新古今和歌集 第八 哀傷歌
題しらず
在原業平朝臣
白玉か
何ぞ
と人の問ひしとき
露とこたへて
消な
ましも
のを
読み;しらたまかなにぞとひとのといしときつゆとこたえてけなましものを
意味:あれは真珠の玉ですかと聞かれて露ですよと答えた人は今はもう露のように消えてしまった。そんなことならもっと夢のある違うように言うべきだった。
備考:伊勢物語第六段
むかし、をとこありけり。女のえ得まじかりけるを、年を經てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに夾けり。芥川といふ河をゐていきければ、草の上におきたりける露をかれは何ぞとなむをとこに問ひける。ゆくさき多く夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる藏に、女をば奧におし入れて、をとこ、ゆみやなぐひを負ひて戸口に居り。はや夜も明けなむと思ひつゝゐたりけるに、鬼はや一口に食いてけり。
あなやといひけれど、神鳴るさわぎにえ聞かざりけり。やう/\夜も明けゆくに、見ればゐて夾し女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。
白玉かなにぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを
これは、二條の后のいとこの女御の御もとに、仕うまつるやうにてゐ給へりけるを、かたちのいとめでたくおはしければ、盗みて負ひていでたりけるを、御せうと堀河のおとゞ、太郎國經の大納言、まだ下らふにて内へまゐり給ふに、いみじう泣く人あるをきゝつけて、とゞめてとりかへし給うてけり。それを鬼とはいふなりけり。またいと若うて、后のたゞにおはしける時とや。