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好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

浜菊の如く 第1話

2024年02月25日 | FLESH&BLOOD 昼ドラ和風ファンタジーパラレル二次創作小説「浜菊の如く」

素材は、てんぱる様からお借りしました。

「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

クチュクチュと、部屋に淫らな水音と、甘い少女の喘ぎ声が満ちていた。
炎のように赤い髪を乱しながら、彼女は器用に己の分身と膣を弄っていた。
「あぁっ!」
白い喉を仰け反らしながら、少女は何度目かの絶頂を迎えた。
「はぁ、はぁ・・」
甘い疼きが全身に広がり、少女はティッシュで濡れた陰部を拭った。
(こんなのじゃ、足りない・・)
海斗の脳裏に、美しいブロンドの髪をなびかせた想い人の姿が浮かんだ。
彼の太く、逞しいモノで己の中を激しく掻き回して欲しい―そう思うと、少女の手は自然と陰部の方へと伸びていった。
「おはよう、海斗。あなた最近顔色悪いわよ?」
「少し、寝不足で・・」
「勉強に熱心なのもいいけれど、余り無理しないでね?」
「うん、わかった・・」
家族と朝食を食べた後、少女―海斗は、身支度を済ませてから学校へと向かった。
(寒い・・)
雪が降っていないとはいえ、朝晩は骨が凍えるように寒い。
膝上のスカートが強風で捲れぬよう、海斗がそれを必死に押さえながら歩いていると、そこへ一台の車が停まった。
「カイト、おはよう。」
「ジェフリー・・」
車の窓から顔を出したのは、金髪碧眼の美男子で、海斗の想い人であるジェフリー=ロックフォードだった。
「乗っていくか?」
「はい・・」
ジェフリーと車内で二人きりになり、海斗の胸は高鳴った。
「どうした、顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
「いいえ・・」
「もしかして、俺の事を考えていたのか?」
「あっ・・」
ショーツから敏感な部分をジェフリーに愛撫され、海斗は思わず喘いだ。
「図星だな。」
ジェフリーは口端を上げ、そう言って笑った後、手の動きを激しくした。
「あぁっ!」
「ここじゃ、目立つな。」
ジェフリーは爆発しそうになる股間を見た後、車で人気のない場所へと移動した。
そこは、地元では心霊スポットとしても、“ある聖地”としても有名なトンネルだった。
「なぁ、本当に出るのか?」
「あぁ、トンネルの奥からカーセックス中に殺された女の霊が・・」
「なぁ、今何か聞こえなかったか?」
「え、あぁ・・うわぁぁ~!」
オカルトマニアYoutuberの学生二人は、トンネルの奥で、懐中電灯の仄かな光に照らされた女の白い足を見た途端、彼らは脱兎の如くその場から逃げ出した。
自分の両肩に己の両足を預け、快楽の虜となった海斗を、ジェフリーは荒い呼吸を繰り返しながら見下ろしていた。
「はぁ、あぁ・・」
「少し、無理をさせたな。」
「平気・・」
ヒクヒクと小刻みに痙攣している恋人の濡れた陰部にティッシュを宛がいながら、ジェフリーは海斗の左腕に赤黒い痣が出来ている事に気づいた。
「これは、誰にやられた?」
「ぶつかっただけだよ。」
「お前、嘘を吐くとすぐ目を逸らす癖があるな。正直に言え、誰にやられた?」
「隣のクラスの、佐倉。あいつ、俺に彼氏が居る事を知っているのに、しつこいんだ。」
「そうか。」
「もう、学校に戻らないと・・」
「そうだな。」
ジェフリーは海斗を学校まで送り届けた後、自宅アパートがある市街地へと向かった。
「ジェフリー、遅かったな。」
「ナイジェル、来てたのか?」
「あぁ。どうせ碌な物を食べていないだろうから、用事のついでに寄ってみた。」
「そうか。」
ナイジェル=グラハムは、この町で唯一のレストラン『グローリア号』のシェフ兼経理部長で、経営者であるジェフリーと同じ権限を持っている。
「全く、あんたは俺が少し目を離すとこんなに部屋を散らかして・・」
ジェフリーの部屋に入るなり、ナイジェルは小言を言いながら掃除機をかけ始めた。
「ジェフリー、俺を頼ってくれるのはいいが、毎日こんな風にあんたの部屋を掃除しに来るほど、俺も暇じゃないんだ。」
「お前にはいつも感謝している。」
「付き合っている女が居るなら、その女を・・」
「未成年の恋人を自分の部屋に連れ込む程、俺は女に飢えていないんでね。」
「ジェフリー・・」
ナイジェルは何かを言い掛けたが、溜息を吐いて床に落ちたゴミをゴミ袋に捨て始めた。
すると彼は、ある物を見て頬を赤く染めた。
それは、紙袋に入っていた使用済みのコンドームだった。
「あぁ、これは・・」
「ゴミは自分で捨てに行け。俺はこれから店に戻ってディナーの仕込みをする。」
「わかった。」
ジェフリーはナイジェルが帰った後、ゴミをゴミ袋に詰めてそれをマンションのごみ置き場に捨てて部屋に戻ると、ベッドに横になったまま泥のように眠った。
同じ頃、海斗は高校で数学の授業を受けていた。
「この前の小テストの答案、返すぞ。」
「東郷さん、また一位だって。」
「やるわね。」
「ねぇ、今度のお祭りの巫女に、東郷さんが選ばれるんじゃない?」
「そうだろうね。だってあの子の家、金持ちだもの。」
クラスメイトの話し声を聞きながら、海斗は黙々と帰り支度を済ませていた。
「ねぇ、今度の校外学習、東郷さんうちらの班に入れる?」
「嫌よ。だってあの子の母親、モンペだもん。」
(モンペ、ねぇ・・)
海斗は学校を出て自宅までの道を歩き出しながら、自分の母親が周囲からどう思われているかを知り、憂鬱になった。
海斗の母・友恵は、一人娘である海斗を病的なまでに溺愛していた。
 その理由は、海斗が男女両方の性を持っているからだ。
“普通”の身体ではないが故に、友恵は海斗に対して過保護になっていった。
友恵の過干渉に対して嫌気が差した海斗は、彼女に対して反発するかのように、髪を赤く染めた。
だがそんな娘の行動に、友恵は驚いて怒る事はしなかった。
「海斗は、大人しくてお淑やかに育たなくてもいいのよ。今の時代、自立心が強い方がいいのよ~」
まさに、暖簾に腕押し、糠に釘、といったものだった。
(早くこんな糞な町から出て、自由になりたい。)
町民全員が知り合いで、プライバシーも何もない田舎から脱出する為に、海斗は東京の大学進学を目指して毎日深夜まで猛勉強していた。
だが、根詰めてしまい、海斗は数日寝込んだ。
(ジェフリー、会いたいなぁ・・)
海斗は布団の中で寝返りを打ちながら、ジェフリーの事を想った。
熱が少し下がり、空腹を覚えた海斗が自室から出て階下へと降りると、女中達の声が厨房から聞こえて来た。
「それにしても、今年の祭りはどうなるのかしらねぇ?」
「さぁねぇ。昨年巫女に選ばれた子は、あんな風になっちゃったし・・」
毎年、この町では山にある神社の祠に封じられた鬼を鎮める為の祭りが行われていた。
それは、巫女役に選ばれた少女がその祠の中で一夜を過ごすという“儀式”だった。
その“儀式”の最中、一人の少女が消えた。
祠の前には、彼女が生前愛用していた簪が落ちていた。
「まだ見つかっていないんでしょ、物騒よね。」
「そうよねぇ。」
(祭り、かぁ・・)
海斗が早くこの町を出たいと思っているのは、この町に古く伝わる、ある掟の所為だった。
その掟とは、“十八になる前に嫁入りしなかった娘は、鬼に喰われる”から、祭りの日までに伴侶を決める、というものだった。
結婚なんて馬鹿げている。
平均寿命が短かった時代ならともかく、医療が発達した現代で、こんな古臭い掟が生きているなんてナンセンス過ぎる。
女中達の声が厨房から遠ざかる気配がして、海斗は厨房に入ると、冷蔵庫から清涼飲料水のペットボトルを一本取り出し、自室へと戻った。
「海斗は?」
「まだ寝込んでおられます。」
「そう。祭りの日まで、熱が下がればいいけど。」
「友恵、あの子の事は放っておけ。あの子は・・」
「珍しいわね、あなたがあの子に関心を持つなんて。」
「気になっただけだ。」
「そう。」
「ねぇ母さん、今日学校で・・」
「洋明、後にしなさい。」
「わかったよ。」

海斗の弟・洋明は、そう言うと鞄を掴んで居間から出て行った。

(母さんは、僕の事なんか見ていないんだ!)

「東郷さん、今度の県知事選に出馬されるんですって。」
「まぁ、凄いわねぇ。」
「やっぱり、今年の祭りの巫女は、海斗さんで決まりね。」
近所の主婦達の話し声をバス停の中で聞きながら、海斗は溜息を吐いた。
バイトが終わり、バイト先のショッピングモール近くのバス停で海斗はバスを待っていたが、定刻になってもバスは中々来なかった。
(ちょっと賑わっているって言っても、田舎だもんな。あ~あ、早くこの町から出たいなぁ。)
海斗がそんな事を思っていると、バイクのエンジン音が遠くから聞こえて来た。
「海斗、迎えに来たよ。」
「和哉・・」
バイクで海斗の前に現れたのは、親友の森崎和哉だった。
「どうしたの?何でここに・・」
「小母様から頼まれて来たんだよ。さぁ、行こう。」
「うん・・」
和哉から渡されたヘルメットを頭から被った海斗は、彼に家まで送って貰った。
「ありがとう、和哉。」
「じゃぁ、またね。」
自宅の前で和哉と別れた海斗が中に入ろうとした時、居間から両親の話し声が聞こえた。
「まぁ、東京に!?」
「あぁ。この町を良くする為には、やはり国会議員になった方が県知事になるより良いと思ってな。」
「それは良い事だわ。でも、子供達の学校はどうするの?」
「向こうの学校へ転校させる。」
海斗はそこまで両親の話を聞くと、自室がある二階へと向かった。
(東京かぁ・・)
この町から一日でも早く出て行きたいと思っている海斗にとって、洋介の東京行きは朗報以外の何物でもなかった。
ただ、ひとつ気がかりなのが、ジェフリーとの事だった。
このまま東京に行ってしまえば、ジェフリーと遠距離恋愛になる。
(一度、ジェフリーと話さないと・・)
海斗がそんな事を思っていると、スマートフォンが着信を告げた。
(誰だろ、こんな時間に?)
「はい・・」
『海斗、僕だよ。』
「和哉、どうしたの?」
『明日、学校が終わったら話せないかな?』
「いいよ。」
海斗は、和哉の様子が少しおかしい事に気づいた。
「あ~、疲れた。」
「他に言う事がないのか、あんたは?」
閉店後の『グローリア号』の事務室で売上金を金庫に入れたナイジェルがそう言ってソファに横になっているジェフリーを睨みつけると、ジェフリーは欠伸をして尻をボリボリと掻いた。
「それにしても、この町には娯楽が何もないな。」
「あぁ。車が無いと何処にも行けない。」
「店は繁盛しているが、客は殆んど県外の人間だしな。」
店の経営はいつも黒字だが、それがいつまで続くのかはわからない。
「どうしようかねぇ・・このままここで店を続けるか、それとも東京で勝負をするか・・お前はどう思う、ナイジェル?」
「あんたがそう俺に尋ねる時は、もう答えが決まっているんだろう?」
「あぁ。」
翌朝、海斗が家から出て学校へと向かっていると、そこへジェフリーがやって来た。
「ジェフリー、どうしたの?」
「お前に、話がある。実は、東京に行く事になった。」
「え、本当!?」
海斗は、ジェフリーから東京行きの話を聞いて、思わず顔を輝かせた。
「実は・・父親が、東京に引っ越すって話していたんだ。この町を出ようと思っていたから、バイト代を貯めていたんだけど、無駄になっちゃった。」
「いや、その金は自分の為に使え。東京には、いつ行くんだ?」
「わからない。だが、色々と忙しくなるから、暫く会えなくなる。」
「そう・・寂しくなる。」
「また、連絡する。」
「うん、待ってる。」
ジェフリーと車の中でキスを交わし、海斗は彼の車が見えなくなるまで手を振った。
「おはよう、海斗。」
「おはよう、和哉。」
「今日は模試の結果出るよね?」
「うん。まぁ、徹夜したから手応えないなぁ・・」
「大丈夫だよ。」
朝のHRの後、クラス全員に模試の結果が一人ずつ渡された。
(良かったぁ、第一志望のT大学、A判定だ。)
「海斗、T大受けるんだ?何処の学部目指しているの?」
「経済学部、和哉は?」
「S大の経済学部。」
海斗と和哉がそんな事を話している姿を、遠くから数人の女子生徒達が恨めしそうな目で見ていた。
(あれ、ノートがない。)
海斗は、机の中に入れてあった数学のノートがなくなっている事に気づいた。
ノートは、ゴミ箱の中から出て来た。
(幼稚な嫌がらせをするよなぁ・・)
ノートについた汚れを拭うと、海斗はリュックを持って教室から出た。
「ごめんね和哉、待った?」
「ううん、今来た所。」
放課後、和哉と音楽室に入った海斗は、ピアノの前に置かれている椅子に座ると、何かを考えこんでいる和哉の方を見た。
「話したい事って、何?」
「君のお父さんが、近々東京へ行く事は知っているけれど、僕は高校を卒業したら、英国の大学へ行こうと思うんだ。」
「そう。てっきりS大に行くのかと思った。」
「本当はアメリカの大学が行こうかと思ったけれど、英国なら子供の頃からこの町に住むまで、過ごしていた事があるから、どちらかに行くのなら英国の方かなって・・」
「頑張ってね。」
「うん。」
和哉と学校の前で別れた海斗が帰宅すると、玄関先には男物の靴が数足分、並んでいた。
「東郷さん、東京行きは本気か!?」
「あんたが居なくなったら、この町はどうなる!?」
海斗が居間に入ると、海斗の父・洋介と、この町の自治会の老人達が睨み合っていた。
「他力本願な考え方で、今まで生きていらっしゃったのですか?」
「何だと!?」
 老人の一人がそう叫んで洋介を睨みつけると、彼はわざとらしい溜息を吐いた。
「あなた達先程、“この町はあんたのお陰で活性化する”とか、“東京に行ってわしらを捨てる気なのか!?”とおっしゃってましたよね?大体、他人任せでこの町を救えるなんて、どんなにおめでたい考えをしていらっしゃるのやら。」
「やっぱり、あんたも余所者なんだな!」
「余所者で結構。祭りは勝手になさって下さい。」
 洋介はそう啖呵を切って老人達を追いだした後、海斗の方へと向き直った。
「海斗、先程T大の教授から電話があってな。お前さえ良ければ推薦枠で入学させたいとおっしゃっている。」
「本当!?」
「あぁ。受験までまだ時間があるから、頑張りなさい。」
「はい。」
その日の夕方、塾へと向かう海斗の姿を、誰かが物陰から見ていた。
(あ~あ、行っちゃった・・)
塾が終わり、海斗はバスの最終便を逃がした後、迎えに来てくれるよう友恵に頼んだ。
だが、いくら待っても友恵は迎えに来なかった。
(もしかして、忘れているのかなぁ・・)
海斗がそんな事を思っていると、和哉が彼女の前に現れた。
彼は海斗の顔を見るなり、安堵の表情を浮かべた。
「海斗、無事だったんだね!」
「どうしたの、和哉?そんなに慌てて・・」
「実は・・」
和哉は海斗を後ろに乗せ、バイクで国道を走りながら、ここに来るまでの事を話した。
それは、海斗を迎えに行く一時間前、和哉がバイト先のラーメン屋で仕事を終えてバイクを停めてある駐輪場へと向かうと、風に乗って何処かに居る男達の声が聞こえて来た。
―本当にいいのか?
―あぁ。
―東郷の娘・・
話の内容を聞く限り、彼らが海斗を狙っている事を知った和哉は、慌てて海斗の元へとやって来たのだった。
「そう・・そんな事が・・」
「海斗、君さえ良ければ暫く僕が塾の送迎をするよ。小母様にも、僕の方から話しておくから。」
「ありがとう、和哉。」
帰宅した海斗は、友恵に暫く塾の送迎を和哉にして貰うと話すと、彼女は快く承諾した。
「知らない子だったら嫌だけれど、和哉君なら安心ね。」
洋介が町の老人達に啖呵を切って数日が経ち、海斗は誰かに私物を捨てられたりした。
「余所者。」
擦れ違う度に、わざと誰かにぶつけられ、陰口を叩かれた。
(本当、幼稚過ぎる。)
海斗がそんな事を思いながら教室で帰り支度をしていると、そこへ数人の女子生徒達が入って来た。
「ちょっと、話があるんだけど。」
「あんたいつまでこの町に居るの?」
「早く出て行けよ、余所者!」
海斗は女子生徒達を見た後、溜息を吐いた。
「なによ、うちらの事馬鹿にしてんの!?」
「うん、そうだよ。さっきから俺の事余所者余所者って、こんな町に生まれただけで偉い訳?そんな事でしかマウント取れないなんて、滑稽を通り越して哀れだね。」
背後で何かを喚く女子生徒達を無視して、海斗は学校から出て帰宅すると、一階の浴室の方から何か音がした。
そっと海斗が脱衣所の扉を少し開けて中の様子を覗くと、そこには泥だらけの制服を洗っている洋明の姿があった。
「洋明、どうしたの、それ?」
「田んぼに落とされた。」
「手伝おうか?」
「いい、一人でやるから。」
町の住民達による東郷家の陰湿な嫌がらせは、日に日に激化していった。
そしてそれは、東郷家が東京へ引っ越す日まで続いた。
「忘れ物ないか?」
「うん。」
海斗が東京へと引っ越した後、町を大きな水害が襲った。
神社に祀られていた“鬼封じの岩”が割れ、住民達は、皆口を揃えて、“鬼の祟り”だと言って怯えていた。
季節が巡り、海斗は第一志望のT大学に合格し、楽しい大学生活を送っていた。
「東郷さん、紹介するよ。S町から来た、椎名翠さん。」
その日、海斗は合コンで一人の青年と出会った。
その青年―翠は、海斗を暫く見つめた後、徐に椅子から立ち上がると、彼女の前に片膝をついた。
(え、何?)
「見つけたぞ、わたしの花嫁!」
「何すんだ、この変態!」
海斗は翠の頬を平手打ちすると、そのままレストランを後にした。
暫く彼女が街を歩いていると、一軒のパブが見えて来た。

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エメラルドの恋人 第1話

2024年02月25日 | FLESH&BLOOD ハーレクインパラレル二次創作小説「エメラルドの恋人」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

―あの二人が結婚されるなんて、信じられないわ。
―カイト様、お可哀想に。
美しく澄んだ空の下で、これから一組の男女が結婚式を挙げようとしていた。

新郎の名は、イライジャ。
“女の敵”と社交界で噂が絶えない程の女たらしだった。
そしてそんな男の妻となる哀れな花嫁の名は、東郷海斗。
彼女は、金で売られた花嫁だった。
彼女の両親は、競馬で借金を重ね、多額の負債を抱えた末にイライジャの元へと娘を嫁がせる事にした。
海斗は、純白のウェディングドレスを着た己の姿を鏡で見ながら溜息を吐いた。
「とてもお似合いですわ、お嬢様。」
「ありがとう・・」
「どうぞ。」
物心ついた頃から自分に仕えてくれた乳母から海斗が渡されたのは、実母が自分に唯一遺してくれた形見の、真珠の首飾りだった。
「カイト、いつまでぐずぐずしているの、花婿様がお待ちよ、早くなさい!」
「はい・・」
教会へと入って来た海斗の顔は、花嫁のそれには相応しくない暗い顔をしていた。
「では、夫婦の誓いを・・」
「ごめんなさい、あなたとは結婚したくありません!」
海斗はそう叫ぶと、イライジャ達に背を向けた。
―何て事・・
―やっぱりね。
―こうなると思ったわ。
呆然とするイライジャ達を見た貴族達は、そんな事を扇子の陰で囁き合っていた。
「お嬢様・・」
海斗の乳母・ヘレナは、彼女の幸せを祈り、胸の前で十字を切った。
「ジェフリー、起きろ!」
「ナイジェル、まだ寝かせてくれ。」
「起・き・ろ!」
けたたましく真鍮の鍋を鳴らしながら入って来たのは、ジェフリー=ロックフォードの親友・ナイジェルだった。
彼はジェフリーを起こすと、彼の寝室から出て厨房へと向かった。
そこには様々な種類の香辛料が棚に置かれてあり、その横には美しく磨き上げられた真鍮の鍋が吊るされていた。
ジェフリーが起きるまで、ナイジェルは市場で今朝買ったばかりのトマトを使い、簡単なスープを作った。
「おはよう、ナイジェル。」
「ジェフリー、今何時だと思っている?」
「もう9時か。」
「ジョーゼフ伯夫人から注文されたネックレスはどうなっているんだ?もしかして、これから作るつもりじゃないだろうな!?」
「安心しろ、ネックレスはもう作ってある。」
「そうか。ネックレスは何処に?」
「下の工房だ。朝飯を食い終わったら、ジョーゼフ夫人の元へネックレスを届けに行くさ。」
ジェフリーは朝食を済ませると、手早く着替えてジョーゼフ伯夫人の元へと向かった。
「どうぞ、ご注文されたダイヤモンドのネックレスです。」
「まぁ、素晴らしいわ。あなたのデザインはいつも独創性があっていいわ。」
「ありがとうございます。」
「失礼致します、奥様。」

ジェフリーとジョーゼフ伯夫人がそんな話をしていると、居間に一人のメイドが入って来た。
彼女は、三ヶ月前に社交界のゴシップ欄を賑わせた、ローレンス伯爵の非嫡出子だった。
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愛しき蒼 1

2024年02月25日 | FLESH&BLOOD ハリポタパラレル二次創作小説「愛しき蒼」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

死ネタありです、苦手な方はご注意ください。

「海斗、早くしないと遅れちゃうよ!」
「待ってよ、和哉!」
その日―9月1日のロンドン、キング=クロス駅には、二人の少年の姿があった。
大きいトランクと鳥籠を引き摺りながら、彼らはある場所へと向かった。
そこは、9と4分の3番線のホーム―ホグワーツ特急の停車場だった。
「海斗、先に行くね!」
和哉はそう叫んだ後、煉瓦の壁の中へと吸い込まれていった。
彼に続いて海斗も煉瓦の中へと入ろうとしたが、助走をつけて走った所為で彼はトランクと鳥籠を載せたカートごとひっくり返ってしまった。
ギャーギャーと不満そうに鳴くフクロウを宥めながら、海斗がプラットホームの時計を見ると、それは午前11時を指していた。
「クソ、遅かったか。」
海斗がこれからどうしようかと途方に暮れている時、一人の少年が舌打ちしながら長い金髪を乱暴に掻き上げた。
(この人、もしかして・・)
やや着崩してはいるが、彼が着ているローブは自分と同じ物―即ちホグワーツ魔法魔術学校の制服だった。
彼が持っているカートにも、カチカチと不満そうに嘴を鳴らしているフクロウが鳥籠の中に居た。
「どうした、お前も乗り遅れたのか?」
そう言って自分を見つめた少年の瞳は、晴れた日の海の様に美しく澄み切った蒼い瞳だった。
「はい・・」
「じゃぁ、俺と一緒に行くか?ここで注目を集めるのは嫌だからな。」
確かに、彼の言う通りだった。
マグル達の好奇の視線をこれ以上浴びたくないと思った海斗は、少年についていく事にした。
「坊や、名前は?」
「東郷海斗です。」
「俺はジェフリー=ロックフォード。カイト、お前と会えて嬉しいよ。」
少年―ジェフリーは、そう言った後海斗の頬に軽くキスした。
キスとハグが挨拶代わりの国に暮らして長い海斗だったが、故国では馴染みのない習慣に、彼は思わず身を強張らせてしまった。
「ねぇ、どうやってホグワーツに行くんですか?」
「堅苦しい話し方はなしだ。」
「わかった。移動キーとか箒で行くの?」
「そんな古臭いやり方で俺がホグワーツに行く訳ないだろう。これを使うのさ。」
 そう言ってジェフリーが海斗に見せたのは、純白に輝くRX7だった。
「え・・」
「マグルの車で行く方が、箒よりいいだろ?」
「それはそうだけれど・・」
「グズグズしてないで、乗れ。」
「わかったよ・・」
「それじゃ、行くぜ!」
海斗はジェフリーが運転するRX7で、一路ホグワーツへと向かった。
「ねぇ、その車一体何処で手に入れたの?」
「これは、マグルの知り合いに貰ったんだ。俺なりに改良してみたから、乗り心地は最高だろ?」
「うん。」
空飛ぶRX7の真下には、紅色の蒸気機関車―ホグワーツ特急が走っていた。
「さてと、そろそろだな。」
ジェフリーはそう言うと高度を下げ、ホグワーツ特急と並走した。
海斗がちらりと横目で風景を見ると、驚愕の表情を浮かべている和哉と目が合った。
「海斗!」
和哉は窓から身を乗り出そうとしたが、それを見た上級生達に止められた。
やがてジェフリーが運転するRX7は、“禁じられた森”の手前で着地した。
「さてと、他の奴らに見つかる前に、大広間へ・・」
「ジェフリー=ロックフォード、新学期早々派手に登校するとは、感心しませんね。」
ジェフリーと海斗が恐る恐る振り向くと、そこにはこめかみに青筋を立てたミネルバ=マクゴナガル教授が立っていた。
大広間に入った二人を待っていたのは、憧憬と好奇の視線だった。
「間もなく組分けが始まりますから、トーゴ―はわたくしと共にいらっしゃい。」
「また会おう、カイト。」
全生徒からの視線を感じながら、海斗は組分けの時を待った。
「カイト=トーゴ―!」
「あの赤毛の子でしょう、ジェフリーの車に乗っていたの?」
「可愛い子ね。」
海斗が椅子に座り、組分け帽子を被ると、帽子は高らかな声でこう告げた。
「グリフィンドール!」
盛大な歓声と拍手共に海斗はグリフィンドール寮生達に迎えられた。
「グリフィンドールにようこそ、カイト。」
ジェフリーはそう言うと、海斗に微笑んだ。
「ジェフリー、この子か?わざわざお前さんの愛車に乗せた可愛い子ちゃんは?」
ジェフリーの背後からそう言って彼を抱き寄せたのは、鳶色の髪をした少年だった。
「初めまして、俺はクリストファー=マーロウだ、キットと呼んでくれ。」
「は、初めまして・・」
「まぁそうかたくなりなさんな。」
「カズヤ=モリサキ!」
「あの坊やは、君の知り合いかい?」
「はい。和哉とは幼馴染なんです。和哉も一緒の寮だったら・・」
「スリザリン!」
海斗が和哉を見ると、彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「おおぅ、マグル生まれでスリザリンとは・・」
「何かあるの?」
「スリザリンは、完璧な純血主義でね。マグル生まれの子を嫌っているのさ。」
蒼褪めた和哉を出迎えたのは、ホグワーツ特急で会った少年、ラウル=デ=トレドの抱擁だった。
「可哀想に、お友達と離れて辛いんだね?」
「そんな事はありませんよ。」
「強がるのはおよし。」
まるで泣く子を優しくあやす母親のような声で、ラウルはそう囁くと、和哉に微笑んだ。
「これからよろしく、カズヤ。」
和哉と海斗がホグワーツに入学して、4年もの歳月が過ぎた。
「おはよう、和哉。」
「おはよう、海斗。」
「何処か顔色が悪そうだけれど、大丈夫?」
「・・何でもないよ。」
「でも・・」
「もう僕に、話し掛けないでくれ。」
和哉は海斗に吐き捨てるようにそう言った時、海斗に背を向けて去って行った。
「どうした、カイト?」
「ジェフリー、ナイジェルは何処?」
「その事でお前に話があるんだ、一緒に来てくれ。」
「うん・・」

海斗がジェフリーと共に向かったのは、“禁じられた森”の中だった。

「おう、来たのかジェフリー。」
「キット、遅くなって済まない。」
「カイトも一緒か。」
キットはそう言うと、読んでいた本を閉じた。
その本には、“動物もどき―なりたい動物になろう!”というタイトルが書かれてあった。
「ナイジェルは?」
「ナイジェルは、ホグズミードに居る。」
「ホグズミード?どうしてナイジェルが・・」
「ジェフリー、急にそんな事を言われても坊やが混乱するだけだろう。最初からわかるように説明しないと・・」
「あぁ、そうだったな。カイト、お前は狼人間を知っているか?」
「うん。確か、狼人間に噛まれた人間は、狼人間になるって聞いた事がある。」
「ナイジェルは、昔狼人間になったんだ。異母弟にけしかけられたらしい。」
「じゃぁ、ナイジェルは大丈夫なの?」
「あぁ。狼人間はこの世界では差別や迫害の対象で、ナイジェルはホグワーツに入学する前、グラハム家の屋敷に閉じ込められていたんだ。」
「そんな、酷すぎる!」
「ダンブルドア先生が、ナイジェルを受け入れてくれたんだ。ただ脱狼薬の効果が余り良くなくてな。ホグズミードに月一回行っているんだ。“叫びの屋敷”って、知っているか?」
「英国一恐ろしい幽霊屋敷でしょう?それがナイジェルとどんな関係があるの?」
「実は、その幽霊の正体はナイジェルなんだ。満月の夜は、発作が起きるから、あいつは“叫びの屋敷”に居るんだ。」
「それで誰かが勝手に、幽霊屋敷だと噂したんだろう。まぁ、怪談なんてものは大抵そんなものさ。それで、俺達はアニメ―ガスになろうと思ってな。」
「アニメ―ガスって、かなり高度な魔法なんでしょう?」
「だからこうして、この本に書いてある方法を試したんだ。」
キットはそう言うと、杖を自分に向けて振った。
すると彼はたちまち、一匹の狐に変身した。
「凄い、キット!」
「ありがとう。コツさえ掴めれば、大丈夫さ。」
そう言ってキットは、海斗にウィンクした。
それから海斗とジェフリーは、アニメ―ガス習得に励んだ。
「なりたい動物になるのって、難しいなぁ。」
「まぁ、そんなに根詰めなくてもいいだろう。」
「う~ん。」
「ほら、これでも食え。」
ジェフリーにドーナツを手渡され、海斗はそれを頬張りながら和哉が大広間から出て行く姿に気づき、彼の元へと駆けていった。
「和哉、ちゃんと話を・・」
「うるさい!」
海斗が和哉の左前腕を掴むと、彼は邪険に海斗の手を振り払った。
その時、捲れ上がったシャツの隙間から蛇を吐き出しているドクロのタトゥーが見えた。
魔法界の事に疎い海斗でも、その印の意味を知っている。
「あ・・」
「そんな目で、見ないでくれ。」
和哉はそう言った後、大広間から出て行った。
「カイト。」
「ジェフリー、俺・・」
「今日は休め。」
「うん・・」
アニメ―ガス習得に励んで、3ヶ月が経った。
「やったよ、ジェフリー!」
「良くやった、カイト!」
海斗は、白と黒の斑模様の猫に変身出来た。
そして、ジェフリーはゴールデンレトリバーに変身出来た。
「さてと、そろそろ中に入るか。今にも雪が降りそうだし。」
「うん。」
二人が“禁じられた森”から城の中へと戻ると、キットが何やら慌てた様子で彼らの元に駆け寄って来た。
「大変だ、ナイジェルが攫われた!」
「ナイジェルが攫われた、誰に?」
「“スリザリンの継承者”だよ!」
キットがそう叫んだ時、何かが不気味に這いずり回るような音が聞こえて来た。
「キット、あの音は何だ?」
「きっと3階の女子トイレから出ているに違いない、行くぞ!」
3階の女子トイレへと急ぐ三人の姿を、和哉は陰鬱な表情を浮かべながら見つめていた。
「あいつらは?」
「3階の女子トイレに・・」
「そう。」
スリザリン寮の談話室へと戻った和哉の話を聞いたラウルは、口端を歪めて笑った。
「どうしたの?」
「いえ・・」
「安心おし。あいつらを、“奴”は殺しはしないさ。」
3階の女子トイレには、誰も居なかった。
「キット、お前俺達をからかったのか?」
「“忍びの地図”には、ちゃんとナイジェルはここに居ると・・」
キットがそう言って唸りながら地図を見ると、3階の女子トイレには、ナイジェル=グラハムの名前があった。
「もしかして、地下に居るのかも・・」
「地下に?一体何処に地下への入口があるんだ?」
「ねぇ二人共、ここの水道の蛇口、蛇の形をしているよ!」
海斗の言葉を聞いたジェフリーとキットが水道の蛇口を見ると、それは蛇の形をしていた。
「これからどうする?」
「蛇語でお願いしてみたらいいんじゃないかな?」
海斗はそう言った後、蛇口に向かって何かを話し掛けた。
すると、地下への入口へと繋ぐ蛇の形をしたマンホールがゆっくりと動いた。
地下のトンネルは暗く、湿っていた。
「蛇の棲み家になりそうな所だなぁ。」
「実際にはなっているかもよ。」
「向こうが出口のようだな。」
三人が地下のトンネルを抜けると、そこには蛇の彫像が並び、巨大な老人の顔を象ったトンネルの前に、ナイジェルが仰向けになって倒れていた。
「ナイジェル!」
ジェフリーが親友に駆け寄ると、彼は息をしていた。
「ジェフリー、何か変な音がしない?」
「音?」
「うん・・」
「カイト、危ない!」
キットがそう言って海斗を押し退けた直後、二人が居た場所に破壊された蛇の彫像が飛んで来た。
「な、なんだぁ!?」
いつの間にか、巨大な蛇が三人の背後に迫って来ていた。
「クソ、これじゃキリがないぞ!」
「どうするの、このままだと殺されちゃうよ!」
「おい、あれを見ろ!」
キットが指した先には、一羽の不死鳥が上空を旋回している姿があった。
不死鳥は、三人の前に組分け帽子を落とした。
「これで戦えって?」
「そりゃないぜ。」
海斗は、巨大な蛇が鎌首をもたげて牙を剥いた瞬間、“目潰し呪文”を掛けた。
蛇は悲鳴を上げ、その両目からは煙が上がっていた。
「ジェフリー、今の内に蛇を倒して!」
「わかった!」
ジェフリーは組分け帽子からグリフィンドールの剣を取り出し、それを蛇の脳天に突き刺した。
蛇は悲鳴を上げ、息絶えた。
「やった、蛇を倒したぞ!」
「さてと、さっさとここから出ようぜ。」
三人がナイジェルを連れて“秘密の部屋”から出ると、彼らの前にマクゴナガルとダンブルドアが現れた。
「三人共、冒険は楽しかったかの?話は後で聞くから、まずは風呂に入るが良い。」
「はい、わかりました。」
医務室にナイジェルを連れて行った後、三人はホグワーツに入学して初めて監督生用の大浴場に入った。
「はぁ~、お風呂に浸かるなんて久しぶり。日本では良く入っていたけれど、こっちに来てからはシャワーばっかりだったから、生き返る~!」
海斗はそう叫ぶと、大きく浴槽の中で伸びをした。
「それにしても、あの剣は一体何だったんだ?」
「“真に勇敢な者だけが手に取れる剣”だそうだ。その点について考えれば、蛇に目潰しをかけたカイトは勇敢だったぞ。」
「そ、そうかな?」
「まぁ、俺達三人は勇敢って事だ!」
“秘密の部屋”で起きた事は、すぐさま学校中に広がった。
「あ~あ、またか。」
ジェフリーが大広間で朝食を取っていると、フクロウが彼のテーブルの前に“吼えメール”を落とした。
「どうしたの、ジェフリー?」
海斗がそうジェフリーに尋ねた時、“吼えメール”が突然ヒステリックな声で叫び出した。
『ロックフォード家の恥晒し!』
「うるせぇ!」
“吼えメール”を掴んだジェフリーは、それを真っ二つに引き裂いた。
「ジェフリー・・」
「カイト、暫くあいつを放っておいてやれ。」
海斗は大広間から出て行くジェフリーを慌てて追い掛けようとしたが、ナイジェルに止められた。
「ジェフリーに、“吼えメール”を送ったのは誰なのか、知っているの?」
「あぁ。ジェフリーの母親だ。彼女は純血至上主義者でね。ジェフリーとは反りが合わないようで、いつもクリスマス休暇とイースター休暇は毎年ホグワーツで過ごしている。」
「そうなんだ・・」
海斗も、家族と仲が良いとは言えない。
父・洋介は世界を飛び回る商社マンで、母・友恵は専業主婦、弟・洋明は小学生―ごく普通の家庭に生まれ育った海斗の元に、ホグワーツの入学通知書が届いた時の彼らの反応を、未だに海斗は忘れられなかった。
友恵が、自慢の息子が魔法使いだと知らされパニックを起こした後寝込んでしまい、ダイアゴン横丁への買い物に海斗が結局一人で行かなければならなかった。
マグルである友恵達は海斗を腫れ物扱いし、唯一の救いは同じマグルでありながらも魔法に理解を示している森崎家の存在だった。
夏休み以外、海斗もジェフリー同様、クリスマス休暇やイースター休暇はホグワーツで過ごしている。
 誰にも干渉されず、一人でゆっくりと過ごす時間はいいものだ。
「ハイ、カイト。ジェフリー、知らない?」
「さぁ・・」
「今年のクリスマスパーティー、あなたは誰を誘うの?」
「え・・」
「エイミー、駄目よそんな事言っちゃ。」
女子生徒達がそう言いながら大広間から出て行った後、海斗がナイジェルの方を見ると、彼は少しバツが悪そうな顔をしていた。
「カイト、もしかして今年のクリスマスパーティーの事を知らなかったのか?」
「うん。」
「おおぅ、クリスマスパーティーに相手が見つからないと、悲惨だぞ。」
「キットは、もう相手は居るの?」
「あぁ、今お前さんの隣に居る。」
「へぇ・・」
「ジェフリーを誘うなら、早い方がいいぜ?あいつはクィディッチのシーカーで、モテるからなぁ。」
「わ、わかった。」
とはいえ、恋愛に疎い海斗にとって、クリスマスパーティーの相手探しは至難の業だった。
「あ~、俺もう駄目かもしれない。」
「どうした、バジリスク相手に“目潰し呪文”を掛けたお前さんがそんなに落ち込むなんて、事態は俺が思っていたよりも深刻そうだな?」
大広間で魔法史のレポートを書きながら、海斗は何度目かの溜息を吐いた。
「そうだ、相手が見つからなかったら、自分で“変身”すればいい。」
「え、そんな事出来るの?」
「あぁ。」
クリスマス=イヴまであと一週間を切った。
ジェフリーは何やら忙しいらしく、海斗は余り彼と会えなかった。
「ナイジェル、ジェフリーが何処に居るのか知らない?」
「ジェフリーなら、風邪をひいて寝込んでいる。」
「そうなんだ、ありがとうナイジェル!」
海斗はそう叫んで大広間から飛び出すと、厨房へと向かった。
「ごめん、ちょっと厨房を借りて作りたいものがあるんだ!」
ジェフリーは、グリフィンドール寮の部屋で、苦しそうに咳込んでいた。
風邪をひいたのは、無理をしてクィディッチの練習をした所為だった。
 高熱にうなされながら、ジェフリーは子供の頃を思い出していた。
“ママ、お願いだから・・”
“駄目よ!あなたが反省するまで、地下室から出しません!”
ジェフリーの母は、躾に厳しかった。
ジェフリーはいつも、母から折檻を受けていた。
風邪をひいても、母は看病してくれなかった。
(俺は、これから独りで死ぬのか・・)
ジェフリーがそんな事を思いながら寝返りを打っていると、誰かが部屋に入って来る気配がした。
「ジェフリー、入るよ?」
「カイト。」
「これ、オートミール粥。本当は卵粥が作りたかったんだけど、卵が無くて・・一口でもいいから、食べてみて。」
「ありがとう。」
ジェフリーは海斗の懸命な看病のお陰で、回復した。
そして、クリスマスパーティー当日の夜。
大広間は美しい氷の彫像で飾られ、魔法の天井からは雪が降っていた。
「カイト、準備は出来たか?」
「うん。」
魔法で“変身”した海斗は、エメラルドグリーンのドレス姿で短い赤毛を美しいシニョンへと変えた。
「どう?おかしくない?」
「良く似合っている。」
海斗の手の甲にキスをしたジェフリーは、そのまま彼をエスコートした。
「誰なの、あの子?」
「ジェフリー、何処か嬉しそうな顔をしているわね。」
大広間で海斗とジェフリーがダンスを踊った後、そこへナイジェルとキットがやって来た。
「よう、お二人さん、楽しんでいるかい?」
「うん。」
「さてと、俺達も一曲踊るとするか。」
「離せ、貴様・・」

突然始まったキットとナイジェルのダンスに、その場に居た者達は目を丸くしていた。
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真紅のカナリア 第1話

2024年02月20日 | FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説「真紅のカナリア」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「え、俺が歌うの!?」
「お願い、ミミの声が出なくなっちゃったの!」
歌手になる事を夢見て、渡英した東郷海斗だったが、現実は厳しかった。
海斗は生きる為に、英国で知り合った友人・リリーが経営しているクラブ「白鹿亭」で働く事になった。
住み込みとして働くので、海斗は「白鹿亭」の隣にあるアパートの二階の部屋で暮らす事になったが、そこは狭かった。
だが仕事も家もあるのだから、これ以上贅沢は言えない。
海斗の仕事は、ウェイトレスだった。
ただ客の料理を運んだり皿を洗ったり、厨房の掃除をしたりするもので、一日中立ちっぱなしなので仕事が終わった頃には着替えもせずにベッドに倒れ込むように朝まで眠ってしまう日々を送っていた。
従業員達は皆海斗には優しかったが、クラブの専属歌手・ミミだけは海斗に冷たく接した。
ミミは美しいブロンドの髪と蒼い瞳をした娘で、海斗と同じで歌手を夢見てロシアからやって来たのだった。
『あなたが歌手になりたい?笑わせないで。アジア人の歌姫なんて、ここじゃ通用しないわ。』
海斗は、ミミと初めて顔を合わせた時、面と向かってそう言われたので彼女の事を嫌いになった。
「リリー、今から歌えって言われても・・ドレスが・・」
「ドレスなら、わたしが用意するわ!」
こうして、海斗は声が出なくなったミミの代わりに、歌手としてクラブで歌う事になった。
「緊張するなぁ・・」
「大丈夫、あなたなら出来るわ!」
海斗は深呼吸した後、舞台へと向かった。
「ジェフリー、ここのクラブにダイヤモンドの原石が居るぞ。」
そう言って劇場の支配人と共にジェフリー=ロックフォードが入ったのは、小洒落たクラブだった。
海をイメージした、青で統一した調度品やソファに囲まれた店内には、心地良いジャズが流れていた。
「それでロブ、ダイヤモンドの原石というのは何処に?」
「このクラブでは毎晩9時に、専属歌手が歌うんだ。」
「へぇ・・」
やがて店内が暗くなり、舞台の方にスポットライトが当たった。
そこには、美しい赤毛の娘が立っていた。
バンドマンが曲を奏でると、娘は歌い出した。
その歌声は、美しく透き通るような歌声だった。
「あらぁロブ、お久しぶり、そちらの色男さんは?」
「ジェフリー=ロックフォード、我が劇場のスターさ。」
「そう。」
「リリー、あの娘は?」
「あの娘は、一週間前にわたしが雇った子です。カイトと言って、日本から来たんですよ。」
「へぇ・・」
ジェフリーの宝石のような蒼い瞳が、悪戯っぽくキラリと光った。
「ブラボー!」
海斗が客から喝采を浴びて舞台から降りようとすると、彼女は一人の男に腕を掴まれた。
(何、この人?)
「綺麗な赤毛だな。日本人は皆黒髪だと聞いたが?」
「生まれつきだよ。あんた、誰?」
「俺は、ジェフリー=ロックフォード。ロイヤル劇場のスターだ。」
「へぇ。」
「歌は何処で習った?」
「歌の家庭教師から習った。あの、腕が痛いからもう離してくれない?」
「あぁ、済まない。」
ジェフリーはそう言って慌てて海斗の腕を離すと、彼女に一枚のメモを手渡した。
「これは?」
「俺のアパートの住所と、電話番号を書いたメモだ。」
「ありがとう。」
一晩だけこの舞台に立てただけでも、海斗にとっては嬉しかった。
(夢はもう終わった。明日からは現実が待っている。)
海斗がそんな事を思いながらシャワーを浴びていると、誰かが部屋のドアをノックした。
(誰?こんな時間に・・)
慌ててバスローブを着て髪にタオルを巻いた海斗がドアを開けると、そこにはジェフリーが立っていた。
「どうして、俺がここに住んでいると知っているの?」
「リリーから聞いた。」
「え、ちょっと・・」
ジェフリーに突然ソファに押し倒され、海斗は抵抗したが、暫くすると彼は海斗の胸に顔を埋めながら眠ってしまった。
「ん・・」
ジェフリーが起きると、自分の目の前にはクラブで昨夜会った赤毛の娘がソファで眠っていた。
(俺は、一体・・)
「おはよう、カイト。ジェフリー、どうしてカイトの部屋にあなたが居るの!?」
「リリー、俺は・・」
「カイトが起きる前にわたしの部屋へ来て。」
「あぁ、わかった。」
海斗を起こさないように彼女の部屋から出たジェフリーとリリーは、リリーの家で紅茶を飲みながら、ある話をした。
「まぁ、本当なの!?」
「あぁ。」
「リリー、居る?」
「ええ、居るわよ、ハニー。どうしたの?」
「あ、あんた・・何しに来たんだよ!」
「そう怒るな。俺は、お前に良い話を持って来たんだ。」
「良い話って、何?」
「実は来月、『椿姫』の公演があってね。そのオーディションに君も・・」
「やります!」
「そうか。」
ジェフリーはそう言うと、海斗と固い握手を交わした。
「今度、ロイヤル劇場で会おう。」
「はい!」
海斗は、ジェフリーが去った後、リリーと抱き合った。
「まだオーディションまで時間があるから、今からあなたに声楽のレッスンを受けさせないとね!」
「リリー、そんな事をしなくても・・」
「カイト、何を言っているの!?運命の女神があなたに微笑むのは一度きりなのよ!」
「ありがとう、リリー。」
こうして、海斗はオーディションの日まで声楽のレッスンに通う事になった。
声楽のレッスンは、日本で家庭教師についていた頃の授業よりも本格的だった。
「あなたは筋が良いわ、この調子で頑張りなさい。」
「はい!」
ミミは、海斗が『椿姫』のオーディションを受ける事を知り、激しい嫉妬に駆られた。
(どうして、あの子が・・)
「ミミ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ!ジェフリー様が・・」
「何ですって、それは本当なの!?」
「ええ。」
ミミは行きつけのバーで、海斗がジェフリーに目を掛けられている事を友人に愚痴った。
「新入りの癖に、どうしてあの子ばかり・・」
「こんな所で腐っていないで、練習しなさいよ。」
「わかっていないわね、わたしの歌声はいつだって最高なのよ!」
『椿姫』のオーディションの日を、海斗は迎えた。
「しっかりね、カイト!」
「はい!」
ロイヤル劇場に海斗が向かうと、そこにはマルグリット役を狙う沢山のライバル達が居た。
「あら、あなたもオーディションに来たの?」
そう海斗に話し掛けて来たのは、ブロンドの少女だった。
「ええ。」
「そうなの。てっきり、劇場の使用人だと思った!」
少女の言葉に、周囲に居たライバル達がどっと笑った。
こんな事で怒ってはいけない。
「マルグリット役のオーディションを、今から開始します。番号で呼ばれたら、一人ずつ部屋へ来てください。」
オーディションの順番を海斗が待っていると、そこへジェフリーがやって来た。
「レディ達、頑張ってくれ!」
「ジェフリー様だわ!」
「いつも素敵ね!」
「ジェフリー様、わたくしを励ましに来てくださったの!?」
海斗に嫌味を言って来たブロンドの少女はそう言ってジェフリーに抱き着いたが、彼は少し嫌そうな顔をして少女から離れた。
「28番の方どうぞ。」
「はい!」
海斗は深呼吸した後、『乾杯の歌』を歌った。
「ただいま。」
「お帰り、カイト。お腹空いたでしょう?ご飯作ってあるわよ。」
オーディションの日の夜、海斗は溜息を吐きながらリリーが淹れたカモミールティーを飲んだ。
「オーディション、上手くいかなかったの?」
「上手くいったよ。でもね、ジェフリーの事が気になって・・」
「まぁ、ジェフリーに一目ぼれしたのね。」
「うん。オーディションの時、ジェフリーに抱き着いて来た子が居たんだ。」
「その子は、ジェフリーの婚約者よ。」
リリーはそう言うと、海斗の手を握った。
「大丈夫、あなたは全力を出したんだから。」
「そうだね。」
オーディションに、海斗は見事合格した。
「やったわね、カイト!」
「ありがとう、リリー。あなたのお陰だよ。」
「いいえ、あなたが実力で役を勝ち取ったのよ!」
『椿姫』の稽古に出た海斗は、そこでジェフリーと再会した。
「来たな、俺のマルグリット。」
「じゃぁ、あなたがアルフレード?」
「あぁ、今日から宜しく頼む。」
ロイヤル劇場のスター、ジェフリーと共に稽古する内に、海斗は次第に彼に惹かれていった。
そんな中、海斗の前にオーディションの時に嫌味を言って来たブロンド娘が現れた。
「わたしはアナスタシア=フォーリー。ジェフリー様から、わたし達の関係は聞いているわね?」
「ええ・・」
「わたしとジェフリー様は、いずれは結婚する関係なの。親同士が決めた縁談だけれど、わたしはジェフリー様の事を愛しているわ。」
海斗は、アナスタシアが自分に何を言おうとしているのかがわかった。
「安心して下さい、アナスタシアさん。俺は、決してジェフリーを好きになりませんから。」
「良かったわ、あなたからそんな言葉が聞けて。」
アナスタシアはそう言うと、『白鹿亭』から出て行った。
「あの子、カイトを自分の恋敵だと思っているのね。」
「ねぇリリー、アナスタシアさんって、どんな人?」
「アナスタシア様は、フォーリー侯爵家の一人娘で、ジェフリーはいずれフォーリー家の婿養子になる予定よ。」
「じゃぁ、ジェフリーは貴族なの?」
「ええ。でも、昨夜お父様がお亡くなりになられて、今ロックフォード家は相続争いで大変そうよ。」
「どうしてリリーは、そんな事を知っているの?」
「長年この商売をやっていると、色々と社交界の噂が耳に入って来るものよ。まぁ、わたしも昔、貴族社会の一員だったのよ。」
「え!?」
「型に嵌められるのが嫌で、さっさと半分カビが生えたような貴族社会から抜け出したのは、ここでの生活が気に入ったからよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「さてと、夜は長いから、わたしの身の上話でもしましょうか?」
「うん、もっとリリーの話を聞かせて!」
同じ頃、ロックフォード伯爵家では、ジェフリーの母・エセルが暖炉の前で右往左往しながら探偵からの報告を待っていた。
「お待たせ致しました、奥様。」
書斎の扉が開き、一人の男が入って来た。
皺だらけのコートを着た彼は、新聞記者兼探偵の、クリストファー=マーロウだった。
「これが、ご子息に関する報告書です。」
「ありがとう。」
「いいえ、またのごひいきに。」
エセルから金貨が詰まった袋を受け取ったマーロウことキットは、エセルに背を向けて書斎から去っていった。

(これで暫く、大家から文句を言われないな。)

クリストファー=マーロウことキットは、売れない劇作家だった。

だが数年前に『タンバレイン』を発表し、彼は一躍スターの仲間入りをしたが、作家業だけで食っていける筈もなく、キットは本業である新聞記者をしながら、探偵の副業もしていた。
(ロックフォード家は、あのおっかない奥様が家の実権を握っているから、ジェフリーが逃げ出したくなるのは当たり前だな。)
タイプライターで原稿を書きながら、キットは少し冷めた紅茶を飲んだ。
「キット、今夜ロイヤル劇場に行かないか?今、赤毛のマルグリットが凄いらしいぞ!」
「赤毛のマルグリットだって?」
「あぁ。」
キットはその日の夜、友人達と共にロイヤル劇場の『椿姫』を鑑賞した。
舞台の演出、衣装が何もかも素晴らしかったが、マーロウが最も心惹かれたのは、赤毛のマルグリットだった。
「アジア人のマルグリットなんて、珍しいな。」
「だが、彼女の才能は素晴らしい。」
マルグリットの歌声に魅了されたキットは、早速その正体を探る為、仕事に精を出し、『赤毛のマルグリット』こと、海斗のインタビュー記事を書く事に成功した。
「今日は、よろしくお願い致します。」
「はい、こちらこそよろしくお願い致します。」
海斗は少し緊張してしまい、キットに挨拶する時少し声が震えてしまった。
「どうした、カイト?」
「ジェフリー・・」
「おや、誰かと思ったら懐かしの友じゃないか!」
「キット、久し振りだな。」
「二人は、知り合いなの?」
「あぁ、俺達は同じパブリック=スクール出身なんだ。」
「そうなの。」
ジェフリーの登場により海斗の緊張は解け、キットと海斗はあっという間に打ち解けた。
「君が演じるマルグリットは素晴らしいよ、カイト。これからも頑張って欲しい。」
「ありがとうございます、キット。」
「敬語は使わなくてもいい。さてと、俺はこれで失礼するよ。これから記事を書かないといけないんでね。」
キットはロイヤル劇場を後にすると、新聞社へと戻り、タイプライターで海斗の記事を書き始めた。
「あら、この子・・」
「知っているのか?」
「ええ。この子は、『白鹿亭』の専属歌手よ。でも、この子には才能があるわ。」
「そうか。」
翌朝、キットの記事が一面に載り、海斗は名実ともにスターとなった。
『椿姫』は千秋楽を迎え、海斗はロックフォード家のパーティーに招待された。
「どう?おかしくない?」
「ええ。」
海斗は、ペールブルーのドレスを着て、胸元には真珠のネックレスをつけていた。
「何だか、緊張するなぁ・・」
「大丈夫よ、ハニー。」
迎えの車に乗り込んだ海斗は、深い溜息を吐いた。
同じ頃、ロックフォード邸には社交界デビューしたての令嬢達が、美しいドレスで着飾っていた。
「ねぇ、ジェフリー様はいらっしゃるのかしら?」
「あの方には、アナスタシア様がいらっしゃるわ。」
「でも・・」
「見て、あの方・・」
ロックフォード邸の大広間に入った海斗は、突然周囲の客達が自分に冷たい視線を向けている事に気づいた。
(何?)
「カイト、来てくれたのか?」
「ジェフリー・・」
海斗が振り向くと、そこには燕尾服姿のジェフリーが立っていた。
「ドレス、良く似合っているぞ。」
「ありがとう。」
「一曲、踊らないか?」
「うん。」
楽団がワルツを演奏すると、海斗とジェフリーは踊りの輪に加わった。
―あの方、一体どういうつもりで・・
―恥知らずもいいところだ。
―アジア人の癖に。
「周りの雑音は、気にするな。」
「うん・・」
「ジェフリー、一体これはどういうつもりなの?」
「見ての通りだ。アナスタシア、俺は君と結婚したくない。」
「どうして、そんな・・」
アナスタシアはそう叫ぶと、ジェフリーの頬を平手打ちにした。
「ジェフリー!」
「母さん・・」
「後で、わたしの部屋に来なさい!」
エセルはそう言うと、ジェフリーを睨んだ。
「母さん、俺はアナスタシアとは・・」
「あなたまさか、あのアジア人と・・」
「カイトをそんな風に言うな。」
「この家を捨てるつもりなら、そうしなさい!」
「わかった。」
ロックフォード邸から『白鹿亭』へと戻った海斗は、溜息を吐いた。
「ただいま。」
「お帰り、カイト。どうしたの、浮かない顔をして?パーティーで、何かあったの?」
「うん・・」
海斗はリリーに、ロックフォード邸で起きた事を話した。
「そうなの。これから、大変そうね。」
リリーと海斗がそんな事を話していると、突然店の外のドアが激しく叩かれた。
「誰かしら?」
「さぁね。」
リリーが恐る恐る店のドアを開けると、泥酔したジェフリーが店の中へと雪崩れ込んで来た。
「どうしたの、ジェフリー?」
「カイト、ジェフリーをそこのソファに寝かせて!」
リリーと二人がかりでジェフリーを店のソファに寝かせると、彼はそのまま朝まで起きて来なかった。
「一体どうしたのかしら?」
「さぁね。今日はお店がお休みで良かった。」
「カイト、よく眠れた?」
「まぁね。」
海斗はリリーと朝食を食べていると、店の方から大きな音がした。
「ジェフリー、大丈夫?」
「カイト、俺は・・」
「昨夜、あなたは泥酔してここに来たんだよ、憶えていない?」
「あぁ・・」
二日酔いで痛むこめかみを押さえていたジェフリーは、低く呻きながらソファに横になった。
「はい、お水。」
「ありがとう。」
「昨夜、何があったの?」
「話せば長くなる。」

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ロマンスを君に! 1

2024年02月20日 | FLESH&BLOOD 芸能界パラレル二次創作小説「ロマンスを君に!」


画像はこちらからお借りしました。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


遂に、この日が来た。
東郷海斗は受験票を握り締めながら、その時を待った。

「それでは、発表致します!」

濃紺の制服に身を包んだアカデミー=スクールの在校生が、正門の前に入学試験の合格者の番号が書かれた紙を掲示板に貼り付けた。
海斗の番号は、254番。
(えぇっと、254・・あった!)
アカデミー=スクールは、英国王立演劇学校と並ぶ、演劇学校だ。
英国王立演劇学校と違うところは、アカデミー=スクールは英国で唯一の男子校だった。
毎年10月から11月末に掛けて行われる入学試験の受験者数は、定員数40名に対して約2000人。
世界各国から演劇のプロフェッショナルを目指す者達が、このアカデミー=スクールがあるプリマスへとやって来る。
「合格者の方は、こちらへ。」
肩を落として正門から去っていく受験者たちに背を向け、海斗達合格者は正門の中にある校舎へと向かった。
「合格者の皆さん、この度は合格おめでとうございます。」
アカデミー=スクール演劇科4年クリストファー=マーロウ(キット)は、そう言うと海斗達に微笑んだ。
「君達はこの4年間、プロの演劇人としての道を歩む事になる。今は色々と不安な事があると思うが、俺達が全力でサポートするから、安心してくれ!」
こうして、海斗達は夢への第一歩を踏み出そうとしていた。
「気を付けてね、海斗。」
「行って来ます。」
大きな夢と不安を抱いて、海斗はプリマスへと旅立った。
入学式を終え、海斗は学生寮の部屋へと入った。
そこは二人部屋で、それぞれのベッドと机、クローゼットがあり、入って右側には浴室があった。
(今日からここで暮らすのかぁ・・)
海斗がスーツケースから荷物を取り出していると、誰かが部屋のドアをノックした。
「はい?」
「ほぉ、お前が今日から俺の相棒か。可愛い顔をしているな。」
部屋に入って来たのは、金髪碧眼の美男子だった。
(誰?)
「俺はジェフリー=ロックフォード。これからよろしくな、赤毛の天使さん。」
「カイト=トーゴ―です、これからよろしくお願い致します。」
「ははっ、そう硬くなるなよ。」
ジェフリーはそう言って笑うと、海斗の肩を叩いた。
(なんなの、この人・・)
初対面だというのに、やけに馴れ馴れしいジェフリーに海斗は少しひいていたが、段々慣れて来た。
「うわぁ・・」
アカデミー=スクールの食堂は天井が吹き抜けで、窓には美しいステンドグラスが嵌められていた。
「ここの一番のお薦めは、ビーフシチューパイだ。」
「そう。」
海斗がジェフリーと共に食堂に入ると、突然周囲の生徒達がざわめいた。
(え?)
「ジェフリー、その子がお前の赤毛の天使か?」
「あぁ。」
「あの、俺・・」
「気にしなさんな。カイト、これからよろしくな。」
「はい・・」
アカデミー=スクールの授業は、ダンスや演技などの専門的な授業の他に、外国語やテーブルマナーなどの授業があった。
「バレエの授業は、初めてか?」
「はい・・」
「大丈夫だ、緊張しなくていい。」
バレエ=レッスン室に、一人の青年が入って来た。
「今日から俺が君達にバレエを教えるナイジェル=グラハムだ。」
灰青色の瞳が、射るように海斗を見つめた。

(え、何?)

「駄目だ、もっと足を伸ばして!」
「姿勢が悪い!」
バレエ=レッスンが始まるや否や、ナイジェルの怒声がレッスン室に響いた。
(きつい・・)
海斗は90分のレッスンが終わった後、へとへとになりながら寮の部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んだ。
(本当にここでやっていけるのかな?)
バレエ=レッスンだけではなく、演劇関係の授業はきつく、その上先生達は毎回大量の宿題を出してくるので、海斗は毎日数時間くらいしか睡眠が取れなかった。
その所為か、海斗は中々身体の疲れが取れなくなってしまった。
「まだ寝ないのか?」
「このレポート、今日中に仕上げないと・・」
「カイト、一度鏡で自分の顔を見てみろ、酷い顔をしているぞ。」
ジェフリーからそう言われ、手鏡で自分の顔を見てみると、両目の下には隈が出来ていた。
「頑張るのはいい、だが根詰めたら駄目だ。」
「わかった・・」
少し寝た後、海斗は何とかレポートの締め切りに間に合った。
「ねぇジェフリー、グラハム先生の事は知っているの?」
「ナイジェルの事か?あいつとは、ガキの頃から知っている。」
「え、そうなの?」
海斗の驚いた顔を見て、ナイジェルが彼に何も話していない事をジェフリーは知った。
(昔から秘密主義だとは思っていたが、これ程までとは。)
海斗には話していないが、ナイジェルと自分には前世の記憶がある。
子供の頃からの付き合いというのは嘘ではないが、詳しい事はそんなに話さなくてもいいだろう。
「家が隣同士だったから、よく遊んでいたな。」
「へぇ・・バレエはいつから?」
「姉と一緒に、3歳の頃から家の近くにある公民館でやっているバレエ教室に通っていた。ここに入ったのは、俺はバレエダンサーよりも役者になりたかったからだ。」
「へぇ、そうなの。俺、昔からミュージカルを観るのが好きで・・まぁ、半分はババァ・・母さんの趣味に付き合わされたのがきっかけなんだけど。」
「そうなのか。」
「この学校の授業はきついが、努力は決して無駄にはならない。」
「わかった。」
それから、海斗はジェフリーと共にレッスンと勉学に励んだ。
そんなある日、学校に一人の女が訪ねて来た。
「ジェフリー、会いたかった!」
女はそう叫ぶと、ジェフリーに抱きついた。
彼女の名はイヴリン、ジェフリーの婚約者だった。
「急に俺に何の用だ、ジェフリー?」
「冷たいわね、ジェフリー。ロンドンからわざわざ来たっていうのに・・」
「帰れ、お前と話す事は何もない。」
「それが、父親の言う事なの!?」
「父親だと?」
「ええ、そうよ。わたし、あなたの子を妊娠したの。」
イヴリンはそう言うと、まだ目立たない下腹を撫でた。
「嘘吐くな。」
「あなたのご両親にはもう、報告しておいたわ。」
「イヴリン・・」
(厄介な事になったな・・)
「エマ、エマ!」
「奥様、どうかなさいましたか?」
「今すぐ支度をして頂戴、プリマスへ行くわ。」
ジェフリーの母・エセルは、ヘリコプターでプリマスへと向かった。
「どうした、溜息なんか吐いて?」
「キット・・」
「さては、恋の悩みか?このキット様に話してみな。」
「実は・・」
海斗がキットにジェフリーの婚約者の事を話すと、彼は少し呻いた後、こう言った。
「イヴリンは、厄介な女だからなぁ・・」
「彼女の事、知っているの?」
「あぁ。」
二人がそんな事を話していると、そこへ一人のブロンド美女がやって来た。
「あなたが、カイト?」
「はい、そうですが・・あなたは?」
「わたしはイヴリン、次期ロックフォード公爵夫人よ。」
ブロンド美女は、そう言うと海斗を冷たい蒼い瞳で見た。
「レディ・イヴリン、わざわざロンドンからお越し頂き、ありがとうございます。」
キットが慇懃無礼な口調でイヴリンにそう挨拶すると、彼女は不快そうに眉間に皺を寄せると、そのまま去っていった。
「放っておけ。」
「うん・・」
キットからそう言われ、海斗は余りイヴリンと関わらないようにしていたが、向こうはそうではないらしく、彼女は事あるごとに海斗に突っかかって来た。
「彼女、いつまで居るつもりなんだろう?」
「さぁな。」
イヴリンの地味な嫌がらせに海斗が少し参っていた頃、プリマスにロックフォード公爵夫人がやって来たというニュースが飛び交った。
「イヴリン以上に厄介な人が来たかぁ・・」
「ねぇキット、ジェフリーは貴族なの?」
「あぁ。しかも、あいつの母親がやり手の資産家なんだ。この学校に多額の寄付をしている。だが、彼女は・・」
キットが次の言葉を継ごうとした時、食堂にエセル=ロックフォードが入って来た。
エセルは、蒼い瞳で海斗を睨んだ。

(俺、何かした?)

「あなたが、この学校に入学したアジア人?」
「はい・・」
「アカデミー=スクールも地に堕ちたものね、アジア人の入学を許すなんて!」
「今の発言を取り消せ!」
「ジェフリー、役者なんて目指すのを辞めて、家に戻って来なさい!」
「お断りだね!」
「イヴリンはあなたの子を妊娠しているのよ!」
「ふん、そんなの嘘に決まっている!」
ジェフリーとエセルが食堂でやり合っていると、次第に二人の周りに人が集まって来た。
「カイト、こっちだ。」
「うん・・」
キットは、周りに気づかれないように、海斗を図書室へと避難させた。
「ここは静かだから、ゆっくり話せるな。」
「うん。」
「ジェフリーとあの人は、水と油でね。あの人はやり手の資産家で、頭の中は商売と家名を守る事しかない。それにあの人はレイシストでね。」
「レイシストなら、この国に来てから会ったよ。あんな風にあからさまに言われた事も、数え切れない程沢山ある。もう、慣れたけれど。」
「差別に慣れたら駄目だ。」
「そんな事を言っても、どうすればいいの?」
「耐えるよりも立ち向かえ、怒りを表現への糧にしろ。」
「わかった。」
二人が図書室から食堂に戻ると、そこにエセルとイヴリンの姿はなかった。
「二人は?」
「ロンドンに帰ったよ。少し頭を冷やせって、怒鳴られたよ。」
ジェフリーは溜息を吐くと、海斗を見た。
「あの女に言われた事を忘れろ。芸術の前に、人種や性別は関係ない。」
「うん。」
「さてと、ここで遅めのランチを頂くとするか。」
ジェフリーはそう言って海斗に微笑んだ。
ロンドンに戻ったイヴリンは、エセルと共にある人物と会っていた。
「遅くなって、申し訳ありません。」
「いいえ、わたし達は来たばかりですから。」
「そうですか。」
そう言って二人の前に座ったのは、ビセンテ=デ―サンティリャーナ、ロックフォード家の顧問弁護士だった。
「実は、この子とジェフリーの仲を引き裂いて欲しいの。」
エセルはそう言うと、ビセンテに海斗の顔写真を手渡した。
「この子は・・」
「知り合いでしたの?それなら話が早いですわ。」
エセルはそう言うと、ビセンテの耳元で何かを囁いた。
「わかりました、全力を尽くしましょう。」
「ありがとう、あなたに頼んでおいて良かったわ。」
「あ~、疲れた。」
海斗はバレエのレッスンを終えて、何度目かの溜息を吐いた後、そう言って持っていたタオルで額の汗を拭った。
「お疲れさん。」
「ジェフリー・・」
「余り根詰めると体力が無くなるぞ?」
「うん・・」
「それにしても、もうすぐハロウィンか。」
「この学校で、ハロウィンの時期に何かイベントでもあるの?」
「あぁ。ハロウィンの時期になると、仮装舞踏会が開かれる。それと、マーロウ脚本の劇かな。」
「劇かぁ、楽しみだな。」
海斗がそんな事を言いながらジェフリーと食堂に入ると、ナイジェルは何処か慌てたような表情を浮かべながら、彼らの元へと駆け寄って来た。
「二人共、今すぐレッスン室に来い!」
「わかった。」
(一体、何があったんだろう?)
「二人共、良く来たな!」
「キット、何かあったのか?」
「いや何、二人に劇の衣装合わせをして貰いたくてな。」
「衣装合わせ?」
「あぁ。」
キットから台本を渡された二人は、それに目を通した。
劇の内容は、中世ヨーロッパを舞台にした、ロマンスだった。
「このドレス、誰が作ったの?」
「俺だ。昔から裁縫が得意だったから、劇の衣装を作るのが楽しくなっちまったのさ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「それにしても、あの二人があっさり引き下がったのが気になるな。」
「何か嫌な予感がする。」
「さぁて、そんな暗い気分は、ハロウィン気分で盛り上げよう!」
「うん。」
ハロウィンシーズンに入ったアカデミー=スクールでは、ハロウィンにちなんだ屋台などが並び、連日沢山の人で賑わっていた。
「何だか、夢の中に居るみたい。」
「そうだな。」
海斗とジェフリーが屋台で売られていたパンプキンパイを食べていると、そこへキットがやって来た。
「よぉお二人さん、楽しんでいるようだな?」
「まぁな。」
「さてと、俺はこれから台本の直しをしに部屋へ戻るよ。」
「余り無理するなよ。」
「わかったよ。」

ハロウィン=フェスティバル二日目の朝、キットが舞台衣装を保管してある空き教室へと向かうと、衣装が何者かによって無惨に引き裂かれていた。

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