西行
白洲正子
願はくは花のしたにて春死なん……
伝説化された歌聖、西行の人生を
辿り、その真実を解き明かす
新潮社版
西行の真価は、信じがたい程
西行の真価は、信じがたい程
の精神力をもって、数奇を貫
いたところにあり、時には虹
のようにはかなく、風のよう
に無常迅速な、人の世のさだ
めを歌ったことにあると私は
思う。
*
彼は空気のように自由で、無
色透明な人物なのである。し
たがって、とらえどころがな
いばかりか、多くの謎に満ち
ている。
*
ーー西行の謎は深まるばかり
である。わからないままで、
終わってしまうかも知れない。
それでも本望だと私は思って
いる。わからないことがわか
っただけでも、人生は生きて
みるに足ると信じているから
だ。 (本文より)
「芸術新潮」昭和六十一年四月~六十二年十二月に連載