「FLESH&BLOOD」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
死ネタありです、苦手な方はご注意ください。
「海斗、早くしないと遅れちゃうよ!」
「待ってよ、和哉!」
その日―9月1日のロンドン、キング=クロス駅には、二人の少年の姿があった。
大きいトランクと鳥籠を引き摺りながら、彼らはある場所へと向かった。
そこは、9と4分の3番線のホーム―ホグワーツ特急の停車場だった。
「海斗、先に行くね!」
和哉はそう叫んだ後、煉瓦の壁の中へと吸い込まれていった。
彼に続いて海斗も煉瓦の中へと入ろうとしたが、助走をつけて走った所為で彼はトランクと鳥籠を載せたカートごとひっくり返ってしまった。
ギャーギャーと不満そうに鳴くフクロウを宥めながら、海斗がプラットホームの時計を見ると、それは午前11時を指していた。
「クソ、遅かったか。」
海斗がこれからどうしようかと途方に暮れている時、一人の少年が舌打ちしながら長い金髪を乱暴に掻き上げた。
(この人、もしかして・・)
やや着崩してはいるが、彼が着ているローブは自分と同じ物―即ちホグワーツ魔法魔術学校の制服だった。
彼が持っているカートにも、カチカチと不満そうに嘴を鳴らしているフクロウが鳥籠の中に居た。
「どうした、お前も乗り遅れたのか?」
そう言って自分を見つめた少年の瞳は、晴れた日の海の様に美しく澄み切った蒼い瞳だった。
「はい・・」
「じゃぁ、俺と一緒に行くか?ここで注目を集めるのは嫌だからな。」
確かに、彼の言う通りだった。
マグル達の好奇の視線をこれ以上浴びたくないと思った海斗は、少年についていく事にした。
「坊や、名前は?」
「東郷海斗です。」
「俺はジェフリー=ロックフォード。カイト、お前と会えて嬉しいよ。」
少年―ジェフリーは、そう言った後海斗の頬に軽くキスした。
キスとハグが挨拶代わりの国に暮らして長い海斗だったが、故国では馴染みのない習慣に、彼は思わず身を強張らせてしまった。
「ねぇ、どうやってホグワーツに行くんですか?」
「堅苦しい話し方はなしだ。」
「わかった。移動キーとか箒で行くの?」
「そんな古臭いやり方で俺がホグワーツに行く訳ないだろう。これを使うのさ。」
そう言ってジェフリーが海斗に見せたのは、純白に輝くRX7だった。
「え・・」
「マグルの車で行く方が、箒よりいいだろ?」
「それはそうだけれど・・」
「グズグズしてないで、乗れ。」
「わかったよ・・」
「それじゃ、行くぜ!」
海斗はジェフリーが運転するRX7で、一路ホグワーツへと向かった。
「ねぇ、その車一体何処で手に入れたの?」
「これは、マグルの知り合いに貰ったんだ。俺なりに改良してみたから、乗り心地は最高だろ?」
「うん。」
空飛ぶRX7の真下には、紅色の蒸気機関車―ホグワーツ特急が走っていた。
「さてと、そろそろだな。」
ジェフリーはそう言うと高度を下げ、ホグワーツ特急と並走した。
海斗がちらりと横目で風景を見ると、驚愕の表情を浮かべている和哉と目が合った。
「海斗!」
和哉は窓から身を乗り出そうとしたが、それを見た上級生達に止められた。
やがてジェフリーが運転するRX7は、“禁じられた森”の手前で着地した。
「さてと、他の奴らに見つかる前に、大広間へ・・」
「ジェフリー=ロックフォード、新学期早々派手に登校するとは、感心しませんね。」
ジェフリーと海斗が恐る恐る振り向くと、そこにはこめかみに青筋を立てたミネルバ=マクゴナガル教授が立っていた。
大広間に入った二人を待っていたのは、憧憬と好奇の視線だった。
「間もなく組分けが始まりますから、トーゴ―はわたくしと共にいらっしゃい。」
「また会おう、カイト。」
全生徒からの視線を感じながら、海斗は組分けの時を待った。
「カイト=トーゴ―!」
「あの赤毛の子でしょう、ジェフリーの車に乗っていたの?」
「可愛い子ね。」
海斗が椅子に座り、組分け帽子を被ると、帽子は高らかな声でこう告げた。
「グリフィンドール!」
盛大な歓声と拍手共に海斗はグリフィンドール寮生達に迎えられた。
「グリフィンドールにようこそ、カイト。」
ジェフリーはそう言うと、海斗に微笑んだ。
「ジェフリー、この子か?わざわざお前さんの愛車に乗せた可愛い子ちゃんは?」
ジェフリーの背後からそう言って彼を抱き寄せたのは、鳶色の髪をした少年だった。
「初めまして、俺はクリストファー=マーロウだ、キットと呼んでくれ。」
「は、初めまして・・」
「まぁそうかたくなりなさんな。」
「カズヤ=モリサキ!」
「あの坊やは、君の知り合いかい?」
「はい。和哉とは幼馴染なんです。和哉も一緒の寮だったら・・」
「スリザリン!」
海斗が和哉を見ると、彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「おおぅ、マグル生まれでスリザリンとは・・」
「何かあるの?」
「スリザリンは、完璧な純血主義でね。マグル生まれの子を嫌っているのさ。」
蒼褪めた和哉を出迎えたのは、ホグワーツ特急で会った少年、ラウル=デ=トレドの抱擁だった。
「可哀想に、お友達と離れて辛いんだね?」
「そんな事はありませんよ。」
「強がるのはおよし。」
まるで泣く子を優しくあやす母親のような声で、ラウルはそう囁くと、和哉に微笑んだ。
「これからよろしく、カズヤ。」
和哉と海斗がホグワーツに入学して、4年もの歳月が過ぎた。
「おはよう、和哉。」
「おはよう、海斗。」
「何処か顔色が悪そうだけれど、大丈夫?」
「・・何でもないよ。」
「でも・・」
「もう僕に、話し掛けないでくれ。」
和哉は海斗に吐き捨てるようにそう言った時、海斗に背を向けて去って行った。
「どうした、カイト?」
「ジェフリー、ナイジェルは何処?」
「その事でお前に話があるんだ、一緒に来てくれ。」
「うん・・」
海斗がジェフリーと共に向かったのは、“禁じられた森”の中だった。
「おう、来たのかジェフリー。」
「キット、遅くなって済まない。」
「カイトも一緒か。」
キットはそう言うと、読んでいた本を閉じた。
その本には、“動物もどき―なりたい動物になろう!”というタイトルが書かれてあった。
「ナイジェルは?」
「ナイジェルは、ホグズミードに居る。」
「ホグズミード?どうしてナイジェルが・・」
「ジェフリー、急にそんな事を言われても坊やが混乱するだけだろう。最初からわかるように説明しないと・・」
「あぁ、そうだったな。カイト、お前は狼人間を知っているか?」
「うん。確か、狼人間に噛まれた人間は、狼人間になるって聞いた事がある。」
「ナイジェルは、昔狼人間になったんだ。異母弟にけしかけられたらしい。」
「じゃぁ、ナイジェルは大丈夫なの?」
「あぁ。狼人間はこの世界では差別や迫害の対象で、ナイジェルはホグワーツに入学する前、グラハム家の屋敷に閉じ込められていたんだ。」
「そんな、酷すぎる!」
「ダンブルドア先生が、ナイジェルを受け入れてくれたんだ。ただ脱狼薬の効果が余り良くなくてな。ホグズミードに月一回行っているんだ。“叫びの屋敷”って、知っているか?」
「英国一恐ろしい幽霊屋敷でしょう?それがナイジェルとどんな関係があるの?」
「実は、その幽霊の正体はナイジェルなんだ。満月の夜は、発作が起きるから、あいつは“叫びの屋敷”に居るんだ。」
「それで誰かが勝手に、幽霊屋敷だと噂したんだろう。まぁ、怪談なんてものは大抵そんなものさ。それで、俺達はアニメ―ガスになろうと思ってな。」
「アニメ―ガスって、かなり高度な魔法なんでしょう?」
「だからこうして、この本に書いてある方法を試したんだ。」
キットはそう言うと、杖を自分に向けて振った。
すると彼はたちまち、一匹の狐に変身した。
「凄い、キット!」
「ありがとう。コツさえ掴めれば、大丈夫さ。」
そう言ってキットは、海斗にウィンクした。
それから海斗とジェフリーは、アニメ―ガス習得に励んだ。
「なりたい動物になるのって、難しいなぁ。」
「まぁ、そんなに根詰めなくてもいいだろう。」
「う~ん。」
「ほら、これでも食え。」
ジェフリーにドーナツを手渡され、海斗はそれを頬張りながら和哉が大広間から出て行く姿に気づき、彼の元へと駆けていった。
「和哉、ちゃんと話を・・」
「うるさい!」
海斗が和哉の左前腕を掴むと、彼は邪険に海斗の手を振り払った。
その時、捲れ上がったシャツの隙間から蛇を吐き出しているドクロのタトゥーが見えた。
魔法界の事に疎い海斗でも、その印の意味を知っている。
「あ・・」
「そんな目で、見ないでくれ。」
和哉はそう言った後、大広間から出て行った。
「カイト。」
「ジェフリー、俺・・」
「今日は休め。」
「うん・・」
アニメ―ガス習得に励んで、3ヶ月が経った。
「やったよ、ジェフリー!」
「良くやった、カイト!」
海斗は、白と黒の斑模様の猫に変身出来た。
そして、ジェフリーはゴールデンレトリバーに変身出来た。
「さてと、そろそろ中に入るか。今にも雪が降りそうだし。」
「うん。」
二人が“禁じられた森”から城の中へと戻ると、キットが何やら慌てた様子で彼らの元に駆け寄って来た。
「大変だ、ナイジェルが攫われた!」
「ナイジェルが攫われた、誰に?」
「“スリザリンの継承者”だよ!」
キットがそう叫んだ時、何かが不気味に這いずり回るような音が聞こえて来た。
「キット、あの音は何だ?」
「きっと3階の女子トイレから出ているに違いない、行くぞ!」
3階の女子トイレへと急ぐ三人の姿を、和哉は陰鬱な表情を浮かべながら見つめていた。
「あいつらは?」
「3階の女子トイレに・・」
「そう。」
スリザリン寮の談話室へと戻った和哉の話を聞いたラウルは、口端を歪めて笑った。
「どうしたの?」
「いえ・・」
「安心おし。あいつらを、“奴”は殺しはしないさ。」
3階の女子トイレには、誰も居なかった。
「キット、お前俺達をからかったのか?」
「“忍びの地図”には、ちゃんとナイジェルはここに居ると・・」
キットがそう言って唸りながら地図を見ると、3階の女子トイレには、ナイジェル=グラハムの名前があった。
「もしかして、地下に居るのかも・・」
「地下に?一体何処に地下への入口があるんだ?」
「ねぇ二人共、ここの水道の蛇口、蛇の形をしているよ!」
海斗の言葉を聞いたジェフリーとキットが水道の蛇口を見ると、それは蛇の形をしていた。
「これからどうする?」
「蛇語でお願いしてみたらいいんじゃないかな?」
海斗はそう言った後、蛇口に向かって何かを話し掛けた。
すると、地下への入口へと繋ぐ蛇の形をしたマンホールがゆっくりと動いた。
地下のトンネルは暗く、湿っていた。
「蛇の棲み家になりそうな所だなぁ。」
「実際にはなっているかもよ。」
「向こうが出口のようだな。」
三人が地下のトンネルを抜けると、そこには蛇の彫像が並び、巨大な老人の顔を象ったトンネルの前に、ナイジェルが仰向けになって倒れていた。
「ナイジェル!」
ジェフリーが親友に駆け寄ると、彼は息をしていた。
「ジェフリー、何か変な音がしない?」
「音?」
「うん・・」
「カイト、危ない!」
キットがそう言って海斗を押し退けた直後、二人が居た場所に破壊された蛇の彫像が飛んで来た。
「な、なんだぁ!?」
いつの間にか、巨大な蛇が三人の背後に迫って来ていた。
「クソ、これじゃキリがないぞ!」
「どうするの、このままだと殺されちゃうよ!」
「おい、あれを見ろ!」
キットが指した先には、一羽の不死鳥が上空を旋回している姿があった。
不死鳥は、三人の前に組分け帽子を落とした。
「これで戦えって?」
「そりゃないぜ。」
海斗は、巨大な蛇が鎌首をもたげて牙を剥いた瞬間、“目潰し呪文”を掛けた。
蛇は悲鳴を上げ、その両目からは煙が上がっていた。
「ジェフリー、今の内に蛇を倒して!」
「わかった!」
ジェフリーは組分け帽子からグリフィンドールの剣を取り出し、それを蛇の脳天に突き刺した。
蛇は悲鳴を上げ、息絶えた。
「やった、蛇を倒したぞ!」
「さてと、さっさとここから出ようぜ。」
三人がナイジェルを連れて“秘密の部屋”から出ると、彼らの前にマクゴナガルとダンブルドアが現れた。
「三人共、冒険は楽しかったかの?話は後で聞くから、まずは風呂に入るが良い。」
「はい、わかりました。」
医務室にナイジェルを連れて行った後、三人はホグワーツに入学して初めて監督生用の大浴場に入った。
「はぁ~、お風呂に浸かるなんて久しぶり。日本では良く入っていたけれど、こっちに来てからはシャワーばっかりだったから、生き返る~!」
海斗はそう叫ぶと、大きく浴槽の中で伸びをした。
「それにしても、あの剣は一体何だったんだ?」
「“真に勇敢な者だけが手に取れる剣”だそうだ。その点について考えれば、蛇に目潰しをかけたカイトは勇敢だったぞ。」
「そ、そうかな?」
「まぁ、俺達三人は勇敢って事だ!」
“秘密の部屋”で起きた事は、すぐさま学校中に広がった。
「あ~あ、またか。」
ジェフリーが大広間で朝食を取っていると、フクロウが彼のテーブルの前に“吼えメール”を落とした。
「どうしたの、ジェフリー?」
海斗がそうジェフリーに尋ねた時、“吼えメール”が突然ヒステリックな声で叫び出した。
『ロックフォード家の恥晒し!』
「うるせぇ!」
“吼えメール”を掴んだジェフリーは、それを真っ二つに引き裂いた。
「ジェフリー・・」
「カイト、暫くあいつを放っておいてやれ。」
海斗は大広間から出て行くジェフリーを慌てて追い掛けようとしたが、ナイジェルに止められた。
「ジェフリーに、“吼えメール”を送ったのは誰なのか、知っているの?」
「あぁ。ジェフリーの母親だ。彼女は純血至上主義者でね。ジェフリーとは反りが合わないようで、いつもクリスマス休暇とイースター休暇は毎年ホグワーツで過ごしている。」
「そうなんだ・・」
海斗も、家族と仲が良いとは言えない。
父・洋介は世界を飛び回る商社マンで、母・友恵は専業主婦、弟・洋明は小学生―ごく普通の家庭に生まれ育った海斗の元に、ホグワーツの入学通知書が届いた時の彼らの反応を、未だに海斗は忘れられなかった。
友恵が、自慢の息子が魔法使いだと知らされパニックを起こした後寝込んでしまい、ダイアゴン横丁への買い物に海斗が結局一人で行かなければならなかった。
マグルである友恵達は海斗を腫れ物扱いし、唯一の救いは同じマグルでありながらも魔法に理解を示している森崎家の存在だった。
夏休み以外、海斗もジェフリー同様、クリスマス休暇やイースター休暇はホグワーツで過ごしている。
誰にも干渉されず、一人でゆっくりと過ごす時間はいいものだ。
「ハイ、カイト。ジェフリー、知らない?」
「さぁ・・」
「今年のクリスマスパーティー、あなたは誰を誘うの?」
「え・・」
「エイミー、駄目よそんな事言っちゃ。」
女子生徒達がそう言いながら大広間から出て行った後、海斗がナイジェルの方を見ると、彼は少しバツが悪そうな顔をしていた。
「カイト、もしかして今年のクリスマスパーティーの事を知らなかったのか?」
「うん。」
「おおぅ、クリスマスパーティーに相手が見つからないと、悲惨だぞ。」
「キットは、もう相手は居るの?」
「あぁ、今お前さんの隣に居る。」
「へぇ・・」
「ジェフリーを誘うなら、早い方がいいぜ?あいつはクィディッチのシーカーで、モテるからなぁ。」
「わ、わかった。」
とはいえ、恋愛に疎い海斗にとって、クリスマスパーティーの相手探しは至難の業だった。
「あ~、俺もう駄目かもしれない。」
「どうした、バジリスク相手に“目潰し呪文”を掛けたお前さんがそんなに落ち込むなんて、事態は俺が思っていたよりも深刻そうだな?」
大広間で魔法史のレポートを書きながら、海斗は何度目かの溜息を吐いた。
「そうだ、相手が見つからなかったら、自分で“変身”すればいい。」
「え、そんな事出来るの?」
「あぁ。」
クリスマス=イヴまであと一週間を切った。
ジェフリーは何やら忙しいらしく、海斗は余り彼と会えなかった。
「ナイジェル、ジェフリーが何処に居るのか知らない?」
「ジェフリーなら、風邪をひいて寝込んでいる。」
「そうなんだ、ありがとうナイジェル!」
海斗はそう叫んで大広間から飛び出すと、厨房へと向かった。
「ごめん、ちょっと厨房を借りて作りたいものがあるんだ!」
ジェフリーは、グリフィンドール寮の部屋で、苦しそうに咳込んでいた。
風邪をひいたのは、無理をしてクィディッチの練習をした所為だった。
高熱にうなされながら、ジェフリーは子供の頃を思い出していた。
“ママ、お願いだから・・”
“駄目よ!あなたが反省するまで、地下室から出しません!”
ジェフリーの母は、躾に厳しかった。
ジェフリーはいつも、母から折檻を受けていた。
風邪をひいても、母は看病してくれなかった。
(俺は、これから独りで死ぬのか・・)
ジェフリーがそんな事を思いながら寝返りを打っていると、誰かが部屋に入って来る気配がした。
「ジェフリー、入るよ?」
「カイト。」
「これ、オートミール粥。本当は卵粥が作りたかったんだけど、卵が無くて・・一口でもいいから、食べてみて。」
「ありがとう。」
ジェフリーは海斗の懸命な看病のお陰で、回復した。
そして、クリスマスパーティー当日の夜。
大広間は美しい氷の彫像で飾られ、魔法の天井からは雪が降っていた。
「カイト、準備は出来たか?」
「うん。」
魔法で“変身”した海斗は、エメラルドグリーンのドレス姿で短い赤毛を美しいシニョンへと変えた。
「どう?おかしくない?」
「良く似合っている。」
海斗の手の甲にキスをしたジェフリーは、そのまま彼をエスコートした。
「誰なの、あの子?」
「ジェフリー、何処か嬉しそうな顔をしているわね。」
大広間で海斗とジェフリーがダンスを踊った後、そこへナイジェルとキットがやって来た。
「よう、お二人さん、楽しんでいるかい?」
「うん。」
「さてと、俺達も一曲踊るとするか。」
「離せ、貴様・・」
突然始まったキットとナイジェルのダンスに、その場に居た者達は目を丸くしていた。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
死ネタありです、苦手な方はご注意ください。
「海斗、早くしないと遅れちゃうよ!」
「待ってよ、和哉!」
その日―9月1日のロンドン、キング=クロス駅には、二人の少年の姿があった。
大きいトランクと鳥籠を引き摺りながら、彼らはある場所へと向かった。
そこは、9と4分の3番線のホーム―ホグワーツ特急の停車場だった。
「海斗、先に行くね!」
和哉はそう叫んだ後、煉瓦の壁の中へと吸い込まれていった。
彼に続いて海斗も煉瓦の中へと入ろうとしたが、助走をつけて走った所為で彼はトランクと鳥籠を載せたカートごとひっくり返ってしまった。
ギャーギャーと不満そうに鳴くフクロウを宥めながら、海斗がプラットホームの時計を見ると、それは午前11時を指していた。
「クソ、遅かったか。」
海斗がこれからどうしようかと途方に暮れている時、一人の少年が舌打ちしながら長い金髪を乱暴に掻き上げた。
(この人、もしかして・・)
やや着崩してはいるが、彼が着ているローブは自分と同じ物―即ちホグワーツ魔法魔術学校の制服だった。
彼が持っているカートにも、カチカチと不満そうに嘴を鳴らしているフクロウが鳥籠の中に居た。
「どうした、お前も乗り遅れたのか?」
そう言って自分を見つめた少年の瞳は、晴れた日の海の様に美しく澄み切った蒼い瞳だった。
「はい・・」
「じゃぁ、俺と一緒に行くか?ここで注目を集めるのは嫌だからな。」
確かに、彼の言う通りだった。
マグル達の好奇の視線をこれ以上浴びたくないと思った海斗は、少年についていく事にした。
「坊や、名前は?」
「東郷海斗です。」
「俺はジェフリー=ロックフォード。カイト、お前と会えて嬉しいよ。」
少年―ジェフリーは、そう言った後海斗の頬に軽くキスした。
キスとハグが挨拶代わりの国に暮らして長い海斗だったが、故国では馴染みのない習慣に、彼は思わず身を強張らせてしまった。
「ねぇ、どうやってホグワーツに行くんですか?」
「堅苦しい話し方はなしだ。」
「わかった。移動キーとか箒で行くの?」
「そんな古臭いやり方で俺がホグワーツに行く訳ないだろう。これを使うのさ。」
そう言ってジェフリーが海斗に見せたのは、純白に輝くRX7だった。
「え・・」
「マグルの車で行く方が、箒よりいいだろ?」
「それはそうだけれど・・」
「グズグズしてないで、乗れ。」
「わかったよ・・」
「それじゃ、行くぜ!」
海斗はジェフリーが運転するRX7で、一路ホグワーツへと向かった。
「ねぇ、その車一体何処で手に入れたの?」
「これは、マグルの知り合いに貰ったんだ。俺なりに改良してみたから、乗り心地は最高だろ?」
「うん。」
空飛ぶRX7の真下には、紅色の蒸気機関車―ホグワーツ特急が走っていた。
「さてと、そろそろだな。」
ジェフリーはそう言うと高度を下げ、ホグワーツ特急と並走した。
海斗がちらりと横目で風景を見ると、驚愕の表情を浮かべている和哉と目が合った。
「海斗!」
和哉は窓から身を乗り出そうとしたが、それを見た上級生達に止められた。
やがてジェフリーが運転するRX7は、“禁じられた森”の手前で着地した。
「さてと、他の奴らに見つかる前に、大広間へ・・」
「ジェフリー=ロックフォード、新学期早々派手に登校するとは、感心しませんね。」
ジェフリーと海斗が恐る恐る振り向くと、そこにはこめかみに青筋を立てたミネルバ=マクゴナガル教授が立っていた。
大広間に入った二人を待っていたのは、憧憬と好奇の視線だった。
「間もなく組分けが始まりますから、トーゴ―はわたくしと共にいらっしゃい。」
「また会おう、カイト。」
全生徒からの視線を感じながら、海斗は組分けの時を待った。
「カイト=トーゴ―!」
「あの赤毛の子でしょう、ジェフリーの車に乗っていたの?」
「可愛い子ね。」
海斗が椅子に座り、組分け帽子を被ると、帽子は高らかな声でこう告げた。
「グリフィンドール!」
盛大な歓声と拍手共に海斗はグリフィンドール寮生達に迎えられた。
「グリフィンドールにようこそ、カイト。」
ジェフリーはそう言うと、海斗に微笑んだ。
「ジェフリー、この子か?わざわざお前さんの愛車に乗せた可愛い子ちゃんは?」
ジェフリーの背後からそう言って彼を抱き寄せたのは、鳶色の髪をした少年だった。
「初めまして、俺はクリストファー=マーロウだ、キットと呼んでくれ。」
「は、初めまして・・」
「まぁそうかたくなりなさんな。」
「カズヤ=モリサキ!」
「あの坊やは、君の知り合いかい?」
「はい。和哉とは幼馴染なんです。和哉も一緒の寮だったら・・」
「スリザリン!」
海斗が和哉を見ると、彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「おおぅ、マグル生まれでスリザリンとは・・」
「何かあるの?」
「スリザリンは、完璧な純血主義でね。マグル生まれの子を嫌っているのさ。」
蒼褪めた和哉を出迎えたのは、ホグワーツ特急で会った少年、ラウル=デ=トレドの抱擁だった。
「可哀想に、お友達と離れて辛いんだね?」
「そんな事はありませんよ。」
「強がるのはおよし。」
まるで泣く子を優しくあやす母親のような声で、ラウルはそう囁くと、和哉に微笑んだ。
「これからよろしく、カズヤ。」
和哉と海斗がホグワーツに入学して、4年もの歳月が過ぎた。
「おはよう、和哉。」
「おはよう、海斗。」
「何処か顔色が悪そうだけれど、大丈夫?」
「・・何でもないよ。」
「でも・・」
「もう僕に、話し掛けないでくれ。」
和哉は海斗に吐き捨てるようにそう言った時、海斗に背を向けて去って行った。
「どうした、カイト?」
「ジェフリー、ナイジェルは何処?」
「その事でお前に話があるんだ、一緒に来てくれ。」
「うん・・」
海斗がジェフリーと共に向かったのは、“禁じられた森”の中だった。
「おう、来たのかジェフリー。」
「キット、遅くなって済まない。」
「カイトも一緒か。」
キットはそう言うと、読んでいた本を閉じた。
その本には、“動物もどき―なりたい動物になろう!”というタイトルが書かれてあった。
「ナイジェルは?」
「ナイジェルは、ホグズミードに居る。」
「ホグズミード?どうしてナイジェルが・・」
「ジェフリー、急にそんな事を言われても坊やが混乱するだけだろう。最初からわかるように説明しないと・・」
「あぁ、そうだったな。カイト、お前は狼人間を知っているか?」
「うん。確か、狼人間に噛まれた人間は、狼人間になるって聞いた事がある。」
「ナイジェルは、昔狼人間になったんだ。異母弟にけしかけられたらしい。」
「じゃぁ、ナイジェルは大丈夫なの?」
「あぁ。狼人間はこの世界では差別や迫害の対象で、ナイジェルはホグワーツに入学する前、グラハム家の屋敷に閉じ込められていたんだ。」
「そんな、酷すぎる!」
「ダンブルドア先生が、ナイジェルを受け入れてくれたんだ。ただ脱狼薬の効果が余り良くなくてな。ホグズミードに月一回行っているんだ。“叫びの屋敷”って、知っているか?」
「英国一恐ろしい幽霊屋敷でしょう?それがナイジェルとどんな関係があるの?」
「実は、その幽霊の正体はナイジェルなんだ。満月の夜は、発作が起きるから、あいつは“叫びの屋敷”に居るんだ。」
「それで誰かが勝手に、幽霊屋敷だと噂したんだろう。まぁ、怪談なんてものは大抵そんなものさ。それで、俺達はアニメ―ガスになろうと思ってな。」
「アニメ―ガスって、かなり高度な魔法なんでしょう?」
「だからこうして、この本に書いてある方法を試したんだ。」
キットはそう言うと、杖を自分に向けて振った。
すると彼はたちまち、一匹の狐に変身した。
「凄い、キット!」
「ありがとう。コツさえ掴めれば、大丈夫さ。」
そう言ってキットは、海斗にウィンクした。
それから海斗とジェフリーは、アニメ―ガス習得に励んだ。
「なりたい動物になるのって、難しいなぁ。」
「まぁ、そんなに根詰めなくてもいいだろう。」
「う~ん。」
「ほら、これでも食え。」
ジェフリーにドーナツを手渡され、海斗はそれを頬張りながら和哉が大広間から出て行く姿に気づき、彼の元へと駆けていった。
「和哉、ちゃんと話を・・」
「うるさい!」
海斗が和哉の左前腕を掴むと、彼は邪険に海斗の手を振り払った。
その時、捲れ上がったシャツの隙間から蛇を吐き出しているドクロのタトゥーが見えた。
魔法界の事に疎い海斗でも、その印の意味を知っている。
「あ・・」
「そんな目で、見ないでくれ。」
和哉はそう言った後、大広間から出て行った。
「カイト。」
「ジェフリー、俺・・」
「今日は休め。」
「うん・・」
アニメ―ガス習得に励んで、3ヶ月が経った。
「やったよ、ジェフリー!」
「良くやった、カイト!」
海斗は、白と黒の斑模様の猫に変身出来た。
そして、ジェフリーはゴールデンレトリバーに変身出来た。
「さてと、そろそろ中に入るか。今にも雪が降りそうだし。」
「うん。」
二人が“禁じられた森”から城の中へと戻ると、キットが何やら慌てた様子で彼らの元に駆け寄って来た。
「大変だ、ナイジェルが攫われた!」
「ナイジェルが攫われた、誰に?」
「“スリザリンの継承者”だよ!」
キットがそう叫んだ時、何かが不気味に這いずり回るような音が聞こえて来た。
「キット、あの音は何だ?」
「きっと3階の女子トイレから出ているに違いない、行くぞ!」
3階の女子トイレへと急ぐ三人の姿を、和哉は陰鬱な表情を浮かべながら見つめていた。
「あいつらは?」
「3階の女子トイレに・・」
「そう。」
スリザリン寮の談話室へと戻った和哉の話を聞いたラウルは、口端を歪めて笑った。
「どうしたの?」
「いえ・・」
「安心おし。あいつらを、“奴”は殺しはしないさ。」
3階の女子トイレには、誰も居なかった。
「キット、お前俺達をからかったのか?」
「“忍びの地図”には、ちゃんとナイジェルはここに居ると・・」
キットがそう言って唸りながら地図を見ると、3階の女子トイレには、ナイジェル=グラハムの名前があった。
「もしかして、地下に居るのかも・・」
「地下に?一体何処に地下への入口があるんだ?」
「ねぇ二人共、ここの水道の蛇口、蛇の形をしているよ!」
海斗の言葉を聞いたジェフリーとキットが水道の蛇口を見ると、それは蛇の形をしていた。
「これからどうする?」
「蛇語でお願いしてみたらいいんじゃないかな?」
海斗はそう言った後、蛇口に向かって何かを話し掛けた。
すると、地下への入口へと繋ぐ蛇の形をしたマンホールがゆっくりと動いた。
地下のトンネルは暗く、湿っていた。
「蛇の棲み家になりそうな所だなぁ。」
「実際にはなっているかもよ。」
「向こうが出口のようだな。」
三人が地下のトンネルを抜けると、そこには蛇の彫像が並び、巨大な老人の顔を象ったトンネルの前に、ナイジェルが仰向けになって倒れていた。
「ナイジェル!」
ジェフリーが親友に駆け寄ると、彼は息をしていた。
「ジェフリー、何か変な音がしない?」
「音?」
「うん・・」
「カイト、危ない!」
キットがそう言って海斗を押し退けた直後、二人が居た場所に破壊された蛇の彫像が飛んで来た。
「な、なんだぁ!?」
いつの間にか、巨大な蛇が三人の背後に迫って来ていた。
「クソ、これじゃキリがないぞ!」
「どうするの、このままだと殺されちゃうよ!」
「おい、あれを見ろ!」
キットが指した先には、一羽の不死鳥が上空を旋回している姿があった。
不死鳥は、三人の前に組分け帽子を落とした。
「これで戦えって?」
「そりゃないぜ。」
海斗は、巨大な蛇が鎌首をもたげて牙を剥いた瞬間、“目潰し呪文”を掛けた。
蛇は悲鳴を上げ、その両目からは煙が上がっていた。
「ジェフリー、今の内に蛇を倒して!」
「わかった!」
ジェフリーは組分け帽子からグリフィンドールの剣を取り出し、それを蛇の脳天に突き刺した。
蛇は悲鳴を上げ、息絶えた。
「やった、蛇を倒したぞ!」
「さてと、さっさとここから出ようぜ。」
三人がナイジェルを連れて“秘密の部屋”から出ると、彼らの前にマクゴナガルとダンブルドアが現れた。
「三人共、冒険は楽しかったかの?話は後で聞くから、まずは風呂に入るが良い。」
「はい、わかりました。」
医務室にナイジェルを連れて行った後、三人はホグワーツに入学して初めて監督生用の大浴場に入った。
「はぁ~、お風呂に浸かるなんて久しぶり。日本では良く入っていたけれど、こっちに来てからはシャワーばっかりだったから、生き返る~!」
海斗はそう叫ぶと、大きく浴槽の中で伸びをした。
「それにしても、あの剣は一体何だったんだ?」
「“真に勇敢な者だけが手に取れる剣”だそうだ。その点について考えれば、蛇に目潰しをかけたカイトは勇敢だったぞ。」
「そ、そうかな?」
「まぁ、俺達三人は勇敢って事だ!」
“秘密の部屋”で起きた事は、すぐさま学校中に広がった。
「あ~あ、またか。」
ジェフリーが大広間で朝食を取っていると、フクロウが彼のテーブルの前に“吼えメール”を落とした。
「どうしたの、ジェフリー?」
海斗がそうジェフリーに尋ねた時、“吼えメール”が突然ヒステリックな声で叫び出した。
『ロックフォード家の恥晒し!』
「うるせぇ!」
“吼えメール”を掴んだジェフリーは、それを真っ二つに引き裂いた。
「ジェフリー・・」
「カイト、暫くあいつを放っておいてやれ。」
海斗は大広間から出て行くジェフリーを慌てて追い掛けようとしたが、ナイジェルに止められた。
「ジェフリーに、“吼えメール”を送ったのは誰なのか、知っているの?」
「あぁ。ジェフリーの母親だ。彼女は純血至上主義者でね。ジェフリーとは反りが合わないようで、いつもクリスマス休暇とイースター休暇は毎年ホグワーツで過ごしている。」
「そうなんだ・・」
海斗も、家族と仲が良いとは言えない。
父・洋介は世界を飛び回る商社マンで、母・友恵は専業主婦、弟・洋明は小学生―ごく普通の家庭に生まれ育った海斗の元に、ホグワーツの入学通知書が届いた時の彼らの反応を、未だに海斗は忘れられなかった。
友恵が、自慢の息子が魔法使いだと知らされパニックを起こした後寝込んでしまい、ダイアゴン横丁への買い物に海斗が結局一人で行かなければならなかった。
マグルである友恵達は海斗を腫れ物扱いし、唯一の救いは同じマグルでありながらも魔法に理解を示している森崎家の存在だった。
夏休み以外、海斗もジェフリー同様、クリスマス休暇やイースター休暇はホグワーツで過ごしている。
誰にも干渉されず、一人でゆっくりと過ごす時間はいいものだ。
「ハイ、カイト。ジェフリー、知らない?」
「さぁ・・」
「今年のクリスマスパーティー、あなたは誰を誘うの?」
「え・・」
「エイミー、駄目よそんな事言っちゃ。」
女子生徒達がそう言いながら大広間から出て行った後、海斗がナイジェルの方を見ると、彼は少しバツが悪そうな顔をしていた。
「カイト、もしかして今年のクリスマスパーティーの事を知らなかったのか?」
「うん。」
「おおぅ、クリスマスパーティーに相手が見つからないと、悲惨だぞ。」
「キットは、もう相手は居るの?」
「あぁ、今お前さんの隣に居る。」
「へぇ・・」
「ジェフリーを誘うなら、早い方がいいぜ?あいつはクィディッチのシーカーで、モテるからなぁ。」
「わ、わかった。」
とはいえ、恋愛に疎い海斗にとって、クリスマスパーティーの相手探しは至難の業だった。
「あ~、俺もう駄目かもしれない。」
「どうした、バジリスク相手に“目潰し呪文”を掛けたお前さんがそんなに落ち込むなんて、事態は俺が思っていたよりも深刻そうだな?」
大広間で魔法史のレポートを書きながら、海斗は何度目かの溜息を吐いた。
「そうだ、相手が見つからなかったら、自分で“変身”すればいい。」
「え、そんな事出来るの?」
「あぁ。」
クリスマス=イヴまであと一週間を切った。
ジェフリーは何やら忙しいらしく、海斗は余り彼と会えなかった。
「ナイジェル、ジェフリーが何処に居るのか知らない?」
「ジェフリーなら、風邪をひいて寝込んでいる。」
「そうなんだ、ありがとうナイジェル!」
海斗はそう叫んで大広間から飛び出すと、厨房へと向かった。
「ごめん、ちょっと厨房を借りて作りたいものがあるんだ!」
ジェフリーは、グリフィンドール寮の部屋で、苦しそうに咳込んでいた。
風邪をひいたのは、無理をしてクィディッチの練習をした所為だった。
高熱にうなされながら、ジェフリーは子供の頃を思い出していた。
“ママ、お願いだから・・”
“駄目よ!あなたが反省するまで、地下室から出しません!”
ジェフリーの母は、躾に厳しかった。
ジェフリーはいつも、母から折檻を受けていた。
風邪をひいても、母は看病してくれなかった。
(俺は、これから独りで死ぬのか・・)
ジェフリーがそんな事を思いながら寝返りを打っていると、誰かが部屋に入って来る気配がした。
「ジェフリー、入るよ?」
「カイト。」
「これ、オートミール粥。本当は卵粥が作りたかったんだけど、卵が無くて・・一口でもいいから、食べてみて。」
「ありがとう。」
ジェフリーは海斗の懸命な看病のお陰で、回復した。
そして、クリスマスパーティー当日の夜。
大広間は美しい氷の彫像で飾られ、魔法の天井からは雪が降っていた。
「カイト、準備は出来たか?」
「うん。」
魔法で“変身”した海斗は、エメラルドグリーンのドレス姿で短い赤毛を美しいシニョンへと変えた。
「どう?おかしくない?」
「良く似合っている。」
海斗の手の甲にキスをしたジェフリーは、そのまま彼をエスコートした。
「誰なの、あの子?」
「ジェフリー、何処か嬉しそうな顔をしているわね。」
大広間で海斗とジェフリーがダンスを踊った後、そこへナイジェルとキットがやって来た。
「よう、お二人さん、楽しんでいるかい?」
「うん。」
「さてと、俺達も一曲踊るとするか。」
「離せ、貴様・・」
突然始まったキットとナイジェルのダンスに、その場に居た者達は目を丸くしていた。