「FLESH&BLOOD」の二次小説です。
作者様・出版社様は一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
ビセンテ=デ=サンティリャーナの朝は、一杯のコーヒーで始まる。
コーヒーの豆は、行きつけの食料品店で購入している。
コーヒーミルで程よく豆を挽き、ドリッパーにそれらを入れて、マグカップに淹れ立てのコーヒーを注ぐのは、ビセンテにとって朝のルーティーンのひとつだった。
冷蔵庫から、昨日パン屋で購入したベーグルを取り出してオーブントースターで軽く解凍し、その上に生ハムとクリームチーズを載せる。
朝の祈りを済ませた後、ビセンテはゆっくりとベーグルとコーヒーを味わった。
「おはようございます。」
「おはよう、レオ。」
自宅マンションの部屋から出て、電車から片道30分の距離にあるのが、ビセンテの“職場”だった。
煉瓦造りの瀟洒な建物の一階に入っている、“純喫茶・アルハンブラ”に入ったビセンテは、厨房に入ると慣れた手つきでチュロスを揚げた。
「今日も、行くんですか?」
「あぁ。」
チュロスを揚げた後、ビセンテは建物の地下駐車場に停めてあったキッチンカーに乗り込むと、ある場所へと向かった。
「おはよ~」
「おはよ~。ねぇ、昨日のテレビ観た?」
「観た観た!次回が最終回なんて、信じられない!」
「それな~!」
スーパーの前を通り過ぎて楽しそうに話をしている高校生達を眺めながら、ビセンテはチュロスとドーナツを揚げていた。
(こんな朝早くに、来る訳がないか・・)
「すいません、チュロス下さい。」
そんな事を思っていたビセンテの瞳に飛び込んで来たのは、美しく鮮やかな緋だった。
「300円です。」
「じゃぁ、これで。」
「どうぞ。200円のおつりになります。」
「ありがとう。」
緋い髪を揺らした少年の背中が見えなくなるまで、ビセンテはその背中を見送った。
(姫様、大きくなられて・・)
ビセンテは、少年―東郷海斗が産まれた日の事を思い出していた。
「お産まれになったぞ!」
「男か、女か!?」
「ビセンテ、お館様がお呼びですよ。」
「はい・・」
海斗が産まれた時、ビセンテだけが東郷家本邸へと呼ばれた。
「ビセンテ、うちの孫の、海斗だ。どうか、この子を守ってやってくれ。」
東郷家九代目当主・平五郎は、そう言うと女中に抱かれている海斗をビセンテに見せた。
「はい・・」
ビセンテは、海斗の腕を抱いた時、彼女を守ると心から誓ったのだった。
「海斗様、おはようございます。」
「おはよう、爺ちゃんは?」
「お館様なら、先程お出掛けになられました。」
「そう。」
「お車を出しましょうか?」
「いや、いい。」
「気を付けて、いってらっしゃいませ、姫様。」
玄関先で家人達に見送られ、海斗は東郷邸から出て、最寄駅へと向かった。
海斗は、電車で片道一時間かけて、今の高校に通っている。
その理由は、自分の家が、“普通”ではないからだ。
東郷家は、十六世紀から続く武家で、海斗の父・洋介の代となってから、その“家業”は謎のベールに包まれていた。
しかし、海斗はロンドンで発生した爆発テロで両親と弟を亡くし、父方の祖父に引き取られた時、“家業”の存在を初めて知ったのだった。
それは、東郷家が暗殺家業をして来たという事だった。
「血塗られた家業は、儂の代で終わりにしたい。だが、この世には儂らを消そうと企む輩が居る。」
「大丈夫なの、それ?」
「安心しろ、儂らを守ってくれる者達が居る。」
「それって、SPみたいなもの?」
「似たようなものかもしれないなぁ。まぁ、その者達は、儂らを支え、守ってくれておる。だから、その者達にはいつも感謝せねばならんぞ。」
(俺達を守ってくれる存在、か・・)
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様。海斗ちゃん、最近ここら辺で変質者が出ているみたいだから、気を付けてね。」
「はい。」
アルバイト先のファストフード店で勤務を終えた海斗は、従業員用出入口から外の駐輪場へと向かっていると、自分の方へと向かって来る“何か”の影に気づいた。
「へへ、姉ちゃん、遊ぼうぜぇっ!」
変質者がそう叫びながら海斗に向かって手を伸ばそうとした時、彼は何者かに後頭部を軽く殴られ、気絶した。
「今の内に早くこの場から去れ。」
「ありがとうございます!」
海斗は、自分の命の恩人に礼を言うと、その場から去った。
「姫様・・」
ビセンテは、地面に横たわる全裸男を警察署の前で捨てると、そのまま夜の闇の中へと消えていった。
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作者様・出版社様は一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
ビセンテ=デ=サンティリャーナの朝は、一杯のコーヒーで始まる。
コーヒーの豆は、行きつけの食料品店で購入している。
コーヒーミルで程よく豆を挽き、ドリッパーにそれらを入れて、マグカップに淹れ立てのコーヒーを注ぐのは、ビセンテにとって朝のルーティーンのひとつだった。
冷蔵庫から、昨日パン屋で購入したベーグルを取り出してオーブントースターで軽く解凍し、その上に生ハムとクリームチーズを載せる。
朝の祈りを済ませた後、ビセンテはゆっくりとベーグルとコーヒーを味わった。
「おはようございます。」
「おはよう、レオ。」
自宅マンションの部屋から出て、電車から片道30分の距離にあるのが、ビセンテの“職場”だった。
煉瓦造りの瀟洒な建物の一階に入っている、“純喫茶・アルハンブラ”に入ったビセンテは、厨房に入ると慣れた手つきでチュロスを揚げた。
「今日も、行くんですか?」
「あぁ。」
チュロスを揚げた後、ビセンテは建物の地下駐車場に停めてあったキッチンカーに乗り込むと、ある場所へと向かった。
「おはよ~」
「おはよ~。ねぇ、昨日のテレビ観た?」
「観た観た!次回が最終回なんて、信じられない!」
「それな~!」
スーパーの前を通り過ぎて楽しそうに話をしている高校生達を眺めながら、ビセンテはチュロスとドーナツを揚げていた。
(こんな朝早くに、来る訳がないか・・)
「すいません、チュロス下さい。」
そんな事を思っていたビセンテの瞳に飛び込んで来たのは、美しく鮮やかな緋だった。
「300円です。」
「じゃぁ、これで。」
「どうぞ。200円のおつりになります。」
「ありがとう。」
緋い髪を揺らした少年の背中が見えなくなるまで、ビセンテはその背中を見送った。
(姫様、大きくなられて・・)
ビセンテは、少年―東郷海斗が産まれた日の事を思い出していた。
「お産まれになったぞ!」
「男か、女か!?」
「ビセンテ、お館様がお呼びですよ。」
「はい・・」
海斗が産まれた時、ビセンテだけが東郷家本邸へと呼ばれた。
「ビセンテ、うちの孫の、海斗だ。どうか、この子を守ってやってくれ。」
東郷家九代目当主・平五郎は、そう言うと女中に抱かれている海斗をビセンテに見せた。
「はい・・」
ビセンテは、海斗の腕を抱いた時、彼女を守ると心から誓ったのだった。
「海斗様、おはようございます。」
「おはよう、爺ちゃんは?」
「お館様なら、先程お出掛けになられました。」
「そう。」
「お車を出しましょうか?」
「いや、いい。」
「気を付けて、いってらっしゃいませ、姫様。」
玄関先で家人達に見送られ、海斗は東郷邸から出て、最寄駅へと向かった。
海斗は、電車で片道一時間かけて、今の高校に通っている。
その理由は、自分の家が、“普通”ではないからだ。
東郷家は、十六世紀から続く武家で、海斗の父・洋介の代となってから、その“家業”は謎のベールに包まれていた。
しかし、海斗はロンドンで発生した爆発テロで両親と弟を亡くし、父方の祖父に引き取られた時、“家業”の存在を初めて知ったのだった。
それは、東郷家が暗殺家業をして来たという事だった。
「血塗られた家業は、儂の代で終わりにしたい。だが、この世には儂らを消そうと企む輩が居る。」
「大丈夫なの、それ?」
「安心しろ、儂らを守ってくれる者達が居る。」
「それって、SPみたいなもの?」
「似たようなものかもしれないなぁ。まぁ、その者達は、儂らを支え、守ってくれておる。だから、その者達にはいつも感謝せねばならんぞ。」
(俺達を守ってくれる存在、か・・)
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様。海斗ちゃん、最近ここら辺で変質者が出ているみたいだから、気を付けてね。」
「はい。」
アルバイト先のファストフード店で勤務を終えた海斗は、従業員用出入口から外の駐輪場へと向かっていると、自分の方へと向かって来る“何か”の影に気づいた。
「へへ、姉ちゃん、遊ぼうぜぇっ!」
変質者がそう叫びながら海斗に向かって手を伸ばそうとした時、彼は何者かに後頭部を軽く殴られ、気絶した。
「今の内に早くこの場から去れ。」
「ありがとうございます!」
海斗は、自分の命の恩人に礼を言うと、その場から去った。
「姫様・・」
ビセンテは、地面に横たわる全裸男を警察署の前で捨てると、そのまま夜の闇の中へと消えていった。
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