新古今和歌集の部屋

源氏物語と新古今和歌集 関吹きこゆる 須磨


須磨

すまにはいとゞ心づくしの秋風に、うみはすこしとをけれど、ゆきひらの中納言の、せきふきこゆるといひけんうらなみ、よる/\はげにいとちかくきこえて、またなくあはれなるものは、かゝる所の秋なりけり。御前にいと人ずくなにて、うちやすみわたれるに、ひとりめをさましてまくらをそばたててよものあらしをきゝ給に、なみたゞこゝもとにたちくる心ちして、涙おつともおぼえぬに、枕うくばかりになりにけり。

 琴をすこしかきならし給へるが、我ながらいとすごうきこゆれば、ひきさし給て、

恋わびてなくねにまがふうらなみはおもふかたより風やふくらん

とうたひ給へるに、人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、しのばれで、あいなうおきゐつゝ、はなをしのびやかにかみわたす。


第十七  雜歌中
天暦御時屏風歌      壬生忠見
秋風の關吹き越ゆるたびごとに聲うち添ふる須磨の浦なみ
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