新古今和歌集の部屋

鴨長明方丈記之抄 序1 行川の流れは


行川のながれは絶ずしてしかも本の
水にあらず。よどみにうかぶうたかたは、か
つきえかつむすびて、ひさしくとまる事
なし。世中にある人とすみかと、又かく
ごとし。玉しきの都のうちに、むねをならべ
いらかをあらそへる、たかきいやしき人
すまゐは、代々をへてつきせぬものなれ
ど、是をまことかとたつぬれば昔有し
はまれ也。或は大家ほろびて小家
となる。すむ人も是におなじ。ところ
かはらず、人もおほかれど、いにしへみし人は、二三
行川の流れは絶ずしてしかも本の水にあらず。淀み
浮かぶ泡沫は、かつ消えかつ結びて、久しくとま
なし。世中にある人と栖と、かく如し。玉敷
のうちに、棟を並べいらかをあらそへる、たかきいや
しき人の住ゐは、代々を経て尽きせぬものなれど、是
をまことかとたづぬれば昔有しはまれ也。或は大家
ほろびて小家となる。住む人も是に同じ。ところ
はらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三

(参考)前田家本
行く川の流れは絶えずして、しかも元の水に非ず。淀みに
浮かぶ泡沫は、かつ消えかつ結びて、久しく留まる
無し。世の中にある人と栖と斯くの如し。玉敷の
の中に甍を争える、貴き賎
しき人の住まひは、世々を経て尽きせぬものなれど、是
を真かと尋ぬれば、昔ありし家は稀なり。或いは去年焼けて今年造り、或いは大家
滅びて小家となる。住む人も是に同じ。所も変
はらず、人も多かれど、いにしへ見し人は二三

(参考)大福光寺本
ユク河ノナカレハタエスシテシカモゝトノ水ニアラスヨトミニ
ウカフウタカタハカツキエカツムスヒテヒサシクトゝマリタルタメシ
ナシ世中ニアル人ト栖トカクノコトシタマシキノミヤコ
ノウチニ棟ヲナラヘイラカヲアラソヘルタカキヤ
シキ人ノスマヒハ世々ヲヘテツキセヌ物ナレト是
ヲマコトカト尋レハ昔アリシ家ハマレナリ或ハコソヤケテコトシツクレリ或ハ大家
ホロヒテ小家トナルスム人モ是ニ同シトコロモカ
ラス人モヲホカレトイニシヘ見シ人ハ二三

頭注
行川のなかれはたえず
して  論語子罕篇云
 子在川上曰逝者如
 斯不舎晝夜云云
 長明此語に本づきて
 書いだしたり。されば論語
 もこゝとはいさゝか心ちがへ
 り。孔子は道の体を水
 のやむことなくながるゝと
 かりてたとへ給へり。長明
 は世中の人もすみかの
 つねならぬことを水の上
 のあはのはかなきことを
 かりてとふとへたり。
よどみ 淀 水のたまりをも
 またはまさき水をも
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