伊勢別宮
花の盛りにもなりければ、かみぢやまの櫻、吉野の山にもはるかにすぐれたりければ、神官ども、みもすそがはのほとりに集まり、えいじけるに、
岩戸あけしあまつみことのそのかみに櫻をたれか植ゑはじめけむ
かみぢやまみしめにこもる花盛りこはいかばかりうれしかるらむ
風の宮の花、ことにわりなく咲き亂れたるを見て
この春は花を惜しまでよそならむ心を風の宮にまかせて
つきよみの宮にまうでたりけるに、まことに名にしおひて、月の光おもしろく花盛りなりければ、
こずゑ見れば秋にかぎらぬ名なりけり春おもしろきつきよみの森
さやかなるわしのたかねの雲間より影やはらぐる月読の森
わしの山月をいりぬと見し人や心のやみに迷ふなるらむ
櫻の宮の花、風に誘われ木のもとに散り、うき雪の積るやらむとおぼえて、やるかたなかりければ、
神風に心安くぞまかせつる櫻の宮の花の盛りを
※さやかなる 1879 第十九 神祇歌