方丈のすまゐたのしきこと、かくのごとし。冨る人にむかひていふにあらず。たヾ、身ひとつにとりて、心のひくかたなれば、原憲が百つヾり、顔子が一瓶のあとをおもふばかり也。
是をうたがはしくおもはヾ、魚と水の情を見よ。魚は水にあかず。鳥は林を愛す。魚にあらざれば、水の住よき心をしらず。鳥にあらざれば、林のねがはしきをしらず。
かれがごとく、とめる人は、賎しきふるまひをくるしとみる。貧しき我は、冨るふるまひを苦しと見る。志一ならねば、ふるまひもおなじからず。
若人コノイヘル事ヲウタカハゝ、魚ト鳥トノアリサマヲ見ヨ。魚ハ水ニアカス。イヲニアラサレハソノ心ヲシラス。トリハ林ヲネカフ。鳥ニアラサレハ其ノ心ヲシラス。