新古今和歌集の部屋

時雨亭方丈記 福原遷都2


をらむ。つかさくらゐに思ひをかけ主君のかげを
たのむ程の人は一日なりともとくうつろはむとはげ
み時をうしなひ世にあまされ○○○なき物は
うれへ○○とまりをり。軒をあらそひし人のすまゐ
日をへつゝあれ行。家はこぼたれて淀河にうかび
地はめのまへに畠となる。人の心もあらたまりてたゞ
馬鞍をのみ重○す。牛車を用とする人なし。
西南海の所領を○ひて東北國の庄園を
このまず。其時をのづからのたより有りて津の國
今の京にいたれり。所の有様を見るに其地ほど

(前田家本)
居らむ。官、位に思ひを懸け、主君の蔭を
頼むほどの人は、一日なりとも疾く遷ろはんと励
み、時を失ひて、期する所無き者は、
憂へながら留まり居り。軒を争ひし人の住まひ、
日を経つゝ荒れゆく。家は毀たれて淀川に浮かび、
地は目の前に畠となる。人の心皆改まりて、たゞ皆
馬鞍をのみ重くす。牛車を用する者無し。
西南海の領所を願ひて、東北國の荘薗を
好まず。その時、自ずから頼りありて、津の國の
今の京に至る。所の有樣を見るに、その地、ほど

(大福光寺本)
ヲラム。ツカサクラヰニ思ヲカケ主君ノカケヲ
タノムホトノ人ハ一日ナリトモトクウツロハムトハケ
ミ時ヲウシナヒ世ニアマサレテコスル所ナキモノハ
ウレヘナカラトマリヲリノキヲアラソヒシ人ノスマヒ
日ヲヘツゝアレユク。家ハコホタレテ淀河ニウカヒ
地ハメノマヘニ畠トナル。人ノ心ミナアラタマリテタゝ
馬クラヲノミヲモクス。ウシクルマヲヨウスル人ナシ。
西南海ノ領所ヲネカヒテ東北ノ荘薗ヲ
コノマス。ソノ時ヲノツカラ事ノタヨリアリテツノクニノ
今ノ京ニイタレリ。所ノアリサマヲミルニ
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