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映画『東京家族』について

改元記念(6) 三の丸尚蔵館,糸箪笥 

2019年03月21日 | 映画『東京家族』
 実を言うと、先日書いた迎賓館へ行った暫く前に、三の丸尚蔵館の特別展も拝観していた。その時は大変混雑していたのと、時間がなかったのとで、駆け足の鑑賞であった。そのため、まだ期日はあるので後日あらためて訪れてから記事を書こうと思っている。今日は、ご展示品のひとつ、「糸箪笥」に関するメモだけを、簡単に載せておく。

 私が拝見した時は、十三種類の絹糸の束がご展示されていた。


あけび (鉄)
柊 (鉄)
白樫 (鉄)
団栗〔どんぐり〕 (鉄)
紫根〔しこん〕 (椿灰)
現の証拠 (鉄)



 

 団栗が二種類、紫根が七種類で、計十三種類である。植物で染められた糸は繊細で優しい色をしている。特に、七種類ある紫根の、淡い紫から濃い色へ移っていく gradation は美しい。括弧内の鉄や椿灰は媒染剤である。



【媒染】 染料が直接染着しない場合に、繊維を媒染剤の溶液にひたし、これをしみこませて染料を固着させる染色法。 『広辞苑第六版』(最新の第七版は買っていないので、八版が出たら必ず買います ^Ⅲ^)







 また、萬葉集にこんな歌がある。

紫草(むらさき)は灰さすものぞ。海石榴市(つばいち)の八十(やそ)の衢(ちまた)に会へる子や。誰


 “紫草の汁には、椿の灰の汁を注して染めるという、その名を持った椿市の、人のたくさん行き交う、四通八達(しつうはったつ)の辻で出会うたお前さんは、一体誰だ。名を名告って聞かせなさい。” 折口信夫訳




 






 そして、志村ふくみさんの『小裂帖』には、「裂(きれ)によせて」という詩が載っている。




なぜ、ひとは
ガラス絵や、貝殻や、玉(ぎょく)をみるように
織物をみようとしないのだろう

どんな材料で
どうして染め
どのようにして機にかけ
織り上げたのかと
まず問いかける

まるでそういう仕掛しか
織物にないかのように

私はまず その仕掛から
織物を解きほぐして
鳥籠の上で ヒラヒラする細長い旗や
マッチ箱みたいに小さな裂を

もっと身近に
掌にのせ、陽に透かして
かざしてみたい
螺鈿の筥(はこ)に宝石のように
しまってみたい

そうすればきっと
それらの裂の中から
色の粉々が空中に舞い散ったり
糸のあわいから、響いては消えてゆく
かすかなさざめきが
聞こえるかもしれない

裂は何か姿を変えたがっているかもしれない
色も、少し光の領域にはみ出したがっているかもしれない

紺の甕(かめ)のぞきまで
藍の一家眷族(けんぞく)が
しんから心を寄せ合うと
汀に打ちよせる漣(さざなみ)の光になる

紅からうす紅まで
紅花の一片(ひとひら)ずつが
そっと顔をよせ合うと
北国の朝咲きの花になる

それからまた
裂の中に、まるでからくりみたいに
子犬の十字架
五重の塔や、お姫さん
利休鼠の夕顔や
竹薮に雪までそえて
かくしてあるのが、わかるかもしれない


(昭和五十二年)

























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