いはざりき今こんまでの空の雲
月日へだてゝ物おもへとは →摂政太政大臣
思い出よ誰かねごとの末ならん
昨日の雲のあと山風 家隆
忘行人ゆへ空をながむれば
絶/\にこそ雲もみえけれ →刑部卿範兼
わすれなばいけらん物と思ひしに 物と→物かと
それもかなはぬ此世なりけり 殷富門院大輔
うとくなる人を何とてうらむらん
しら◯ずしらぬ折もありしに 西行 しら◯ず→しられず
今ぞしる思ひ出よと契りしは
忘れんとての情なりけり 同
あいみしはむかしがたりのうつゝにて
其かねごとを夢になせとや →土御門内大臣
哀なる心のやみのゆかりとも
みし世の夢を誰かさだめん 公経 みし世の→見し夜の
契りきやあかぬ別に露をきし
暁斗かたみなれとは 通具
恨わびまたじ今はの身なれども
思ひなれにし夕暮の空 寂蓮
七十
わすれじのことの葉いかに成にけん
◯めし暮は秋風ぞふく ◯めし→頼めし →宜秋門院丹後
思ひかねうちぬるよひもありなまし
吹だにすさめ庭の松風 →摂政太政大臣
さらでだにうらみんと思ふわぎもこが
衣のすそに秋風ぞふく 有家
心にはいつも秋なるねざめかな
身にしむ風のいくよともなく →よみ人知らず
哀とてとふ人のなどなかるらん
物おもふやどの荻の上風 西行
我恋は今はかぎりと夕まぐれ 今は→今を
荻吹風の音づて行 俊恵 音づて→音づれて
今はたゞ心の◯にきく物を 心の◯に→心の外に
しらずがほなる荻のうは風 式子内親王
いつもきく物とやひとの思ふらん
こぬ夕暮の松風のこゑ →摂政太政大臣
※◯読めない字
※下線は穂久邇文庫蔵本(岩波文庫)との差異。