新古今和歌集の部屋

源氏物語 湖月抄 藤袴 柏木の訪問

                               玉かづら
えにたるを、うちつけなる御心かなと、人々゛
の女房などの也 細内大臣より
はおかしがるに、殿の御つかひにておはしたり。
猶もていです忍びやかに御せうそこなど
もきこえかはし給ければ、月のあかき夜√か
庭の桂の木なるべし 柏木のさま也    始は隔て
つらのかげにかくれてものし給へり。みきゝ
給ひて今はさもなき也
入べくもあらざりしを、名残なくみなみ
               柏の也      玉かづらの柏木に直に物の給
のみすのまへにすへた奉る。みづから聞え給
はん事はと也                      さぶ
はんことはしも、なをつゝましければ、宰
らふ人也。夕霧のいとこなる歟     柏木の詞也
相の君していらへきこえ給。なにがし
                 直に申せとの内大臣の御消
をえらびて奉り給へるは、人づてならぬ
息ならんと也
御せうそこにこそ侍らめ。かくものどを
                            柏木の卑下してのたまふ也
くては、いかゞきこえさすべからん。身づからこ
頭注
猶もていでず 頭中将
は実の兄弟なれどいま
だ忍び給ふ也。実の兄
弟なるけしきをうけばり
てし給はぬさま也。
かつらのかげにかくれて
花√夏なれど夏ともしらで
過ぐる哉月のかつらのかげに
かくれて 恵慶集
非ズ月ノ桂ニ庭の桂の木也
                  兄弟の事也
そかずにも侍らねど、たえぬたとひも侍
                    珍しからぬ古き事と云心也
なるを、いかにぞやこだいのことなれど、たの
 兄弟なれば頼む心也         人傳を曲なしと也
もしくぞ思ひ給へけるとて、ものしと思ひ給
     玉かづらの返事
へり。げに年ごろのつもりもとりそへて、
きこえまほしけれど、日ごろあやしくなや
ましう侍れば、おきあがりなどもえし侍
         かくの給へば帰りて隔てがましきと也
らでなん。かくまでとがめ給も中/\うと
●としき心ちなんし侍けると、いとまめ
                   又柏木の詞也
だちて聞え出し給へり。なやましくお
          兄弟の義なれば御心やすくと也
ぼさるらん。御木丁のもとをばゆるさせ給ま
      理りを申し却而心なし申さじと少恨たる心也
じくや。よし/\けにきこえさするも心ち
            内大臣よりのせうそこ也
なかりけりとて、おどゞの御せうそこども
 
 

(かき絶)えにたるを、
「うちつけなる御心かな」と、人々はおかしがるに、殿の御使にて
おはしたり。猶もて出でず、忍びやかに御消息なども聞こえ交はし
給ひければ、月の明かき夜√桂の蔭に隠れてものし給へり。見聞き
入るべくもあらざりしを、名残なく、南の御簾の前に据へ奉る。
自ら聞え給はんことはしも、なをつゝましければ、宰相の君してい
らへ聞こえ給ふ。
「某を選びて、奉り給へるは、人伝てならぬ御消息にこそ侍らめ。
かく物遠くては、いかが聞こえさすべからん。自らこそ数にも侍ら
ねど、絶えぬ例ひも侍なるを、如何にぞや古代の事なれど、頼もし
くぞ思ひ給へける」とて、ものしと思ひ給へり。
「げに、年比の積もりも取り添へて、聞こえまほしけれど、日比あ
やしく悩ましう侍れば、起き上がりなども、えし侍らでなん。かく
まで咎め給ふも中々疎々しき心地なんし侍ける」と、いとまめ立ち
て、聞こえ出だし給へり。
「悩ましくおぼさるらん。御几帳のもとをば、許させ給まじくや。
よしよし。げに聞こえさするも心地無かりけり」とて、大臣の御消
息ども
 
※桂の蔭に隠れて
恵慶法師集
夏なれど夏とも知らで過ぐすかな月の桂の蔭に隠れて
 
 
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄  九条禅閣植通
※河 河海抄  四辻左大臣善成
※細 細流抄  西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄  牡丹花肖柏
※和 和秘抄  一条禅閣兼良
※明 明星抄  西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
 
 
 
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