BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

愛の宝石☨1☨

2024年05月07日 | FLESH&BLOOD 人魚ハーレクインパラレル二次創作小説「愛の宝石」


表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。

「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有です、苦手な方はご注意ください。

その日は、嵐だった。

「クソ!」

こんな日に船を出すんじゃなかった―ジェフリー=ロックフォードはそう思いながらも今にも沈みそうになる舟を漕いでいた。
きっかけは、ジェフリーと彼の継父が口論した事だった。
ジェフリーの継父、ジェイクが、この海底にレアメタルが眠るという噂話を信じ、自分が所有する土地の権利書を開発業者に渡そうとした事をジェフリーが知り、“私利私欲で自然を破壊するなんておかしい”と罵られ、ジェフリーにこう言い放った事だった。
「出て行け、お前なんて俺の息子じゃない!」
「出て行くさ、もうこんな家には居られるか!」
嵐の中を小舟で漕いでいくなんて、我ながら無謀だと思った。
だが、その時ジェフリーは頭に血が上っていた。
急いで岸に戻ろうとしたが、後少しという所で、転覆してしまった。
このまま死んで堪るか―ジェフリーは、荒れ狂う波の中を必死に泳いだ。
しかし、彼は岸に辿り着く前に力尽きてしまった。
(畜生、このまま死ぬのか・・)
そう思いながらジェフリーが目を閉じると、誰かが自分を抱く感触がした。
「ん・・」
ジェフリーが目を開けると、そこは岸だった。
誰かが、自分を岸まで運んで来てくれたのだった。
ジェフリーは、岸まで自分を運んで来てくれた者に礼を言おうとしたが、誰も居なかった。
ただ、薄れゆく意識の端で、ジェフリーは海の中で光る“何か”を見つめた。
(はぁ、良かった・・見つからなかった。)
ジェフリーを助けた人魚―海斗は、そう思いながら海の底へと―自分の棲家へと戻っていった。
「海斗、何処へ行っていたの?」
「ちょっと、人助け・・」
「もしかして、また人間を助けたの?」
親友・和哉に追及され、海斗は思わず目を伏せた。
海斗達人魚は、人間に関わってはいけないという掟がある。
しかし海斗は、海に溺れた人間を助けたりして、人魚の長から度々注意されたが、その行動を改めようとしなかった。
「人助けして何が悪いんだよ!それに、人間に姿を見られていないし・・」
「油断しちゃだめだよ、海斗。」
「わかったよ・・」
(あ~、最悪!)
海斗は溜息を吐きながら、“お気に入りの場所”へと向かった。
そこは、王国から少し離れた洞窟の中だった。
中には、この近辺で沈没した船に積まれていた宝物があった。
金のカップ、エメラルドのネックレス、サファイアのブローチ―海斗は毎日それらの財宝を眺めては、人間の生活に想いを馳せていた。
(そういえば、助けた人の瞳も、こんな色をしていたな・・)
海斗はそう思いながら、美しいサファイアの指輪を見た。
(そろそろ戻らないと・・)
海斗は洞窟を出て王国へと戻ろうとした時、途中で不気味な洞窟を見つけた。
好奇心旺盛な海斗がその中を覗いてみると、中は漆黒の闇に包まれていた。
「おい、そこで何をしている?」
背後から急に声を掛けられ、海斗が振り向くと、そこには長身の逞しい人魚の姿があった。
「あの・・」
「ここには近づくな。魂を奪われるぞ。」
「はい・・」
長身の人魚―ヤンは、海斗が洞窟の中から出ていき、王国へと戻っていく姿を見送ると、洞窟の中へと入った。
ヤンが奥へと進むと、一匹の人魚が金色の瞳で彼を見つめた。
「遅かったね、ヤン。」
「さっき、この中に入ろうとしていた若い人魚を止めた。」
「赤毛の子かい?彼を、こちら側に引き込もうと思っていたのに・・」
金色の瞳の人魚―ラウルは、そう言うと笑った。
彼は、王国を追放された人魚だった。
その理由は、彼が黒魔術を使ったからだった。
ラウルは王国から追放され、この洞窟に住むようになった。
そして彼は、“商売”を始めた。
その“商売”は、ラウルの魔力を頼りに来た人魚の望みを叶える、というものだった。
「あの・・」
「おやおや、貴族のお嬢様がわたしに会いに来てくれるなんて、何かお困りのようだね?」
「憎い相手を、呪い殺して欲しいの。」
そう言った黒髪の人魚は、昏い瞳でラウルを見た。
「そう。ではここに、お前の憎い相手の名をお書き。」
「でもインクがありません。」
「インクなら、お前の中に流れる血で充分さ。」
「はい・・」
黒髪の人魚は、ラウルに言われるがままに、自分の血をインク代わりにして、“死の契約書”にサインした。
「これで、お前をいじめている相手は三日後に死ぬよ。」
「ありがとう!」
三日後、黒髪の人魚をいじめていたブロンドの人魚は、悲惨な事故に遭って死んだ。
「あなたのお蔭よ、ありがとう!」
「礼など要らないよ。もうその呪いの“代価”は頂いているからね。」
「え?」
黒髪の人魚は、突然血を吐いた。
「どうして・・」
「呪いの代価は、“命”。それがこの世の掟だよ。」
「またやったのか、懲りないな、あんた。」
「わたしを訪ねて来る者は、心に闇を持つ者さ。」
「お前のような、か?」
「さぁね。わたしは人を愛する事などとうの昔に忘れてしまったよ。」
ラウルはそう言うと、笑った。
「そいつは、人魚だったのか?」
「いや、人間さ。馬鹿な事をしたものだよ、人間に恋をするなんて。」
人間と人魚は、互いに相容れない存在だった。
人間は金の為に海を荒らす。
そして不老不死の妙薬である人魚の肉欲しさに、その命を奪うのだ。
だが、ラウルは愚かに敵である人間に恋をした。
漁師の網に引っかかった彼を救ってくれた人間は、ラウルに優しくしてくれた。
互いに惹かれ合い、口づけを交わしたが、それ以上の関係には進まなかった。
ただ、一緒に居られるだけで良かった。
しかし、二人の恋は、人間の死で終わりを告げた。
それ以来、ラウルは誰も愛さなくなった。
その代わりに、黒魔術に傾倒していったラウルは、国王が溺愛していた王子に呪いをかけ殺した。
その王子が、ラウルの恋人を殺した人魚だった。
復讐を果たしたラウルは、王国から追放された。
だが、彼の魔力は王国内で噂となり、時折洞窟を訪れる貴族達のお蔭で、ラウルの生活は潤っていた。
そんな中、ヤンが追い払ったあの人魚―海斗が、再び洞窟を訪れた。
「おや珍しい、君のような子がこんな所に来るなんて珍しいねぇ。」
「あんたに、頼みたい事があるんだ。」
「もしかして、人間になりたいから、力を貸してくれとか?いいけれど、その“代価”はちゃんと頂くよ。」
ラウルはそう言うと、海斗に短剣を渡した。
「さぁ、お前の血のインクでこの契約書にサインを。」
「わかった・・」
海斗は震える手で契約書にサインした。
「この薬を飲んだら、人間になれるよ。」
「ありがとう。」
(これで、ジェフリーに会える!)
「おい、あの坊やにあの薬を渡したのか?」
「だとしたら、何?わたしにはもうあの薬は必要ないから、あの坊やにあげただけさ。」
(馬鹿な子、人間に恋をしても、結ばれないというのに!)
海斗はラウルから渡された薬を飲むと、全身に焼けつくような痛みが走った。
彼は慌てて岸まで泳ぐと、そこで意識を失った。
ジェフリーは、日課のウォーキングを海岸沿いでしていると、岸辺に一人の少年が倒れている事に気づいた。

彼の髪は、鮮やかな赤毛だった。

「おい、しっかりしろ!」
「ん・・」

少年は低く呻くと、黒真珠の瞳でジェフリーを見た。

「ジェフリー、やっと会えた・・」

ジェフリーの蒼い瞳に見つめられた海斗は、再び気を失った。

「畜生、困ったな・・」
「ジェフリー、こんな所で何をしているんだ?」
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