新古今和歌集の部屋

田兒之浦從 新古今和歌集古注

常縁原撰本新古今和歌集聞書(黒田家本)
室町時代に東常縁(とうつねのり1401~1494)が書いた現存する最古(文明二年1470頃)の新古今和歌集の注釈本

田子の浦に打出てみれば白妙のふじの高ねに雪はふりつゝ

眼前の躰也。つゝといへる字に景趣こもりて言語不可説なる哥なり。白妙といへる三の句心有べき也。雪はいづくも白妙にふる物なれども富士の雪一しほ目にたちておもしろく見ゆると云也。世上にふる雪はさびしくかなしきかたのみなりといふ心こもれり。是常縁尺也。

 

九代抄(内閣文庫本)
文亀二年(1503年)十月上旬牡丹花肖柏が後撰集から続後撰集に至る九勅撰集の秀歌を抄出した九代抄を基に、注釈を加えた物。

田子の浦に打出て見れば白妙の富士の高ねに雪はふりつゝ

田子の浦は富士の麓也。田子の浦の眺望に、又高ねの雪の興、言語道断と也。つゝは両方をいひ残したる心也。

 

九代集抄(甲南女子大学図書館本)
牡丹花肖柏の後撰集から続後撰集に至る九代の勅撰集から抄出した秀歌撰。

田子の浦にうち出て見れば白妙のふじの高ねに雪はふりつゝ

たごのうらは、富士のふもと也。たごの浦のてうばうに、又、高ねの雪の興、言語道断也。つゝといふ所に見所なり。

 

新古今和歌集抄出聞書(陽明文庫)
東北大学図書館本と陽明文庫本、水府明徳会彰考館本があり、黒川昌亨氏によると東北大学本の奥書、筆跡から室町時代連歌師で伊達稙宗に仕えた猪苗代長柵(?~1561頃)と推察している。

田子の浦にうち出てみれば白妙のふじの高ねに雪はふりゝ

もとよりの雪に今ふりそふ雪の景気おもしろき由也。たごの浦より富士の眺望までなり。

 

新古今和歌集抄(都立図書館蔵)

田子のうらに打出てみれば白妙の富士の高ねに雪はふりつゝ

田子の浦も駿川に有。たごのうらより富士をながめたるてうぼうの哥也。白妙の富士とは、もとより白妙に積りたる雪の上に今降添たる心也。

 

新古今集之内哥少々(後藤重郎蔵本)

田子のうらにうち出て見れば白たへの富士の高ねに雪はふりつゝ

たごのうらにうち出ては、舟とはいはねど舟也。富士の高ねに雪はふりつゝと見つづけ、えこらへぬ心也。

 

かな傍注本新古今和歌集(後藤重郎本)

田子の浦にうち出てみれば白妙のふじのたかねに雪は降つゝ

万葉也。白妙とあらんに、妙のとあるはほめたることば也。つねにたへず雪ある故に白妙の也。其上へまた雪ふりつもれば也。此つゝも上へかへる也。

 

新古今和歌集註(吉田幸一氏旧蔵本)

田子のうらにうち出てみれば白妙のふじの高ねに雪はふりつゝ

打出てみればといへる、面白し。彼高山の景気、所にいたらずしては心得にくし。田子の浦を打出侍れば、ふと富士の嵩、きら/\と見ゆる也。白妙のとは、連々ほどをへたる心有べし。

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