「黒執事」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
蝉の鳴 き声が、暑さを加速させる。
不破シエルは、酷暑の中自転車で学校へと向かっていた。
明日から夏休みだが、この酷暑の中を自転車で自宅から学校へと往復するのは辛い。
「あ~、疲れた。」
シエルはそう呟きながら、自転車を自転車置き場に停めると、一羽のカラスが彼に近寄って来た。
「何だ、お前は?あっちへ行け!」
シエルが手でカラスを追い払うと、カラスは悲しそうな声で鳴いた。
(全く、今日はついていない!)
夏休みに大量の宿題が出されるわ、自転車のタイヤが坂道でパンクするわで、シエルにとっては災難な一日だった。
シエルは苛立ち紛れに祠を軽く蹴飛ばし、その場から立ち去ろうとした。
だがその時、一人の男が、シエルの進路を塞いだ。
彼は漆黒の羽根を広げ、じっと暗赤色の瞳でシエルを見つめた。
「あなたが、わたしを呼んだのですか?」
「お前、誰だ?」
「わたしは、この祠に祀ってあった神ですよ。あなた、微力ながら霊力がありますね。」
「まぁな・・」
シエルは、日本人の母と英国人の父との間に産まれた。
父は早くに亡くなってしまったと母から聞かされていたが、その母も交通事故で亡くなってしまった。
母の死後、シエルは母方の親戚に引き取られ、宮司を務めている伯父の神社の手伝いをしている。
その時、伯父からシエルは母の血筋―巫女の霊力をひいていると言われた事があった。
その所為か、シエルは幽霊や妖怪など、“人ならざるもの”が視えてしまうのだ。
まぁ、それで一度も困った事はないし、幽霊よりも生きている人間の方が怖いので、シエルはその力がある事を気にしていなかった。
だが、今自分の前に居る男の存在は邪魔で仕方ないので、シエルは男に声を掛けた。
「おい、邪魔だからそこを退け。」
「おやおや、生意気なガキですねぇ。目上の人間に対して口の利き方がなっていませんね。」
「いいから、退け!」
イライラしたシエルは男を押し退けようとしたが、彼はビクともしなかった。
「“お願いします”は?」
「お願いします・・」
男はそう言って笑うと、シエルに道を譲った。
(変な奴に絡まれたな。)
シエルがそう思いながら帰宅すると、伯父達の姿は家の中になかった。
『ハワイに行って来ます、留守番よろしく!』
リビングのダイニングテーブルの上に置かれたメモを見たシエルは、溜息を吐いた。
伯父一家が五泊六日のハワイ旅行に行った事を、シエルはすっかり忘れてしまっていた。
冷蔵庫の中には簡単に調理できる食材があるので食べる物には困らないのだが、問題は一週間後に開かれる夏祭りの準備をどうするかだった。
都会と比べて、娯楽が少ない田舎にとって夏祭りは、一大イベントなので、準備にも気合が入る。
シエルはこれまで夏祭りの準備に余り関わらなかったが、これからは町民の一員として無視出来ないので、今から夏祭りの準備を考えると憂鬱で仕方なかった。
エアコンが効いた室内で夏休みの宿題を片づけていたシエルは、誰かがこの家に近づいて来る気配を感じた。
「誰だ、そこに居るのは?」
「漸く見つけたぞ。」
シエルは、家に侵入して来た鬼に押し倒されていた。
「“鬼姫”、積年の恨み、ここで晴らしてくれようぞ!」
「汚い手で、わたしの姫様に触らないで下さい。」
頭上からバリトンの美しい声が響いた後、シエルに覆い被さっていた鬼の首が鮮血を噴き出しながら中庭へと転がっていった。
「お前は、あの時の・・」
「漸く見つけましたよ、姫様。」
そう言ってシエルを抱き締めたのは、漆黒の羽根を広げた男だった。
「さぁ、わたしの名を呼んで。」
―セバスチャン
「セバスチャン・・」
「良く出来ました。姫様には、ご褒美をあげましょうね。」
男―セバスチャンは、そう言うとシエルの唇を塞いだ。
「んっ・・」
ファーストキスを奪われたシエルだったが、セバスチャンのキスは甘くて美味しかった。
「もう、止めておきましょうか?」
「・・続けろ。」
セバスチャンとキスをしている内に、シエルは身体の奥が甘く疼くのを感じた。
「もっと欲しいのですか?」
セバスチャンの問いに、シエルは静かに頷いた。
「欲張りな方ですね。」
シエルの脳裏に、何処か懐かしい光景が浮かんだ。
―セバスチャン、ごめんね。
シエルは、何処か悲しそうな顔を浮かべているセバスチャンの頬を撫でた。
―また、会える事があったら・・
「ん・・」
シエルが目を覚ますと、隣には裸のセバスチャンが眠っていた。
朝の静寂は、シエルの悲鳴で破られた。
「な、何で・・どうして、僕が・・」
「あなたが望まれたからですよ。」
セバスチャンはそう言いながら、シエルの髪を撫でた。
「お身体は、辛くないですか?」
「あぁ、それよりもお前、どうして僕の家に居る?」
「それは、わたしがあなたの背の君だからですよ。」
「蝉?」
「蝉ではありません、わたしはあなたの夫です。」
「ふざけるな~!」
シエルの怒声は、隣町の集落まで響いた。
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、良い目覚まし時計代わりになったねぇ。」
長い銀髪と九本の尻尾をなびかせながら、一匹の妖狐がそう言ってシエルが居る集落の方を見た。
「可愛い仔猫ちゃんと会うのが楽しみだねぇ。まぁ、恋敵が居るようだけど、小生は負ける気はしないけれど。」
(一体何なんだ、あいつは!いきなり現れて、勝手な事を言って・・)
シエルはシャワーを浴びながら、自分の首筋から胸元にかけて散らばったキスマークに気づいて頬を赤らめた。
「おはようございます。本日の紅茶はアールグレイ、ティーカップはウェッジウッド、朝食はハムエッグのコブサラダ添えでございます。」
リビングに入ったシエルを、セバスチャンは笑顔で迎えた。
「お前、僕はまだこの家にお前を置くと決めた訳じゃないぞ。」
「つれない事を言うのですね。昨夜はあんなに愛し合ったというのに。」
「やめろ!」
シエルはセバスチャンが作った朝食を食べ終えると、駅前にあるスーパーへと向かった。
「姫様、こちらを。」
「その呼び方を止めろ、気色悪い!」
「それは申し訳ございません。」
そう言いながらシエルの頭上に日傘をさすセバスチャンの姿を、シエルのクラスメイト達が見ていた。
「姫様・・」
「だから、その気色悪い呼び方は止めろ!僕には、シエルという名がある!」
「では、シエル様とお呼びした方が良いのですか?」
「好きにしろ!」
そう言って耳まで赤く染めるシエルの姿は、“昔”から変わっていなかった。
(ここが、すぅぱぁですか。わたしが知らぬ間に世の中は便利になったものですね。)
「早く来い!」
「はいはい、わかりましたよ。」
シエルがスーパーで買い物を終え、店の外へと出た時、突然雷鳴が轟き、雨が降り始めた。
「ついてないな。」
「雨は、止みますよ。」
そう言ったセバスチャンの横顔は、何処か悲しそうだった。
「セバスチャン・・」
「あ、シエルじゃん!」
「買い物?てか隣の人、誰?」
セバスチャンと雨が止むのを待っていたシエルは、クラスメイト達から話し掛けられ、顔を強張らせた。
「初めまして。わたしはシエル様の遠縁の従兄で、セバスチャン=ミカエリスと申します。」
そう言ってシエルのクラスメイト達に笑みを浮かべたセバスチャンだったが、目は全く笑っていなかった。
「あ、どうも・・」
「シエル、またな!」
クラスメイト達が去った後、セバスチャンはそっとシエルの手を握った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ・・」
シエルの手を握った時、セバスチャンの脳裏に、学校で孤立しているシエルの姿が浮かんだ。
―気味が悪い子ね。
―本当。
母親の葬儀で、一人親族席に座り、親族達の陰口に耐えるシエル。
―どうするのよ、あの子?
―仕方無いだろ、他に引き取り手がないんだから。成人するまでの辛抱だ。
引き取られた伯父一家に煙たがられるシエル。
(あなたは、今まで辛い思いをしてきたのですね。)
震えるシエルの小さな肩を抱き締めたい衝動に駆られたが、セバスチャンはそれをぐっと堪えた。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。」
雨は、夜になっても止まなかった。
「セバスチャン、どうした?お前、さっきからおかしいぞ?」
「いいえ。ただ、昔の事を思い出してしまって・・」
「昔の事?」
「えぇ。シエル様は、戊辰戦争をご存知ですか?」
「まぁ、少しだけなら・・」
この町は、戊辰戦争時に旧幕府側として参戦し、家臣達やその家族は、藩主と共に運命を共にしたという。
白虎隊や娘子隊の悲劇などは、百五十年以上もの歳月が経った今でも語り継がれている。
「わたしは昔、ある藩の藩士だったのです。昔の貴女・・呼び方が紛らわしいので、ここでは、妻としますね。妻は、わたしとは幼馴染でした。あの戦の時、妻は家族と共に自害しましたが、急所を外して苦しんでいました。その時、わたしが妻の介錯をしました。」
介錯、という言葉を聞いたシエルは、生まれつき首に残っている火傷のような痣を無意識に触っていた。
「わたしもその場で自害しようと思いましたが、官軍の捕虜になってしまって・・その後の事は、憶えていません。」
「そうか。漸くこの痣の謎がわかった。セバスチャン、お前は僕の事を、“昔”の僕と重ねて見ているのか?」
「未練がましいでしょう?でも、あなたと再び会えて嬉しいと思っているんですよ。」
「そうか・・」
シエルがセバスチャンの言葉を聞いて照れ臭そうに笑った時、突然締め切っていた縁側の雨戸が勢いよく開かれた。
「漸く会えたね、仔猫ちゃん。」
そう言った銀髪の妖狐は、黄緑色の瞳でシエルを見つめた。
「何だ、貴様は!?」
「誰かと思ったら、あの時の侍かい。今世でもこの子を娶るつもりなのかい?」
「シエル様、お下がりください!」
「ヒッ、ヒッ、そんなに警戒する事ないだろう?小生はただ、仔猫ちゃんの顔を見に来ただけさぁ。」
妖狐は黒く細長い爪を伸ばすと、その先でシエルの頬を撫でた。
「あぁ、やっぱり君の霊気は冷たくて気持ち良いねぇ~」
「いい加減、わたしの姫様から離れて下さいませんか?」
「嫉妬する男は見苦しいよぉ~」
二人の男達に挟まれ、シエルは堪らず二人に向かって怒鳴った。
「うるさ~い!」
伯父一家がハワイ旅行から帰って来たのは、夏祭りまであと一週間を切った頃だった。
「お邪魔しま~す!」
「あら、いらっしゃい。シエル、お友達が来たわよ~!」
「はい・・」
シエルが玄関先へとそこにはスーパーで自分に声を掛けて来たクラスメイト達の姿があった。
「僕に何の用だ?」
「これからみんなで肝試しに行くから、一緒にどうかなって思って。」
「肝試し?」
「ほら、近くの林の奥に、廃神社があるだろ?あそこ、出るんだってさ。」
シエルはクラスメイト達からの誘いを断ろうとしたが、無理矢理彼らに廃神社まで連れて行かれた。
「うわぁ、不気味な所だなぁ。」
「本当に出たりして。」
クラスメイト達がそんな事を言いながらはしゃいでいると、社の奥から不気味な笑い声が聞こえて来た。
「今のは・・」
「やっぱり出た~!」
「おい、待て!」
笑い声を聞いたクラスメイト達は、蜘蛛の子を散らすかのように廃神社から逃げていった。
「笑い声ひとつで怯えるなんて、今時の子供は軟弱ですね。」
「セバスチャン、どうして・・」
「ここに居るのかって?あなたの事が心配で、こっそりと後をつけて来たのですよ。」
セバスチャンはそう言うと、シエルを横抱きにして廃神社の奥へと向かった。
「ここでいいでしょう。」
「何をする気だ?」
セバスチャンがシエルを連れて行ったのは、廃業したと思しきモーテルだった。
そこは、モーテルといっても建物はなく、代わりにトレーラーハウスが点在している所だった。
セバスチャンはトレーラーハウスの中に入ると、ベッドの上にシエルを寝かせた。
「何をって、ナニをですよ。」
セバスチャンは慣れた手つきでシエルの服を脱がせると、その小ぶりな乳房と乳首にしゃぶりついた。
「あっ、いやぁっ・・」
「そんな事を言っている割に、ここは濡れているようですが?」
セバスチャンがそう言いながらシエルの膣を弄っていると、そこから甘い雫が滴り落ちた。
「セバスチャン・・」
「力を抜いて下さい。」
「あぁ~!」
セバスチャンのモノが、シエルの子宮を深く穿った。
「そんなにわたしを締め付けて、感じているのですか?」
「言うなぁっ!」
「動きますよ。」
「ひぃっ!」
セバスチャンはシエルの両足を己の両肩に掛けると、腰の動きを速めた。
「いじめてしまいましたね。」
セバスチャンに激しく責められ、気絶してしまったシエルの身体を清めながら、セバスチャンは溜息を吐いた。
「ハァ~イ、ちょっとお邪魔するよぉ。」
「またあなたですか。」
セバスチャンが少し苛立ったような顔を妖狐に向けると、彼はセバスチャンの羽織の下に隠されているシエルの下半身を見ようとしたが、セバスチャンに阻まれた。
「独占欲丸出しなのは、昔から変わってないねぇ。」
「一体、何の用なのですか?」
「いえね、最近仔猫ちゃんを狙っている輩がこの辺をうろついているみたいだから、君に伝えておこうと思ってねぇ。」
「それはわざわざどうも。」
「まぁ、あいつは人だねぇ。でも、危険な臭いと気配がするんだよねぇ。」
夏祭りの前夜祭当日の朝、シエルの元に町の呉服屋がやって来た。
「ご注文の品を持って参りました。」
「おい、こんなに注文しなくてもいいだろう?」
「何をおっしゃるのです、シエル様は祭りの間だけでも着飾って頂かなければ、この町の沽券に関わります。」
「そうよシエル、あなたも年頃の娘なんだから、お洒落しないと。」
「あぁ、わかった・・」
今まで、シエルは己の“呪われた”身体の所為で着飾る事をしなかった。
「さぁ、わたしが化粧をしますから、目を閉じて。」
「わかった・・」
セバスチャンに化粧をされ、かつらをつけた自分の顔を鏡で見たシエルは、驚きの余り絶句した。
(これが、僕・・?)
「あ、出て来たぞ!」
「可愛らしい巫女さんだねぇ。」
「本当に。」
神社の境内に現れた巫女装束姿のシエルを、一人の男が鼻息を荒くしながら望遠レンズをつけたカメラで連写していた。
(嗚呼、何て可愛いんだ!)
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
蝉の鳴 き声が、暑さを加速させる。
不破シエルは、酷暑の中自転車で学校へと向かっていた。
明日から夏休みだが、この酷暑の中を自転車で自宅から学校へと往復するのは辛い。
「あ~、疲れた。」
シエルはそう呟きながら、自転車を自転車置き場に停めると、一羽のカラスが彼に近寄って来た。
「何だ、お前は?あっちへ行け!」
シエルが手でカラスを追い払うと、カラスは悲しそうな声で鳴いた。
(全く、今日はついていない!)
夏休みに大量の宿題が出されるわ、自転車のタイヤが坂道でパンクするわで、シエルにとっては災難な一日だった。
シエルは苛立ち紛れに祠を軽く蹴飛ばし、その場から立ち去ろうとした。
だがその時、一人の男が、シエルの進路を塞いだ。
彼は漆黒の羽根を広げ、じっと暗赤色の瞳でシエルを見つめた。
「あなたが、わたしを呼んだのですか?」
「お前、誰だ?」
「わたしは、この祠に祀ってあった神ですよ。あなた、微力ながら霊力がありますね。」
「まぁな・・」
シエルは、日本人の母と英国人の父との間に産まれた。
父は早くに亡くなってしまったと母から聞かされていたが、その母も交通事故で亡くなってしまった。
母の死後、シエルは母方の親戚に引き取られ、宮司を務めている伯父の神社の手伝いをしている。
その時、伯父からシエルは母の血筋―巫女の霊力をひいていると言われた事があった。
その所為か、シエルは幽霊や妖怪など、“人ならざるもの”が視えてしまうのだ。
まぁ、それで一度も困った事はないし、幽霊よりも生きている人間の方が怖いので、シエルはその力がある事を気にしていなかった。
だが、今自分の前に居る男の存在は邪魔で仕方ないので、シエルは男に声を掛けた。
「おい、邪魔だからそこを退け。」
「おやおや、生意気なガキですねぇ。目上の人間に対して口の利き方がなっていませんね。」
「いいから、退け!」
イライラしたシエルは男を押し退けようとしたが、彼はビクともしなかった。
「“お願いします”は?」
「お願いします・・」
男はそう言って笑うと、シエルに道を譲った。
(変な奴に絡まれたな。)
シエルがそう思いながら帰宅すると、伯父達の姿は家の中になかった。
『ハワイに行って来ます、留守番よろしく!』
リビングのダイニングテーブルの上に置かれたメモを見たシエルは、溜息を吐いた。
伯父一家が五泊六日のハワイ旅行に行った事を、シエルはすっかり忘れてしまっていた。
冷蔵庫の中には簡単に調理できる食材があるので食べる物には困らないのだが、問題は一週間後に開かれる夏祭りの準備をどうするかだった。
都会と比べて、娯楽が少ない田舎にとって夏祭りは、一大イベントなので、準備にも気合が入る。
シエルはこれまで夏祭りの準備に余り関わらなかったが、これからは町民の一員として無視出来ないので、今から夏祭りの準備を考えると憂鬱で仕方なかった。
エアコンが効いた室内で夏休みの宿題を片づけていたシエルは、誰かがこの家に近づいて来る気配を感じた。
「誰だ、そこに居るのは?」
「漸く見つけたぞ。」
シエルは、家に侵入して来た鬼に押し倒されていた。
「“鬼姫”、積年の恨み、ここで晴らしてくれようぞ!」
「汚い手で、わたしの姫様に触らないで下さい。」
頭上からバリトンの美しい声が響いた後、シエルに覆い被さっていた鬼の首が鮮血を噴き出しながら中庭へと転がっていった。
「お前は、あの時の・・」
「漸く見つけましたよ、姫様。」
そう言ってシエルを抱き締めたのは、漆黒の羽根を広げた男だった。
「さぁ、わたしの名を呼んで。」
―セバスチャン
「セバスチャン・・」
「良く出来ました。姫様には、ご褒美をあげましょうね。」
男―セバスチャンは、そう言うとシエルの唇を塞いだ。
「んっ・・」
ファーストキスを奪われたシエルだったが、セバスチャンのキスは甘くて美味しかった。
「もう、止めておきましょうか?」
「・・続けろ。」
セバスチャンとキスをしている内に、シエルは身体の奥が甘く疼くのを感じた。
「もっと欲しいのですか?」
セバスチャンの問いに、シエルは静かに頷いた。
「欲張りな方ですね。」
シエルの脳裏に、何処か懐かしい光景が浮かんだ。
―セバスチャン、ごめんね。
シエルは、何処か悲しそうな顔を浮かべているセバスチャンの頬を撫でた。
―また、会える事があったら・・
「ん・・」
シエルが目を覚ますと、隣には裸のセバスチャンが眠っていた。
朝の静寂は、シエルの悲鳴で破られた。
「な、何で・・どうして、僕が・・」
「あなたが望まれたからですよ。」
セバスチャンはそう言いながら、シエルの髪を撫でた。
「お身体は、辛くないですか?」
「あぁ、それよりもお前、どうして僕の家に居る?」
「それは、わたしがあなたの背の君だからですよ。」
「蝉?」
「蝉ではありません、わたしはあなたの夫です。」
「ふざけるな~!」
シエルの怒声は、隣町の集落まで響いた。
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、良い目覚まし時計代わりになったねぇ。」
長い銀髪と九本の尻尾をなびかせながら、一匹の妖狐がそう言ってシエルが居る集落の方を見た。
「可愛い仔猫ちゃんと会うのが楽しみだねぇ。まぁ、恋敵が居るようだけど、小生は負ける気はしないけれど。」
(一体何なんだ、あいつは!いきなり現れて、勝手な事を言って・・)
シエルはシャワーを浴びながら、自分の首筋から胸元にかけて散らばったキスマークに気づいて頬を赤らめた。
「おはようございます。本日の紅茶はアールグレイ、ティーカップはウェッジウッド、朝食はハムエッグのコブサラダ添えでございます。」
リビングに入ったシエルを、セバスチャンは笑顔で迎えた。
「お前、僕はまだこの家にお前を置くと決めた訳じゃないぞ。」
「つれない事を言うのですね。昨夜はあんなに愛し合ったというのに。」
「やめろ!」
シエルはセバスチャンが作った朝食を食べ終えると、駅前にあるスーパーへと向かった。
「姫様、こちらを。」
「その呼び方を止めろ、気色悪い!」
「それは申し訳ございません。」
そう言いながらシエルの頭上に日傘をさすセバスチャンの姿を、シエルのクラスメイト達が見ていた。
「姫様・・」
「だから、その気色悪い呼び方は止めろ!僕には、シエルという名がある!」
「では、シエル様とお呼びした方が良いのですか?」
「好きにしろ!」
そう言って耳まで赤く染めるシエルの姿は、“昔”から変わっていなかった。
(ここが、すぅぱぁですか。わたしが知らぬ間に世の中は便利になったものですね。)
「早く来い!」
「はいはい、わかりましたよ。」
シエルがスーパーで買い物を終え、店の外へと出た時、突然雷鳴が轟き、雨が降り始めた。
「ついてないな。」
「雨は、止みますよ。」
そう言ったセバスチャンの横顔は、何処か悲しそうだった。
「セバスチャン・・」
「あ、シエルじゃん!」
「買い物?てか隣の人、誰?」
セバスチャンと雨が止むのを待っていたシエルは、クラスメイト達から話し掛けられ、顔を強張らせた。
「初めまして。わたしはシエル様の遠縁の従兄で、セバスチャン=ミカエリスと申します。」
そう言ってシエルのクラスメイト達に笑みを浮かべたセバスチャンだったが、目は全く笑っていなかった。
「あ、どうも・・」
「シエル、またな!」
クラスメイト達が去った後、セバスチャンはそっとシエルの手を握った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ・・」
シエルの手を握った時、セバスチャンの脳裏に、学校で孤立しているシエルの姿が浮かんだ。
―気味が悪い子ね。
―本当。
母親の葬儀で、一人親族席に座り、親族達の陰口に耐えるシエル。
―どうするのよ、あの子?
―仕方無いだろ、他に引き取り手がないんだから。成人するまでの辛抱だ。
引き取られた伯父一家に煙たがられるシエル。
(あなたは、今まで辛い思いをしてきたのですね。)
震えるシエルの小さな肩を抱き締めたい衝動に駆られたが、セバスチャンはそれをぐっと堪えた。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。」
雨は、夜になっても止まなかった。
「セバスチャン、どうした?お前、さっきからおかしいぞ?」
「いいえ。ただ、昔の事を思い出してしまって・・」
「昔の事?」
「えぇ。シエル様は、戊辰戦争をご存知ですか?」
「まぁ、少しだけなら・・」
この町は、戊辰戦争時に旧幕府側として参戦し、家臣達やその家族は、藩主と共に運命を共にしたという。
白虎隊や娘子隊の悲劇などは、百五十年以上もの歳月が経った今でも語り継がれている。
「わたしは昔、ある藩の藩士だったのです。昔の貴女・・呼び方が紛らわしいので、ここでは、妻としますね。妻は、わたしとは幼馴染でした。あの戦の時、妻は家族と共に自害しましたが、急所を外して苦しんでいました。その時、わたしが妻の介錯をしました。」
介錯、という言葉を聞いたシエルは、生まれつき首に残っている火傷のような痣を無意識に触っていた。
「わたしもその場で自害しようと思いましたが、官軍の捕虜になってしまって・・その後の事は、憶えていません。」
「そうか。漸くこの痣の謎がわかった。セバスチャン、お前は僕の事を、“昔”の僕と重ねて見ているのか?」
「未練がましいでしょう?でも、あなたと再び会えて嬉しいと思っているんですよ。」
「そうか・・」
シエルがセバスチャンの言葉を聞いて照れ臭そうに笑った時、突然締め切っていた縁側の雨戸が勢いよく開かれた。
「漸く会えたね、仔猫ちゃん。」
そう言った銀髪の妖狐は、黄緑色の瞳でシエルを見つめた。
「何だ、貴様は!?」
「誰かと思ったら、あの時の侍かい。今世でもこの子を娶るつもりなのかい?」
「シエル様、お下がりください!」
「ヒッ、ヒッ、そんなに警戒する事ないだろう?小生はただ、仔猫ちゃんの顔を見に来ただけさぁ。」
妖狐は黒く細長い爪を伸ばすと、その先でシエルの頬を撫でた。
「あぁ、やっぱり君の霊気は冷たくて気持ち良いねぇ~」
「いい加減、わたしの姫様から離れて下さいませんか?」
「嫉妬する男は見苦しいよぉ~」
二人の男達に挟まれ、シエルは堪らず二人に向かって怒鳴った。
「うるさ~い!」
伯父一家がハワイ旅行から帰って来たのは、夏祭りまであと一週間を切った頃だった。
「お邪魔しま~す!」
「あら、いらっしゃい。シエル、お友達が来たわよ~!」
「はい・・」
シエルが玄関先へとそこにはスーパーで自分に声を掛けて来たクラスメイト達の姿があった。
「僕に何の用だ?」
「これからみんなで肝試しに行くから、一緒にどうかなって思って。」
「肝試し?」
「ほら、近くの林の奥に、廃神社があるだろ?あそこ、出るんだってさ。」
シエルはクラスメイト達からの誘いを断ろうとしたが、無理矢理彼らに廃神社まで連れて行かれた。
「うわぁ、不気味な所だなぁ。」
「本当に出たりして。」
クラスメイト達がそんな事を言いながらはしゃいでいると、社の奥から不気味な笑い声が聞こえて来た。
「今のは・・」
「やっぱり出た~!」
「おい、待て!」
笑い声を聞いたクラスメイト達は、蜘蛛の子を散らすかのように廃神社から逃げていった。
「笑い声ひとつで怯えるなんて、今時の子供は軟弱ですね。」
「セバスチャン、どうして・・」
「ここに居るのかって?あなたの事が心配で、こっそりと後をつけて来たのですよ。」
セバスチャンはそう言うと、シエルを横抱きにして廃神社の奥へと向かった。
「ここでいいでしょう。」
「何をする気だ?」
セバスチャンがシエルを連れて行ったのは、廃業したと思しきモーテルだった。
そこは、モーテルといっても建物はなく、代わりにトレーラーハウスが点在している所だった。
セバスチャンはトレーラーハウスの中に入ると、ベッドの上にシエルを寝かせた。
「何をって、ナニをですよ。」
セバスチャンは慣れた手つきでシエルの服を脱がせると、その小ぶりな乳房と乳首にしゃぶりついた。
「あっ、いやぁっ・・」
「そんな事を言っている割に、ここは濡れているようですが?」
セバスチャンがそう言いながらシエルの膣を弄っていると、そこから甘い雫が滴り落ちた。
「セバスチャン・・」
「力を抜いて下さい。」
「あぁ~!」
セバスチャンのモノが、シエルの子宮を深く穿った。
「そんなにわたしを締め付けて、感じているのですか?」
「言うなぁっ!」
「動きますよ。」
「ひぃっ!」
セバスチャンはシエルの両足を己の両肩に掛けると、腰の動きを速めた。
「いじめてしまいましたね。」
セバスチャンに激しく責められ、気絶してしまったシエルの身体を清めながら、セバスチャンは溜息を吐いた。
「ハァ~イ、ちょっとお邪魔するよぉ。」
「またあなたですか。」
セバスチャンが少し苛立ったような顔を妖狐に向けると、彼はセバスチャンの羽織の下に隠されているシエルの下半身を見ようとしたが、セバスチャンに阻まれた。
「独占欲丸出しなのは、昔から変わってないねぇ。」
「一体、何の用なのですか?」
「いえね、最近仔猫ちゃんを狙っている輩がこの辺をうろついているみたいだから、君に伝えておこうと思ってねぇ。」
「それはわざわざどうも。」
「まぁ、あいつは人だねぇ。でも、危険な臭いと気配がするんだよねぇ。」
夏祭りの前夜祭当日の朝、シエルの元に町の呉服屋がやって来た。
「ご注文の品を持って参りました。」
「おい、こんなに注文しなくてもいいだろう?」
「何をおっしゃるのです、シエル様は祭りの間だけでも着飾って頂かなければ、この町の沽券に関わります。」
「そうよシエル、あなたも年頃の娘なんだから、お洒落しないと。」
「あぁ、わかった・・」
今まで、シエルは己の“呪われた”身体の所為で着飾る事をしなかった。
「さぁ、わたしが化粧をしますから、目を閉じて。」
「わかった・・」
セバスチャンに化粧をされ、かつらをつけた自分の顔を鏡で見たシエルは、驚きの余り絶句した。
(これが、僕・・?)
「あ、出て来たぞ!」
「可愛らしい巫女さんだねぇ。」
「本当に。」
神社の境内に現れた巫女装束姿のシエルを、一人の男が鼻息を荒くしながら望遠レンズをつけたカメラで連写していた。
(嗚呼、何て可愛いんだ!)