
21 春の色替へ憂き衣脱ぎ捨てし昔にあらぬ袖ぞ露けき
はるのいろのかへうきころもぬきすてしむかしにあらぬそてそつゆけき
脱ぎ捨てて-B本・三手本・岩崎本・文化九本・森本 昔にもあらぬ-B本・三手本・C本・京大本・文化九本・河野本・国会本 昔もあらぬ 神宮本
本歌:花の色に染めし袂の惜しければ衣替え憂き今日にもあるかな(拾遺 重之)
22 郭公いまだ旅なる雲路より宿借れとてぞ植えし卯の花
ほとときすいまたたひなるくもちよりやとかれとてそうゑしうのはな
いまだたつなる-春海本 露よりも-神宮本 宿借れとてや-岩崎本・京大本 宿借れとてぞ-C本
本歌:今朝き鳴きいまだ旅なる郭公花橘に宿はからなむ(古今 読み人知らず)
23 忘れめや葵を草に引き結び仮寝の野辺の露の曙
わすれめやあふひをくさにひきむすひかりねののへのつゆのあけほの 新古今
24 あはれとや空に語らふ郭公寝ぬ夜積もれば夜半の一声
あはれとやそらにかたらふほとときすねぬよつもれはよはのひとこゑ
寝ぬ夜曇れば-C本・京大本・神宮本
25 雨過ぐる花橘に郭公訪れずとて濡れぬ袖かな
あめすくるはなたちはなにほとときすおとつれすとてぬれぬそてかな
訪れずして-A本・B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・森本・神宮本 訪れはして- 春海本 訪れ捨ててー国会本・河内本 濡るる袖かな-B本 ぬのめ袖-三手本
26 今日は又葺き添へてけり葦の屋の小屋の軒端も菖蒲隙無く
けふはまたふきそへてけりあしのやのこやののきはもあやめひまなく
今は又-C本・京大本・神宮本 葺きかふて-神宮本 ほよそへて-三手本 菖蒲引くらし 森本・春海本
27 叩きつる水鶏の音も更けにけり月のみ閉づる苔の枢に
たたきつるくひなのおともふけにけりつきのみとつるこけのとほそに
水鶏のほども-三手本 小屋の扉に-B本 小屋の枢に-C本・京大本・国会本 苔の扉に-岩崎本 小屋(こけ)の枢に 神宮本・河野本 こやの麻に-三手本
28 眺むれば月は絶え行く庭の面に僅かに残る蛍ばかりに
なかむれはつきはたえゆくにはのおもにはつかにのこるほたるはかりに
月は只行く-神宮本 蛍ばかりに-A本・C本
29 去らずとて暫し偲ばぬ昔かは宿しも分きて薫る橘
さらすとてしはししのはぬむかしかはやとしもわきてかをるたちはな
さええすとて-A本 更にとて-C本 暫し偲ばむ-春海本・国会本 宿も分きて-河野本
30 夏の夜はやがて斜く三日月の見る程もなく明くる山の端
なつのよはやかてかたふくみかつきのみるほともなくあくるやまのは
やがて更け行く-京大本
31 名残無く雲の此方に晴れにけり外山へ懸かる夕立の程
なこりなくくものこなたにはれにけりとやまへかかるゆふたちのほと
雲の此方は-B本・三手本・C本・京大本・岩崎本・国会本・河野本・神宮本 外山に懸かる-B本・三手本・岩崎本 苫屋に掛かる-C本・京大本・神宮本・国会本 夕立の空-森本
32 短夜の窓の呉竹うち靡き仄かに通ふ転た寝の秋
みしかよのまとのくれたけうちなひきほのかにかよふうたたねのあき
うち添ひき-A本 日こしくね秋-C本 転た寝の夢-森本
説:風生竹夜窓間臥 月照松時台上行(和漢朗詠集 白居易)
33 松蔭の岩間を分くる水の音に涼しく通ふ蜩の声
まつかけのいはまをわくるみつのおとにすすしくかよふひくらしのこゑ
34 照らす日は清かに夏の空ながら時を過ぎたる松の下風
てらすひはさやかになつのそらなからときをすきたるまつのしたかせ
照らするは-三手本 時を過ぎたり-C本 時を過ぐるか-三手本・岩崎本 時の過ぎたる-春海本 松の山陰-B本三手本・岩崎本・京大本・森本・国会本・河野本・神宮本 松の山風-C本 松の下蔭-文化九本
35 里遠き板井の水草打ち払ふ程こそ秋は隣なりけれ
さととほきいたゐのみくさうちはらふほとこそあきはとなりなりけれ
打ち払ひ-京大本・岩崎本 哀れなりけれ-三手本 哀れなりけり-岩崎本 隣なりけり-京大本・神宮本 とまりなりけり-森本
本歌:我が門のいたゐの清水里遠み人しくまねばみ草おひにけり(古今 読み人知らず)
参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房