だぼ鯊の戯言(たわごと)
八木禧昌
磯の名前をあれこれ斟酌(しんしゃく)しだして、もうずいぶん長くなりますが、自然の景物に、何か身近なものの名前を当てはめるということは、洋の東西を問わず人類共通の知的欲求ではなかろうか、とだぼ鯊は考えます。その顕著な例は「星座」です。
宇和海に浮かぶ
スフィンクス、ピラミッド
子供時代、だぼ鯊は自分だけの秘密のルートで大屋根に上がり、寝転がって夜空を眺めるのが好きでした。その頃の空は、今よりも広く感じられ、星の数も多かったように思います。今はどうでしょう。自宅から見上げる空の面積が極端に狭く、しかも、闇夜でも異様に明るい。
舞台をエジプトの砂漠に移し、時間を一千年ほど逆戻しすると、どうでしょう、寝転がってみる天空はまさに満天の素晴らしい星空ショー。想像するだけで鳥肌が立つ思いです。
その星を結んでできるかたちを、ギリシャ神話やローマ神話に登場する事物の名、たとえば「白鳥」「射手」「乙女」「大熊」などに当てはめ約八十座が数千年連綿と語り継がれてきました。地平線まで見渡せる広大な大地ならではの素晴らしい無形文化財。その発想は「何かに似ている」という素朴な好奇心が広がったものなのです。
ところで、エジプトと言えば、小学生でも知っているのが「スフィンクス」と「ピラミッド」。
だぼ鯊なんか、まだ直接見たこともない古代遺跡なのに、きっちり脳裏にインプットされていてほとんど説明や解説不要で、それぞれがどんな形をしているか、記憶の引き出しからすぐに取り出せる不思議なインパクトがあります。
宇和海は御五神島の西に広がる「サステ」という磯群のなかに「スフィンクス」と「ピラミッド」と呼ばれる磯があります。守り神とされるスフィンクスの後方に、王の墳墓であるピラミッドが鎮座まします、という絶妙の位置関係がそっくりそのままです。
何時ごろ、誰がこれらの磯にこのような呼び名をつけられたかわかりませんが、相当すぐれたインスピレーションの持ち主が発した一言でこの磯の名は決まったのでしょう。だぼ鯊はこの磯のゴッドファーザー(名付け親)に敬意と尊敬の念を抱かずにはおれません。
原題が横文字でカタカナ表記になった磯や波止の例は、神戸港のメリケン波止場(アメリカンピアー)、古の大阪築港白オルガン、青オルガン、先年話題になったソビエト(「聳えとる」とだぼ鯊は理解)などが思い出されますが「スフィンクスとピラミッド」のような明解なものにお目に掛かったことがありません。
全関西磯釣連盟・関西竿友会の二摩哲司さんがある年の一月にスフィンクスで釣られたグレの大物は印象に残るものでしたが、その後も何度も登場しており、どれほど名礁なのか言わずもがなでしょう。
由良半島の嵐に渡船が初めて開業したのが昭和四十一年。爾来半世紀。そのころからスフィンクスとピラミッドの磯の名称があったということは、昭和五十年にまとめた全関西磯釣連盟編集部の資料に両磯名が収まっていますから、容易に推測できます。釣り場としての実力もあり、宇和海・由良半島の磯釣りに大きく貢献してきた功労者といえるのではないでしょうか。(イラストも・からくさ文庫主宰)
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