BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

禁断の果実 1

2024年12月08日 | 薄桜鬼 不倫転生昼ドラパラレル二次創作小説「禁断の果実~愛の檻 荊棘の楽園~」


「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

一部性描写含みます、苦手な方はご注意ください。

「おめでとう!」
「お幸せに~!」

晴天の空に響く鐘の音を聞きながら、雪村千鶴はタキシード姿の新郎を、切ない表情を浮かべながら見ていた。
その隣に立てたのは、自分の筈だったのに。
何故、もっと早くに会えていなかったのか。
悔やんでも仕方が無い事なのに、どうしてもそんな事を思ってしまう。
千鶴の視線を感じたのか、新郎は紫紺の瞳を彼女に向けた後、そのまま新婦と共にリムジンへと乗り込んだ。
「千鶴ちゃん、大丈夫?」
「うん。」
「そんな顔して、そう言われても信用できないわ。」
鈴鹿千は、そう言うと千鶴の肩を叩いた。
「恋の悩みなら、聞くわよ?」
「うん・・」
恩師であった土方歳三の結婚式に参列した後、千鶴は適当な言い訳をして披露宴を欠席すると、駅前の大型ショッピングモールの中にあるフードコートで、千と向かい合って座った。
「どうして、わたしじゃなかったんだろうって、思っちゃったんだ。」
「わかるよ、その気持ち。土方先生と千鶴ちゃん、ラブラブだったものね。」
「そうかな?」
「周りもさ、二人がそのまま結婚するって思っていたのよ?千鶴ちゃんが大学に入ってから、土方先生毎日送り迎えしていたし、合コンにもサークルの飲み会にも来ていたものね。千鶴ちゃん、あの頃幸せそうだったし・・」
「昔の事よ、そんなの。」
千鶴と歳三は、高校時代から恋人同士だった。
歳三は千鶴に対して少し過保護な所があったが、それでも彼と一緒に居られるだけで幸せだった。
大学を卒業した千鶴は、社会人として慣れない仕事に奮闘している内に、歳三と連絡を取り合う事が次第に少なくなっていった。
「自業自得、だよね。きっとあの人、わたしに飽きて・・」
「それは違うわよ、千鶴ちゃん。」
千はそう言うと、千鶴の手を握った。
「土方先生ね、千鶴ちゃんと急に連絡が取れなくなって心配していたのよ。」
「そうなの・・」
あの頃―千鶴が社会人として忙殺されている中、実家から母が倒れたという連絡を受け、実家がある福島へと向かった。
「残念ですが、お母様は肺癌のステージⅣです。手術は出来ませんので、今後は抗癌剤での治療を・・」
それからは、東京と福島の実家を往復する日々を送った。
仕事と母の看病で、千鶴の心は次第に疲弊していった。
母が亡くなったのは、クリスマス=イヴだった。
千鶴は母の葬儀を終えて自宅に戻った後、そのまま仕事を一週間休んだ。
漸く心身共に健康を取り戻した千鶴の元に、歳三が結婚するという知らせが届いたのは、奇しくも母の命日と同じ、クリスマス=イヴだった。
本当は、出席したくなかった。
だが、歳三の顔を見ておきたかった。
その隣に、自分が立っていなくても。
「もう帰ろうか?」
「うん。お千ちゃん、今日は本当にありがとう。」
フードコートの前で千と別れた千鶴は、時間がまだあるので映画館へ行く事にした。
そこには、前から観たかった映画が上映していた。
身分違いの同性同士が結ばれるというラブ・ストーリーなのだが、千鶴はいつしか相手役の俳優を歳三と重ねていた。
悲劇的な結末を迎えた二人の物語が終わり、千鶴はハンカチで目頭を押さえながらエンドロールを観終わった後、席を立った。
「千鶴ちゃん。」
「沖田さん・・」
「どうしてここに居るのかっていう顔しているね?まぁ、土方さんの結婚式なんてつまんなかったから、途中で抜け出して来たんだ。」
「そう、ですか。」
「ねぇ、もしかして泣いているの?」
「いいえ。この涙はさっき観た映画の所為です。」
「誰もそんな事聞いていないよ。でもさ、土方さんは酷いよね、いくら家と会社の為に好きでもない女と政略結婚するなんて。」
「それ、本当ですか?」
「あれ、知らなかったんだ。まぁ、あの人は肝心な事はいっつも言わないよね。」
総司は一気にそう捲し立てた後、スーツが汚れるのも構わずフライドポテトの油で汚れた手をスーツのズボンになすりつけた。
「土方さんの実家、最近業績が悪くてね、厚労省の官僚と政略結婚するかわりに、君と別れるよう、相手の親から迫られたんだ。」
だからさ、と総司は千鶴の耳元でこう囁いた。
“奪っても、いいんじゃない?”
「そんな事・・」
「あのさぁ、いい加減自分に素直になりなよ?土方さんは、千鶴ちゃんの事をまだ好きだと思うよ。」
「え・・」
「僕が伝えたかったのはそれだけだから、じゃぁね。」
総司はそう言うと、ヒラヒラと千鶴に向かって手を振って去っていった。
“奪っても、いいんじゃない?”
帰宅し、パーティー用に少し派手に塗ったマスカラとアイライン、アイシャドウを落としながら千鶴は浴室で溜息を吐いた。
もう自分の恋人ではなくなった男を、奪えなんて。
総司は、一体何を考えているのだろう―そう思いながら千鶴がドライヤーで髪を乾かしていると、バッグの中に入れていたスマホがけたたましくLINEの着信を告げた。
(え・・)
画面には、“歳三さん”と表示されていた。
「はい・・」
『出てくれねぇんじゃねぇかと思った。』
そう言ったあの人の声は、震えていた。
「どうして・・」
『総司から、俺の事情は聞いただろう?』
“今度、二人きりで会わねぇか?”―千鶴は、あの人からの誘いに、迷いなく“はい”と答えた。
待ち合わせ場所は、渋谷のハチ公前だった。
千鶴はクローゼットから藤色のワンピースと白のピンヒールを取り出すと、朝起きて顔を洗ってから念入りに化粧をした。
「待ちましたか?」
「いや、今来た所だ。」
そう言った歳三は、白の開襟シャツに水色のジャケット、ブルーデニムと黒のスニーカーという、ラフな格好だった。
「あの、これから何処へ?」
「着けばわかる。」
歳三は、愛車のRX7に千鶴を乗せて、学生時代に良くデートをしていた遊園地へと向かった。
「うわぁ、懐かしい。」
「ここ、今月末で閉園なんだと。」
「そうなんですか・・」
「まぁ、こういったこぢんまりとした遊園地がなくなるのは寂しいが、最後に、お前と二人だけで楽しもうと思ってな。」
「歳三さん・・」
「そんな顔をするな。」
ジェットコースターやメリーゴーランド、ゴーカートなどの乗り物をひと通り楽しんだ後、二人が向かったのは、観覧車だった。
「ここから見る景色も、見納めだな。」
「はい。あの、奥様には・・」
「あいつは、親から俺とお前の関係を聞いて知っている。まぁ、向こうにも男が居るからな。」
「え・・」
「俺達は、互いの利害が一致した、ただそれだけの理由で結婚しただけだ。あいつは、“愛していない女と一緒に居るよりも、昔の恋人と会った方が楽しいでしょ?”って、俺を送り出してくれたんだ。」
「じゃぁ、歳三さんは・・」
「お前の事を、今でも愛している。」
そう言った歳三の瞳には、迷いがなかった。
遊園地から出た二人は、近くにあるラブホテルへと向かった。
「あの・・」
「何だ、ここまで来て怖気づいたのか?」
「いいえ・・」
それ以上、歳三と一緒に居るのが気まずくて、千鶴は浴室へと向かった。
(嫌だ、さっき手を握られただけで・・)
千鶴がシャワーを浴びながらそっと自分の陰部に触れると、そこは既に濡れていた。
「千鶴、入るぞ。」
「えっ」
浴室のドアが開けられ、腰にタオルを巻いた歳三が中に入って来た。
「そんなに驚く事はねぇだろう?お互いの裸を見るのは初めてじゃねぇんだから。」
歳三はそう言って笑うと、千鶴の中を指で激しく掻き回した。
「ああっ、ダメ!」
「濡れている癖に、何を言っていやがる。」
歳三は千鶴の陰核を激しく弾いた。
「そろそろだな・・」
歳三は己のものにコンドームをつけると、千鶴の中へと入った。
子宮を奥まで貫かれ、千鶴は潮を吹いて絶頂に達した。
歳三は千鶴がイッても、激しく彼女を責め立てた。
「ああ~!」
コンドームに包まれた歳三のものが自分の中で爆ぜるのを感じた千鶴は、ゆっくりと彼が自分の中から出て行くのを感じて思わず溜息を吐いた。
「どうした、まだ足りねぇか?」
「もっと、欲しいです・・」
「しょうがねぇな・・」
その日、二人は朝まで愛し合った。
「別れたくねぇな。」
「わたしもです。」
歳三は千鶴を彼女の自宅に近い最寄駅まで送った後、そのまま帰宅しようとしたが、千鶴を帰したくなくて、人気のない立体駐車場に車を停めた。
「ん、やぁぁ!」
「お前の愛液でシートがビチョビチョだぜ?」
歳三は千鶴を騎乗位で下から激しく突き上げると、コンドーム越しに彼女の子宮へ欲望を吐き出した。
「また会おうか?」
「はい・・」
その日は身体の火照りは止まらず、仕事が終わって帰宅した後、千鶴は初めて自分を慰めた。
「歳三さん・・」
歳三は、今どうしているのだろうか。
自分を抱いた時のように、妻を抱いているのだろうか。

(会いたい、歳三さん・・)

千鶴の目から、涙が一筋流れた。

「おはようございます。」
「おはよう、千鶴ちゃん。昨夜はよく眠れた?」
「うん。」
「今日は大事なプレゼンだものね。大事な日の時こそ、しっかり睡眠を取らないとね。」
「そうね。」
千鶴はそんな事を同僚と話していると、そこへ自分達の上司である歳三が部屋に入って来た。
「みんな、もうプレゼンの準備は出来たか?」
「はい。」
「そうか。」
この日、千鶴達の会社は社運を賭けた会議を開く予定だった。
例年ならば会議室で全社員が集まるのだが、コロナ禍でリモート会議という形で開くことになった。
「何だか、はじめてから色々とわからねぇな・・」
「部長、ここはわたしに任せて下さい。」
千鶴はそう言うと、手早くズームの設定をした。
「助かったぜ。」
「いいえ。」
社内初のリモート会議は、滞りなく終わった。
「はぁ、疲れた!」
「みんな、お疲れさん。これは俺の奢りだから、好きな物食ってくれ!」
「ありがとうございます~!」
「部長、太っ腹!」
昼食時、歳三は千鶴達の分のランチを奢ってくれた。
「部長って、厳しい所もあるけれど、みんなに優しいよね。」
「そうだね。」
「まぁ、最近結婚したけれど、奥さんと余り上手くいっていないみたい。」
「へぇ・・」
「外に男が居るっていう噂よ。」
「そうなの。」
女というものは、噂好きな生き物だなと、千鶴はカフェオレを飲みながらそう思った。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様~」
終業後、千鶴が更衣室から出ようとした時、外の廊下で誰かが言い争う声が聞こえて来た。
「今日は大事な日なのよ、わかっているの!」
「あぁ、わかっているよ。」
「じゃぁ、どうしてそんな日に仕事を入れるのよ、信じられない!」
「あのなぁ、俺にだって仕事があるんだよ!」
更衣室のドアからそっと廊下を覗くと、そこには歳三が妻と思しき女性と激しく口論している姿があった。
“奥さんと上手くいっていないみたい。”
ランチの時の、同僚の言葉が千鶴の脳裏に甦った。
暫く千鶴が更衣室の中で二人の様子を見ていると、彼らは既に廊下から去った後だった。
(気まずいなぁ・・)
そう思いながら千鶴がエレベーターを待っていると、そこへ一人の女子社員がやって来た。
「あら雪村さん、まだ居たの?」
「えぇ、ちょっと仕事が溜まっていて・・」
「そう。今日は、電車で帰るんだ?」
「そう・・だけど。」
「へぇぇ・・部長に車で送って貰えばいいのに。」
女子社員はそう言って意地の悪い笑みを浮かべると、千鶴の前から去った。
「ただいま・・」
 会社から出て自宅マンションがある最寄駅までいつもは電車で片道一時間位かかるというのに、その日は人身事故があり、その所為で一時間も遅れてしまった。
千鶴がマンションの部屋に帰宅したのは、夜の十時過ぎだった。
帰宅するなり千鶴は疲れた身体を抱えながらシャワーを浴びた後、そのまま髪を乾かさずに眠ってしまった。
翌朝、彼女は誰かが玄関のドアをノックしている音で目が覚めた。
(誰だろ、こんな朝早くに・・)
そう思いながら千鶴がインターフォンの画面を見ると、そこには見知らぬ男性が映っていた。
千鶴が恐怖で息を潜めていると、その男性は舌打ちして去っていった。
暫く恐怖で千鶴は動けなかったが、もしかしたら廊下であの男が待ち伏せているのかもしれないと思うと、不安で出勤出来なかった。
なので、体調不良だと適当な嘘を吐いて、その日は会社を休んだ。
すると、歳三からLINEが来た。
『大丈夫か?』
『はい、実は・・』
千鶴が今朝起きた事を歳三にLINEで報告すると、彼は、“今から行く”という返事を送って来た。
『来ないでいいです。』
『わかった。』
それから、歳三からのLINEは途絶えた。
「雪村さんが風邪で休むなんて珍しいよね。」
「本当ね。」
女子社員達がそんな話を給湯室でしているのを、外回りから帰った相馬主計が密かに聞いていた。
「土方部長、少しよろしいでしょうか?」
「どうした?」
「さっき、給湯室で・・」
「女の陰口なんざ、放っておけ。」
「ですが・・」
「そんな下らねぇもんに振り回されても、仕事の役にも立たねぇだろうが。」
「はい・・」
歳三がキーボードを忙しなく叩いていると、妻からのLINEが十件程来ていた。
そこには、“今どこ?”、“誰と居るの?”、“返事くらいしてよ”というものばかりだった。
いちいち返信しても面倒なので、歳三はそのままスマホを鞄の中に放り投げた。
「もう、どうして出てくれないのよ!」
「放っておきなさいよ。」
「でも・・」
「あの人にとっては、義理の兄の子供の誕生パーティーなんて興味ないのよ。」
「そうよ。婿養子の癖に生意気ね。」
「皆さん、そろそろ始めましょう。」
歳三の妻・理恵は、母親達と共に甥の誕生パーティーの会場であるホテルへと入っていった。
その日の夜、歳三が帰宅したのは深夜一時過ぎだった。
「歳三さん、最近お忙しいようだけれど、家族の集まりにも顔を出して下さないと困るわぁ。」
「すいません・・」
「あなたがこの家に入れたのは、この家の為になると思ったからなのよ。少し貢献して下さらないと・・」
「はい・・」
「本当に、わかっているのかしらねぇ?」
義母の嫌味に耐え切れなくなった歳三は、そのまま家から出た。
「理恵、まだ子供は出来ないの?早くお母さん達に孫の顔を見せてくれないと・・」
「うるさいわね、わかっているわよ!」
理恵はそうヒステリックに叫ぶと、そのままダイニングから出て行った。
「静枝、お前は二人に干渉し過ぎだ。」
「我が家がおかしくなったのは、歳三さんの所為よ!」
「止さないか、そんな事を言うのは。」
「早く孫の顔が見たいわ。」
理恵の母・静枝はそう言うと溜息を吐いた。
「おはようございます。部長、今日は早いですね?」
「あぁ。今日は色々とやる事が多いんでな。」
歳三はそう言うと、千鶴にLINEを送った。
『今日は、大丈夫か?』
『はい。』
千鶴がスマホをバッグの中にしまっていると、そこへ一昨日話しかけて来た女子社員がやって来た。
「雪村さん、風邪はもういいの?」
「はい。」
「へぇぇ、てっきり嘘吐いて土方部長と密会しているのかと思ったぁ。」
「変な事、言わないでください!」
「あらぁ、ごめ~ん。」
その女子社員はそう言うと、そのまま何処かへ行ってしまった。
(何なの、あの人・・)
「雪村先輩、おはようございます!」
「おはよう、相馬君。忙しいのに、昨日は休んでしまってごめんね。」
「いえ、いいんです。」
「今日、部長は?」
「部長は、今日取引先の方と会食するそうです。」
「へぇ、そうなの。」
「それよりも先輩、さっき何か言われませんでした?」
「別に何も。どうかしたの?」
「実は昨日、給湯室で雪村先輩の事、先輩達が話しているのを聞いちゃったんです。」
「どうせまた下らない噂話でしょう。気にしない、気にしない。」
「そう、ですね。」
相馬にそう言って気にしない素振りを見せた千鶴だったが、先程の女子社員とのやり取りを思い出しては、少しモヤモヤとした思いを抱えながら仕事をした。
「さてと、昼飯どうします、先輩?」
「う~ん、どうしようかなぁ?」
「あ、千鶴ちゃん!」
「沖田さん、お久しぶりです。」
「二人共、お昼まだでしょう?最近新しく出来たビュッフェレストランが出来たんだけれど、行かない?」
「はい・・」
「ねぇ、土方さんの奥さんと、千鶴ちゃん会った事ある?」
「いいえ。」
「まぁ、上司の奥さんなんかとは滅多に会わないよねぇ。あ、このレストランで、土方さんの奥さんが良く男と密会しているんだよね。」
「え!?」
「別に驚くことないでしょ。」
「沖田さん、土方部長とは一体・・」
「土方さんと僕は、道場仲間。ま、実の兄みたいな存在だけどね。」
「そうなんですか・・」
千鶴達がランチを楽しんでいると、レストランに一組のカップルが入って来た。
「ほら、あの人が土方さんの奥さん。」
「綺麗な人ですね・・」
「でもかなりトゲがありそうだよねぇ。」
「沖田さん、失礼ですよ!」
「あ、ごめ~ん。」
総司がそう言って笑いながらコーヒーを飲んでいると、千鶴は少し怯えた顔をしながら突然周囲の様子を窺い始めた。

「どうしたの、千鶴ちゃん?」
「雪村先輩?」
コメント

希うものは 1

2024年12月08日 | 薔薇王の葬列 ヴィクトリア朝転生パラレル二次創作小説「希うものは~輪廻の螺旋~」
「薔薇王の葬列」二次創作小説です。

作者様・出版社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

「裏切り者のユダ!」
「恥を知れ!」

沿道に居る人々から石を投げつけられ、バッキンガムは刑場へと向かった。
斬首台に跪くと、そこは血で濡れていた。
唯一心残りがあるとしたら、それは―
「ヘンリー。」
耳元で聞きなれた恋人の声。
ふとバッキンガムが首を巡らせば、そこには涙を流しているリチャードの姿があった。
「地獄で先に待っていろ。必ず・・」
“また会える”
(また、あの夢か・・)
「旦那様、おはようございます。」
「熱いコーヒーをくれ。」
「かしこまりました。」
遠くで、朝を告げる鐘の音が鳴った。
かつて自分達が生きていた時代よりも、“今”の方がかなり生き易い。
食事も住居も、医療もあの時代と比べて遥かにマシになっている。
バッキンガムは、今世でも公爵として生きていた。
前世で縁があった者達―エリザベスをはじめとするウッドウィル一族や、ランカスター家、そしてプランタジネット家や、ネヴィル家の者達と、バッキンガムは再び知り合った。
しかし、バッキンガムは未だにリチャードに会えていない。
かつて己がその魂ごと愛した“半身”は、何処を捜しても居なかった。

(リチャード、何処に居る?)

必死にリチャードを捜し続けて、もう半年も経った。

『リチャードは隠れんぼが上手いからな。』

いつだったか、バッキンガムはエドワード=プランタジネットにリチャード捜しを手伝ってくれるよう頼んだら、そんな言葉が返って来た。

『まぁ、焦らずに待つ事だ。』

その日、バッキンガムは朝から仕事に忙殺されていた。
仕事が一段落して外の空気を吸いたくなった彼は、屋敷から出て薔薇園へと向かった。
白薔薇が咲き誇る中を歩きながら、バッキンガムはリチャードと初めて結ばれた日の事を思い出した。

(リチャード、あんたにもう一度会いたい・・)

バッキンガムが物思いに耽っていると、彼は一人のメイドの存在に気づいた。
彼女はその華奢な身体を質素な黒のワンピースに包み、その上に白いレースのエプロンをつけ、頭にはヘッドキャップを被っていた。
メイドの、白薔薇を摘み取る手は、良く見れば細かい切り傷のようなものがあった。

「お前、そこで何をしている?」
「申し訳ありません・・大奥様から今夜の舞踏会に飾る白薔薇を摘めと命じられたので・・」

メイドの声は、心地良いメゾソプラノだった。

その時、突然強風が吹き、メイドが頭に被っていたヘッドキャップが吹き飛ばされ、彼女の美しい黒髪と、宝石のように美しいオッドアイが露わになった。

「リチャード・・」

高貴な女だったあんたが、何故使用人をしている?

「お前とはこんな形で再会したくなかった・・ヘンリー。」

リチャードはそう言うと、目を伏せて屋敷の中へと戻っていった。


「遅かったわね!」
「申し訳ございません、大奥様。」
「まぁ、いいわ。この薔薇を花瓶に活けて頂戴。」
「はい・・」
リチャードは、溜息を吐きながらスタフォード家の花瓶に薔薇を活けた。
(どうして、俺は・・)
かつて、リチャードはバッキンガムと同じ“立場”だった。
プランタジネット侯爵家の末子として生を享けたリチャードは、何不自由ない生活と、質の高い教育を受けて育った。

その生活は、リチャードが15の時に一変した。

リチャードの母・セシリーが、宗教にはまり、侯爵家の財産を食い潰した。
その所為で一家離散し、リチャードは莫大な借金を返済する為、スタフォード公爵家でメイドとして働く事になった。
ハウスメイドとしての仕事は多く、リチャードは一日の大半を仕事に忙殺され、休める時はベッドに入る時だけだった。
「ねぇ、今夜ヘンリー様の婚約者の方がいらっしゃるとか・・」
「どんなお方なのかしら?」
「何でも、ウッドウィル家の方とか。」
「そう。」
(ウッドウィル・・まさかエリザベスの・・)
「リチャード、ヘンリー様がお呼びだよ!」
「はい。」
リチャードは、バッキンガムの部屋のドアをノックすると、中から呻き声が聞こえて来た。
「ヘンリー様?」
「リチャードか・・入れ。」
「失礼致します。」
リチャードがそう言ってバッキンガムの部屋に入ると、彼は己を慰めていた。
「何をしている?」
「あんたを抱きたくなった・・ここへ来てくれ。」
バッキンガムはリチャードの腕を掴むと、己の膝上に彼女を乗せた。
「そういう事は、婚約者にしろ。」
「わかっていないな。俺は、あんたを抱きたいと言ったんだ。」
「そんな事、あっ・・」
その日の夜、スタフォード公爵家で華やかな舞踏会が開かれた。
リチャードは招待客の合間を縫うように汚れた皿やグラスなどを下げていった。
「あ~疲れた!」
「後少しよ、頑張って!」
「リチャード、ヘンリー様がお呼びだよ!」
「はい。」
こんな忙しい時に一体何の用だろうか―リチャードがそう思いながらバッキンガムの部屋のドアをノックすると、中から扉が開き一人の青年が姿を現した。
「リチャード様・・」
「ケイツビー、何故お前がここに?」
「俺が呼んだ。」
バッキンガムはそう言うと、軽く指を鳴らした。
すると、寝室から仕立屋と思しき女性が出て来た。
「あら、誰かと思えば“グロスター公”ではありませんか?」
「ジェーン・・」
「ジェーン、リチャードに似合うドレスを選んでやってくれ。」
「かしこまりました。」
「ヘンリー、俺は・・」
「さぁ、“閣下”、こちらへ。」
半ば強引にジェーンに寝室へと連れて行かれたリチャードは、ジェーンに何着かドレスを胸の前でかざされた。
「やはり、“閣下”には紫のドレスが似合いますわね。」
「ジェーン、俺は・・」
「さぁ、コルセットをつけましょうね。」
そうしなくても、“閣下”のお身体は、コルセット要らずですけれど―ジェーンはそう言いながらも、コルセットを締める手を緩めなかった。
「わたくしの見立ては間違いなかったようね。」
ジェーンは、リチャードの美しいドレス姿を見て溜息を吐いた。
「髪は、そうね・・かつらをつけましょう。」
「失礼致します、リチャード様。」
ケイツビーに薄化粧を施され、リチャードは恐る恐る鏡を見ると、そこには絶世の美女が映っていた。
「ヘンリー様、遅いわね。」
「あんなに可愛らしいお方がお待ちなのに・・」
貴族達がそんな事を話していると、大広間に一組の男女が入って来た。
美しい紫のドレス姿の美女とヘンリーの姿は、まるで一幅の絵画のようだった。
「みんな、俺達を見ている。」
「あんたが、美しいからだ。」
バッキンガムはそう言うと、リチャードの手に口づけた。
「一曲、お願い致します。」
「お前、これは一体どういうつもりだ、ヘンリー?」
「俺はあんたとやり直したい、リチャード。」
「お前は一体何を言っているんだ?」
リチャードはそう言うと、バッキンガムを睨んだ。
「俺は、あんたしか要らない。」
バッキンガムは、軽くリチャードの手の甲にキスをした。
「あの方、誰なの?」
「確か、プランタジネット家の・・」
「何ですって!?」
バッキンガムの婚約者・キャサリンは、そう叫ぶと姉・エリザベスの方へと駆けて行った。
「お姉様!」
「どうしたの、キャサリン!」
「バッキンガム様が・・」
エリザベスは妹に泣きつかれ、バッキンガムの方を見ると、彼は謎の美女と談笑していた。
「あの方は、確か・・」
「リチャード=プランタジネット様ですよ。ほら、数年前に自殺した・・」
「そう。」
プランタジネット侯爵家の“宗教騒ぎ”の事は、まだ記憶に新しい。
宗教に入れあげ、財産を食い潰した侯爵夫人は拳銃自殺した。
まさか、その娘が、こんな場所に―
「ここは人目がある。」
「離せ。」
バッキンガムはリチャードの細腰を掴むと、大広間から出た。
「愛している、リチャード。」
寝台に入ったバッキンガムは、そう言うとリチャードを寝台の上に押し倒した。
「やめろ、俺は・・」
「あんたは、“男”でもあるが、“女”でもある。」
バッキンガムは、そう言うとリチャードのドレスの裾を捲り上げた。
「嫌だ!」
「今世は、あんたを縛る“荊棘”は何処にもない。俺は・・」
「ヘンリー、俺とお前とでは住む世界が違う。」
リチャードはそう言ってバッキンガムを押し退けようとしたが、彼の逞しい身体はビクともしなかった。
「リチャード・・」
黄金色の瞳に“女”の部分を見つめられるだけで、そこが疼くのをリチャードは感じた。
「あっ・・」
バッキンガムがその入口に指を這わせると、蜜が流れて来た。
「これだけで、こんなに濡れているのか。」
「言うな・・」
「リチャード、覚えているか?今世で、俺達が初めて会った時の事を?」
バッキンガムはリチャードの“女”の部分を愛撫しながら、転生したリチャードと初めて会った時の事を思い出していた。
あの頃自分は12か13にもならない位の子供だった。
貴族の子弟の嗜みとして通っていた剣術の稽古場で、バッキンガムは一人の剣士に注目した。
彼は、一人で何人もの剣士達を一撃で倒していた。
「凄ぇ・・」
「どんな奴なんだ?」
「両利きの剣士なんて、見た事ないわ!」
その剣士が徐に顔を覆っていた面を外すと、そこから花のかんばせが現れた。
黒絹のような美しい髪と、黒と銀の瞳をバッキンガムが見た瞬間、彼は恋に落ちた。
「あんた、名前は?」
「ガキの相手をする程、俺は暇じゃない。」
「俺はガキじゃない、バッキンガム公爵だ。俺は高貴な女が好きだ。」
「俺は女じゃない、口を慎め、ガキ。」
その剣士―リチャードは、バッキンガムの頬を軽く抓った。
「ガキ扱いするな。」
バッキンガムはそう言うと、リチャードを必ず自分の伴侶にすると、その頃から誓っていた。
時が経ち、成り上がり者の庇護下から抜け出したバッキンガムは、リチャードを捜し始めたが、その時既にプランタジネット侯爵家は倒産し一家離散していた。
だが、バッキンガムは魂の底からリチャードを求めていた。
そして遂に、リチャードを見つけたのだった。
「リチャード、愛している・・」
バッキンガムの腕の中で、リチャードは何度も蕩けた。
「着替えは俺が手伝おう。昨夜はあんたを苛め過ぎたからな。」
リチャードは、バッキンガムの言葉を聞いた後、彼の頬を軽く抓った。
「ガキが調子に乗るな。」
「そのガキに、あんたは抱かれたんだ。」
バッキンガムはそう言うと、リチャードのコルセットを締め始めた。
「リチャード様、良くお似合いですわ。」
「ジェーン、お前・・」
「お祖母様に、あんたの事を紹介しないとな・・俺の、婚約者だと。」

バッキンガムはそう言った後、口元に笑みを浮かべた。

「どういう事だ?」
リチャードがそう言ってバッキンガムを睨むと、彼はリチャードの華奢な方を抱きながら祖母が待つダイニングルームへと入っていった。
「まぁヘンリー、そちらの素敵な方はどなたなの?」
「俺の、婚約者です。お祖母様、俺はこちらのリチャード=プランタジネット嬢と結婚致します。」
「何ですって!?あなたが・・」
ミセス=スタフォードは、そう叫ぶと美しく着飾ったリチャードを見た。
「そのような事は、許しませんよ!」
「わたしはもう成人を迎えたのですよ、お祖母様。わたしはあなたの許しなどなくても、リチャードと結婚します。」
「そんな・・」
ミセス=スタフォードは、突然胸を押さえて蹲った。
「大奥様!」
「誰か、お医者様を呼んで!」
彼女が倒れた事により、スタフォード家のダイニングルームはまるで蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
「済まない、俺の所為で・・」
「気にするな。」
バッキンガムは、入って来た時と同じように、リチャードの肩を抱いてダイニングルームから出て行った。
数日後、バッキンガムはリチャードの長兄・エドワードの元を訪れた。
「リチャードが見つかった?それは、本当なのか!?」
「はい。彼女は我が家でメイドとして働いていました。」
「まさに、“灯台下暗し”だな。それで、わたしに頼みとは、一体なんだ?」
「俺とリチャードとの結婚を、許して頂きたいのです。」
「許すも何も、君なら安心して妹を任せられる!」
エドワードはそう言って、白い歯をバッキンガムに見せながら笑った。
「ところで、今日はわたしの他にお客様がいらっしゃるのですか?」
「あぁ。ジョージが来ているんだ。」
「ジョージ様が?」
リチャードの次兄・ジョージは、渡米してビジネスで成功したと、風の噂で聞いていた。
「今度、ロンドンで大きなショーをするらしい。その宣伝もかねてここへ帰って来たそうだ。」
「そうですか。」
「リチャードは、どうしている?」
「今は少し動揺しているようです。」
「無理もない。そういえば、そういえば、エリザベスが君に怒っていたぞ、縁談を潰されたと。」
「わたしには、彼女の妹は勿体無いくらいです。」
「はは、相変わらず君は嘘を吐くのが上手いな。」
エドワードは、そう言うと大声で笑った。
同じ頃、リチャードはバッキンガム公爵邸でメイドの仕事に追われていた。
「リチャード、こっちもお願いね!」
「はい。」
「ねぇ、あの子なんでしょう?」
「そうよ・・」
「まさか、あの子がねぇ・・」
「大人しい顔をして、やるわね。」
同僚のメイド達に陰口を叩かれながら、リチャードはせっせと針仕事をしていた。
そこへ、メイド長がやって来た。
「リチャード、あなたのお客様よ。」
「わたしに、ですか?」
「ええ。」
リチャードが針仕事を中断してスタフォード家の温室へと向かうと、そこにはバッキンガムの婚約者であるキャサリンが立っていた。
「キャサリン様・・」
「あなたが、まさかここでメイドをしているなんて思いもしなかったわ。」
キャサリンはそう言うと、リチャードを睨んだ。
「あなたはわたしからヘンリー様を奪おうとなさっているのでしょうけれど、わたしはあなたにはヘンリー様を渡しませんからね!」
「キャサリン様、何か誤解なさっておられるようですが、わたしは・・」
「とぼけても無駄よ!」
キャサリンはそう叫ぶと、リチャードの頬を平手で打った。
「わたしが言いたかったのはそれだけよ。」
キャサリンが温室から出て行った後も、リチャードは暫く温室に居た。
「遅かったわね。」
「申し訳ありません。」
「まぁ、いいわ。キャサリン様とヘンリー様にお茶をお出しして。」
「はい、わかりました。」
リチャードが厨房でバッキンガムとキャサリンの為に紅茶を淹れていると、そこへ一人の青年が入って来た。
「おやぁ、誰かと思ったら“ヨークの白薔薇姫”じゃないか?」
「あの、あなた様は・・」
「まぁリッチモンド様、こちらにいらっしゃったのですね。」

キャサリンはそう言った後、青年に向かって微笑んだ。
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セリアで買ったノート。

2024年12月08日 | 日記

セリアで買った、方眼掛のノート。
大切に使います。

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