源氏物語絵巻 柏木
柏木と女三宮の不義の子(薫)を抱く源氏
源氏物語 柏木
御乳母たちは、止む事無く、めやすき限り数多侍ふ。召し出でて、仕うまつるべき心おきてなど宣ふ。
「あはれ、残り少なき世に、生ひ出づべき人にこそ」とて、抱き取り給へば、いと心やすくうち笑みて、つぶ/"\と肥えて白う美し。大将などの稚児生ひ、仄かに思し出づるには似給はず。女御の御宮たち、はた、父帝の御方樣に、王気づきて気高うこそおはしませ、殊に優れてめでたうしもおはせず。この君、いとあてなるに添へて、愛敬づき、まみの薫りて、笑ひがちなる程を、いとあはれと見給ふ。思ひなしにや、なほ、いとよう覚えたりかし。ただ今ながら、眼居の長閑に恥づかしき樣も、やう離れて、薫りをかしき顔樣なり。
宮はさしも思し分かず。人はた、さらに知らぬことなれば、ただ一所の御心の内にのみぞ、
「あはれ、はかなかりける人の契りかな」と見給ふに、大方の世の定めなさも思し続けられて、涙のほろ/\とこぼれぬるを、今日は言忌みすべき日をと、押し拭ひ隠し給ふ。
「静かに思ひて嗟くに堪へたり」と、うち誦うじ給ふ。五十八を十取り捨てたる御齢なれど、末になりたる心地し給ひて、いとものあはれに思さる。
「 汝が爺に」とも、諌めまほしう思しけむかし。
まひろ 抱いてやっては下さいませんか。
宣孝 おう。
まひろ まあ、乳飲み子の扱いが、御上手ですこと。
宣孝 お前より長く生きて来たからなあ。