休校中の宿題、多すぎる? 「学力に差が出る…」増量求める保護者も
「切り離す、切り離す、切り離す…」。B5判の大学ノートには漢字やアルファベット、計算問題が細かい文字でびっしりと書かれていた。熊本県央の中学1年の男子生徒は、新型コロナウイルスで休校期間中の宿題で「1行も空けず隙間なく書くこと」を指示された。母親は「勉強が苦痛になりはしないか心配」と、「SNSこちら編集局」に宿題の多さを疑問視する声を寄せた。
男子生徒は大量のプリントのほか、大学ノートを毎日2ページずつ埋める「自学ノート」が休校中の日課。内容は自由だが、6月の学校再開までに計70ページを埋める必要があった。
「ノートを埋めることが目的で、勉強の面白さを見いだせない」。保護者や生徒の間ではそんな声が上がった。宿題が終わらないことを苦に「学校に行くのが怖い」と言う子どももいるという。
宿題や定期試験については、東京都千代田区の麹町中が廃止するなどした大胆な改革が注目を集めた。熊本市教育委員を務める苫野一徳・熊本大准教授も宿題論議に一石を投じる。
小学5年の長女に勉強を教える母親(右)。「宿題は必要だが、丸投げでは困る」と話す=熊本市
「小学校では、一律に与えられた宿題と学力との相関関係はほぼゼロとのエビデンス(証拠)がある」と苫野氏。むしろ、漢字の書き取りで先に部首だけを書くなど、「やっつけ仕事」のような習慣が身に付くことを懸念する。 その上で「個に応じたレベル、ペース、学び方をしっかり保障し、学びを個別化すれば子どもたちは短い時間で、ぐっと学びを深めていくことができる」と提言する。
「『日本の国土を経度、緯度を用いて表しなさい』って。経度って縦横どっちだっけ」 熊本市の女性会社員(34)は新型コロナウイルスによる休校期間中、小学5年の長女の宿題に付き合うのが日課になった。長女の小学校はオンライン授業はなく健康観察だけ。長女は新しい分野の内容に「分からない所が分からない」という。
女性は仕事から帰宅する午後3時ごろから長女に付きっきり。小数の掛け算の教え方は動画投稿サイトユーチューブで学んだ。理解できない長女をしかって泣かせ、自分もイライラして泣くことがあったという。
休校中の生活態度で学力に相当差がつく。中学受験も考えており、宿題はあった方がいい」と女性。一方「家庭に丸投げでは困る」と不満を口にした。 熊日には「宿題が多い」という声の
一方、学校再開後の学力格差を心配し、宿題の“増量”を望む声も寄せられている。 同市の小学生の母親によると、4月の臨時登校日に出された宿題は国語と算数のプリント各3~4枚と、社会科の地図記号を覚える程度。「宿題だけでは足りない」と通信教育の教材や市販のドリルも購入したという。
同市のある中学校は4月下旬、保護者に対し休校中の学習に関するアンケートを実施。「宿題を増やしてほしい」「1日数十分で終わる課題では不安」という声が寄せられ、校長は「『足りない』と感じる保護者が6~7割はいた」と話す。
一方、先生はどうか。40代の男性小学教諭は「休校の遅れをカバーしたいという焦りが、宿題の多さに結び付いている」と告白。40代の女性中学教諭は「コミュニケーション不足で宿題の目的を説明できていない」と自戒し、「今回、宿題を出す側がいかに工夫すべきか学んだ」と話した。
教員の授業づくりなどを支援する熊本市教育センターの森江一史所長は「みんな一律に宿題を出すことに課題があるのは事実。本当は一人一人に応じた質と量が望ましい」と認める。一方で「(宿題は)生活リズムを整える意義があり、学力向上だけが目的ではない」とも話す。 熊本市内の小中学校は、学校再開後に児童生徒と個別に面談し、休校期間中の過ごし方についてアンケートも実施する予定。森江所長は「子どもの実態を把握し、休校中に勉強ができていない子には個別かつ丁寧にフォローしたい」と強調した。(福井一基、九重陽平、豊田宏美)