源氏物語 五十一帖 浮舟
やまのかたはかすみへたてゝさむきすさきにたてるかさゝきのすかたもところからはいともをかしうみゆるにうちはしのはる/\とみわたさるゝにしはつみふねのところ/\にゆきちかひたるなとほかにてめなれぬことゝものみとりあつめたるところなれはみたまふたひことになをそのかみのことのたゝいまの心ちしていとかゝらぬ人をみかはしたらたにめつらしきなかのあはれおほかりぬへきほとなり。
かさゝきの→さきの
高松宮家本(冷泉正為筆)、陽明文庫本、國冬本(伝空雅筆、桃園文庫)
集成
「蒼茫たる霧雨之霽の初めに寒汀に鷺立てり 重畳たる煙嵐之断えたる処に晩寺に僧帰る」(『和漢朗詠集』下、雑、僧、「閑賦」張読)。「かささぎ」は、青鷺。冠毛が大きく、笠鷺の意であろう。
全集
『河海抄』は、『和漢朗詠集』下巻、僧の「閑賦」と題した、蒼茫タル・・・の聯を引き、この聯句の作者と出典については、「閑賦、張読」とする。『校異和漢朗詠集』によれば、「作者」を「張読」とするのは諸本のうち古梓堂本のみで、他は作者名を欠く。また、張読なる人物は、『旧唐書』一四九に、張文成の子孫の張希復の子として名が出ていて、『中国人名大辞典』にもその名があり、唐代の人。しかし、「全唐詩」「全唐文」にはその名が見えず、柿村重松著『和漢朗詠集考証』には作者に「張読」を当てるが、他本は、作者名を記さない。出典とする「閑賦」についても未詳。
『河海抄』に、右に続いて、
すさきにたてるさきとかける本もあり。誠に此句の心によらば、尤可然歟。能因歌枕にも烏を鵲と云とあり。烏鵲一様の相也。然而和漢のならひかよはしていはむもいたく非難歟、如何。又、たまたまさきとある本あれば可用之歟。
という。別本系統では「鷺」である。詞の優美を重んじて、鷺をこう呼んだか。この賦と物語と、ともに夕方の河岸の光景ながら、物語は前文に「夕月夜」とあって月が出ているが、漢詩のほうは、霧雨の霽れ始めた情景と言う違いがある。しかし、鵲あるいは鷺を点ずるところ、詩情に共通するものがあり、無関係ともいいにくい。
新体系
「蒼茫たる霧雨の霽れの初めに 寒汀に鷺立てり 重畳たる煙嵐の断えたる処に 晩寺に僧帰る」(『和漢朗詠集』下・雑・僧)。「かさゝぎ」はサギ科の鳥、七夕伝説の「鵠(かささぎ)の橋」で宇治橋を喚起する。ただし「鵠」はカラス科で別。
和漢朗詠集 僧
閑居賦 張読
蒼茫霧雨之晴初 蒼茫たる霧雨の晴るる初、
寒汀鷺立。 寒汀に鷺立たてり。
重畳煙嵐之断処 重畳たる煙嵐の断ゆる処、
晩寺僧帰 晩寺僧帰る。