詞に心こもりたり。われはゆかぬほどに、よそへ
らるべき事はなし。誰袖触れてよそへらるゝ
ぞとなり。
一 二月ノ雪落衣と云事をよみ侍ける
康資ノ王ノ母 四条大宮ノ女房。筑前ノ守髙階ノ
成順女。母ハ祭主輔親卿女。四首入。
此題は、句題なり。朗詠の詩なり。
一 梅ちらすかぜも越てや吹つらんかほれる雪の袖に
みだるゝ
増抄云。下句より上句へかへしてみる作也。
雪は匂ひのなきものなるに、匂ふ雪が袖
にみだるゝは、これは梅をちらす風が我み
を越て吹つらん。それにて花が雪のごとく
そでにみだるゝよと、納得したる哥なり。
詩も折梅花挿頭とある故に、越てといふ
にて、頭にさす事をあひしらひ、二月の雪
と花を詩にもいひたれば、匂ふ雪といひ
て花の事にしてあひしらへる作なり。
句題かく心をまはしてよむものなりとぞ。
頭注
二月雪ふるゆきに
あらず花なり。
詩のこゝろをよく
しりてよむべし
とぞ。四字以上を
句題といふこと
なりとぞ。
※朗詠の詩なり。
和漢朗詠集 子日 付若菜
尊敬上人
倚松根摩腰千年之翠満手 松根に倚て腰を摩千年の翠り手に満
折梅花插頭二月之雪落衣 梅花を折て頭に插せば二月の雪衣に落つ。