斎宮歴史博物館蔵 伊勢物語絵巻
十六むかし、きの有つねといふ人有けり。みよのみかどにつかふまつりて、
のち とき
時にあひけれど、後は世かはり、時うつりにければ、よのつねの人のごとくも
あらず、人がらは心うつくしう、あてはるなる事をこのみて、こと人にも
にず。まづしくへても、なをむかしよかりし時の心ながら、よのつね
の事も知らず。年ごろあひなれたるめ、やう/\とこはなれて、つゐに
ゆく
あまに成て、あねのさきだちて、成たる所へ行を、男まことにむつま
じき事こそなかりけれ、今はと行を、いとあはれと思ひけれど、まづ
しければ、しるわざもなかりけり。思ひわびてねん比に、あひかたら
ともたち もと
ひける友達の許に、かう/\今はとてまかるを、何事もいさゝかなる事も
えせでつかはすことゝかきて、おくに
て おり とを
手を折てあひみし事をかぞふれば十といゝつゝよつはへにけり
かの友だち是を見て、いとあはれと思ひて、夜ルの物迄おくりてよめる
とを
年だにも十こそよつはへにけるをいくたび君をたのみきぬらん
かくいひやりたりければ
これやこのあまのはごろもむべしこそ君がみけしと奉りけれ
よろこびにたえでまた
つゆ
秋やくる露やまがふと思ふまであるはなみだのふるにぞ有ける
としごろ さくら
十七年比おとづれざりける人の、桜のさかりに見に来りければ、あるじ
古今 とし まち
あだなりと名にこそたてれ桜花年にまれなる人も待けり
かへし
けふこずはあすは雪とぞふりなましきえずは有とも花とみましや
新古今和歌集第十六 雜歌上
業平朝臣の装束遣はして侍りけるに
紀有常朝臣
秋や來る露やまがふと思ふまであるは涙の降るにぞありける
読み:あきやくるつゆやまがうとおもうまであるはなみだのふるにぞありける 無 隠削
意味:秋が来て袖に露が置いたのかと思うまでに。嬉し涙が降る為でした。ありがとう。
作者:きのありつね815~877名虎の子。従四位下周防権守。業平らと親交があった。
備考:伊勢物語十六