後鳥羽院
見渡せば山本かすむ水無瀬川夕は秋となに思ひけん
志賀の浦のおぼろ月夜の名殘とてくもりもはてぬ曙の空
常磐山秋をしのびて独行く袖の色より鹿や鳴くらん
旅衣けふみかの原露なれぬやどかせ山の秋の夕暮
俊成卿女
昔まであはれをみするつのくにの難波のおきの春の曙
春ふかき心の浪に雲消えて霞ぞなびくしがの浦風
吹きみだる山下風の露のまに秋の哀をおくる月影
心さへうつりもゆくか龍田山梢に秋の色を尋ねて
◎北野御歌合(元久二年七月十八日)
秋になる暁のかねうちつけになるるか袖のつゆもしぐれも
あしびきの山べもよそにくもり来ぬ秋のめぐみの夕暮の雨
空にこふかど田の雨の日数へて雲吹きかへす秋の夕かぜ
○卿相侍臣歌合(建永元年七月二十五日)
後鳥羽院
横雲のたなびく山の岡べなるすすきも白くふくあらしかな
もろこしの山人いまはをしむらん松浦がおききの明がたの月
おくるべき月だに山をまだでぬに夕のあらし袖にしをれぬ
俊成卿女
あはぬ夜の涙やむすぶ萩の露ささわけし袖の色はしらねど
人はただ浪のよるよるとはずとも月にあかしの秋のうら風
古郷も秋はゆふべをかたみにて風のみおくるをののしの原
◎同日当座御歌合(建永元年七月二十五日)
はつ雁の山とびこゆる有明に風ふきすさむ荻のうへかな
夜もすがらいほもるこゑのとだえせで外山にかへる鹿ぞなくなる
跡たえてふかき涙の色までもとはれぬ山の秋ぞかなしき
◎同月中後日当座御歌合(建永元年七月二十六日)
にほのうへのもとよりぬるる袂にはかはりてやどれ秋の夜の月
しら雲のたなびく山の夕かぜに身をやすててん鹿ぞ鳴くなる
忍びこし道のべ柳秋も猶あはれむかしのかぜはらむらむ
◎同月中当座御歌合(建永元年七月二十八日)
わすれぬかいまはみとせの冬の嵐時雨れしつゆの袖にまだひぬ
なき人のかたみの雲やしをるらん夕の雨に色は見えねど
袖のつゆもあらぬ色にぞきえかへるうつればかはるなげきせし間に
◎同八月五日鳥羽院新御所初座本度(建永元年八月五日)
庭の松にふるき嵐やかへるらん光をみがくやどの月かげ
◎同八月卿相侍臣嫉妬歌合(建永元年八月一日)
なにと又ふかき思ひのかさぬらんくだる世をのみなげくべき身に
なさけ有りし昔を今になしわびて袖のしづくのしづのをだまき
うしとみしそれより袖はしをれにきさても月日はすぐしける世を
○鴨御祖社歌合(建永二年三月)
後鳥羽院
まきの戸やつれなくあけし名残とてそでよりつらき朝霞かな
けふはくれぬあすはふもとのゆきてみんながらの山のあらし吹くめり
みづがきやわが代のはじめ契りおきしそのことのはを神やうけけむ
俊成卿女
あけぬるか霞なほまよふ谷の戸にふるすおぼゆるうぐいすの声
花の色もうつりもゆくかさざ波やながらの山のはるのゆふぐれ
君がためいのりおきけん万代のはるとも神ぞ空にしるらん
○賀茂別雷社歌合(建永二年二月)
後鳥羽院
難波がたすぎこし春に又やあふとはかなくかへる雁ぞなくなる
三芳野や春雨きほひちる花を今日もくれぬとさそふ山風
和歌の浦たむくる夜半の風にこそ猶此みちに神もなびくや
俊成卿女
雲井より秋風わけし雁金の帰るなみぢは霞なりけり
あめそそぐ花の雫はぬれつつも露をいとはでかへる山人
鐘の音もほのかにふけぬ神山の花のほかまでさそふ嵐に
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