表紙素材は、mabotofu様からお借りしました。
「鬼滅の刃」「天上の愛地上の恋」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
1889年1月29日深夜、マイヤーリンク。
人気のない山中を、アルルフレート=フェリックスは只管馬で駆けていた。
(どうか、間に合いますように!)
マイヤーリンクの狩猟用の館には、彼の想い人であるオーストリア=ハンガリー帝国皇太子・ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフと、彼が心中相手に選んだマリー=ヴェッツラが居る筈だ。
ルドルフが死のうとしている事にアルフレートが気づいたのは、ルドルフが己の父である皇帝の暗殺を企てようとしている事に気づいた時だった。
皇帝暗殺が失敗に終わった後、ルドルフは何かに怯えたように叫び、意識を失った。
フランツ=サルヴァトールから、ルドルフがメルクから人の頭蓋骨を―ルドルフがその手にかけて殺した、ベルトルト=バーベンブルクの頭蓋骨を取り寄せた事を知った時、アルフレートはルドルフの精神が狂気に蝕まれている事に気づいた。
ルドルフは、自分で命を絶とうとしている。
(あの方を、死なせてはいけない!)
迫りくる狂気の中で、ルドルフはアルフレートの事を―愛してやまなかった恋人の存在を忘れてしまった。
それでも、アルフレートはルドルフの元に戻りたかった―いや、戻らなければならなかった。
「ルドルフ様っ!」
不気味な程に静まり返った館の中に足を踏み入れると、そこにはマリー=ヴェッツラの遺体が転がっていた。
ルドルフは、彼女の傍らに座り、頭を片手で抱えながら、虚ろな目で、“誰か”と話していた。
「ルドルフ様、戻りました。わたしの事がわかりますか?わたしの声が聞こえますか?」
アルフレートの呼び掛けに、ルドルフはじっとアルフレートを見た後、こう言った。
「ああ・・あれは、あの声は、お前だ・・」
ルドルフはそう言ってアルフレートに微笑んで彼の唇を塞ぐと、正気を手放した。
同じ頃、一匹の鬼―化物が瀕死の重傷を負い、今にも太陽の光に焼かれ、死に絶えようとしていた。
(おのれ・・わたしはまだ・・)
化物は逃げ惑い、やがて己に相応しい“器”を見つけた。
美しく若い男―この者なら・・
「ルドルフ様?」
アルフレートがルドルフの異変に気づいたのは、彼の死の偽装工作を終えたヨハン=サルヴァトールと、ルドルフに長年仕えていた侍従・ロシェクと館の前で合流した時だった。
それまで馬車の中で眠っていたルドルフが目を覚ましたかと思うと、突然アルフレートに襲い掛かって来た。
「ルドルフ様、おやめください!」
「ルドルフ、やめろ!」
アルフレートに牙を剥いて襲い掛かるルドルフを見たヨハンとルドルフの部下・フィリップが慌てて彼を押さえたが、ルドルフは二人にも牙を剥いて威嚇して来た。
「一体、何があったんだ!?」
「わかりません、急に暴れ出して・・」
「ルドルフ様、しっかりなさって下さい!」
アルフレートはそう言って暴れるルドルフに声をかけ続けたが、ルドルフは唸るだけで何もアルフレートに答えようとしなかった。
しかし、アルフレートの上に馬乗りになったルドルフの美しい瞳から、人魚が流す美しい真珠のような涙が流れている事にアルフレートは気づいた。
「ルドルフ様?」
呆然とアルフレートがルドルフを見つめていると、ルドルフは何かに気づいたかのようにアルフレートから離れた。
(この臭い・・間違いない、あいつだ!)
しんしんと降る雪の中を、竈門炭治郎は走っていた。
彼は、自分が向かった先に己の宿敵―鬼舞辻無惨が居ると、確信していた。
だから、自分と対峙しているのが見知らぬ男だという現実を、彼は中々受け入れられなかった。
(確かに、あいつの臭いがしたのに・・)
炭治郎がそう思いながら長身の男と対峙していると、その男の蒼い瞳が、うっすらと赤くなった。
それと同時に、“あの臭い”が、男から漂って来た。
「おい、何をしている!?」
炭治郎が男に刃を振るおうとした時、一発の銃弾が彼の右肩を貫いた。
周囲を見渡すと、自分達の近くに数人の男達が自分に銃を向けている事に気づいた。
「ルドルフから離れろ!」
「違います、俺は・・」
「ルドルフ様、いけません!」
アルフレートが再び暴れ出したルドルフを押さえようとしたが、彼に顔を殴られて気絶してしまった。
「アルフレート!」
「危険です、その人から離れて!」
炭治郎がそう言いながらアルフレートをルドルフから離そうとすると、ルドルフはまるで彼を守るかのように炭治郎に向かって威嚇した。
その姿が、炭治郎には妹のそれと重なって見えた。
「ん・・ルドルフ様・・」
「大丈夫です、気絶させただけですから。」
アルフレートが目を開けると、隣には口輪をつけたルドルフが眠っていた。
「自己紹介が遅れました、俺は竈門炭治郎といいます。」