BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

真紅のカナリア 第1話

2024年02月20日 | FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説「真紅のカナリア」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「え、俺が歌うの!?」
「お願い、ミミの声が出なくなっちゃったの!」
歌手になる事を夢見て、渡英した東郷海斗だったが、現実は厳しかった。
海斗は生きる為に、英国で知り合った友人・リリーが経営しているクラブ「白鹿亭」で働く事になった。
住み込みとして働くので、海斗は「白鹿亭」の隣にあるアパートの二階の部屋で暮らす事になったが、そこは狭かった。
だが仕事も家もあるのだから、これ以上贅沢は言えない。
海斗の仕事は、ウェイトレスだった。
ただ客の料理を運んだり皿を洗ったり、厨房の掃除をしたりするもので、一日中立ちっぱなしなので仕事が終わった頃には着替えもせずにベッドに倒れ込むように朝まで眠ってしまう日々を送っていた。
従業員達は皆海斗には優しかったが、クラブの専属歌手・ミミだけは海斗に冷たく接した。
ミミは美しいブロンドの髪と蒼い瞳をした娘で、海斗と同じで歌手を夢見てロシアからやって来たのだった。
『あなたが歌手になりたい?笑わせないで。アジア人の歌姫なんて、ここじゃ通用しないわ。』
海斗は、ミミと初めて顔を合わせた時、面と向かってそう言われたので彼女の事を嫌いになった。
「リリー、今から歌えって言われても・・ドレスが・・」
「ドレスなら、わたしが用意するわ!」
こうして、海斗は声が出なくなったミミの代わりに、歌手としてクラブで歌う事になった。
「緊張するなぁ・・」
「大丈夫、あなたなら出来るわ!」
海斗は深呼吸した後、舞台へと向かった。
「ジェフリー、ここのクラブにダイヤモンドの原石が居るぞ。」
そう言って劇場の支配人と共にジェフリー=ロックフォードが入ったのは、小洒落たクラブだった。
海をイメージした、青で統一した調度品やソファに囲まれた店内には、心地良いジャズが流れていた。
「それでロブ、ダイヤモンドの原石というのは何処に?」
「このクラブでは毎晩9時に、専属歌手が歌うんだ。」
「へぇ・・」
やがて店内が暗くなり、舞台の方にスポットライトが当たった。
そこには、美しい赤毛の娘が立っていた。
バンドマンが曲を奏でると、娘は歌い出した。
その歌声は、美しく透き通るような歌声だった。
「あらぁロブ、お久しぶり、そちらの色男さんは?」
「ジェフリー=ロックフォード、我が劇場のスターさ。」
「そう。」
「リリー、あの娘は?」
「あの娘は、一週間前にわたしが雇った子です。カイトと言って、日本から来たんですよ。」
「へぇ・・」
ジェフリーの宝石のような蒼い瞳が、悪戯っぽくキラリと光った。
「ブラボー!」
海斗が客から喝采を浴びて舞台から降りようとすると、彼女は一人の男に腕を掴まれた。
(何、この人?)
「綺麗な赤毛だな。日本人は皆黒髪だと聞いたが?」
「生まれつきだよ。あんた、誰?」
「俺は、ジェフリー=ロックフォード。ロイヤル劇場のスターだ。」
「へぇ。」
「歌は何処で習った?」
「歌の家庭教師から習った。あの、腕が痛いからもう離してくれない?」
「あぁ、済まない。」
ジェフリーはそう言って慌てて海斗の腕を離すと、彼女に一枚のメモを手渡した。
「これは?」
「俺のアパートの住所と、電話番号を書いたメモだ。」
「ありがとう。」
一晩だけこの舞台に立てただけでも、海斗にとっては嬉しかった。
(夢はもう終わった。明日からは現実が待っている。)
海斗がそんな事を思いながらシャワーを浴びていると、誰かが部屋のドアをノックした。
(誰?こんな時間に・・)
慌ててバスローブを着て髪にタオルを巻いた海斗がドアを開けると、そこにはジェフリーが立っていた。
「どうして、俺がここに住んでいると知っているの?」
「リリーから聞いた。」
「え、ちょっと・・」
ジェフリーに突然ソファに押し倒され、海斗は抵抗したが、暫くすると彼は海斗の胸に顔を埋めながら眠ってしまった。
「ん・・」
ジェフリーが起きると、自分の目の前にはクラブで昨夜会った赤毛の娘がソファで眠っていた。
(俺は、一体・・)
「おはよう、カイト。ジェフリー、どうしてカイトの部屋にあなたが居るの!?」
「リリー、俺は・・」
「カイトが起きる前にわたしの部屋へ来て。」
「あぁ、わかった。」
海斗を起こさないように彼女の部屋から出たジェフリーとリリーは、リリーの家で紅茶を飲みながら、ある話をした。
「まぁ、本当なの!?」
「あぁ。」
「リリー、居る?」
「ええ、居るわよ、ハニー。どうしたの?」
「あ、あんた・・何しに来たんだよ!」
「そう怒るな。俺は、お前に良い話を持って来たんだ。」
「良い話って、何?」
「実は来月、『椿姫』の公演があってね。そのオーディションに君も・・」
「やります!」
「そうか。」
ジェフリーはそう言うと、海斗と固い握手を交わした。
「今度、ロイヤル劇場で会おう。」
「はい!」
海斗は、ジェフリーが去った後、リリーと抱き合った。
「まだオーディションまで時間があるから、今からあなたに声楽のレッスンを受けさせないとね!」
「リリー、そんな事をしなくても・・」
「カイト、何を言っているの!?運命の女神があなたに微笑むのは一度きりなのよ!」
「ありがとう、リリー。」
こうして、海斗はオーディションの日まで声楽のレッスンに通う事になった。
声楽のレッスンは、日本で家庭教師についていた頃の授業よりも本格的だった。
「あなたは筋が良いわ、この調子で頑張りなさい。」
「はい!」
ミミは、海斗が『椿姫』のオーディションを受ける事を知り、激しい嫉妬に駆られた。
(どうして、あの子が・・)
「ミミ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ!ジェフリー様が・・」
「何ですって、それは本当なの!?」
「ええ。」
ミミは行きつけのバーで、海斗がジェフリーに目を掛けられている事を友人に愚痴った。
「新入りの癖に、どうしてあの子ばかり・・」
「こんな所で腐っていないで、練習しなさいよ。」
「わかっていないわね、わたしの歌声はいつだって最高なのよ!」
『椿姫』のオーディションの日を、海斗は迎えた。
「しっかりね、カイト!」
「はい!」
ロイヤル劇場に海斗が向かうと、そこにはマルグリット役を狙う沢山のライバル達が居た。
「あら、あなたもオーディションに来たの?」
そう海斗に話し掛けて来たのは、ブロンドの少女だった。
「ええ。」
「そうなの。てっきり、劇場の使用人だと思った!」
少女の言葉に、周囲に居たライバル達がどっと笑った。
こんな事で怒ってはいけない。
「マルグリット役のオーディションを、今から開始します。番号で呼ばれたら、一人ずつ部屋へ来てください。」
オーディションの順番を海斗が待っていると、そこへジェフリーがやって来た。
「レディ達、頑張ってくれ!」
「ジェフリー様だわ!」
「いつも素敵ね!」
「ジェフリー様、わたくしを励ましに来てくださったの!?」
海斗に嫌味を言って来たブロンドの少女はそう言ってジェフリーに抱き着いたが、彼は少し嫌そうな顔をして少女から離れた。
「28番の方どうぞ。」
「はい!」
海斗は深呼吸した後、『乾杯の歌』を歌った。
「ただいま。」
「お帰り、カイト。お腹空いたでしょう?ご飯作ってあるわよ。」
オーディションの日の夜、海斗は溜息を吐きながらリリーが淹れたカモミールティーを飲んだ。
「オーディション、上手くいかなかったの?」
「上手くいったよ。でもね、ジェフリーの事が気になって・・」
「まぁ、ジェフリーに一目ぼれしたのね。」
「うん。オーディションの時、ジェフリーに抱き着いて来た子が居たんだ。」
「その子は、ジェフリーの婚約者よ。」
リリーはそう言うと、海斗の手を握った。
「大丈夫、あなたは全力を出したんだから。」
「そうだね。」
オーディションに、海斗は見事合格した。
「やったわね、カイト!」
「ありがとう、リリー。あなたのお陰だよ。」
「いいえ、あなたが実力で役を勝ち取ったのよ!」
『椿姫』の稽古に出た海斗は、そこでジェフリーと再会した。
「来たな、俺のマルグリット。」
「じゃぁ、あなたがアルフレード?」
「あぁ、今日から宜しく頼む。」
ロイヤル劇場のスター、ジェフリーと共に稽古する内に、海斗は次第に彼に惹かれていった。
そんな中、海斗の前にオーディションの時に嫌味を言って来たブロンド娘が現れた。
「わたしはアナスタシア=フォーリー。ジェフリー様から、わたし達の関係は聞いているわね?」
「ええ・・」
「わたしとジェフリー様は、いずれは結婚する関係なの。親同士が決めた縁談だけれど、わたしはジェフリー様の事を愛しているわ。」
海斗は、アナスタシアが自分に何を言おうとしているのかがわかった。
「安心して下さい、アナスタシアさん。俺は、決してジェフリーを好きになりませんから。」
「良かったわ、あなたからそんな言葉が聞けて。」
アナスタシアはそう言うと、『白鹿亭』から出て行った。
「あの子、カイトを自分の恋敵だと思っているのね。」
「ねぇリリー、アナスタシアさんって、どんな人?」
「アナスタシア様は、フォーリー侯爵家の一人娘で、ジェフリーはいずれフォーリー家の婿養子になる予定よ。」
「じゃぁ、ジェフリーは貴族なの?」
「ええ。でも、昨夜お父様がお亡くなりになられて、今ロックフォード家は相続争いで大変そうよ。」
「どうしてリリーは、そんな事を知っているの?」
「長年この商売をやっていると、色々と社交界の噂が耳に入って来るものよ。まぁ、わたしも昔、貴族社会の一員だったのよ。」
「え!?」
「型に嵌められるのが嫌で、さっさと半分カビが生えたような貴族社会から抜け出したのは、ここでの生活が気に入ったからよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「さてと、夜は長いから、わたしの身の上話でもしましょうか?」
「うん、もっとリリーの話を聞かせて!」
同じ頃、ロックフォード伯爵家では、ジェフリーの母・エセルが暖炉の前で右往左往しながら探偵からの報告を待っていた。
「お待たせ致しました、奥様。」
書斎の扉が開き、一人の男が入って来た。
皺だらけのコートを着た彼は、新聞記者兼探偵の、クリストファー=マーロウだった。
「これが、ご子息に関する報告書です。」
「ありがとう。」
「いいえ、またのごひいきに。」
エセルから金貨が詰まった袋を受け取ったマーロウことキットは、エセルに背を向けて書斎から去っていった。

(これで暫く、大家から文句を言われないな。)

クリストファー=マーロウことキットは、売れない劇作家だった。

だが数年前に『タンバレイン』を発表し、彼は一躍スターの仲間入りをしたが、作家業だけで食っていける筈もなく、キットは本業である新聞記者をしながら、探偵の副業もしていた。
(ロックフォード家は、あのおっかない奥様が家の実権を握っているから、ジェフリーが逃げ出したくなるのは当たり前だな。)
タイプライターで原稿を書きながら、キットは少し冷めた紅茶を飲んだ。
「キット、今夜ロイヤル劇場に行かないか?今、赤毛のマルグリットが凄いらしいぞ!」
「赤毛のマルグリットだって?」
「あぁ。」
キットはその日の夜、友人達と共にロイヤル劇場の『椿姫』を鑑賞した。
舞台の演出、衣装が何もかも素晴らしかったが、マーロウが最も心惹かれたのは、赤毛のマルグリットだった。
「アジア人のマルグリットなんて、珍しいな。」
「だが、彼女の才能は素晴らしい。」
マルグリットの歌声に魅了されたキットは、早速その正体を探る為、仕事に精を出し、『赤毛のマルグリット』こと、海斗のインタビュー記事を書く事に成功した。
「今日は、よろしくお願い致します。」
「はい、こちらこそよろしくお願い致します。」
海斗は少し緊張してしまい、キットに挨拶する時少し声が震えてしまった。
「どうした、カイト?」
「ジェフリー・・」
「おや、誰かと思ったら懐かしの友じゃないか!」
「キット、久し振りだな。」
「二人は、知り合いなの?」
「あぁ、俺達は同じパブリック=スクール出身なんだ。」
「そうなの。」
ジェフリーの登場により海斗の緊張は解け、キットと海斗はあっという間に打ち解けた。
「君が演じるマルグリットは素晴らしいよ、カイト。これからも頑張って欲しい。」
「ありがとうございます、キット。」
「敬語は使わなくてもいい。さてと、俺はこれで失礼するよ。これから記事を書かないといけないんでね。」
キットはロイヤル劇場を後にすると、新聞社へと戻り、タイプライターで海斗の記事を書き始めた。
「あら、この子・・」
「知っているのか?」
「ええ。この子は、『白鹿亭』の専属歌手よ。でも、この子には才能があるわ。」
「そうか。」
翌朝、キットの記事が一面に載り、海斗は名実ともにスターとなった。
『椿姫』は千秋楽を迎え、海斗はロックフォード家のパーティーに招待された。
「どう?おかしくない?」
「ええ。」
海斗は、ペールブルーのドレスを着て、胸元には真珠のネックレスをつけていた。
「何だか、緊張するなぁ・・」
「大丈夫よ、ハニー。」
迎えの車に乗り込んだ海斗は、深い溜息を吐いた。
同じ頃、ロックフォード邸には社交界デビューしたての令嬢達が、美しいドレスで着飾っていた。
「ねぇ、ジェフリー様はいらっしゃるのかしら?」
「あの方には、アナスタシア様がいらっしゃるわ。」
「でも・・」
「見て、あの方・・」
ロックフォード邸の大広間に入った海斗は、突然周囲の客達が自分に冷たい視線を向けている事に気づいた。
(何?)
「カイト、来てくれたのか?」
「ジェフリー・・」
海斗が振り向くと、そこには燕尾服姿のジェフリーが立っていた。
「ドレス、良く似合っているぞ。」
「ありがとう。」
「一曲、踊らないか?」
「うん。」
楽団がワルツを演奏すると、海斗とジェフリーは踊りの輪に加わった。
―あの方、一体どういうつもりで・・
―恥知らずもいいところだ。
―アジア人の癖に。
「周りの雑音は、気にするな。」
「うん・・」
「ジェフリー、一体これはどういうつもりなの?」
「見ての通りだ。アナスタシア、俺は君と結婚したくない。」
「どうして、そんな・・」
アナスタシアはそう叫ぶと、ジェフリーの頬を平手打ちにした。
「ジェフリー!」
「母さん・・」
「後で、わたしの部屋に来なさい!」
エセルはそう言うと、ジェフリーを睨んだ。
「母さん、俺はアナスタシアとは・・」
「あなたまさか、あのアジア人と・・」
「カイトをそんな風に言うな。」
「この家を捨てるつもりなら、そうしなさい!」
「わかった。」
ロックフォード邸から『白鹿亭』へと戻った海斗は、溜息を吐いた。
「ただいま。」
「お帰り、カイト。どうしたの、浮かない顔をして?パーティーで、何かあったの?」
「うん・・」
海斗はリリーに、ロックフォード邸で起きた事を話した。
「そうなの。これから、大変そうね。」
リリーと海斗がそんな事を話していると、突然店の外のドアが激しく叩かれた。
「誰かしら?」
「さぁね。」
リリーが恐る恐る店のドアを開けると、泥酔したジェフリーが店の中へと雪崩れ込んで来た。
「どうしたの、ジェフリー?」
「カイト、ジェフリーをそこのソファに寝かせて!」
リリーと二人がかりでジェフリーを店のソファに寝かせると、彼はそのまま朝まで起きて来なかった。
「一体どうしたのかしら?」
「さぁね。今日はお店がお休みで良かった。」
「カイト、よく眠れた?」
「まぁね。」
海斗はリリーと朝食を食べていると、店の方から大きな音がした。
「ジェフリー、大丈夫?」
「カイト、俺は・・」
「昨夜、あなたは泥酔してここに来たんだよ、憶えていない?」
「あぁ・・」
二日酔いで痛むこめかみを押さえていたジェフリーは、低く呻きながらソファに横になった。
「はい、お水。」
「ありがとう。」
「昨夜、何があったの?」
「話せば長くなる。」

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