伊勢 後撰ニハ伊勢ノ御息所とあり。大和物語に伊勢の御ともあり。
御抄云、真夏四代ノ孫。大和守継蔭ノ女也。拾芥云、伊勢
守藤原継陰女云云。伊勢家集云、いづれの御時にかあ
りけん、大みやすんところときこえける御局に、大
和国に親もたる人ありけり云云。
吾案是わが事を云也。大御息所とは、七条后温子なり。其官女也。
拾芥抄云、寛平法王御息所云云。紹運録云、行明親王母
伊勢云云。後撰、大和物語にも伊勢御息所云云。みこをうみし
人を御息所と云也。袋艸子云、能因法師、兼房が車の後
にのりてゆくのあいだ、二条東洞院にて遽におりて、
数町歩行、兼房驚て問之。能因答云、伊勢御の家
の趾也云云。伊勢の墓は、摂津国古曽部能因旧跡と云所
のうへに伊勢寺とてあり。
難波泻みじかき芦のふしの間もあはで此世をすぐしてよとや
新古今恋一、題しらず云云。序哥也。みじかき芦のふし
の間とは、御抄云、いさゝか斗もと云心也。師説云、すこし
の間と云事をつよくいはんとて、短き芦の節の
間をとり出たり。過してよとやとは、御抄云、あはずして
すぐせよとの、そなたの心中かと也。哥心は、御抄云、おもひ初
しよりこのかた、人にも縁を求め、詞をつくし、心をくだき、或は
たのめてすぐし、或はむかふの人かげも難ずしても、終に
あはでとし月を重ねつれば、さてもいかゞせんなど、おもひ
あまりて、打歎きつゝ云出したる哥也。惣じて、五文字に君臣の心有。
是は大やうにて君の姿也。又ひしと云つめて詮となるもあり。能分別すべし。