京都堀河通 風俗博物館
心にくゝおくまりたるけはひはたちをくれ、いまめ
かしきことをこのみたるわたりにて、やむごとな
き御かた/"\のみ給とて、このとぐちはしめ給
へるなるべし。さしもあるまじきことなれど、さ
すがにおかしうおぼされて、いづれならんとむね
源詞
うちつぶれて、あふきをとられてからきめをみる
とうちおほとけたるこゑにいひなして、よりゐ
女詞
たまへり。あやしうもさまかへたるこまうどかな
といらふるは、心しらぬにやあらん。いらへはせで、た
源
だとき/"\うちなげくけはひするかたにより
き
かゝりて、木ちやうごしにてをとらへて
源
あづさゆみいるさのやまにまどふかなほ
のみし月のかげやみゆると。なにゆへかとをし
あてにの給を、えしのばぬなるべし
朧月
こゝろいるかたならませはゆみはりの
月なきそらにまよはましやは。といふこ
ゑたゞそれなり。いとうれしきものから
心憎くく、奥まりたる気配は立ち遅れ、今めかしき事を、好みたるわたり
にて、止む事無き御方々の、見給ふとて、この戸口は閉め給へるなるべし。
さしもあるまじき事なれど、流石におかしうおぼされて、いづれならんと、
胸打潰れて、「扇を取られてからきめを見る」と、打おほどけたる声に言
ひなして、寄りゐ給へり。「あやしうもさま変へたる高麗人(こまうど)
かな」と答(いら)ふるは、心知らぬにやあらん。答へはせで、ただ、時々
打歎く気配する方に寄り掛かりて、几帳越しに、手を取らへて
梓弓いるさの山に惑ふかなほの見し月の影や見ゆると
「何ゆへか」と推し当てに宣ふを、え忍ばぬなるべし、
心いる方ならませば弓張の月なき空に迷はましやは
といふ声、ただそれなり。いと嬉しきものから
引歌
※「扇を取られてからきめを」〜「高麗人かな」
催馬楽 石川
石川の、高麗人(こまうど)に帯取られて、からき悔いする。いかなる、いかなる帯ぞ、縹(はなだ)の帯の、中は絶えたる。かやるかやるか、中は絶えたる
和歌
源氏
梓弓いるさの山に惑ふかなほの見し月の影や見ゆると
意味:(梓弓)入佐山に分け入って惑ってしまいました。ちょっと見掛けた月の光のような貴女に逢えるかと。
備考:いるさの山(入佐山)は兵庫県豊岡市出石の此隅山と言われ、歌枕。梓弓は射るの枕詞。
朧月夜
心いる方ならませば弓張の月なき空に迷はましやは
意味:真心の深い方ならば、例え弓張月が出ていない暗闇でも、迷わず私を探し出してくれるでしょう。真剣に探し出せない貴方に真心は無いでしょう?