法成寺入道前攝政太政大臣
藤原道長(ふじわらのみちなが966~1027)。兼家の子。御堂関白通称する。娘三人を立后させて外戚となり、全盛を迎えた。法成寺を建立した。五首。
新古今和歌集 戀歌一
兵衞佐に侍りける時五月ばかりによ
そながら物申しそめて遣はしける
時鳥こゑをば聞けど花の枝にまだふみなれぬものをこそ思へ
よみ:ほととぎすこえをばきけどはなのえにまだふみなれぬものをこそおもえ 隠
雜歌上
世を遁れて後四月一日上東門院太皇
太后宮と申しける時衣がへの御装束
奉るとて
唐衣花のたもとに脱ぎかへよわれこそ春のいろはたちつれ
よみ:からころもはなのたもとにぬぎかえよわれこそはるのいろはたちつれ 隠
返し
白露はわきても置かじ女郎花こころからにや色の染むらむ
よみ:しらつゆはわきてもおかじおみなえしこころからにやいろのそむらむ 隠
釋敎歌
法華經二十八品歌人々によませ侍り
けるに提婆品のこころを
わたつ海の底より來つる程もなくこの身ながらに身をぞ極むる
よみ:わたつみのそこよりきつるほどもなくこのみながらにみをぞきわむる 隠
雜歌下
尼になりぬと聞きける人にさうぞく
遣はすとて
馴れみてし花の袂をうちかへし法の衣をたちぞかへつる
よみ:なれみてしはなのたもとをうちかえしのりのころもをたちぞかえつる
※穂久邇文庫本では、法性寺入道前關白太政大臣とあるが、為相本では法成寺。御堂関白集にある事から、道長の作。