビセンテは自室に入ると、褥の上に海斗を寝かせた。
「やだ!」
「どうして、わたしの妻になってくれないんだ!」
ビセンテは、海斗を無理矢理抱いた。
「ジェフリー、あの陰陽師、どうしてカイトに執着しているのか、理由が判ったぜ。」
キットはそう言うと、意気消沈した様子でのジェフリーに、一冊の本を手渡した。
「あの陰陽師は、カイトに自分の子を産ませる事で、一族の力を強固なものにしたいらしい。」
「そんな理由で、俺のカイトを奪われて堪るか!
「おいおい、落ち着け。これからどうやってカイトを奪還するつもりだ?」
「あいつの結界を弱める方法を、考えている。時間はかかるかもしれないが、カイトは必ず取り戻す。」
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色々と本を買い過ぎました。

2024年10月07日 | 日記
9月に入ってから、色々と本を買い過ぎてしまいました。

アガサ・クリスティーのミステリーは、何度読んでも面白いので蔵書にしました。

上の二冊は、ブックオフオンラインで注文した本、下の二冊は、書店で新刊購入した本です。
これらの本以外に、色々と書い過ぎてしまったのですが、「読書の秋」をこれから楽しみたいと思います。
コメント

もう10月か。

2024年10月01日 | 日記
今日から10月ですが、相変わらず少し暑くて、長袖がなかなか着られませんね。
まぁ、7・8月の、うだるような暑さと熱風が吹いていないだけマシですね。
コメント

え、9月終わり!?

2024年09月30日 | 日記
何だか実感がわかない・・あと一時間弱で9月が終わるなんて。

2024年も残り約三ヶ月か・・ついこの間まで正月だと思っていたのにあっという間ですね(笑)

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焔の果て 第1話

2024年09月30日 | FLESH&BLOOD 転生オメガバース昼ドラ風パラレル二次創作小説「焔の果て」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

オメガバースに嫌悪感を抱かれている方は閲覧しないでください。

性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。


「カイト、逃げなさい!」
「そんな・・」
「早く、逃げなさい!」
紅蓮の炎に包まれる村に背を向け、海斗は走り出した。
家族の事が気になったが、今は生きてここから脱出する事だけを考えなければ―海斗がそう思いながら炎の中を駆けていると、彼女の背後から女達の悲鳴と怒号が聞こえて来た。
『娘は見つけ次第すぐに捕えろ!王への献上品にするのだ!』
『抵抗する者は殺せ!』
海斗が叢の中に隠れて息を潜めていると、風が唸る音と共に、海斗の爪先から数センチの所に一本の矢が地面に突き刺さった。
「ひぃっ!」
「騒ぐな。」
そう言いながら海斗の口を塞いだのは、金髪碧眼の美男子だった。
自分を見つめる男の蒼い瞳の美しさに、海斗は暫し見惚れた。
「お前、名は?」
「海斗・・」
「この叢を抜けたら、街道へ出る。奴らに見つからない内に早く行け。」
「ありがとう・・」
「また会おう、カイト。」
男は別れ際に、海斗に美しいラピスラズリの首飾りを渡した。
「生活費代わりだ。」
海斗の姿が闇の中へと消えてゆくのを、男は静かに見送った。
「ジェフリー様、こちらにいらしたのですか!」
「おいおいユアン、そんなに堅苦しい話し方をするなと言っただろう?」
「すいやせん、おかしら。」
ユアンがそう言って頭を掻いていると、遥か彼方から雷鳴のような蹄の音が聞こえて来た。
「畜生、あいつら・・」
「ここには留まっては危険だ、退くぞ!」
男達が燃え盛る村から立ち去った後、奴隷商人達が虐殺から辛うじて生き残った娘達を次々と荷馬車へと乗せていった。
その中に、逃げ遅れた海斗も居た。
彼女は手足を縛られ、他の娘達と共に奴隷市場へと連れて来られた。
『おい、この娘、両性のオメガだぞ!』
『へへ、運が良いな。競りに出す前に味見してやろう!』
「嫌だ、離せ!」
海斗は自分を犯そうとする商人達から逃げようとしたが、多勢に無勢だった。
『大人しくしろ!』
商人達から威圧フェロモンを飛ばされ、海斗は身動きが取れなくなった。
三ヶ月に一度、“発情期”を迎えるオメガは、人口の大半を占める聡明なベータや、特権階級に属するアルファと違って、劣等種とされ、奴隷として売り飛ばされていた。
商人に拉致された娘達も、大半がオメガだった。
『やめろ、大切な商品に傷をつけるな。』
『何だ、てめぇ!』
海斗と商人達の間に割って入ったのは、金髪碧眼の長身の男だった。
『これ以上騒ぎを起こすな。』
男に睨まれ、商人達はその場から去っていった。
『助けてくれて、ありがとう。』
『勘違いするな、お前の商品価値が下がると俺の稼ぎが無くなるからな。』
そう言った男の、海斗に向ける眼差しは優しかった。
『ここで会ったのは何かの縁だ。俺はヤン、お前の名は?』
『カイト。』
『カイト、これを持って行け。』
そう言って金髪の男―ヤンが海斗に手渡したのは、短剣だった。
『これで、万一の時があったら己の身を守れ。』
『わかった。』
海斗はヤンと別れ、他の奴隷達と共に部屋へと向かった。
「あんた、カイトだろ?」
「あなたは・・ミュシャさん?」
部屋に入った海斗は、そこで故郷で自分によくしてくれたミュシャと再会した。
彼女は、怪我や病気で苦しむ村人達に薬草やハーブを調合した薬で治療したりする医師だった。
「あんたとこんな所で会えるなんて、喜んでいいのかどうかわからないわね。ねぇカイト、あんたあいつらには、“例の力”の事は知られていないわよね?」
「うん・・」
海斗は、ある能力を持っていた。
それは、未来を予見する力だ。
「絶対にあいつらには知られてはいけないわよ。」
「うん、わかっているよ・・」
海斗は、そっとあの男から渡されたラピスラズリの首飾りを握り締めた。
「それは?」
「俺を助けてくれた人がくれたんだ。名前は聞かなかったけれど、とても綺麗な人だったよ。」
「そう・・」
何日か海斗達は同じ部屋で過ごしたが、一人、また一人と娘達は何処かへ売られていった。
そして―
「カイト、元気でね。」
「ミュシャさんも、お元気で。」
海斗は、奴隷商人にある場所へと連れて行かれた。
そこは、神殿だった。
『例の娘を見つけました。』
『そう、ご苦労。』
一人の神官は、そう言って淡褐色の瞳で海斗を見た。
「あの、あなたは・・」
「お前が、予言の力を持つオメガ?」
「いいえ・・」
「そう。」
海斗の言葉を聞いた神官は、突然興味を無くしたかのように、右手を振った。
『この者を連れて行きなさい。』
『はい。』
あの神官の部屋から出た海斗は、自分の隣に居る神官にこう尋ねた。
『あの方は、どなたなのですか?』
『あの方は、ラウル=デ=トレド様です。あの方は神官長様と同じ位に属していらっしゃるお方です。』
『つまり、神殿で一番偉い方ですか?』
『まぁ、そういう事になりますね。』
神殿で暮らし始めてから、海斗は先輩神官達から雑用を押し付けられ、多忙な日々を送っていた。
「あ~、今日も疲れた。」
海斗はそう呟きながら、神殿の近くにある泉で水浴びをしていた。
奴隷商人の所に居た時、入浴は月に一度で、しかも浴槽の中には藻が生えている汚い水だったので、美しい澄んだ泉で週三回水浴びできる環境はまるで天国のようだった。
そろそろ海斗が水浴びを終えようと思った時、一人の男が泉の近くにやって来た。
『そなたは・・』
男は美しい翠の瞳で海斗を見つめた後、海斗の腕を掴んだ。
『何をなさるのですか!?』
『見つけたぞ、わたしの女神!』
『いや、離して!』
「そこで何をしている!」
海斗と謎の男が激しく揉み合っていると、そこへあの時自分を助けてくれた男が現れた。
『彼女はわたしの女神だ。よって、彼女はわたしが貰い受ける。』
『寝言は、寝てから言え。』
男は蒼い瞳で海斗を攫おうとしている男を軽く突き飛ばした後、海斗を抱き上げた。
「あの男とは、知り合いなのか?」
「いいえ、初めて会った人です。」
「そうか。」
「あの、もう大丈夫なので、そろそろ下ろしてくださいませんか?」
「すまない。」
男はそう言って海斗を地面へと下ろそうとした時、彼女が首に提げているラピスラズリの首飾りに気づいた。
「まだ、持っていてくれたんだな。」
「はい・・」
男はそっと海斗を地面に下ろすと、宮殿の方へと消えていった。
「あなた、こんな所に居たのね、早く支度なさい!」
「え?」
「忘れたの、今日は宴があるのよ、準備を手伝いなさい!」
先輩神官達と共に、海斗は宮殿で宴の準備を進めていた。
「皆、ご苦労であった。」
「神官長様。」
神官長の隣に立っている屈強な兵士の顔を見た海斗は、その場で叫びそうになったのを必死で堪えた。
その兵士は、奴隷市場で自分を助けてくれたヤンだった。
(どうして、彼がここに?)
海斗がそんな事を思いながら宮殿の廊下を歩いていると、向こうから十数人程の従者を連れた高位貴族が歩いて来たので、彼女は慌ててその貴族に道を譲った。
「そなた、名を何という?」
「海斗と申します。」
「おもてを上げよ。」
海斗が俯いていた顔を上げると、ラピスラズリの瞳が自分を見つめていた。
「その炎のような美しい赤毛・・ジェフリーが話していた通りだ。」
「え・・」
「王、その娘をお気に召しましたか?」
「あぁ。」
「では、その娘を宴に出させましょう。カイト、わたしについて来なさい。」
「は、はい・・」
儀礼官・メフィスに連れられ、海斗は宴に出る為、身支度をした。
「え、化粧!?」
「そんな顔で王の御前に出るつもりなの!?」
宴を仕切る女官に化粧を施された海斗は、他の踊り子達と共に舞台に出る事になった。
(何で、俺が・・)
「今夜の宴は、美女揃いだなぁ。」
「お気に召されたようで、何よりですわ。」
そう言って王に微笑むのは、ラウルだった。
彼は男でありながら、王の愛妾だった。
ラウルは女好きの王の為に毎晩宴を開き、王の権力の威を借りて神殿内や宮殿内で権勢を振っていた。
「あの赤毛の娘、オメガなのか?」
「ええ。直接この目で確認する事は出来ませんでしたが、彼女には未来を予見する能力があるようです。」
ラウルの手を握った王は、ラウルの言葉を聞いてラピスラズリの瞳を煌めかせた。
「それは、本当なのか?」
「わたくしが、今まであなたに嘘を吐いた事がありますか?」
「あの娘を余の寝所へ。」
「わかりました。」
宴が終わり、海斗が一息ついていると、そこへラウルがやって来た。
「王の寝所へ行きなさい。」
「え?」
王の寝所へ行けとラウルから命じられ、海斗は赤面して俯いてしまった。
「その様子だと、お前はまだ生娘のようだねぇ?」
ラウルは少し揶揄うような口調でそう言った後、ある物を手渡した。
「これは?」
「媚薬だよ。これを飲むと痛みがなくなるよ。」
「そんな・・」
「王の寝所に侍る事は、名誉ある事なのだから、しっかり務めを果たしなさい、いいね?」
「はい・・」
海斗が重い足取りで王の寝所へ向かうと、そこには王の女官達の姿があった。
「媚薬は、もう飲んだ?」
「いいえ・・」
「では、この中に媚薬を入れなさい。」
「はい・・」
海斗がラウルから貰った媚薬を浴槽の中に入れると、それはたちまち水に溶け、薄紫色へと変わった。
「さぁ、入りなさい。」
海斗が浴槽の中に入ると、身体が急に熱を帯びてゆくのを感じた。
(これ・・)
「待っていたぞ。」
「王・・」
「では、わたくし達はこれで。」
女官達が部屋から去った後、王の天鵞絨のような舌が、海斗の乳首を舐めると、海斗は激しい快感に襲われた。
「あぁっ!」
「すぐに薬が効いてきたか。」
王は海斗の陰部に手を伸ばすと、そこは熱く濡れていた。
「力を抜け。」
王は海斗を四つん這いにさせると、己の肉棒で彼女を最奥まで貫いた。
「あぁぁ~!」
「最高だ・・」

激しい水音と、肉同士がぶつかり合う音が、王の寝所に響いた。
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泥中に咲く~永遠の誠~

2024年09月30日 | 風光る 本編終了後妄想捏造二次創作小説「泥中に咲く~永遠の誠~」
「風光る」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。


1905(明治38)年、二百三高地。

不気味なほどに静まり返った雪原の中で、兵士達は息を潜めて敵の様子を探っていた。
皆揃いの白い襷を軍服の上に掛けており、銃剣を握り締めている手は震えていた。
「突撃~!」
喇叭の音が鳴り響き、塹壕の中から兵士達が一斉に飛び出して敵陣へと次々と突っ込んでいった。
怒号と悲鳴、砲声と銃声が鳴り響く戦場を、一人の青年は物憂げな表情を浮かべながら眺めていた。
彼の名は、富永誠―元新選組隊士であった母・神谷清三郎こと富永セイと、新選組副長・土方歳三との間に生まれた一粒種である。
幼い頃から医術で人を病と怪我を救ってきた母の背中を見ながら育った誠は、自ずと医学の道へと進んでいった。
 元服を迎える年となった誠は、珍しくセイから自室へ呼び出された。
「母上、お話しとは何ですか?」
「いいですか誠、良くお聞きなさい。昔、あなたは自分の父親が誰なのかを聞いた事がありましたね?」
「はい・・それがどうかしたのですか?」
誠が生まれた時、既に父は亡く、母は父の事について何も教えてくれなかった。
幾度も聞いても、“あなたが大きくなったら教えてあげますよ”の一点張りで、誠はそれ以上母に父親の事を尋ねるのを止めた。
「いいですか、落ち着いて良くお聞きなさい。あなたの父親は、新選組副長・土方歳三です。」
「土方歳三・・新選組・・」

幼い頃、母と街を歩いていた時、母の事を別の名で呼んでいた男性が、自分を見て驚いていた事を誠は思い出した。

“沖田さんにそっくりじゃないか。”

その“オキタ”さんという人が、自分の父親なのかと誠は思い込んでいたが、真実は違った。
「じゃぁ、あの人が言っていた“オキタ”さんという人は・・」
「わたしが生涯、ただ一人愛した男(ひと)ですよ。」
母―セイはそう言うと、一枚の古びた写真を誠に見せた。
そこには、自分と瓜二つの顔をした武士と、若き頃の母の姿が写っていた。
「この方が、沖田先生・・沖田総司様ですよ。」
「この人が、オキタさん・・」
誠はそっと、オキタさんの顔を撫でた。
「誠、あなたの名前は新選組の“誠”から取ったのですよ。沖田先生や土方さんのような武士になりますようにと願って、わたしがつけたのです。」
「母上・・」
「誠、これからどんな事が起きても、決して負けてはなりません。己に正直に生きなさい、そして正しい道を歩きなさい。」
「はい、母上。」

ほどなくして、誠は仙台の医学校へ進学する為、長年暮らしていた東京の実家を離れる事となった。

「では母上、行って参ります。」
「気を付けて行ってらっしゃい。誠、これを。」

別れ際、セイは誠にある物を渡した。


それは、“誠”と刺繍された古びた肩章だった。

「これは?」
「わたしが、昔新選組で戦っていた時につけていたものです。お守り代わりに持っていなさい。」
「はい・・」
「ご武運を、お祈りしていますよ。」

セイは、華がほころぶかのような笑顔を浮かべながら誠を見送った。

仙台の医学校での多忙な日々は、瞬く間に過ぎて行った。

「なぁ誠、それは何だ?」
「あぁ、これか?父上の形見だ。それがどうかしたのか?」

あと一日で卒業を迎えようとした日の夜、誠は寮で同室だった友人・高岡にセイから渡された肩章の事を尋ねられ、そう答えると彼は少し首を傾げた後こう言った。

「そういえば、お前が持っている物と同じ物を持っていた奴が居たな。確か、父親が元新選組隊士だったとか・・」
「へぇ~」

誠はそう言うと、大して気にも留めずにそのまま眠った。

無事医学校を卒業した誠は東京へと戻り、母の診療所を手伝うようになった。

「若先生は腕がいいねぇ。富永先生も良い跡取りに恵まれたわねぇ。」
「あら、そうですか?」
「それに、良い男じゃないの。あれだったら、すぐに縁談が来ると思うわぁ。」
「まぁ・・」
「前田さん、止してくださいよ。わたしはまだ、結婚なんて考えていませんから。今は、医術の道を究めたいんです。」
「あらぁ、そうなの、残念ねぇ。」

誠はふと母の姿を見ると、彼女は何故か涙を流していた。

「母上?」
「目にゴミが入ったのよ。気にしないで。」
「そうですか・・」

暫く穏やかな日々を誠達は送っていたが、その平穏は戦の影に脅かされる事になった。

「なぁ、これからロシアと戦争になるんだとよ。」
「本当かよ!?」
「これからどうなるんだか・・」

誠は次々と医学校の同級生達が徴兵されていく姿を幾度も見送り、彼らの無事を祈った。
だが、彼らは皆物言わぬ白木の箱となって戻って来た。

(わたしも、いつかあんな風になるのだろうか・・)

「誠、大丈夫よ。あなたの事は皆さんが守ってくださいますからね。」
「母上・・」
「わたしは、あなたの帰りを待っていますよ。」

セイはそう言うと、そっと誠の手を優しく握った。
彼の元に徴兵令状が届いたのは、桜が散りだした頃だった。

「では母上、行って参ります。」
「武運を、お祈りしておりますよ。」

セイと別れた誠は、東京を離れ、召集された兵士達と共に中国大陸の土を踏んだ。

「突撃~!」
「突撃~!」

喇叭の音ともに、白い揃いの襷を掛けた兵士達が銃剣を手に次々と敵陣に向かって突っ込んでいった。
耳を聾する程の轟音と怒号、悲鳴の嵐の中を、兵士達は只管進んでいったが、その大半は冷たい土の上に骸と化して倒れた。

「白襷隊は全滅だってよ・・」
「俺達もどうなるんだか・・」
「お前ら、死ぬつもりでここに来たんだろう?だったら、死ぬ覚悟を持ちやがれ!」

兵舎の中で誠達がそんな事を話していると、一人の兵士がそう言って誠達を睨んだ。

「誰だって死にたくはない。ただそれだけさ。」
「ふん、勝手にほざいてろ。」

そう言って誠に背を向けた兵士―高田の肩には、自分と同じ「誠」と刺繍された古びた肩章がつけられていた。
誠達は、戦場に立つことになった。
冷気が混じった霧の中で、彼らはじっと塹壕の中で息を潜めていた。

(母上・・)

誠は目を閉じて、自分の帰りを待っている母の事を想った。

「まさかこの期に及んで、逃げ出そうと思ってんじゃねぇんだろうな?」
「そんな事ないよ。」
「そうか・・」
「突撃~!」

進撃の合図を告げる喇叭の音が鳴り響き、塹壕の中から誠達は戦場へと飛び出した。
次々と仲間が倒れていく中、誠と高田は敵を薙ぎ払い、漸く敵陣の中へと突っ込んだ。

「死ねぇ!」
「おい、危ない!」

遠くから誰かの声が聞こえて来たかと思った直後、誠は爆風に吹き飛ばされた。

意識が徐々に闇の中へと引き摺り込まれていく中、誠を誰かが呼ぶ声が聞こえた。

(誰・・わたしを呼ぶのは?)

―まだあなたは、ここへ来ちゃ駄目ですよ。

誠がゆっくりと目を開けると、そこには自分と瓜二つの顔をした青年が立っていた。

(あなたが、オキタさん?)

―土方さんが話していた通りだ、わたしとそっくりですね。

青年はそう言うと、誠に優しく微笑んだ。

―さぁ、行きなさい。あなたにはまだ、生きて貰わないと神谷さんに叱られちゃいますからね。

青年に導かれるようにして、誠はそのまま光の中へと進んでいった。

「気が付いたね。」
「あの、ここは?」
「日本に向かう船の中だよ。あの戦場で生き残ったのは、君と高田君だけだよ。」
「そうですか・・」

 戦場から故郷へ帰って来た誠は、母・セイが亡くなるまで彼女の診療所の手伝いをした。

「誠、強く生きなさい・・あなたは、武士の子だから。」
「はい、母上。」

臨終の際、セイは誰かに向かって微笑んだ後、静かに息を引き取った。

誰かが母を迎えに来たのだろうか。
それは、オキタさんだったのか、自分の父親だったのか・・知っているのは、彼岸に居る彼女だけが知っている―誠は、そんな事を思いながら母の遺灰を彼女の遺言に従って海に撒いた。
母の遺灰は風に乗って、キラキラとした海面の中へと消えていった。

―神谷さん、これからはずっと一緒ですよ。
―はい、沖田先生。
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