この歌は、葛城の山、吉野山とのはざまの、はるかなる程をめぐれば、事のわづらひのあれば、役の行者といへる修行者の、この山の峰よりかの吉野山の峰に橋を渡したらば、事のわづらひなく人は通ひなむとて、その所におはする一言主と申す神に祈り申しけるやうは、
神の神通は、仏に劣ること無し。凡夫のえせぬことをするを、神力とせり。願はくは、この葛城の山のいただきより、かの吉野山のいただきまで、岩をもちて橋を渡し給へ。この願ひをかたじけなくも受け給はば、たふるにしたがひて法施をたてまつらむ
と申しければ、空に声ありて、
我この事を受けつ。あひかまへて渡すべし。ただし、我がかたち醜くして、見る人おぢ恐りをなす。夜な夜な渡さむ
とのたまへり。
願はくは、すみやかに渡し給へ
とて、心経をよみて祈り申ししに、その夜のうちに少し渡して、昼渡さず。役の行者それを見ておほきに怒りて、
しからば護法、この神を縛り給へ
と申す。護法たちまちに、葛をもちて神を縛りつ。その神おほきなる巌にて見え給ば、葛のまつはれて、掛け袋などに物を入れたるやうに、カひまはざまもなくまつはれて、今はおはすなり。
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