旅
282 都にて雪間僅かに萌え出でし草引き結ぶ小夜の中山
みやこにてゆきまはつかにもえいてしくさひきむすふさよのなかやま 続後拾遺
283 荒磯の玉藻の床に仮寝して我から袖を濡らしつるかな
あらいそのたまものとこにかりねしてわれからそてをぬらしつるかな 新勅撰
284 都人沖津小島の浜廂久しくなりぬ涙隔てて
みやこひとおきつこしまのはまひさしひさしくなりぬなみたへたてて 新後撰
285 行く末は今幾夜とか岩代の岡の萱ねに枕結ばむ
ゆくすゑはいまいくよとかいはしろのをかのかやねにまくらむすはむ 新古今
286 松が根の雄島が磯の小夜枕いたくな濡れそ海人の袖かは
まつかねのをしまかいそのさよまくらいたくなぬれそあまのそてかは 新古今
山家
287 我が宿はつまきこり行く山賤のしばしば通ふ跡ばかりして
わかやとはつまきこりゆくやまかつのしはしはかよふあとはかりして 風雅集
288 今は我松の柱の杉の庵に閉づべき物を苔深き袖
いまはわれまつのはしらのすきのいほにとつへきものをこけふかきそて 新古今
289 山の端は峰の木の葉に競ひつつ雲より降ろす小牡鹿の声
やまのははみねのこのはにきほひつつくもよりおろすさをしかのこゑ 風雅集 重複 山里は
290 柴の戸を人こそ訪はね足引きの山より出づる月はまつみつ
しはのとをひとこそとはねあしひきのやまよりいつるつきはまつみつ
291 山里は峰に絶えせぬ松の声木の葉に忍ぶ谷の下水
やまさとはみねにたえせぬまつのこゑこのはにしのふたにのしたみつ
鳥
292 暁の木綿付鳥ぞ哀れなる長き眠りを思ふ枕に
あかつきのゆふつけとりそあはれなるなかきねむりをおもふまくらに 新古今
293 鳴く鶴の思ふ心は知らねども夜の声こそ身には滲みけれ
なくつるのおもふこころはしらねともよるのこゑこそみにはしみけれ 新続古今
294 身の憂きを思ひ砕けば東雲の霧間に噎ぶ鴫の羽がき
みのうきをおもひくたけはしののめのきりまにむせふしきのはねかき
295 儚しや風に漂ふ浪の上に鳰の浮き巣のさても世に経る
はかなしやかせにたたよふなみのうへににほのうきすのさてもよにふる 新千載集
296 打ち払ひ小野の浅茅に刈る草の茂みが下に鶉立つなり
うちはらひをののあさちにかるくさのしけみかしたにうつらたつなり 風雅集
祝
297 君が経む千代松風に吹き添へて竹も調ぶる声通ふなり
きみかへむちよまつかせにふきそへてたけもしらふるこゑかよふなり
298 天の下恵む草木の芽もはるに限りも知らぬ御世の末々
あめのしためくむくさきのめもはるにかきりもしらぬみよのすゑすゑ 新古今
299 幾年の幾万代か君が代に雪月花の友を待ちけむ
いくとせのいくよろつよかきみかよにゆきはなつきのともをまちけむ
300 亀の尾の岩根が上に居る鶴も心してける水の色かな
かめのをのいはねかうへにゐるたつもこころしてけるみつのいろかな
301 君が代は千曲の川の細石の苔生す岩と成り尽くすまで
きみかよはちくまのかはのさされいしのこけむすいはとなりつくすまで 新続古今