新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 二の巻 秋歌上9

和哥所歌合に海邊月    家隆朝臣

秋のよの月やをじまのあまのはら明方ちかき沖のつり舟

明方ちかき程に、沖につり舟の見ゆるは、をじまのあまの、

月ををしむとて、こぎ出たるにやと也。 二三の句、いひかけ

の重なりたるは、少しうるさし。

だいしらず        通光卿

立田山よはにあらしのまづふけば雲にはうときみねの月影

めでたし。 三の句、まづは先也。松とかける本はひが

ごとぞ。 此哥、立田山似つかはしからざるやうなれども、

然らず。此峯の月は、入かたの月なるを、立田山は、西の方な

れば、よせあり。そのうへ万葉九長哥に、√白雲のたつたの山の

瀧のうへのをぐらの峯に云々。とあるによりて、白雲の立

田山とあるども、雲にはうときといへるなり。 一首の意は、

秋の月を見るに、暁の雲にあへるが如しと、古今ノ序にも

いへるごとく、いり方の月には、よく雲のかゝるものなれども、

いまだかたぶかざるさきに、夜はに先ツあらしの吹はら

へる故に、雲にはうとしとしと也。

             式子内親王

宵の間にさてもねぬべき月ならば山のはちかき物はおもはじ

めでたし。 二三の句は、其むきにして、見すてゝねらる

るほどの月ならば、といふ意なり。 下句は、山端近くかた

ぶきて、惜き物思ひはせじと也。さるはあまりさやかなる月

にて、宵の間に、え見すてゝはねざりし故に、今かく山端ち

かくなりて、惜き物思ひをばすることよと、ふくめたり。

ふくるまでながむればこそかなしけれ思ひもいれじ秋のよの月

思ひ入といふことを、はじめ○もひゞかせて心得べし。思ひいれ

て、ふくるまでながむればこそかなしけれといふ意也。

五十首哥奉りし時      摂政

雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月を見る哉

三四の句めでたし。 さはるべき雲をばのこさずして、さや

けさをそふる風を、のこしおきて見る也。

家の月五十首に

月だにもなぐさめがたき秋の夜の心もしらぬ松のかぜかな

月だにもなぐさめがたきとは、秋の夜は、月を見るによりて、かな

しさをもよほして、なぐさめがたき。それだにあるうへに、

猶又の意なり。月見てもなぐさめがたしといふにはあらず。

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