「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
ずっと、近くで見ているだけで良かった。
この想いを告げられなくても、傍に居られるだけで良かった。
だから―
「千鶴、何処だ?」
「はい、こちらに。」
井戸の水くみを終えた後、千鶴は慌てて母屋の中へと戻った。
「歳三様、何か・・」
「お前ぇに、渡してぇものがあるんだ。」
「渡したいもの、ですか?」
「あぁ。」
歳三がそう言って懐から取り出したものは、桜を象った簪だった。
「やっぱり、この簪はお前の黒髪に合うな。」
「いいのですか?このような高価な物、わたしが頂いても・・」
「惚れた女を着飾らせたいのが、男の性というものだろうが。遠慮せずに受け取ってくれ。」
「ありがとうございます・・」
千鶴は何処か嬉しそうな顔をしながら、その簪を懐紙に包んで懐にしまった。
それを見ていた歳三は、満足そうな笑みを口元に浮かべた。
「歳三、そなたに縁談があります。」
「申し訳ありませんが母上、その縁談はお断りさせて頂きます。」
「・・あの娘と、本気で夫婦になりたいと思っているのですか?」
そう言った歳三の母・恵津は、彼をじろりと睨んだ。
「大逆人の娘をこの家に嫁として迎え入れる事は、この母が許しません。」
「母上!」
千鶴の父・綱道は、腕の良い蘭方医だったが、“安政の大獄”で謀反人として奉行所に連れて行かれ、そこで非業の死を遂げた。
後に、彼は無実だと判ったが、“大逆人の娘”の烙印を捺された千鶴は、土方家で女中として引き取られた。
使用人達は良くしてくれたが、恵津は千鶴に冷たかった。
「歳三、あの娘と別れなさい。」
「いいえ、別れません。」
「まぁ・・」
「では、これで失礼致します。」
「お待ちなさい、まだ話は・・」
歳三は恵津の部屋から出て自室へと戻ると、溜息を吐いた。
「トシさ~ん!」
「誰かと思ったら、八郎か。何の用だ?」
「トシさんに会いに来たんだ。」
八郎はそう言うと、歳三の髪に梅の簪を挿した。
「黒髪によく似合うね。」
「そうか?」
「ねぇトシさん、何を書いているの?」
「馬鹿、見るんじゃねぇ!」
「もしかして、あの最近通っている道場主への恋文なの?」
そう言った八郎の目は据わっていた。
「てめぇには関係ねぇだろうが。」
「あるよ!トシさんは、僕のお嫁さんになるんだから!」
「男に嫁なんて言葉使うな、気色悪い!」
「あ、若様またこちらにいらっしゃったのですか!さ、奥様がお戻りにならない内に帰りましょう!」
「嫌だ~、トシさん!」
「いけません!」
「嫌~!」
歳三にしがみついたまま離れようとしない八郎に手こずっていた本山は、八郎に手刀を喰らわせた。
「では、わたくし達はこれにて。」
「お、おう・・」
失神した八郎を肩に担いだ本山が土方家から出ると、彼は八郎の姉・八重と正門ですれ違った。
「土方様・・」
「八重様、どうしてこちらに?」
「そんなにわたくしを嫁にしたくありませんか?」
「それは・・」
「良いのです。土方様には千鶴がいらっしゃるのですから。」
八重はそう言うと、目を伏せた。
「わたしは、あなたにはわたし以外の殿方と幸せになって下さい。」
「わかりました・・」
八重はそう言うと、歳三に向かって頭を下げた。
「八重様、こんにちは。」
「なれなれしくわたくしに話しかけないで・・罪人の娘の癖に。」
八重はそう言うと、千鶴を睨んだ。
「わたくしは、お前の事を土方様の恋人だと認めないわ。」
「八重様・・」
「お嬢様、これからどうなさいますか?」
「土方様から、千鶴を引き離さなくてはね。」
そう言った八重の瞳は、狂気が宿っていた。
「千鶴、少しお使いを頼まれてくれないかい?」
「はい。」
土方家の女中頭・みねからお使いを頼まれ、千鶴は土方家の裏口から外へと出た。
「毎度あり~」
(少し、遅くなってしまったわ・・)
千鶴がそんな事を思いながら家路を急いでいると、彼女の背後に渡世人風の男が数人、迫って来ている事に当の本人は全く気づいていなかった。
「あれか?」
「あぁ、中々の上玉じゃねぇか。」
男達は電光石火の動きで千鶴の鳩尾を殴り気絶させると、彼女を“ある場所”へと連れて行った。
「千鶴が、戻って来ない?」
「はい。」
「彼女が、わたくし達に黙って勝手に居なくなるなんて・・」
(千鶴・・)
「ん・・」
「目が覚めたか?」
千鶴が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。
(ここは・・)
「上玉だねぇ。数年仕込めば売れっ子になれそうだ。」
「あの・・」
「江戸から遠く離れた島原で拾い物をするとはね・・運が良い。」
「ここは、何処なのですか?」
「ここは京の島原で一番格が高い“宗津屋”さ。」
「わたしを、ここから出してください!」
「それは出来ないねぇ。」
“宗津屋”の女将・えんは、意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんたは、ここで一生暮らすんだよ。」
「嫌ぁ~!」
「へぇ、あの娘を島原に・・随分と遠い所へやったわね?」
「お嬢様、あの・・」
「暫くは身を隠していなさい。」
八重はそう言うと、金子を男に投げて寄越した。
「姉上、誰かと話していたのですか?」
「いいえ、独り言よ。」
「そうですか。」
八郎の弟・想太郎は、八重の態度に不審を抱き、すぐさま八郎の部屋へと向かった。
「兄上、よろしいですか?」
「どうした、想太郎?」
「先程、姉上が誰かとお部屋で話しているのを聞いたのです。」
「・・その話、詳しく聞かせてくれないか?」
(まさか姉上が、千鶴ちゃんを・・)
「まぁ伊庭様、歳三様なら日野の試衛館に行かれましたよ。」
「いつ頃戻りますか?」
「さぁ、それはわかりかねます。」
「そうですか・・」
(トシさん、どうして肝心な時に居ないんだよ!)
制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
ずっと、近くで見ているだけで良かった。
この想いを告げられなくても、傍に居られるだけで良かった。
だから―
「千鶴、何処だ?」
「はい、こちらに。」
井戸の水くみを終えた後、千鶴は慌てて母屋の中へと戻った。
「歳三様、何か・・」
「お前ぇに、渡してぇものがあるんだ。」
「渡したいもの、ですか?」
「あぁ。」
歳三がそう言って懐から取り出したものは、桜を象った簪だった。
「やっぱり、この簪はお前の黒髪に合うな。」
「いいのですか?このような高価な物、わたしが頂いても・・」
「惚れた女を着飾らせたいのが、男の性というものだろうが。遠慮せずに受け取ってくれ。」
「ありがとうございます・・」
千鶴は何処か嬉しそうな顔をしながら、その簪を懐紙に包んで懐にしまった。
それを見ていた歳三は、満足そうな笑みを口元に浮かべた。
「歳三、そなたに縁談があります。」
「申し訳ありませんが母上、その縁談はお断りさせて頂きます。」
「・・あの娘と、本気で夫婦になりたいと思っているのですか?」
そう言った歳三の母・恵津は、彼をじろりと睨んだ。
「大逆人の娘をこの家に嫁として迎え入れる事は、この母が許しません。」
「母上!」
千鶴の父・綱道は、腕の良い蘭方医だったが、“安政の大獄”で謀反人として奉行所に連れて行かれ、そこで非業の死を遂げた。
後に、彼は無実だと判ったが、“大逆人の娘”の烙印を捺された千鶴は、土方家で女中として引き取られた。
使用人達は良くしてくれたが、恵津は千鶴に冷たかった。
「歳三、あの娘と別れなさい。」
「いいえ、別れません。」
「まぁ・・」
「では、これで失礼致します。」
「お待ちなさい、まだ話は・・」
歳三は恵津の部屋から出て自室へと戻ると、溜息を吐いた。
「トシさ~ん!」
「誰かと思ったら、八郎か。何の用だ?」
「トシさんに会いに来たんだ。」
八郎はそう言うと、歳三の髪に梅の簪を挿した。
「黒髪によく似合うね。」
「そうか?」
「ねぇトシさん、何を書いているの?」
「馬鹿、見るんじゃねぇ!」
「もしかして、あの最近通っている道場主への恋文なの?」
そう言った八郎の目は据わっていた。
「てめぇには関係ねぇだろうが。」
「あるよ!トシさんは、僕のお嫁さんになるんだから!」
「男に嫁なんて言葉使うな、気色悪い!」
「あ、若様またこちらにいらっしゃったのですか!さ、奥様がお戻りにならない内に帰りましょう!」
「嫌だ~、トシさん!」
「いけません!」
「嫌~!」
歳三にしがみついたまま離れようとしない八郎に手こずっていた本山は、八郎に手刀を喰らわせた。
「では、わたくし達はこれにて。」
「お、おう・・」
失神した八郎を肩に担いだ本山が土方家から出ると、彼は八郎の姉・八重と正門ですれ違った。
「土方様・・」
「八重様、どうしてこちらに?」
「そんなにわたくしを嫁にしたくありませんか?」
「それは・・」
「良いのです。土方様には千鶴がいらっしゃるのですから。」
八重はそう言うと、目を伏せた。
「わたしは、あなたにはわたし以外の殿方と幸せになって下さい。」
「わかりました・・」
八重はそう言うと、歳三に向かって頭を下げた。
「八重様、こんにちは。」
「なれなれしくわたくしに話しかけないで・・罪人の娘の癖に。」
八重はそう言うと、千鶴を睨んだ。
「わたくしは、お前の事を土方様の恋人だと認めないわ。」
「八重様・・」
「お嬢様、これからどうなさいますか?」
「土方様から、千鶴を引き離さなくてはね。」
そう言った八重の瞳は、狂気が宿っていた。
「千鶴、少しお使いを頼まれてくれないかい?」
「はい。」
土方家の女中頭・みねからお使いを頼まれ、千鶴は土方家の裏口から外へと出た。
「毎度あり~」
(少し、遅くなってしまったわ・・)
千鶴がそんな事を思いながら家路を急いでいると、彼女の背後に渡世人風の男が数人、迫って来ている事に当の本人は全く気づいていなかった。
「あれか?」
「あぁ、中々の上玉じゃねぇか。」
男達は電光石火の動きで千鶴の鳩尾を殴り気絶させると、彼女を“ある場所”へと連れて行った。
「千鶴が、戻って来ない?」
「はい。」
「彼女が、わたくし達に黙って勝手に居なくなるなんて・・」
(千鶴・・)
「ん・・」
「目が覚めたか?」
千鶴が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。
(ここは・・)
「上玉だねぇ。数年仕込めば売れっ子になれそうだ。」
「あの・・」
「江戸から遠く離れた島原で拾い物をするとはね・・運が良い。」
「ここは、何処なのですか?」
「ここは京の島原で一番格が高い“宗津屋”さ。」
「わたしを、ここから出してください!」
「それは出来ないねぇ。」
“宗津屋”の女将・えんは、意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんたは、ここで一生暮らすんだよ。」
「嫌ぁ~!」
「へぇ、あの娘を島原に・・随分と遠い所へやったわね?」
「お嬢様、あの・・」
「暫くは身を隠していなさい。」
八重はそう言うと、金子を男に投げて寄越した。
「姉上、誰かと話していたのですか?」
「いいえ、独り言よ。」
「そうですか。」
八郎の弟・想太郎は、八重の態度に不審を抱き、すぐさま八郎の部屋へと向かった。
「兄上、よろしいですか?」
「どうした、想太郎?」
「先程、姉上が誰かとお部屋で話しているのを聞いたのです。」
「・・その話、詳しく聞かせてくれないか?」
(まさか姉上が、千鶴ちゃんを・・)
「まぁ伊庭様、歳三様なら日野の試衛館に行かれましたよ。」
「いつ頃戻りますか?」
「さぁ、それはわかりかねます。」
「そうですか・・」
(トシさん、どうして肝心な時に居ないんだよ!)