花宴
かやうにて世中のあやまちはするぞかしと思ひて、やをらのぼりてのぞき給。
人はみなねたるべし、いとわかうおかしげなるこゑの、なべての人とは聞こえぬ
朧月夜ににるものぞなき
とうちずして、こなたざまにはくるものか。いとうれしくて、ふと袖をとらへたまふ。
女、おそろしと思へるけしきにて、
あなむくつけ。こはたこそ。との給へど、
なにか、うとましきとて、
ふかき夜のあはれをしるもいる月のおぼろけならぬ契とぞおもふ
とて、やをらいだきおろして、とはをしたてつ。あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうおかしげなり。わなゝく/\、こゝに、人とのたまへど、
まろはみな人にゆるされたれば、めしよせたりとも、なむでう事かあらん。たゞしのびてこそとの給ふこゑに、このきみなりけり、とききさだめて、いさゝかなぐさめけり。
第一 春歌上
文集嘉陵春夜詩不明不暗朧朧月といへることをよめる
大江千里
照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき
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