「FLESH&BLOOD」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
―ごめんね、すぐに迎えに行くからね。
そう言って、“あの人”は涙を浮かべながら何処かへと去っていった。
(待って、行かないで!)
「いつまで寝ているの、さっさと起きなさい!」
東郷海斗は、欠伸を噛み殺しながら、ゆっくりとベッドから起き上がった。
カーテン越しに窓の外を見ると、空はまだ暗かった。
髪を編み込み、地味な黒のワンピースを着て、その上にレースのエプロンをつけた。
「皆さん、おはようございます。今日も頑張りましょう!」
「はい!」
朝礼の後、海斗達は客室の掃除を始めた。
海斗がこのホテルで働き始めたのは、空襲で家族と家を失い、生きていく術を見つける為だった。
戦前は伯爵家の令嬢として何不自由ない暮らしを送っていたが、それらは全て灰の中へと消えていった。
焼け野原と化した東京がかつての華やかさを取り戻したのは、あの悪夢のような戦争が終わってから数年経った頃だった。
女学校を卒業したが、戦争の只中で就職どころではなかった海斗は、密かに英語の勉強に励んでいた。
女学校に入学する前から英国で暮らしていた海斗は、日本へ帰国してからも英語の勉強は続けていた。
しかし戦争が始まり、それが難しくなった。
勉強が続けようかどうか迷っていた海斗の背中を押してくれたのは、父・洋介だった。
「一度身に着けた知識や教養は、誰にも奪えない。」
終戦してすぐ、海斗は職探しを始めたが、給料が高い仕事はそんなになかった。
暫くバーで女給として働いたが、そこは給料が良いだけで、職場の環境も人間関係も最悪だった。
(早く次の仕事、見つけないと・・)
仕事帰りに海斗がそんな事を思いながら歩いていると、急に煉瓦造りの建物が現れた。
「あの、これは・・」
「あぁ、来週オープンするホテルだよ。ほら、アメリカさんの接待向けに、どこかの金持ちのお屋敷が接収されたって噂には聞いたけれど、本当だったんだねぇ。」
「へぇ・・」
数日後、新聞にそのホテルの求人広告を見た海斗は、徹夜で書き上げた履歴書を握り締めて面接へと向かった。
そこには、容姿端麗な女性達が待合室の長椅子に座っていた。
「東郷さん、英国で暮らしていたそうですね?」
「はい・・」
「英語は話せますか?」
「はい。」
面接は数分で終わったが、海斗は微かな手応えを感じながらアパートの部屋へと帰っていった。
六畳半の小さな部屋が、今海斗が住んでいる部屋だった。
快適とは言えない住まいだが、雨風を凌げるだけでもいいと思わなければ。
近くの銭湯に行って汗と垢を流し、帰宅した海斗は布団に包まって夢も見ずに眠った。
「海斗ちゃん、あんたに電話や、東京ホテルから。」
「ありがとうございます、大家さん。」
大家の房子に礼を言った海斗は、彼女から電話の受話器を受け取った。
「もしもしお電話変わりました、東郷と申します。」
『東郷さん、東京ホテル人事部の内田と申します。急で申し訳ないのですが、明日七時に来て頂けませんか?』
「はい、わかりました・・はい、是非伺います。ありがとうございます。」
こうして海斗は、東京ホテルで客室係として働く事になった。
就職して海斗は、ホテルの独身寮へと引っ越す事になった。
「元気でな、海斗ちゃん。」
「小母さん、今までお世話になりました。」
ホテルの独身寮は旧華族の邸宅とあってか、洒落ていたし、部屋にはベッドもあった。
海斗は、一人部屋だった。
「あなたは本当に運が良いのね。偶々部屋が空いていたのですよ。」
「そうでしたか。」
「明日から、しっかり働いて貰いますよ。」
「はい。」
客室係としての仕事は重労働だったが、バーよりも給料は良いし、従業員同士の仲も良い。
「東郷さん、一緒にお昼行かない?」
「はい。」
「このホテル、元は公爵様のお屋敷だったみたいよ。」
「へぇ、そうなんですか?」
「まぁ、GHQの所為で華族様は何もかもなくなったからね。こんなご時世だから、このホテルで働いて、子供達を食べさせられるわ。」
海斗の同僚・文子はそう言うと、美味そうにコーヒーを飲んだ。
「東郷さん、ご家族は?」
「空襲で亡くなりました。」
「そうなの。うちも、旦那がシベリアからまだ戻って来ないのよ。」
「心配ですね。」
「ええ。手紙の返事が中々来ないのよ。でもまぁ、便りがないのは元気の証拠よね。」
「そうですね。」
文子を話した後、海斗がホテルへと戻ると、ロビーで彼女は一人の男とぶつかった。
『すいません・・』
『怪我は無いか?』
『はい・・』
俯いていた顔を海斗が上げると、美しい蒼い瞳をした美男子が立っていた。
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作者様・出版社様とは一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
―ごめんね、すぐに迎えに行くからね。
そう言って、“あの人”は涙を浮かべながら何処かへと去っていった。
(待って、行かないで!)
「いつまで寝ているの、さっさと起きなさい!」
東郷海斗は、欠伸を噛み殺しながら、ゆっくりとベッドから起き上がった。
カーテン越しに窓の外を見ると、空はまだ暗かった。
髪を編み込み、地味な黒のワンピースを着て、その上にレースのエプロンをつけた。
「皆さん、おはようございます。今日も頑張りましょう!」
「はい!」
朝礼の後、海斗達は客室の掃除を始めた。
海斗がこのホテルで働き始めたのは、空襲で家族と家を失い、生きていく術を見つける為だった。
戦前は伯爵家の令嬢として何不自由ない暮らしを送っていたが、それらは全て灰の中へと消えていった。
焼け野原と化した東京がかつての華やかさを取り戻したのは、あの悪夢のような戦争が終わってから数年経った頃だった。
女学校を卒業したが、戦争の只中で就職どころではなかった海斗は、密かに英語の勉強に励んでいた。
女学校に入学する前から英国で暮らしていた海斗は、日本へ帰国してからも英語の勉強は続けていた。
しかし戦争が始まり、それが難しくなった。
勉強が続けようかどうか迷っていた海斗の背中を押してくれたのは、父・洋介だった。
「一度身に着けた知識や教養は、誰にも奪えない。」
終戦してすぐ、海斗は職探しを始めたが、給料が高い仕事はそんなになかった。
暫くバーで女給として働いたが、そこは給料が良いだけで、職場の環境も人間関係も最悪だった。
(早く次の仕事、見つけないと・・)
仕事帰りに海斗がそんな事を思いながら歩いていると、急に煉瓦造りの建物が現れた。
「あの、これは・・」
「あぁ、来週オープンするホテルだよ。ほら、アメリカさんの接待向けに、どこかの金持ちのお屋敷が接収されたって噂には聞いたけれど、本当だったんだねぇ。」
「へぇ・・」
数日後、新聞にそのホテルの求人広告を見た海斗は、徹夜で書き上げた履歴書を握り締めて面接へと向かった。
そこには、容姿端麗な女性達が待合室の長椅子に座っていた。
「東郷さん、英国で暮らしていたそうですね?」
「はい・・」
「英語は話せますか?」
「はい。」
面接は数分で終わったが、海斗は微かな手応えを感じながらアパートの部屋へと帰っていった。
六畳半の小さな部屋が、今海斗が住んでいる部屋だった。
快適とは言えない住まいだが、雨風を凌げるだけでもいいと思わなければ。
近くの銭湯に行って汗と垢を流し、帰宅した海斗は布団に包まって夢も見ずに眠った。
「海斗ちゃん、あんたに電話や、東京ホテルから。」
「ありがとうございます、大家さん。」
大家の房子に礼を言った海斗は、彼女から電話の受話器を受け取った。
「もしもしお電話変わりました、東郷と申します。」
『東郷さん、東京ホテル人事部の内田と申します。急で申し訳ないのですが、明日七時に来て頂けませんか?』
「はい、わかりました・・はい、是非伺います。ありがとうございます。」
こうして海斗は、東京ホテルで客室係として働く事になった。
就職して海斗は、ホテルの独身寮へと引っ越す事になった。
「元気でな、海斗ちゃん。」
「小母さん、今までお世話になりました。」
ホテルの独身寮は旧華族の邸宅とあってか、洒落ていたし、部屋にはベッドもあった。
海斗は、一人部屋だった。
「あなたは本当に運が良いのね。偶々部屋が空いていたのですよ。」
「そうでしたか。」
「明日から、しっかり働いて貰いますよ。」
「はい。」
客室係としての仕事は重労働だったが、バーよりも給料は良いし、従業員同士の仲も良い。
「東郷さん、一緒にお昼行かない?」
「はい。」
「このホテル、元は公爵様のお屋敷だったみたいよ。」
「へぇ、そうなんですか?」
「まぁ、GHQの所為で華族様は何もかもなくなったからね。こんなご時世だから、このホテルで働いて、子供達を食べさせられるわ。」
海斗の同僚・文子はそう言うと、美味そうにコーヒーを飲んだ。
「東郷さん、ご家族は?」
「空襲で亡くなりました。」
「そうなの。うちも、旦那がシベリアからまだ戻って来ないのよ。」
「心配ですね。」
「ええ。手紙の返事が中々来ないのよ。でもまぁ、便りがないのは元気の証拠よね。」
「そうですね。」
文子を話した後、海斗がホテルへと戻ると、ロビーで彼女は一人の男とぶつかった。
『すいません・・』
『怪我は無いか?』
『はい・・』
俯いていた顔を海斗が上げると、美しい蒼い瞳をした美男子が立っていた。
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