このおはします所は、人離れ里遠き島の中なり。海づらよりは少しひきいりて、山かげにかたそへて、大きやかなるいはほのそばだてるをたよりにて、松の柱にあしふけるらうなど、けしきばかりことそぎたり。
まことにしばのいほりのたゞしばしと、かりそめに見えたる御やどりなれど、さるかたになまめかしくゆゑづきてしなさせ給へり。
みなせどのおぼしいづるも夢のやうになん。はる/"\と見やるゝ海のてうぼう、二千里の外も殘りなきここちする今更めきたり。潮風のいとこちたく吹きくるを聞しめして、
われこそはにひじまもりよおきの海の荒きなみかぜ心して吹け
同じ世にまたすみのえの月や見ん今日こそよそにおきの島守
※海面より少し引き入りて
源氏物語 須磨 おはすべき所は、 行平の中納言の、「 藻塩垂れつつ」侘びける家居近きわたりなりけり。海づらはやや入りて、あはれにすごげなる山中なり。
※しばのいほりのたゞしばしと、かりそめに見えたる御やどりなれど
新古今和歌集 第十八 雜歌下 題しらず 西行法師 何處にも住まれずは唯住まであらむ柴のいほりの暫しなる世に
※二千里の外も
白氏文集卷十四 八月十五日夜、禁中獨直對月憶元九 白居易
銀臺金闕夕沈沈 獨宿相思在翰林
三五夜中新月色 二千里外故人心
渚宮東面煙波冷 浴殿西頭鍾漏深
猶恐光不同見 江陵卑湿足秋陰
※こころしてふけ
たなばたの衣のつまはこころして吹きなかへしそ秋の初風 小辨
ことしげき世を厭れにしみ山邊にあらしの風も心して吹け 寂然法師
千世までも心して吹けもみぢ葉を神もをしほの山おろしの 風藤原伊家