新古今和歌集の部屋

式子内親王集 百首 春



101 霞とも花とも言はじ春の色虚しき空に先づ知るきかな
かすみともはなともいはしはるのいろむなしきそらにまつしるきかな
霞めども→B本・三手本 花とか言はじ→ 三手本

102 雲居より散り来る花は且つ消えて未だ雪冴ゆる谷の岩陰
くもゐよりちりくるはなはかつきえてまたゆきさゆるたにのいはかけ
散りける花は→河野本 また雪寒る→B本・三手本・岩崎本 谷の下陰→文化九本 谷の下水→森本

103 雪閉ぢて声を納めし奥山の松も調べて春を告ぐなり
ゆきとちてこゑををさめしおくやまのまつもしらへてはるをつくなり
声を鎮めし→森本 春も調べて→春海本 音を告ぐなり→神宮本

104 袖繁し今朝の雪間に春日野の浅茅が下の若菜摘みみむ
そてしけしけさのゆきまにかすかののあさちかもとのわかなつみみむ
浅茅の下に→C本 浅茅の下の→神宮本・京大本 若菜摘むらむ→C本・京大本・国会本・河野本・神宮本 若菜摘みてん→文化九本
本歌:春日野の若菜つみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ(古今 貫之)

105 見渡せば浦々ごとに立つ霞いづれも塩の煙なるらむ
みわたせはうらうらことにたつかすみいつれもしほのけふりなるらむ
春霞→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・国会本・河野本・神宮本 立ち霞→春海本

106 苔深く荒れ行く軒に春見えて降りずも匂ふ宿の梅かな
こけふかくあれゆくのきにはるみえてふりすもにほふやとのむめかな
ふるすも匂ふ→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・国会本・河野本 ふかすも匂ふ→春海本 ふりにも匂ふ→森本 春の夕闇→三手本

107 梅枝の花をば他所に憧れて風こそ薫れ春の夕闇
むめかえのはなをはよそにあくかれてかせこそかをれはるのゆふやみ
梅枝に→春海本 梅かしの→森本 花をば装ふ→森本 あしかれて→森本 袖こそ薫れ→C本・京大本・神宮本・国会本・河野本 春の夕暮→B本・C本・京大本・神宮本・国会本・森本

108 匂ひをば衣に留めつ梅の花行方も知らぬ春風の色
にほひをはころもにとめつむめのはなゆくへもしらぬはるかせのいろ
衣手留めつ→B本・三手本・岩崎本 衣に留めて→森本 春風の声→B本・三手本・岩崎本 春風の過ぐ→春海本
本歌:梅が香を袖にうつしてとどめては春はすぐとも形見ならまし(古今 読み人知らず)

109 待たれつる花の盛か吉野山霞の間より匂ふ白雲
またれつるはなのさかりかよしのやまかすみのまよりにほふしらくも
花の盛に→C本・京大本・国会本・河野本・神宮本

110 この世には忘れぬ春の面影よ朧月夜の花の光に
このよにはわすれぬはるのおもかけよおほろつきよのはなのひかりに
忘れむ花の→C本 忘れぬ花の→三手本 花の光を→森本

111 深くともなほ踏み分けて山桜飽かぬ心の奥を訪ねむ
ふかくともなほふみわけてやまさくらあかぬこころのおくをたつねむ
飽かね心の→森本 奧を尋ねて

112 今朝見つる花の梢や如何ならむ春雨薫る夕暮の空
けさみつるはなのこすゑやいかならむはるさめかをるゆふくれのそら

113 我が宿に何れの峰の花ならむ関入るる瀧と落ちてくるかな
わかやとにいつれのみねのはなならむせきいるるたきとおちてくるかな
我が宿の→A本・松平本 せきるる滝と→松平本

114 鳥の音も霞も常の色ならで花吹き薫る春の曙
とりのねもかすみもつねのいろならてはなふきかをるはるのあけほの
鳥のおとも→春海本 花ふさかほる→益田本 花の曙→三手本・岩崎本

115 深山へのそことも知らぬ旅枕現も夢も薫る春かな
みやまへのそこともしらぬたひまくらうつつもゆめもかをるはるかな
現とも夢も→益田本

116 尋ねみよ吉野の花の山颪の風の下なる我が庵の許
たつねみよよしののはなのやまおろしのかせのしたなるわかいほのもと
山下風→B本・三手本・C本 山おろし→春海本 声の下なる→B本・三手本・岩崎本 風のしたへる→国会本
本歌:我が庵は三輪の山もと戀しくはとぶらひきませ杉たてる門(古今 読み人知らず)

117 絶え絶えに軒の玉水音づれて慰め難き春の故郷
たえたえにのきのたまみつおとつれてなくさめかたきはるのふるさと
訪れは→春海本

118 暮れてゆく春の名残を眺むれば霞の奧に有明の月 玉葉集
くれてゆくはるのなこりをなかむれはかすみのおくにありあけのつき
春の残りを→益田本・玉葉集 霞のそこに→京大本・玉葉集

119 重ね添ふ八重山吹の匂ひかな春の名残はいくかならねど
かさねそふやへやまふきのにほひかなはるのなこりはいくかならねと
かきね添ふ→B本・C本・京大本・森本・国会本・河野本・神宮本 春の匂ひは→C本・京大本・神宮本 いくかならねを→A本 いくかならぬと→松平本・春海本

120 帰る雁過ぎぬる空に雲消えて如何に眺めむ春の行く方
かへるかりすきぬるそらにくもきえていかになかめむはるのゆくかた
かくるより→B本・三手本 かへるより→C本・京大本・岩崎本・国会本・河野本・神宮本 過ぎぬ空に→C本 春の行き方→三手本・岩崎本

参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房
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