「PEACEMAKER鐵」二次創作です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
―土方さん・・
あぁ、またあの夢だ
―土方さん。
夢の中でいつも見るのは、苦しそうに血を吐いている恋人の姿。
―わたしを、置いていかないでぇ!
苦しそうに血を吐いて喘ぎながらも、彼は力を振り絞り、叫んでいた。
もっと、“あなた”の隣に、立ちたいと。
『息をしろ。息をしているだけでいいんだ。俺が迎えに来るまで、待っていろ。』
あの日、多摩で別れを告げた時の、彼を抱き締めた感触を、未だに忘れられない。
このまま彼と一緒に居たい―そんな思いは目覚まし時計のアラームによって断ち切られた。
「はぁ・・」
溜息を吐きながら、土方歳三は徐にベッドから起き上がった。
コーヒーメーカーの電源を入れると、室内にコーヒーの良い香りが漂って来た。
コーヒーを歳三がマグカップに注いでいると、ダイニングテーブルに置いていたスマートフォンが鳴った。
「はい。」
『朝早くから、“仕事”を頼まれてくれるか、“梅”?』
「あぁ、わかった。」
歳三はスマートフォンの通話ボタンを切ると、少し冷めたコーヒーを飲んだ。
「いらっしゃいませ。」
行きつけのファストフード店に入ると、カウンターには一人の店員が立っていた。
その顔は、彼に―前世の恋人の顔に似ていた。
似ていた、というより、瓜二つの顔をしていた。
「総司・・」
「ご注文をお伺い致します。」
「チーズバーガーとコーヒー。」
「かしこまりました。」
(あいつは、憶えていなかったのか?)
普通に考えれば、150年前の記憶を持っている者など居ないだろう。
(もう、忘れよう。)
チーズバーガーを平らげた歳三は、コーヒー片手に店を後にした。
「お疲れ様です。」
「お疲れ~」
アルバイトを終えた沖田総司は、更衣室で制服から私服に着替え、従業員用出入り口から外に出ると、そこには赤毛の少年と黒髪の少年の姿があった。
「沖田さん、お疲れ様です!」
「鉄君、山崎さんも、わざわざわたしのバイトが終わるのを待ってくれたんですか?」
赤毛の少年―市村鉄之助は、総司の言葉を聞いて破顔した。
「だって、“久しぶり”に会えたんですから、沖田さんと色々とお話ししたいんですもん!」
「そうですよね。」
「すいません、沖田さん。こいつが色々と迷惑かけてもうて・・」
黒髪の少年・山崎烝は、はしゃぐ親友を見てそう言うと溜息を吐いた。
三人の共通点―それは、前世の記憶を持っている事だった。
「これからどうします?お腹空いたから、ファミレスにでも行きます?」
「いいですね、それ!」
「せやったら、うちの店はどうですか?」
こうして三人は、烝の姉・歩が営む小料理屋で夕飯を取る事になった。
「いらっしゃいませ。あ、烝丁度ええ所に帰って来たわ、お店手伝うて!」
「すいません沖田さん・・」
「いえ、いいんですよ。」
烝が厨房へと消えて行った後、鉄之助はテーブルから身を乗り出し、総司にこう尋ねた。
「沖田さん、土方さんには会えましたか?」
「会いましたよ、土方さんに。でも、向こうはわたしの事を、忘れてしまったみたいです。」
「す、すいません、俺・・」
「いいんですよ。わたしは、一目土方さんに会えただけでも嬉しいんです。」
「そうっすよ、生きていればまた会えますって!」
「お待たせいたしました、フライドポテトと生ビールです。」
「烝、サンキュ。」
「山崎さん、ご馳走になりますね。」
「沖田さん、今度はいつ会いましょうか?」
「う~ん、そうですね・・」
総司がそう言ってスマートフォンを開くと、一件の着信が入っている事に気づいた。
(また、だ・・)
ここ数週間、総司は誰かに見張られているような気がした。
「どうしました、沖田さん?顔色が悪いですよ?」
「えぇ、まぁ・・」
「後で、ここに連絡下さい。」
烝は、さり気なく総司にLINEのIDを書いたメモを総司に手渡した。
「あ~、烝ずりぃ!」
「やかましいわ、アホ。」
「客に向かって何だ、その態度は!」
「すいません・・」
店の奥から男の怒声が聞こえ、総司達の方を見ると、一人の店員が男性客に怒鳴られていた。
「お客様、この子が何かしはりましたか?」
「この店員、俺が酌をしろって言ったら断って・・」
「お代は結構ですのでお帰り下さい。」
「は?」
「ここはそういう店ではありませんので・・」
男性客がしつこく烝にくってかかったが、烝は大袈裟な溜息を吐いた後、こう言った。
「あんなぁ、店にも客を選ぶ権利があんねん。」
茹でタコのように顔を赤くしている男性客は、意味不明な言葉を喚き散らしながら、店から出て行った。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした!今夜限りですが、皆さんのお代はタダで!」
「すごいなぁ、山崎さん・・」
「さっきのは、酷かったっすからね。あぁいう客、嫌ですよねぇ。」
鉄之助は、そう言うとフライドポテトをひとつつまんだ。
「すいません、忙しくて久し振りに会えるというのに、お相手出来なくて。」
「いいえ、会えただけでも良かったし、嬉しかったです。」
烝と店の前で別れた総司と鉄之助が駅に向かって歩いていると、向こうから一組のカップルが歩いて来た。
男の方は、歳三だった。
「鉄君、今度はいつ会いましょうか?」
「そうですね、明後日とかどうです?大学の講義が二限しかありませんから。」
「そうですか~、でもその日、俺昼からバイトなんですよね。」
「じゃぁ、都合が良い日を後から教えてくださいね。」
「わかりました。それじゃ沖田さん、お気を付けて!」
「また会いましょうね、鉄君!」
総司は駅の改札口の前で鉄之助と別れた後、電車に乗って帰宅した。
「ただいま。」
ガランとした室内に向かって総司はそう言った後、リビングの電気をつけると、ケージの中に居たハムスターが、つぶらな瞳で総司を見ていた。
「ただいま、サイゾー。ひとりにしちゃってごめんね~!」
総司はそう言ってハムスターの餌と水を交換すると、ハムスターは回し車を勢いよく回し始めた。
サイゾーと名付けたこのハムスターと総司が出会ったのは、総司が買い物中に寄った先のホームセンターだった。
そこのペットコーナーの片隅で、半額の札をつけられたサイゾーは、他のハムスターたちにいじめられて、片耳が欠けていた。
そのハムスターを見た瞬間、総司は何故か運命をそのハムスターに感じた。
サイゾーと名付けたハムスターは、総司によく懐いた。
時折、サイゾーはじっと総司を見て嬉しそうに鳴く時があるが、その姿が“何か”と重なって見えた。
(もしかしたら、この子とは“昔”会った気がするなぁ・・)
「サイゾー、わたしはこれから寝ますから、沢山運動して下さいね!」
総司はそう言った後、ベッドに入って眠った。
『もう仕事は終わったか?』
「はい。」
『そうか、ご苦労様。報酬はいつもの口座に振り込んでおこう。』
「恩に着る。」
歳三は、“依頼人”との通話を終え、ベッドに横たわったまま動かない女性を見た後、ホテルの部屋から出た。
(いつまで、こんな生活を続けるんだろうな。)
歳三は煙草を吸いながら、雨の街を歩いた。
誰も居ない、殺風景な部屋に戻った歳三は、玄関先で眠った。
(土方さん・・)
何処かで、自分を呼ぶ声がして、歳三は目を開けた。
そこには、誰も居なかった。
(一体誰なんだ、俺を呼ぶのは?)
「いらっしゃいませ~!」
「ホットコーヒー、ひとつ。」
そう言った後、歳三は意識を失った。
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作者様・出版社様とは一切関係ありません。
―土方さん・・
あぁ、またあの夢だ
―土方さん。
夢の中でいつも見るのは、苦しそうに血を吐いている恋人の姿。
―わたしを、置いていかないでぇ!
苦しそうに血を吐いて喘ぎながらも、彼は力を振り絞り、叫んでいた。
もっと、“あなた”の隣に、立ちたいと。
『息をしろ。息をしているだけでいいんだ。俺が迎えに来るまで、待っていろ。』
あの日、多摩で別れを告げた時の、彼を抱き締めた感触を、未だに忘れられない。
このまま彼と一緒に居たい―そんな思いは目覚まし時計のアラームによって断ち切られた。
「はぁ・・」
溜息を吐きながら、土方歳三は徐にベッドから起き上がった。
コーヒーメーカーの電源を入れると、室内にコーヒーの良い香りが漂って来た。
コーヒーを歳三がマグカップに注いでいると、ダイニングテーブルに置いていたスマートフォンが鳴った。
「はい。」
『朝早くから、“仕事”を頼まれてくれるか、“梅”?』
「あぁ、わかった。」
歳三はスマートフォンの通話ボタンを切ると、少し冷めたコーヒーを飲んだ。
「いらっしゃいませ。」
行きつけのファストフード店に入ると、カウンターには一人の店員が立っていた。
その顔は、彼に―前世の恋人の顔に似ていた。
似ていた、というより、瓜二つの顔をしていた。
「総司・・」
「ご注文をお伺い致します。」
「チーズバーガーとコーヒー。」
「かしこまりました。」
(あいつは、憶えていなかったのか?)
普通に考えれば、150年前の記憶を持っている者など居ないだろう。
(もう、忘れよう。)
チーズバーガーを平らげた歳三は、コーヒー片手に店を後にした。
「お疲れ様です。」
「お疲れ~」
アルバイトを終えた沖田総司は、更衣室で制服から私服に着替え、従業員用出入り口から外に出ると、そこには赤毛の少年と黒髪の少年の姿があった。
「沖田さん、お疲れ様です!」
「鉄君、山崎さんも、わざわざわたしのバイトが終わるのを待ってくれたんですか?」
赤毛の少年―市村鉄之助は、総司の言葉を聞いて破顔した。
「だって、“久しぶり”に会えたんですから、沖田さんと色々とお話ししたいんですもん!」
「そうですよね。」
「すいません、沖田さん。こいつが色々と迷惑かけてもうて・・」
黒髪の少年・山崎烝は、はしゃぐ親友を見てそう言うと溜息を吐いた。
三人の共通点―それは、前世の記憶を持っている事だった。
「これからどうします?お腹空いたから、ファミレスにでも行きます?」
「いいですね、それ!」
「せやったら、うちの店はどうですか?」
こうして三人は、烝の姉・歩が営む小料理屋で夕飯を取る事になった。
「いらっしゃいませ。あ、烝丁度ええ所に帰って来たわ、お店手伝うて!」
「すいません沖田さん・・」
「いえ、いいんですよ。」
烝が厨房へと消えて行った後、鉄之助はテーブルから身を乗り出し、総司にこう尋ねた。
「沖田さん、土方さんには会えましたか?」
「会いましたよ、土方さんに。でも、向こうはわたしの事を、忘れてしまったみたいです。」
「す、すいません、俺・・」
「いいんですよ。わたしは、一目土方さんに会えただけでも嬉しいんです。」
「そうっすよ、生きていればまた会えますって!」
「お待たせいたしました、フライドポテトと生ビールです。」
「烝、サンキュ。」
「山崎さん、ご馳走になりますね。」
「沖田さん、今度はいつ会いましょうか?」
「う~ん、そうですね・・」
総司がそう言ってスマートフォンを開くと、一件の着信が入っている事に気づいた。
(また、だ・・)
ここ数週間、総司は誰かに見張られているような気がした。
「どうしました、沖田さん?顔色が悪いですよ?」
「えぇ、まぁ・・」
「後で、ここに連絡下さい。」
烝は、さり気なく総司にLINEのIDを書いたメモを総司に手渡した。
「あ~、烝ずりぃ!」
「やかましいわ、アホ。」
「客に向かって何だ、その態度は!」
「すいません・・」
店の奥から男の怒声が聞こえ、総司達の方を見ると、一人の店員が男性客に怒鳴られていた。
「お客様、この子が何かしはりましたか?」
「この店員、俺が酌をしろって言ったら断って・・」
「お代は結構ですのでお帰り下さい。」
「は?」
「ここはそういう店ではありませんので・・」
男性客がしつこく烝にくってかかったが、烝は大袈裟な溜息を吐いた後、こう言った。
「あんなぁ、店にも客を選ぶ権利があんねん。」
茹でタコのように顔を赤くしている男性客は、意味不明な言葉を喚き散らしながら、店から出て行った。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした!今夜限りですが、皆さんのお代はタダで!」
「すごいなぁ、山崎さん・・」
「さっきのは、酷かったっすからね。あぁいう客、嫌ですよねぇ。」
鉄之助は、そう言うとフライドポテトをひとつつまんだ。
「すいません、忙しくて久し振りに会えるというのに、お相手出来なくて。」
「いいえ、会えただけでも良かったし、嬉しかったです。」
烝と店の前で別れた総司と鉄之助が駅に向かって歩いていると、向こうから一組のカップルが歩いて来た。
男の方は、歳三だった。
「鉄君、今度はいつ会いましょうか?」
「そうですね、明後日とかどうです?大学の講義が二限しかありませんから。」
「そうですか~、でもその日、俺昼からバイトなんですよね。」
「じゃぁ、都合が良い日を後から教えてくださいね。」
「わかりました。それじゃ沖田さん、お気を付けて!」
「また会いましょうね、鉄君!」
総司は駅の改札口の前で鉄之助と別れた後、電車に乗って帰宅した。
「ただいま。」
ガランとした室内に向かって総司はそう言った後、リビングの電気をつけると、ケージの中に居たハムスターが、つぶらな瞳で総司を見ていた。
「ただいま、サイゾー。ひとりにしちゃってごめんね~!」
総司はそう言ってハムスターの餌と水を交換すると、ハムスターは回し車を勢いよく回し始めた。
サイゾーと名付けたこのハムスターと総司が出会ったのは、総司が買い物中に寄った先のホームセンターだった。
そこのペットコーナーの片隅で、半額の札をつけられたサイゾーは、他のハムスターたちにいじめられて、片耳が欠けていた。
そのハムスターを見た瞬間、総司は何故か運命をそのハムスターに感じた。
サイゾーと名付けたハムスターは、総司によく懐いた。
時折、サイゾーはじっと総司を見て嬉しそうに鳴く時があるが、その姿が“何か”と重なって見えた。
(もしかしたら、この子とは“昔”会った気がするなぁ・・)
「サイゾー、わたしはこれから寝ますから、沢山運動して下さいね!」
総司はそう言った後、ベッドに入って眠った。
『もう仕事は終わったか?』
「はい。」
『そうか、ご苦労様。報酬はいつもの口座に振り込んでおこう。』
「恩に着る。」
歳三は、“依頼人”との通話を終え、ベッドに横たわったまま動かない女性を見た後、ホテルの部屋から出た。
(いつまで、こんな生活を続けるんだろうな。)
歳三は煙草を吸いながら、雨の街を歩いた。
誰も居ない、殺風景な部屋に戻った歳三は、玄関先で眠った。
(土方さん・・)
何処かで、自分を呼ぶ声がして、歳三は目を開けた。
そこには、誰も居なかった。
(一体誰なんだ、俺を呼ぶのは?)
「いらっしゃいませ~!」
「ホットコーヒー、ひとつ。」
そう言った後、歳三は意識を失った。
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