BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

鳳凰の系譜 一

2024年12月03日 | 火宵の月 異世界ロマンスファンタジーパラレル二次創作小説「鳳凰の系譜」

表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。

「火宵の月」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

「いらっしゃいませ~!」
鳳凰大陸の北に位置する町・紅牙では、今日も定食屋の看板娘・火月が、元気よく働いていた。
「火月ちゃん、ご飯おかわり!」
「は~い!」
厨房と店内を火月が忙しく行き来していると、通りの方から悲鳴が上がった。
(何だろう?)
火月がそんな事を思いながら店の外から出ようとした時、慌てて厨房の奥から出て来た女将さんに止められた。
「火月ちゃん、早く店の奥へ!」
「何があったんですか?」
「さ、早く!」
女将さんに言われるがまま、火月が店の奥へと避難すると、その直後数人の男達が店の中へと入って来た。
「何ですか、あなた方は!?」
「ここに火月という娘が居るだろう、出せ!」
「営業妨害で訴えますよ!」
女将さんは自分よりも体格が良い男達に向かってそう怒鳴ると、彼らに向かって塩を撒いた。
「クソ!」
「おぼえてろよっ!」
男達は女将さんに向かって悪態を吐きながら、店から出て行った。
「全く、迷惑な奴等だよ。皆さん、お騒がせしちゃってすいませんね!」
女将さんはそう言いながらお客さん達に謝った後、火月の元へと向かった。
「女将さん、あの人達は?」
「ごめんね、後で話すから。」
「は、はぁ・・」
話がわからず、火月は夜まで女将さんと共に店で働いた。
「火月ちゃん、今日もお疲れさん。」
「お疲れ様でした。」
店の二階にある住居部分で、火月と女将さんが互いを労っていると、下の方から誰かが激しく戸を叩く音が聞こえた。
「女将さん、僕が・・」
「いや、あたしが行くよ。」
女将さんはそう言って部屋から出て行ったが、火月は彼女の事が心配になり、階下へと降りていった。
「はいはい、そんなに騒がなくても今開けますよ。」
女将さんがそう言いながら店の戸を開けると、一人の男が覚束ない足取りで店の中に入って来た。
「え、あんた、一体・・きゃぁ~!」
「女将さん、どうしたんですか?」
火月がそう言いながら倒れた男の身体を揺さ振ると、何かが手に着いた感触がした。
「これって・・血?」
「火月ちゃん、お医者様呼んで来て!」
「は、はい!」
火月は店の裏口から外へと飛び出し、近所の町医者の元へと走った。
「こりゃ、酷い傷だ。この傷は、背後から槍で突かれたものだね。」
店に入って来た男の診察をした町医者は、そう言いながら男の傷の手当てをした。
「先生、この方は誰なのですか?」
「さあねぇ・・まぁ、暫く彼をこちらで入院させておくよ。」
「ありがとうございます、宜しくお願いします。」
町医者の診療所から店へと戻った女将さんと火月は、その夜は一睡も出来なかった。
「大丈夫だったんだろうね、あの人。」
「さぁ・・」
「今日は、店を閉めようかね。最近働き詰めだったし、偶には休むのもいいね。」
「そうですね。」
久し振りに店を閉めた火月と女将さんは、町の温泉旅館へと向かった。
「あら、いらっしゃい。」
旅館の玄関先で二人を出迎えたのは、その旅館の女将・雪子だった。
「雪ちゃん、久し振り。ねぇ、昨夜何かあったの?遠くから半鐘の音が聞こえて来たけど・・」
「あぁ、何でも、うちの近く―滝本のお屋敷街で火事があってね。それがどうやら付け火だっていうのよ。」
「付け火?」
滝本というのは、紅牙の町の外れにある、武家屋敷が建ち並ぶ所だった。
そこで火事が起きた事を、火月達は初めて知った。
「下手人は?」
「まだ捕まってないのよ。まぁでも、火元のお屋敷から逃げた人を見たって、そこの女中から聞いたわ。」
「どんな人?」
「さぁ・・でも、長身で黒い着物と袴姿だったと聞いていたわ。」
昨夜、店にやって来た男も長身で、黒い着物と袴姿だった。
「女将さん、もしかして・・」
「何の事情も知らずに、人を疑うものじゃないわ。」
「そうですね、すいません。」
「さ、昨夜の事は忘れて、ゆっくり過ごしましょう。」
「はい・・」
同じ頃、町医者の診療所で寝ていた男が、苦しそうに呻きながら布団の中から起き上がった。
「気が付いたかい?」
「ここは?」
「わたしの診療所さ。あんた昨夜、血と泥だらけになって定食屋の中に入って倒れたんだよ。」
「そうか・・」
男は背中に激痛が走り、思わず顔を顰めた。
「無理しない方がいいよ。あんたはどうやら訳有りのようだし、怪我が治るまで、ここでゆっくりと休んでおくといい。」
「かたじけない・・」
男はそう町医者に礼を言った後、目を閉じて眠った。
一方、滝本の中にある武家屋敷の中で、一人の女が険しい表情を浮かべながら扇子を己の掌に打ち付けていた。
「まだ、あやつは見つからぬのか?」
「申し訳ございませぬ、まだ・・」
「全く、我が殿は一体何を考えているのやら。あのような忌み子を引き取るなど、妾が忠告してやったのに・・恩を仇で返すような者を・・」
「奥方様、失礼致します。」
「何じゃ?」
「例の娘―火月を見つけました。」
「そうか。」
女は、口端を歪めて笑った。
「火月を必ず妾の元へ連れて来い。必ず生け捕りにせよ、よいな?」
「かしこまりました。」
自分の命が狙われている事など知らずに、火月は温泉を満喫していた。
「はぁ~、生き返った!」
「さ、久し振りにゆっくり出来たし、明日から頑張りましょう!」
「はい!」
火月達が定食屋へと戻ると、二階の住居部分が何者かに荒らされていた。
「お金は盗られていないわね。火月ちゃん、どうしたの?」
「ない・・母の形見の簪が、ない!」
「え!?」
「どうしよう、あれは、僕の母の唯一の形見なのに!」
「大丈夫よ、すぐに見つかるわ。」
火月の母の形見である簪は、女の手に握られていた。
「ご苦労だった。」
「ありがとうごぜえやす。」

男は女から金を受け取ると、屋敷から出て行った。
コメント